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月輪先生の犯罪捜査学教室 [日本の作家 岡田秀文]


月輪先生の犯罪捜査学教室 (光文社文庫)

月輪先生の犯罪捜査学教室 (光文社文庫)

  • 作者: 秀文, 岡田
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
泣く子も黙る東京帝大に、一風変わった講座が開講された。実際に起きた未解決事件を題材に、実地の推理を繰り広げる趣向だという。担当教官は、有名事件を次々と解決に導いた探偵・月輪龍太郎。集まったのは個性的な三人の学生たち。初々しい探偵の卵らは、四つの難事件を解くことができるか? 明治期の帝都東京を舞台にした、奇妙にしてスリリングな推理合戦。


2023年10月に読んだ2冊目の本です。
岡田秀文の「月輪先生の犯罪捜査学教室」 (光文社文庫)

「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
「海妖丸事件」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
に続く月輪シリーズの第四作にして、初の短編集。

「月輪先生と高楼閣の失踪」
「月輪先生と『湖畔の女』事件」
「月輪先生と異人館の怪談」
「月輪先生と舞踏会の密室」
以上4編収録です。

タイトルからして、ヘンリ・セシル「メルトン先生の犯罪学演習」 (創元推理文庫)を踏まえたもの──というわけではありません。
あちらは教授が頭をぶつけてしまって、到底法学の授業とは思えない話を始めてしまうというユーモアものでしたが、こちらはまじめな犯罪捜査学──実際に事件を解決しようというのですから。
東京帝大に月輪が講師となって講座が開講される、ということ自体があり得なさそうですが、伊藤博文と縁があるというのがこういうところでも効果を発揮したのかもしれません。

学生3人の知恵比べというフォーマットなので、必然的に多重解決の趣向と重なるのがとても楽しい。
事件も、高層ビル(?) からの人間消失、子どもの誘拐、洋館の幽霊騒ぎ、そして舞踏会での暗殺騒ぎ、とバラエティに富んでいます。

いずれも手堅く作られている印象で、岡田秀文らしく、もっともっとトリックに無茶をしてほしかった気もしますが、それをするには多重解決というのが足かせになってしまったのかもしれませんね。
ラストをみると続編が可能なかたちになっていますので、ぜひ続きをお願いしたいです。


<蛇足1>
「鯛も良いけど、包丁さばきと盛り付けがなお素晴らしい。これはお浜ちゃんが料ったのかい」(165ページ)
”料る” というのは初めて目にする表現でしたが、料理をすることをこういうのですね。


<蛇足2>
「並んで座っていた給仕たちは、居心地悪そうに身じろぎをし、互いの顔色をうかがった。事件との関係を否定するように、誰もが途方に暮れ、意味がわからないといった表情をつくろっている。」(332ページ)
ネタばれにつき伏字にしておきます、
「表情をつくろっている」と「つくろう」という表現がされていますので、事件と関係しているということを意味します。全員が「つくろってい」たように読めます。
しかし「給仕たち」全員が事件と関係しているわけではないのでこの文章は不正確ですね。





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伊藤博文邸の怪事件 [日本の作家 岡田秀文]


伊藤博文邸の怪事件 (光文社文庫)

伊藤博文邸の怪事件 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/06/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
明治十七年、伊藤博文邸の新入り書生となった杉山潤之助の手記を、小説家の「私」は偶然手に入れた。そこに書かれていたのは、邸を襲った、恐るべき密室殺人事件の顛末だった。奇妙な住人たちに、伊藤公のスキャンダル。不穏な邸の空気に戸惑いつつも、潤之助は相部屋の書生・月輪(がちりん)龍太郎とともに推理を繰り広げる。堂々たる本格ミステリの傑作、シリーズ第一弾!


