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映画:バビロン [映画]

バビロン.jpg

映画「バビロン」の感想です。

いつものようにシネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:『セッション』『ラ・ラ・ランド』などのデイミアン・チャゼル監督が、1920年代のハリウッド黄金時代の内幕を描いたドラマ。サイレント映画の大スター、大胆不敵な新人女優、映画製作を夢見る青年が、サイレントからトーキーへと移り変わる激動の時代を生きる。出演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などのブラッド・ピットや『スーサイド・スクワッド』シリーズなどのマーゴット・ロビーのほか、ディエゴ・カルバ、トビー・マグワイア、キャサリン・ウォーターストン、オリヴィア・ワイルドなど。

あらすじ:1920年代のアメリカ・ハリウッド。スターを夢見る新人女優のネリー(マーゴット・ロビー)と映画製作を目指す青年マニー(ディエゴ・カルバ)は、大スターのジャック(ブラッド・ピット)が開いたパーティーの会場で出会い、親しくなる。恐れを知らないネリーはスターへの階段を駆け上がり、マニーもジャックの助手となる。そのころ、映画業界はサイレント映画からトーキー映画への転換期に差しかかっていた。


無声映画からトーキー時代へ移りつつある時代を背景に、ハリウッドを描いた映画です。

タイトルのバビロンは、繁栄と退廃の街ハリウッドを指すと思われますが、オープニングのパーティーシーンがその象徴ですね。
ドラッグもセックスもあふれていて、さらには死体が出てもまるで何事もなかったかのように日常が進んでいく。
映画撮影も同じ。

ブラッド・ピット演じる無声映画時代のスーパースター・ジャック。
女優になりたくて、チャンスを掴んでスターの階段を駆け上がるネリー・ラロイ。
二人とも、トーキー時代になって、時代に取り残され、落ちぶれていく境遇です。
映画に携わる仕事がしたくてがんばっているヒスパニックの青年マニー。
彼はおそらくトーキーへの変化にもしっかりついていけたのでしょうけれど、ネリーに惹かれてしまったことで道を踏み外してしまう。

コンプライアンスなんて概念のない、猥雑でいかがわしいとしか言いようのない、ハリウッド。
実際にそんな風だったのかどうかはわかりませんが、いかにもそうだったんだろうな、大変でもあるだろうけれどそこが魅力だったのだろうな、と後から勝手にこちらが考えてしまっている世界。
そんな世界に浸れましたし、トーキーという「音」も記録することになって現場が大きく変わり、混乱していく様子もとても興味深かったです。

しかし、しかし、しかし、長いんですよ、全体的に。なんといっても3時間超!
各シーン、各エピソードが長い。もっと切り詰めてほしかった。
映画の撮影シーンが長いのは、この映画としては絶対な必要な要素だからよいのですが、それ以外は長い。
冒頭のパーティからして、長い。
パーティといえば、のちに出資者たちによる”ブルジョワ”感満載の、いかにもいけ好かない感じの気取ったパーティが出てきますが、こちらも長い。
エンディングへ向けての山場となるトビー・マグワイア登場シーンも、サスペンスを盛り上げるところだと思うのですが、どうも間延びしてしまっています。

マニーが映画館へ行くラストシーンも、解釈はいろいろできると思うのですが、名作映画の切り貼りという手法自体がある程度手垢に塗れていると言わざるを得ないですし、将来の映画まで入れ込んでしまったことで、ここでいきなりメタ手法ですか、と見ていて少々びっくり。

世界に浸る楽しさを満喫しましたが、疑問の多い映画でした。
雰囲気に浸れたらそれで十分といえば十分なんですけどね。



製作年:2022年
原 題:BABYLON
製作国:アメリカ
監 督:デイミアン・チャゼル
時 間:189分


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風鈴教授の優雅な推理 [日本の作家 さ行]


風鈴教授の優雅な推理 (徳間文庫 さ 3-18)

風鈴教授の優雅な推理 (徳間文庫 さ 3-18)

