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開化鉄道探偵 [日本の作家 や行]


開化鉄道探偵 (創元推理文庫)

開化鉄道探偵 (創元推理文庫)

  • 作者: 山本巧次
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/02/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
明治12年。鉄道局技手見習の小野寺乙松は、局長・井上勝の命を受け、元八丁堀同心の草壁賢吾を訪れる。「建設中の鉄道の工事現場で不審な事件が続発している。それを調査してほしい」という依頼を伝えるためだった。日本の近代化のためには、鉄道による物流が不可欠だと訴える井上の熱意にほだされ、草壁は快諾。ところが調査へ赴く彼らのもとに、工事関係者の転落死の報が……。


2023年5月に読んだ2冊目の本です。
山本巧次「開化鉄道探偵」 (創元推理文庫)
「このミステリーがすごい! 2018年版」第10位。
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」シリーズの山本巧次の新シリーズ。
単行本で出版されたときは、「開化鐵道探偵」 (ミステリ・フロンティア)と旧字体が使われていたようです。

富国強兵を目指す文明開化初期の鉄道トンネル工事現場で起こる怪事件、という設定。
探偵役は元同心の草壁。ワトソン役は鉄道技手見習の小野寺。
あらすじは、香山二三郎の解説に丁寧に書かれているのでご参照いただきたいのですが、鉄道工事の現場そのものの様子が興味深いことに加えて、鉄道反対派や薩長の権力争いも背景としてしっかり盛り込まれています。
工事も、寄せ集めに近い藤田商店に差配された工夫と、生野銀山から連れてこられた熟練の鉱夫の対立など見どころが多い印象。(しかし、本当に人の手で掘ったのですね......)

事件は、測量記録の改ざん、落石事故、資材置き場に積み上げた材木の崩壊、削岩機の破壊などなど色とりどり。そこに列車内で起きた殺人事件が絡みます。
先斗町から流れてきた(?) 居酒屋の女将や鉄道反対派の住民の来歴も含め、非常に盛りだくさんの内容が、要領よく読みやすい文体でつづられていくので、楽しく読み進むことができました。

不満をいうとすると、主役である草壁と小野寺のキャラクターが掘り下げ不足のように思われること。一方で、急に草壁が自分のことを語り始めるシーンは、ちぐはぐな印象。
これはシリーズが続いていくとこなれてくるでしょう。今後に期待します。

個人的に、本筋とは関係ないものの気になったのは、機関士のお雇い外国人でイギリス人のカートライト。
「あの英国人も、漢(おとこ)や、ちゅうこっちゃな」(181ページ)
って、ほめ過ぎでしょう。もっともっと嫌な奴のままでいいのに(笑)。


<蛇足1>
「昨夜臨時列車で運んだ怪我人は七条(しちじょう)病院に運ばれ」(182ページ)
京都の七条に "しちじょう" とルビが振ってあります。
七条は ”ななじょう” ではないと教えてもらったことがあります。
また、一条(いちじょう)と紛らわしくならないように、”しちじょう” と発音せずに、”しっちょう” あるいは ”しっじょう” というのだ、と教えてくれたお年寄りもいましたが、この方以外ではそういうのを聞いたことがないので、真偽がわかりません。

<蛇足2>
「ふうん、自腹で不寝番か」(184ページ)
ここの ”自腹” という語の使い方に、おやっと思いました。
自腹というのは金銭的な負担のみを指すと思っていたのに、ここでは特に金銭に限定することなく負担という意味合いで使っているように思われるからです。
雰囲気の伝わるよい使い方だと思いました。



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