読了本落穂ひろいです。
岡田秀文の「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)
月輪シリーズの第一作です。
このあとシリーズは
「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
「海妖丸事件」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
短編集の「月輪先生の犯罪捜査学教室」 (光文社文庫)
と書き継がれています。

伊藤博文の屋敷へ書生としてやってきた杉山潤之助の手記(を現代の小説家のわたしが現代文に直したもの)という体裁で物語は語られます。
大きく時代が動いた激動の明治初期、舞台は伊藤博文邸、というのが目を引きますが、なにより書生の生活というのが興味深かったですね。
伊藤博文邸の書生というのが一般的な書生像かというと、おそらくそんなことはないのでしょうが、現代ではごくごく例外的な存在と思われる書生には興味津々です。

ミステリ的側面に目を向けると、まず目を引くのが密室状況にしていることだと思いますが、こちらはトリックもあっさりしたもので、物語の中の比重はさほど大きくはないでしょう。
明治ならでは、というよりはもっと細かく伊藤博文邸ならではの犯行動機であったりの物語全体の構図面白い狙いを持った作品をシリーズ第1作に持ってきたな、と感じました。

シリーズは「月輪先生の犯罪捜査学教室」だけが未読です。楽しみ。


<蛇足>
「紺の手拭いを姉さん被りにし、襷掛けに尻端折りという、どこか勇ましい姿」(173ページ)
時代を感じさせる格好ですが、”尻端折り” がわからず、調べてしまいました。
着物の裾を外側に折り上げて、その端を帯に挟むこと。
とあります。





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海妖丸事件 [日本の作家 岡田秀文]


海妖丸事件 (光文社文庫)

海妖丸事件 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/02/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
杉山潤之助の上海出張に、新婚旅行へ出向くという旧知の探偵・月輪龍太郎が同道することになった。彼らの乗る豪華客船・海妖丸が出発する直前の横浜港で、船客の政商らに宛てて奇妙な予告状が届く。絢爛な船旅の途上、仮面舞踏会や沙翁(シェークスピア)劇の最中に起こる殺人、そしてまた殺人。息を潜める犯人を見つけ出せるか。本格ミステリの醍醐味を堪能できる、傑作推理小説。


「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)
「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く、岡田秀文の月輪龍太郎シリーズ第3作です。

上海行の豪華客船で起こる殺人事件を扱っています。おお、クローズド・サークルですね。
船上の事件というのは、ミステリでは定番で、解説で宇田川拓也が数多くのタイトルを挙げています。
いわく、
アガサ・クリスティー「ナイルに死す」 (ハヤカワ クリスティー文庫)
ジョン・ディクスン・カー「盲目の理髪師」 (創元推理文庫)
C・デイリー・キング「海のオベリスト」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
ボリス・アクーニン「リヴァイアサン号殺人事件」岩波書店)
ピーター・ラヴゼイ「偽のデュー警部」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マックス・アラン・コリンズ「タイタニック号の殺人」 (扶桑社ミステリー)
若竹七海「海神の晩餐」 (光文社文庫)
内田康夫「貴賓室の怪人 「飛鳥」編」 (講談社文庫)
山口芳宏「豪華客船エリス号の大冒険」 (創元推理文庫)
柳広司「パラダイス・ロスト」 (角川文庫)収録の短編「暗号名ケルベロス」
豪華絢爛、と言いたいところですが、海外と日本でだいぶ落差があるような......作例が足りなかったのか、短編まで担ぎ出していますしね(苦笑)
さて、この「海妖丸事件」 (光文社文庫)はギャップを埋める作品となりますかどうか......

結論から言うと、海外の諸作と肩を並べるレベルとは言えません。敢闘賞といったところでしょうか。←なんだよ、お前、偉そうに。
昔ながらのクローズド・サークルものの、きわめてオーソドックスな展開を見せるんですよね。
だから、というわけではないのかもしれませんが、中だるみするんです。
ミステリの趣向としてもぜいたくに殺人予告、密室殺人、宝石盗難事件、衆人環視の中の毒殺、アリバイと盛りだくさんですし、作者も意識しておられるのでしょう、仮面舞踏会や素人劇、さらには月輪夫妻の夫婦喧嘩(!) まで取り入れて工夫を凝らしておられるのですが、なんだか平板な印象になってしまいました。

一方で申し上げたように、ミステリとしての趣向はかなりいろいろと盛り込まれています。
そして、おそらく本作のいちばんのポイントとなる真犯人をめぐるトリックは(解説では「シリーズならではの大胆不敵な大技」と書かれています)、印象的です。
これ、無理なんじゃないかなぁ、と思ったりもしますが(物理的に、という懸念もありますが、同時に犯人の心理的に無理じゃないかなぁ、と)、ミステリとしてはぎりぎり、あり、と思いました。
このトリック、海外のある作品の裏返しなのではないかな、と思ったりもしたのですが......