  • 作者: 佐野 洋
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/01/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
地方都市の大学で講義をする風見の楽しみは、地元の喫茶スナック「ポルト」のママ・門倉須美とのひとときである。新聞記者時代から軽い評論を書いていたこともあり、学内でも風流教授といわれている風見だが、彼女は、夫が命名した風流ならぬ“風鈴”教授という呼び名が気に入っている。風見には隠れた特技があり、その“技”を駆使しながら、さまざまな事件を推理してゆく。洒落た都会感覚ミステリー連作集。


2022年6月に読んだ8作目(10冊目)の本です。
本棚に眠っていた積読です。奥付を見ると1999年7月。

佐野洋は多作家で、数多くの作品を残していますが、もう新刊書店では手に入らないのではないでしょうか。
非常に短編が多い印象で、星新一がショートショート1000作で話題になりましたが、佐野洋は短編を1000作以上書いています。

都会感覚かどうかはともかくとして、技巧派として知られていて、洒落た印象が残るのが佐野洋作品の特徴と理解しています。
怨念とか情念とは程遠い世界。その意味ではあっさりしている、と言ってもいいかもしれませんが。

しかし、この作品はどうでしょうか。
引用したあらすじにも書いてありますが、主人公は不倫をしています。その意味では、風流教授ならぬ風鈴教授でもなく、単なる不倫教授。
おそらくは掲載誌からの要請だったのでしょうけれど、エロ的な部分を盛り込んでいるのですが、この部分はおそろしく泥臭い。
各話のエピソードにも、技巧派らしいひねりが見られるものもありますが、失礼ながら書き飛ばした感がします。

エロというほどのこともないのですが、佐野洋には密会の宿シリーズがあり、近いといえば近いです。
あちらは、二人の関係も描かれてはいるものの、解かれる事件の方に主眼があるのに対し、こちらは事件が主ではあるものの、二人の関係性に比重が比較すると大きく盛り込まれている点が違うかもしれません。
佐野洋は、エロは不得手だった、ということなのでしょう。

どうしてこの本買っちゃったのかな?
昔の自分よ、反省しなさい。


<蛇足>
「私は、真っ先に考えたのは、風見に電話をかけることであった。
 しかし、送受器に手を伸ばしかけて、私は躊躇した。」(241ページ)
携帯はまだそれほど一般的ではなった頃で、主は固定電話でしたが、送受器というのは珍しいですね。
一般的には受話器と呼んでいたものです。
たしか「推理日記」で、電話のあの部分は受話機能だけではないのだから、送受器と言うべきと佐野洋が書いていたことを思い出しました。




タグ:佐野洋
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鏡面堂の殺人 Theory of Relativity [日本の作家 周木律]


鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~ (講談社文庫)

鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~ (講談社文庫)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
異形の建築家が手掛けた初めての館、鏡面堂。すべての館の原型(ルーツ)たる建物を訪れた百合子に、ある手記が手渡される。そこには、かつてここで起きたふたつの惨劇が記されていた。無明の闇に閉ざされた密室と消えた凶器。館に張り巡らされた罠とWHO(誰が)、WHY(なぜ)、HOW(どのように)の謎。原点の殺人は最後の事件へ繋がっていく!


2021年6月に読んだ7作目(9冊目)の本です。
堂シリーズの第6作です。

前作「教会堂の殺人 ~Game Theory~」(感想ページはこちら)で路線転換してしまっていてシリーズの今後に不安を抱きましたが、この「鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~」 (講談社文庫)は、普通のミステリです。
二十六年前、一九七五年十二月の初めに起きた事件の手記を読み解いていく、という話。

シリーズのラスボスである藤衛の前に、堂シリーズの建築家である沼四郎とまずは決着をつける、という段取りでしょうか。
しかし、藤衛(の設定)がすごいですよね。
「齢九十を過ぎた老人にして、天皇とまで称される日本数学界の重鎮、しかも二十三年前の孤島における大量殺人事件の主犯でもある男だ。死刑判決を受け、十三階段を待つ死刑囚として収監されるも、昨年、最新請求により無罪判決を受け釈放、そのままどこかに行方を晦ました。」
「世界の秘密たるリーマン予想の証明を得て、神となった。」(ともに38ページ)
いや、リーマン予想を証明したからって神にはなれないでしょう、なんて思っていたら堂シリーズのよき読者にはなれません(ならなくてもよいかもしれませんが)。
まあ天皇という段階で、ある意味神なんですけどね。

