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神曲法廷 [日本の作家 や行]


神曲法廷 (講談社文庫)

神曲法廷 (講談社文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/07/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
29人の死傷者を出した神宮ドーム火災事件。公判直前、東京地裁の密室で担当弁護士と判事が殺害された。やがてドームに被告の死体が。司法への挑戦か!? 「正義は果されねばならない」神の声を聴いた検事・佐伯は事件を追う。謎は失踪した異端の建築家が造るドームに!? ダンテの「神曲」が底に流れる新本格推理。


2023年7月に読んだ2冊目の本です。
山田正紀「神曲法廷」 (講談社文庫)
長らく積読にしていた講談社文庫版で読みましたが、2023年6月に徳間文庫から山田正紀・超絶ミステリコレクションの1冊として復刊されていますね。

山田正紀・超絶ミステリコレクション#7 神曲法廷 (徳間文庫)

山田正紀・超絶ミステリコレクション#7 神曲法廷 (徳間文庫)

  • 作者: 山田正紀
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/06/09
  • メディア: 文庫


山田正紀のミステリは堅固に作られていて、いつも面白く読み終わるのですが、個人的にはだいたい読みにくいのです。
今回の同様でした。文章のリズムが合わないのかな、と思います。

あれ? 神宮球場もドーム球場になったんだっけ? というとぼけた感想を抱いてしまったのは内緒。
読まれるとわかりますが、この内容で実在の建物を使うわけにはいかなかったのでしょうね.......

冒頭の序が、誰だかわからない視点人物が神宮ドームにいてダンテの「神曲」を想うシーンとなっています。
幻想的というか、幻惑的というか、そういうシーンです。

振り返ってみると、この序が全体を象徴するような部分になっていて、ある意味ネタバレに近い内容になっています。
ここで示される内容に合わせて、神宮ドームを、そしてこの作品全体を構築されたのでしょう。

その後視点は主として検察官佐伯神一郎に移ります。一部、ファーストフード店「ローカル・バーガー」で働いているシングル・マザーの青蓮(しょうれん)佐和子の視点が入ります。
この佐伯、精神を病んだという設定で、随所に
──なにかが外からおれを動かしている
という感覚を覚えたり、なにものかの声が聞こえたりします。
正直このあたりで「いやだな」と思いました。この種の設定は、作者が肝心なところで隠す、ぼかす、ごまかす等都合よく利用することができるからです。
しかし本書の場合、この設定は確かに作者に都合のいい側面もあることはあるのですが、神宮ドーム、あるいは「神曲法廷」という大伽藍を構築するために不可欠な要素として組み込まれているように感じました。
というのも、ネタバレ気味かもしれませんが書いてしまうと、ミステリには ”操り” というテーマがあるところ、この「神曲法廷」では、探偵までもが操られる対象で、そこに佐伯が位置している、と考えられるからです。最後のエンディングでの佐伯(とある人物)の扱いからそのことは裏付けられると思います。

扱われる個別具体的な事件はとても派手で、東京地方裁判所の建物内で殺人が連続して起こります。殺されるのは弁護士と裁判官。
現場は衆人環視のいわば密室状況です。
この裁判所での殺人事件は、小道具の使い方がとてもうまく印象的です。

一方で、このあと起こる事件も密室状況で自殺かと思われるのですが、こちらは
「ああ、大急ぎで断っておくのですが、シャワー室が密室だったというのは疑問でも何でもない。あんな単純な鍵、機械的なトリックでどうにでも操作できる。ぼくは、とりあえず〇〇を使うトリックを思いつきましたが、ほかに幾つもトリックが可能でしょう。密室なんかどうでもいい。」(610ページ)
と佐伯が言ってのけます。一応ここでぼくが明かすトリック部分は伏字(〇〇)としておきました。
確かにたいしたトリックではないのでしょうが、ミステリにおいて密室を出しておいてどうでもいいと言い切るとは豪胆だな、と思いますが、たしかに「神曲法廷」全体の構想から捉えると、ここでの密室はとても小さな要素にすぎません。

ダンテの「神曲」を読んでいれば、もっともっと深読みが可能なのかもしれませんが、未読ですので、的外れな読み方をしている可能性が大ではありますが、表面的に読んだにすぎないであろう読み方でも、壮大な狙いを感じ取ることのできる作品でした。



<蛇足1>
「人格的になにかと圭角のある佐伯は」(61ページ)
圭角──玉のとがったかど。転じて、言語や動作などがかどだっていて、人と折り合わないこと。気性が鋭く円満でないこと。かどかどしいこと。
知らない語でした。

<蛇足2>
「小体(こてい)な小料理屋や、焼鳥屋、昔ながらの八百屋、魚屋、それにしもたやなどが立ちならんでいる軒の低い街だ。」(104ページ)
小体、しもたや、となかなか懐かしい感じの語が使われています。

<蛇足3>
「名前は書かれていなかった。が、そのかわりに、そこにはびっしりと細かい字でこんな文章が記されてあった。

 襲いかかる狼どもの敵なる羔(こひつじ)として、私が眠っていたあのうるわしい欄(おり)から、私を閉め出す残忍に打ち勝つことあらば、」(115ページ)
これは、1枚の写真の裏面について書かれいている箇所です。
この程度の文字数では「細かい字でびっしり」とはならない気がします。
アマチュアのピンナップ写真という説明もありますが、ひょっとしてチェキのような写真だったのでしょうか?

<蛇足4>
「東郷はいらだっているようだ。当然だろう。自分が受け持っている公判がこともあろうに直前に弁護士が殺害されて延期になってしまったのだ。この日のために準備してきた努力がすべてふいになってしまった。」(129ページ)
少なくともこの段階では中止ではなく、延期なのですから「すべてふいになった」というのは適切ではない気がします。









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