前作「黒龍荘の惨劇」感想にも書きましたが、登場人物が「内面を欠いたゲームの駒みたいに描かれ」るので、もったいないな、と思えました。
ここを書き込んでいれば、全体の印象もずいぶん違ってくるのでは? と。
そのほうがこのトリックが映えるようにも思います。

ところで、豪華客船である「海妖丸」。「妖」という文字を使うものなのでしょうか?

シリーズはこのあと短編集の「月輪先生の犯罪捜査学教室」 (光文社文庫)が出ているだけで、長編は書かれていないようです。
いろいろケチをつけてしまいましたが、たくらみの多い本格ミステリシリーズとして期待しますので、ぜひまた長編も書いてください。

<蛇足1>
「これも主への供養だと思って一生懸命努めますよ。」(237ページ)
明治時代の人が、一生懸命......
このシリーズは杉山潤之助の手記を現代口語文に訳したもの、という体裁を取っていますので、作者が代えたのだという説明も可能ですが、一生懸命はないですよねぇ......
まさか一生懸命という誤用は明治時代からあったのでしょうか!?

<蛇足2>
「父は~略~、私が高等商業学校の予科に通っている時に亡くなりました。」(271ページ)
いつも迷うのですが、「亡くなる」という表現、身内に使ってよいものでしょうか?
「お亡くなりになる」という敬語表現があるので、「亡くなる」は敬語表現ではなく普通に身内にも使ってよいような気もしますし、一方でなんとなく「亡くなる」自体に敬意入っている気もしますし......




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黒龍荘の惨劇 [日本の作家 岡田秀文]

黒龍荘の惨劇 (光文社文庫)

黒龍荘の惨劇 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
明治二十六年、杉山潤之助は、旧知の月輪(がちりん)龍太郎が始めた探偵事務所を訪れる。現れた魚住という依頼人は、山縣有朋の影の側近と噂される大物・漆原安之丞が、首のない死体で発見されたことを語った。事件現場の大邸宅・黒龍荘に赴いた二人を待ち受けていたのは、不気味なわらべ唄になぞらえられた陰惨な連続殺人だった―。ミステリ界の話題を攫った傑作推理小説。


岡田秀文の作品としては、「秀頼、西へ」(光文社文庫)(ブログへのリンクはこちら)のあと、この月輪シリーズの前作「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)を読んでいますが、感想は書けずじまいになっています。
本書「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)「2015本格ミステリベスト10」第5位。

「伊藤博文邸の怪事件」を楽しく読んだ記憶があるので、期待して読み始めたところ、うーん、お屋敷ものの常道的展開に、中盤かなり退屈してしまいました。
探偵役の月輪に、警察も常駐するようになったのに繰り返される殺人、というのは構わないのですが、病弱な若い女性とか、座敷牢に閉じ込めてある精神を病んだ男、とか道具立てが揃っており、わらべ唄への見立て殺人に、繰り返される首なし死体という意匠はいいはずなんですが、どうも単調に感じられたんですね。

でも、真相はちょっとイケるな、と思いました。
おいおい、皆殺しかよ、というくらい殺人が繰り返される事件について
「芸術ともいうべき殺人歌劇」(385ページ)
と犯人自らが自賛するのですが、犯人の狙いはミステリ的に素晴らしい。
ただ、この芸術(?) を支えるには相当の筆力がいったのではないかと思います。
「わらべ唄に見立てた連続首切り殺人、複雑怪奇な建築群を擁する旧大名屋敷、座敷牢の囚人、不可解な遺言状、たび重なる犯人消失の不可能状況……といった道具立ては、戦後の横溝正史作品を思わせるけれど、おどろおどろしい怪奇趣味の演出は控えめである。次々と殺されていく漆原家の住人たちは、内面を欠いたゲームの駒みたいに描かれ、邸内に漂う恐怖の気配も、がらんどうのようにつかみどころろがない。これはもちろん、相次ぐ事件のデータを整理して、効率よく伝わるように計算された書き方で、英米黄金時代(一九二〇~三〇年代)のゲーム探偵小説のスタイルを手本にしたものだろう」
と解説で法月綸太郎が書いていますが、この真相は、がらんどう、では納得感を持って伝わってこないですね。
なので、この素晴らしい真相も、やられた!と快哉を叫ぶというふうにはいかず、地味~。
中盤退屈だと思ったのも、ひょっとしたらこの書き方が原因かもしれません。作者の岡田秀文は、「秀頼、西へ」をみても人物描写がだめな作家ではないので、意識的にしたものなのだと思いますが、ちょっとこの真相とはミスマッチだったのではないでしょうか。と言いながら、同時に、この真相はかなり腕のいい作家をもってしても成功させるのが難しい難物ではなかろかと思ったりもしますので、これを作品化した作者の蛮勇(これも褒めているつもりです)に拍手!です。