細かい点は気にせず、堂シリーズ特有の無茶苦茶なトリックを楽しむのがよいと思います。
例によって、現場の図があり(47ページ)、今度はどう回転するのだろう、と考えるのが楽しい。
楕円形というのが、こういう風に使われるとは。
高校の数学とか物理で想像がつく内容ですが、まあ、思いつく人はいないんじゃないでしょうか。

いよいよ次の「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)でシリーズが完結するんですよね。
手放しで褒められるシリーズというわけではありませんが、ここまで来ましたから、最後に楽しませてほしいです。


<蛇足1>
「わたしが十歳前後の酷い動乱の果てに、幾度もの引っ越しを余儀なくされ、両親もこのときに財産をかなり手放したという。」(99ページ)
ここでいう動乱とは何を指すのでしょうね?

<蛇足2>
「こうして数年後、年齢もすでに二十代も後半に差し掛かったころ、博士課程を無事に終えたわたしは、研究室の助教として机をひとつ与えられると」(106ページ)
手記の記述です。この事件は一九七五年に起こったものとされていますが、そうすると助教というのが変ですね。
調べてみると、助教というのは2007年4月1日の学校教育法改正施行により正式に導入されたもののようです。それ以前の言い方でいうと、助手でしょうか。

<蛇足3>
「だが本当のところ、相対論の数学的基礎は、アインシュタインが学生時代に講義を受けたミンコフスキーによって定式化されたものである。すなわち、ミンコフスキーの存在なくしてアインシュタインのエレガントな相対論はあり得なかったのだ。」(120ページ)
知りませんでした。
こういう蘊蓄は読むのが楽しいです。

<蛇足4>
「もっとも、学者には自らの仕える学問領域こそが至上のものであると考える傾向がある。」(140ページ)
そうなんですか!?



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四十面相クリークの事件簿 [海外の作家 は行]


四十面相クリークの事件簿 (論創海外ミステリ)

四十面相クリークの事件簿 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2011/05/01
  • メディア: 単行本

<カバー袖>
元怪盗、現在は名探偵。顔を自由に変えることができる怪人にして、謎の経歴を持つ紳士、四十面相ハミルトン・クリーク。J・D・カーが愛読し、江戸川乱歩が「怪人二十面相」のモデルにしたと言われるクリーク譚の第一作品集を初完訳。〈ホームズのライヴァルたち〉第五弾。


2022年6月に読んだ6作目(8冊目)の本です。
単行本で、論創海外ミステリ95
この作品はもともと短篇集として出されていたものから、9編を抜き出して長編に仕立て直したものだそうです。
トマス・W・ハンシューによる四十面相クリークの作品は、子供向けの翻訳を大昔に読んだことがあります。この作品だと第15章~第18章にあたるサーカスのエピソードは強烈に印象に残っています。

もともと四十面相クリークは悪党だったのですね。
エイルサとの運命的な出会いを経て悔い改め、正義サイドにつくことに。
「あなたは地獄へと足を運び、ぼくを救いだしてくれたのですね。神に代わって、天へと導いてくださるのですね!」
なかなか純な悪党です。

カバーや帯には、<ホームズのライヴァルたち>という文字も踊っていますが、典型的なクラシカルな短編ミステリ(長編仕立てにはなっていますが、基本の構造は短編集です)です。

多彩な事件を扱っていて楽しいのですが、それだけではなく、ハンシューはかなりのアイデアマンだったようです。
もう90年前の作品ですから、今となっては、という部分もありますが、非常にトリッキーです。
あのトリック、手がかりはハンシューのものだったのか、という驚きも味わえます。
備忘のため、ぼかして書いておきますが、子供向けで読んだライオンのトリックや、しぐさの推理とか注射のトリックとか、有名ですがいいですよね。
なかには、おいおい、というトリックもあったりしますが、それも時代を感じさせて楽しく味わってしまいました。