<蛇足>
物語の途中ではあるのですが、犯人について
「独自のゆがんだこだわりというか、価値観を持っていますから、その行動のすべてを合理で割り切ろうとすると、どうしてもおさまりがつかない端数が出てくるのは仕方ないでしょう」(340ページ)
と月輪が言うシーンがあるのですが、これ探偵がいっちゃだめなんじゃなんですかね(笑)。
犯人が狂人というなら狂人なりの論理を突き止めてもらわないと...




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秀頼、西へ [日本の作家 岡田秀文]


秀頼、西へ (光文社時代小説文庫)

秀頼、西へ (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
戦国末期。天下を手中にしようとしていた徳川家康は、大坂城に配下の者を忍び込ませた。一方、真田大助は、父・幸村より、落城の際には秀頼を連れ出し落ち延びよ、という密命を受ける。目指すは薩摩、島津家の元。燃えさかる大坂城を脱出した一行は西へ――。誰が味方で誰が敵なのか? 行く手には、想像を絶する謀略が待ち受けていた! 
迫真の傑作時代ミステリー。


岡田秀文は、カバー袖の作者紹介にもありますが、1999年「見知らぬ侍」で第21回小説推理新人賞を受賞し、2002年に「太閤暗殺」 (双葉文庫)で第5回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作家です。
「太閤暗殺」 は読んでいます。
中身はほとんど覚えていないんですが、おもしろかったと思います。
岡田秀文は、ここ数年「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)「黒龍荘の惨劇」(光文社)が評判ですね。
「伊藤博文邸の怪事件」 を買ってあって、読む前に岡田秀文の別の昔の本も読んでおこうと思って、この「秀頼、西へ」 を手に取りました。
単行本の時のタイトルは「落ちた花は西へ奔れ」だったのですが、文庫化で「秀頼、西へ」 へタイトルが変更されています。
中身がわかりやすくなりましたね。
大坂夏の陣で淀君と豊臣秀頼は自決し、豊臣家は滅亡した、という史実がありますが、実は秀頼は生き延びて西へ逃れたていた...と。
解説の細谷正充によると、こういう伝説があるんですね。

主人公は、真田幸村の息子大助。おっ、地味...
でも、この地味さがいい感じに仕上がっています。
一種の成長物語にもなっていますし、大坂城にいた侍女茜との恋(?) もあり、娯楽小説の王道です!

しかし、この作品はポイントはやはり、張り巡らされている策謀・謀略、でしょう。
徳川家康や本多正純、片桐且元に真田幸村・大助父子、そして薩摩の島津義弘に息子の家久。
誰が敵で、誰が味方なのか。
一見敵のようで味方、味方のようで敵、なんて生ぬるい方で、一見敵のようで味方と見せかけた敵なんかもいますし、そもそも何を目指すかによって、味方か敵か自体がくるくると入れ替わってしまう。そんなこの時代ならではの化かし合いがみどころです。
家康と島津義弘なんて、まあ、キツネとタヌキというと、キツネやタヌキが「俺たちそこまで性格悪くないよ」と怒って来そうな...
ラストで明かされるそれぞれの思惑は、なかなか深いです。
一方で、大助・茜がさわやかな読後感を残してくれます。

なかなかよかったですね。
今さらながら、岡田秀文、ちょっと注目です。


<蛇足>
楽しく読みましたが、
「申しわけございません。」(379ページ)
というせりふはあまりにも興ざめですねぇ。


タグ:岡田秀文
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