クリークの作品はもっとあるようです。
訳してほしいですね。


<蛇足1>
四十面相クリークにとってもマドンナ役ともいうべきエイルサ・ローンですが、エイルサのスペルは Ailsa かと思われます。
発音は、エイルサよりもエルサの方が近いと思われるのですが、どうしてエイルサにされたのでしょうね? エイルサ、すごく言いにくいと思います。

<蛇足2>
「言われたとおり、全部東屋に用意してあります」(88ページ)
東屋で立ち止まってしまいました。「あずまや」という語は四阿という表記に慣れていたからです。
東屋とも書くのですね、というか、むしろこちらが自然な表記ですね。
ネットで見ると語源は
東屋の「東」は、都から見て東方に位置する地域のことで、「東人(あずまびと)」といえば軽蔑の意味を含めて「東国の人」「田舎者」を表す。 東屋(あずまや)は、「東国風のひなびた家」や「田舎風の粗末な家」の意味から生じた言葉である。
ということで、納得しました。四阿の方は
「阿」には「棟」の意味があり、四阿は屋根を四方に葺きおろした小屋をあらわしている。
ということらしいです。

<蛇足3>
「きれいに刈り込まれた目の覚めるようなエメラルド色の芝生を背景に、」(148ページ)
その昔「目の覚めるような青」という表現をしたら、周りから青に「目の覚めるような」という表現を使うのはおかしい、と嘲笑われたことがありました。基本的に赤系の色にしか使わないのだと。
その後、青に使っているところを見かけるようになり、緑にも使うのですね。

<蛇足4>
「クリークだ」
「はん! 一番アイアン(クリーク)ときたか。」(160ページ)
ゴルフはやらないので調べましたが、クリークは5番ウッドと書いてありますね。???
一番アイアンはドライビングアイアン.と呼ぶようなのですが。

<蛇足5>
「あげく、私の自宅の隣──非常に寂しい、ウィンブルドンの公有地の境あたり──の家を買い、夫婦で引っ越してきたんだが、」(308ページ)
このウィンブルドンの公有地、おそらく、Wimbledon Common の訳だと思うのですが、公有地と訳してあるのは初めて見た気がします。
訳すとすると、公園や緑地が近いのではないかと思うのですが。


原題:Cleek, The Man of the Forty Faces
作者:Thomas W. Hanshew
刊行:1913年
訳者:鬼頭玲子



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映画:イニシェリン島の精霊 [映画]

イニシェリン島の精霊.jpg


映画「イニシェリン島の精霊」の感想です。

いつものようにシネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:『スリー・ビルボード』などのマーティン・マクドナー監督によるドラマ。島民全員が顔見知りであるアイルランドの孤島を舞台に、親友同士の男たちの間で起こる絶縁騒動を描く。キャストにはマクドナー監督作『ヒットマンズ・レクイエム』でも組んだコリン・ファレルとブレンダン・グリーソン、『スリー・ビルボード』などのケリー・コンドン、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』などのバリー・コーガンらが集結。ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最優秀男優賞と最優秀脚本賞を獲得した。

あらすじ:本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島・イニシェリン島。島民全員が知り合いである平和な島で、パードリック(コリン・ファレル)は長年の友人であるはずのコルム(ブレンダン・グリーソン)から突然絶縁されてしまう。理由も分からず動揺を隠せないパードリックは、妹のシボーンや隣人ドミニクの助けも借りて何とかしようとするも、コルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と言い渡される。やがて島には、死を知らせると伝承される精霊が降り立つ。


アイルランド内戦当時の孤島を舞台にしています。美しいけれども、寒々とした島です。
コリン・ファレル演じるパードリックが、長年の友人であるコルムから突然絶縁を言い渡される。
いい年したおっさん二人の仲違いを描きます。

基本的にパードリックの視点で進んでいくので、コルムが極めて理不尽にうつります。
人生の残りを考えて、何かを残したい(具体的には作曲した曲)と、くだらない退屈な話しかしないパードリックとの交友を断って、作曲に専念したい、と。
うーん、なんだかな、という感じ。引き合いに出すのがモーツァルト。そんな天才級の作曲家とも思えませんが。
しかも、本気であることを伝えるために、「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」という。
あー、わけがわかりません。
パードリックに説明してもわからないだろうと思ったのでしょうが(実際に、パードリックはまったく理解しません)、極端すぎます。
実際に指を切り落とすんですよね、この人。
ここまで行くと、正直狂人の領域です。
自分を害するだけで、パードリックに害を与えようとはしていないところに、一抹の良心(?) が伺われますが、全体としてはやはり理解を超えちゃっていますね。

パードリックが警官に痛めつけられたとき、手を差し伸べるのがコルムというのも複雑で、感謝しているけれどそれを口にできない(話しかけるな、と言われているから)パードリックの混乱は迫ってくるものがありました。

至極閉鎖的な島(郵便局兼雑貨屋と思われるオバハンのいやらしさたるや...象徴的です)で、なんとかしようとして追いつめられていくパードリックが、飼っていたロバの死(投げ捨てられたコルムの指を食べて窒息死!)を契機に爆発を見せるという展開。
これはこれで行き過ぎ感あるのだけれど、愚鈍な存在として描かれているのがポイント。

コルムとパードリックの確執は、アイルランド内戦のメタファーだとされているようですが、アイルランド内戦ってこんな理不尽としかいいようのないきっかけだったのでしょうか?
イギリスによる搾取・支配、アイルランドの独立、宗教対立等々さまざまな要素があったのだろうと思われますが、そのメタファーにしてはこの二人の対立・関係は構図が重ならない気がしてなりません。

見ている最中も、観終わっても、もやもやしている点があり、それは予言の取扱い。
以下ネタバレになりますが、書いておきたいと思います。

「この島に二つの死(two deaths)が訪れる」と予言する謎めいた老婆が出てきます。
この予言が出てきたとき、コルムとパードリックの二人が相討ちのようなかたちで死ぬのかな、と想像したんです。
ところが劇中で死ぬのはドミニクという登場人物一人だけ(付け加えておくと、コルムもパードリックも死にません)。
字幕がどうだったのか記憶がないのですが、二つの死であって、二人の死ではないので、ロバがカウントに入っていると理解すれば予言は的中です。

話がそれますが、このドミニクの死も謎めいていまして、自殺、事故、殺人、いずれともつきません。
おそらくはパードリック以上に愚鈍で、父親である警官に(肉体的、性的)虐待を受けているという設定で、パードリックをいい人物、優しい人物と信じていたのに、コルムとの確執で変容していくパードリックを見限るという極めて重要な役どころです。

話を戻して、予言的中としてもすっきりしないんです。

というのも、この老婆、パードリックがコルムの家に火を放とうと出かけた際に、「犬に手をかけるんじゃない」と言っているのです。
パードリックは、もともと犬まで殺そうとしていなかったのでしょう(もともと愚鈍でも優しい人物として設定されています)、犬を自分の家に連れていき世話をします。
焼けてしまったコルムの家の前の椅子に、この老婆が腰かけているシーンもあります。
パードリックが犬を連れていくとは思っていなかったでしょうから、犬が生き残ればコルムが死なない可能性が高まると思っていたのかもしれませんし、ひょっとしたら、老婆は焼けている家からコルムを救い出したのかもしれません。
ロバの死を death とカウントするというのも不自然と言えば不自然です。
本来人間二人が死ぬという自らの予言が外れてしまうことを辞さず、老婆がコルムを救い、パードリックが人殺しになるのを救ったとも解釈できるのです。

さらには、やはりロバの死は death にカウントされるものだとして、本来ロバとコルムが死ぬべきところを、老婆が先回りしてドミニクを殺してコルムが死ぬのを阻止した、という解釈だってできます。

あるいは、本来ロバと犬が死ぬべきところ(ロバの死を death にカウントするのなら、犬の死もカウントしてよいはずです)、犬を救うことでコルムの死を促した(結果的にドミニクが死んだけれど)という解釈もあり得るでしょう。

こんなクネクネ考えてしまうのは、ミステリ好きの悪い癖だとは思いますが、理解を超えるパードリックとコルムの確執に、この予言、さらには、ロバは死んだのにコルムが死んでいないのは公平ではないとし、これが闘いの始まりだ、とパードリックがコルムに宣告するラストシーンが加わることで、いつまでもざらざらとした感触の残る映画となりました。



製作年:2022年
原 題:THE BANSHEES OF INISHERIN
製作国:イギリス/アメリカ/アイルランド
監 督:マーティン・マクドナー
時 間:114分


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C.M.B.森羅博物館の事件目録(34) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(34) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(34) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: コミック



この第34巻は、
「消滅飛行」
「マリアナの幻想」
「古屋」
の3話収録。


「消滅飛行」は1920年代に始まった飛行機開発競争の中、墜落後消えた飛行機の行方を追う、という話です。
森羅が謎解きするシーンで、さりげない会話から見抜いたという部分があるのですが、まったく納得できませんでした。書かれていない飛躍があるのでしょうね。
洞窟のトリックは、上手くいくかな、と思うところはあるのですが、おもしろかったです。

「マリアナの幻想」は、エクアドルを舞台に、第二次世界大戦後のいわゆる勝ち組・負け組問題から派生したストーリーです。
舞台がエクアドルの寒村でなかったら、あるいはもう何十年かずれていたら成立しない物語であると思われるところがポイントだなと思いました。

「古屋」はかなり斬新なストーリーで注目作だと思います。
法律関係の詳しい話は確認していないのですが、この犯人(と書いておきます)の企みは確かに成功しそうです。
森羅が提示する解決策も、ちょっと疑問点はないではないですが、有効な気がします。
難点をあげるとすると、周りの人の反応なのですが、閉鎖的な村という設定だとありうるのかも、です。
ただ、こうやって一応の解決をみたあとも、依頼人たちには難題が降りかかってくるような気がしてならないのですが、それはこの物語とは別の話ですね。
この作品、とてもよかったです。



タグ:加藤元浩 CMB
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Q.E.D. iff -証明終了-(6) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.iff -証明終了-(6) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.iff -証明終了-(6) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
「地球に落ちてきたと言っている男」
宇宙人を名乗る男・サイモンが、ミステリ研究会のモルダーの家にやってきた。燈馬とも互角に最新の宇宙議論を交わす彼は、モルダーの家庭に入り込み!?
「急転」
人気ドラマ「南国刑事」のプロデューサーが転落死。配役でもめていたという女優ら5人はアリバイを主張するが、燈馬は絡み合う事実を解きほぐし……


Q.E.D. iff のシリーズ第6巻。

「地球に落ちてきたと言っている男」には、懐かしの(?)、迷惑3人衆がミステリ研究会の面々として再登場します。いや、もう出てこなくていいんだけど(笑)。
今回彼らが持ち込む事件は、モルダーこと森田織理(おりさと)の祖母のところに宇宙人がやってきた、という話。
更衣室からの消失トリックは、いくらなんでも無理じゃないかな、と解決シーンの絵を見ても思う出来栄えなので、褒めることはできませんが、全体の仕掛けとして、アメリカのミステリではお馴染みのアレを持ってきているのはよかったです。
ただ、読者には少々アンフェアなところがあるのが残念です。
ラストで宇宙人の ”ゆれ” が描かれますが、そのことを暗示するようなエピソードがもっと前にあればな、とも思いました。

「急転」も密室状況を扱っています。
階段室をめぐるトリックは単純すぎてさほど惹かれませんし(むしろトリックと呼んではいけないのかも)、もう一つの手錠(ネタバレにつき色を変えておきます)をめぐるトリックも、よほどの幸運に恵まれないとすぐにばれてしまうと思います。
何より動機が今一つ納得感が薄いように思えて残念でした。



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蒋介石の黄金 [日本の作家 た行]


蒋介石の黄金 (徳間文庫)

蒋介石の黄金 (徳間文庫)

  • 作者: 伴野 朗
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/01/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
昭和二十二年、元日本軍特務機関員の滝安吾は久しぶりに上海の地を踏んだ。かつて、戦犯として捕えられる直前に中国から脱出する際、助力を得た恩人の孔子敦の依頼に応じたのだ。が、訪ねた孔の屋敷は襲撃をうけ廃墟と化し、妻子は死体で発見され、孔も瀕死の重傷を負っていた。孔は上海市長から、ある荷の運搬を命じられていたという。その仕事を引き継いだ滝は、大きな渦に呑み込まれてゆく。傑作冒険活劇。


2022年6月に読んだ5作目(7冊目)の本です。
伴野朗を読むのは、いったいいつ以来だろう?
最近は書店で本を見かけることがほぼなくなりましたが、北京原人の骨を扱った「五十万年の死角」 (講談社文庫)で江戸川乱歩賞を受賞している作家で、中国を題材にとった冒険ものの作家というイメージです。

この「蒋介石の黄金」 (徳間文庫)は、終戦から2年が経過した、国共対立が激しい中国を舞台に、タイトルにもうたわれている蒋介石が隠したといわれる黄金をめぐる駆け引きを描いています。
時代背景からというだけではなく、筋立てにどこか懐かしい雰囲気が漂います。こういう作品、結構読んだよね、という感じのなつかしさです。

冒険小説的な展開でも、力でねじ伏せるタイプと違い(力がものをいう場面もありますが)、こういう騙し騙されという攻防戦、大好きなんですよ。
馬賊になった元日本陸軍軍曹とか、エピソードも興味深く楽しめます。
多数の関係者が入り乱れる入り組んだプロットのお宝争奪戦なのに、振り返るとすっきり感じるのは、やはり作者の腕でしょうね。

もともと国際謀略小説というのは日本で書かれることが少なくて、冒険小説的な味付けのものも最近は減ってきているのが残念です。




タグ:伴野朗
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新世界より [日本の作家 か行]

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫

新世界より(中) (講談社文庫)

新世界より(中) (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫

新世界より(下) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた…隠された先史文明の一端を知るまでは。<上巻>
町の外に出てはならない―禁を犯した子どもたちに倫理委員会の手が伸びる。記憶を操り、危険な兆候を見せた子どもを排除することで実現した見せかけの安定。外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされるとき、「神の力」が孕む底なしの暗黒が暴れ狂いだそうとしていた。<中巻>
夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と鳴咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的傑作。<下巻>


2022年6月に読んだ4作目の本です。
上中下3巻となる貴志祐介のSF大作で、第29回日本SF大賞受賞作。
「このミステリーがすごい! 2009年版」第5位。
子どもを主人公にし、SF初心者にもやさしい冒険SF──やさしいとはいっても、中身はハード=激しいというか厳しいものですが。

安定した周囲、社会に護られていた人物が、その周囲、社会の矛盾や問題に直面し、探りながら成長し壁を越えていく、というストーリーはこの種の物語の王道です。
まさに王道を行く、堂々とした作品。
その過程で、エンターテイメントの様々な要素がふんだんに盛り込まれています。

舞台は千年後の地球。
今現在の文明は先史文明と呼ばれています。歴史になっちゃっていますね。
「サイコキネシスが、科学の曙光によって照らし出されたのは、キリスト教暦二〇一一年」(上巻229ページ)とされ、その後能力者とその他の者の対立が激化、能力者は核兵器をしのぐ力を得、すべての政府が崩壊し、戦乱と飢餓、疫病の発生で人口は最盛期の二パーセント以下になり、その後の変遷を経て物語の時点の、安定した社会が実現している、と説明されます。

結界で護られた人間社会と、その結界の外の世界。美しく秩序ある平安な人間社会を守るために、荒廃した結界の外がある。
人間社会のありようが、機械文明の進んだ未来像ではなく、現時点から見て古めの、戦後の昭和的雰囲気を醸しているのが特徴かと思います。
クライマックス的シーンが、なにしろ夏祭り──盆踊りですから。
──ほかの ”町” の様子を知りたくなりました。特に、(今でいう)諸外国の。

「こういう本を書いて改めて難しいなと思ったのは、世界の謎を追求するのと、個人が生き延びるために戦うことをどうやってシンクロさせるのか」というSFマガジンインタビューでの作者の発言が大森望の解説で引用されていますが、そこに主人公たちの成長も絡むわけで、上中下の3巻といえども、決して飽きることはありません。

壮大に組み上げられている世界観ですので、中には想定できてしまうものもあります。
想定できたとしても、そのことは決してマイナスではなく、物語の先を急ぐ推進力となりました。

主人公たちが最後にたどりつく境地は、幸せの新天地なのかどうか。
「けっして信じたくはないが、新しい秩序とは、夥しい流血によって塗り固めなければ、誕生しないものなのかもしれない。」(下巻536ページ)
という感慨を、どう受け止められるでしょうか?
個人的には、もとの世界も、主人公たちがたどりつく世界も、嫌ですね......
意外と今と変わらないのかもしれませんが。
やはり、希望をもって次のフレーズを。
「想像力こそが、すべてを変える。」




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名探偵コナン (5) [コミック 青山剛昌]


名探偵コナン (5) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (5) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 青山 剛昌
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1995/04/18
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
体が小さくなった途端に危機の連続!! 
血も凍るような恐ろしい難事件が俺の身に降り掛かる!!
蘭も狙われてちょっとヤバイけど、
スーパー頭脳と探偵七つ道具で勝負だ!!
俺の名前は、小さな名探偵・江戸川コナンだ


名探偵コナン第5巻です。
あらすじではないけれど、少しずつ変わっていくのが面白くて引用してしまいます。
あっ、でもこの「名探偵コナン」 (5) (少年サンデーコミックス)では、七つ道具は出てこないですね...

FILE.1 怪人…包帯の男
FILE.2 第一の犠牲者!
FILE.3 蘭ピンチ!
FILE.4 暗闇の襲撃!
FILE.5 殺人鬼の正体!
FILE.6 カラオケ殺人!
FILE.7 自殺か他殺か?
FILE.8 歌に秘められた謎
FILE.9 すれちがい…
FILE.10 見知らぬ訪問者。
FILE.11 脱出そして追跡。
の11話収録。

FILE1~5 は大学時代の映研仲間が集まった山荘で起きる殺人事件で、バラバラ殺人というかなり残虐な事件を扱っています。
豪胆なトリックと、それに似合わないコミカルな伏線がチャームポイント。
エンディングで
「だが気を付けろ
 油断すると奴がまた人の心の仲から顔を出す…
 復讐という名の殺人鬼が…」
というフレーズが出てきますが、これ、コナンの独白なのかな? 作者の言葉なのかな?
金田一少年に強く賛同してもらえそうなフレーズで笑ってしまいました。

FILE6~9は、雄飛することが決まっていたボーカルが、残されるバンド仲間、マネージャーと一緒にいったカラオケボックスで、持ち歌を熱唱したあと青酸カリで死を遂げる事件。
ちょっと伏線が露骨すぎて──まあ、コナンが気づくシーンをいれないといけないので、どうやっても露骨になってしまうのですが──真相が割れやすいという難点はありますが、小道具の出し入れが楽しい作品です。
ラストで、暗闇の中、新一の声で蘭と話すシーンがあり、そこでコナンが蘭の手を握るのですが、これで子供の手だとばれちゃうんじゃないかなあと心配になりました。

FILE10~11では、新一がコナンの姿に変わってしまったことを知っている謎のおばさんに拉致(?)されます。ただこの5巻では完結していないので、次巻で感想は書きたいと思います。

裏表紙側のカバー見返しにある青山剛昌の名探偵図鑑、この5巻はジュール・メグレ、メグレ警部です。





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