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殺しのディナーにご招待 [海外の作家 E・C・R・ロラック]


殺しのディナーにご招待 (論創海外ミステリ)

殺しのディナーにご招待 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2017/06/05
  • メディア: 単行本

<訳者あとがきからあらすじ>
マルコ・ポーロという文筆家クラブのディナーパーティが、ソーホーにあるレストラン、ル・ジャルダン・デ・ゾリーヴの地下食堂<アン・バ>で開かれ、新規会員となるばく八人の文筆家が招待されます。ところが、クラブの重鎮はおろか正式会員すら現れません。八人は、クロークに帽子があるのに姿を見せないペテン師トローネに担がれたのだと推察しますが、用意されたご馳走を堪能してパーティーはお開きとなります。しかし、その一時間後、レストランの店主が、衝立で目隠しされた配膳台の下にトローネの死体を発見します。さっそくロンドン警視庁(スコットランドヤード)犯罪捜査課のマクドナルド警部が捜査に乗り出します。


単行本です。
論創海外ミステリ109
2022年6月に読んだ3冊目の本です。
E・C・R・ロラックは、安定の本格ミステリとして信頼のブランドになっています。安心して手に取ることができます。
今回のこの「殺しのディナーにご招待」(論創海外ミステリ)も、小味ながら満足できました。

被害者がペテン師ということで、動機などいくらでもありそうなところを、ちょっとおもしろい動機を扱っています。
ロラックは、実在の人物を念頭におきつつこの動機を案出したのだったりして......だとすると、それが誰なのか知りたくなるところですが。
この点は巻末の横井司による解説でも触れられていまして(しかも、そこには具体的な人物名まで出ている笑)、「メタフィクション的な面白さと魅力」の源との指摘があります。
楽しかったですね。

それにしても、次々と古いミステリを発掘してくれる論創海外ミステリには感謝、感謝、なのですが、翻訳のレベルの低さだけはなんとかならないものかとよく思いますね。
今回も、ひどいです。
「動機ならいくらでもある。担がれて激情に走った──フィッツペイン参照。ウラン──リート参照。恐喝──きみの意見だ。現時点では詳細不明の貴重品──警視監とわたしの共作だ。」(238ページ)
”参照”、”共作”という、英和辞典からそのまま抜き出したような語を訳に使う、しかも会話文で。この文章、日本語として意味、わかりますか?
「―略― 非常に滑稽でしたよ。ですが、結果は実質的だったと認めます。非常に実質的でした。」(283ページ)
この”実質的”という語もそうですね。
ひょっとして、google 翻訳とかで訳したものをそのまま使っているのでしょうか?
そのせいで、肝心かなめの動機解明のシーンで、マクドナルドが説明するところ(275ページ)が意味不明......。動機そのものは何とか理解できても、肉付けができないのでつらいですね。

創元推理文庫あたりに新訳で収録してくれないものでしょうか(笑)?



<蛇足1>
「ウォーダー街(ロンドンのピカデリーサーカスの近く。かつては骨董屋が多かった。現在は映画産業の代名詞)です。」(70ページ)
Wardour Street のことですね。発音はウォードーの方が近い気がします。

<蛇足2>
「視学官や警察などの敵の目をことごとく搔い潜り、まったく何も持たず、誰に対しても義務を負うこともなく波止場で野宿し、何とか食い繋いだ。」(72ページ)
視学官というのがわかりませんでした。教育行政における指導監督制度に基づくお役人らしく、今の日本でもある役職なのですね。

<蛇足3>
登場人物が大英博物館で考えごとをするシーンが115ページにあり、北斎の『神奈川沖浪裏』に見入るのですが、大英博物館で北斎を見たことはないですね......
日本のものの展示はとてもしょぼかったような気がします。
もっとも絵画は大英博物館からナショナル・ギャラリーに移されているのですが、そこでも見たことがないような......



原題:Death Before Dinner
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1948年
翻訳:青柳伸子






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八人の招待客 [海外の作家 パトリック・クェンティン]


八人の招待客 (海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》)

八人の招待客 (海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2019/09/13
  • メディア: 単行本

<カバー裏あらすじ>
『八人の中の一人』……大晦日の夜、マンハッタンの四十階の摩天楼の最上階に集まった株主たちが、会社合併の是非を問う投票をしているところへ、合併を阻止するべく、真夜中までに株主たちを全員抹殺するという脅迫状が舞い込む。階下へのエレヴェーターは止まり、電話も通じず、階段に通じる扉には楔が打たれ、照明のヒューズも飛んで、株主たちは、暗闇の中に閉じ込められてしまう。そして起こる連続殺人……犯人は八人の株主たちの一人なのか? 彼らは閉じ込められた最上階から果たして脱出できるのだろうか?
『八人の招待客』……過去に公表できない秘密を持つ男女に、奇矯な行動で知られる富豪から、不穏な招待状が届く。富豪の意図は、共通の敵である脅迫者を、招待客と共に始末しようというものだった。ところが、富豪の計画は、招待客の一人の裏切りから、予想外の窮地に追い込まれていく。折からの雪嵐に降り込められ、電話も交通も、そして電力さえも遮断された暗闇の邸宅の中で、邪悪な連続殺人が幕を開ける。
 二転三転する展開が、不気味で強烈なサスペンスを生み出す、Q・パトリック真骨頂なオフ・ビートな逸品二本立て。
 海外の識者によって、シングル・ロケーションによる『そして誰もいなくなった』の先行作として認定された、Q・パトリックの傑作が、半世紀の時を超えて、ここに新訳で甦る。クローズド・サークルの暗闇の中で嘲笑う作者の奸計を、読者は果たして見破ることができるのだろうか? これを読まずしてクエンティンを語るなかれ!


2022年6月に読んだ2冊目の本です。
単行本です。
原書房から出ていた山口雅也監修の叢書《奇想天外の本棚》、原書房からは打ち止めで、国書刊行会に舞台を移して再出発しているのですね。
この「八人の招待客」(原書房)はリニューアル前のもので、読むのはクレイトン・ロースン「首のない女」 (原書房)(感想ページはこちら)に続いて2冊目です。
あと1冊クリスティーの「アリバイ」 (原書房)があって、こちらは戯曲というので見送っていたのですが、シリーズを揃える意味で買った方がいいのかな??と思うようになりました。

さておき、「八人の招待客」(原書房)です。
二話収録の中編集。

「そして誰もいなくなった」 (ハヤカワ クリスティー文庫)の先行作という触れ込みで、二話とも確かに似た要素がいろいろとあるのですが、読んだ印象はずいぶん違いますね。

『八人の中の一人』はビルの最上階という現代的な舞台がいいですね。
合併をめぐる駆け引きのような中で、社長秘書であるキャロルの恋愛的な話が盛り込まれているのが注目のポイントですね。
非常にサスペンスフルな展開に、この要素が結構大きなインパクトを与えています。
タイトに作り上げられた佳品で、よかったですね。

『八人の招待客』は 脅迫者を根絶(=殺)してしまおうという企みを秘めた招待からはじまる物語。
状況的には、クリスティの別のある作品の裏返しのような感じと思われるかもしれませんが、まるで殺人ゲームのような殺人計画が面白く、予期せぬ来客と予期せぬ出来事で、事態は思わぬ方向へ。
こちらもピリッとツイストが効いた良作だったと思います。
富豪の執事ボウルズのファンになってしまいました。

国書刊行会に版元を移して、《奇想天外の本棚》は再スタートしています。
そちらも楽しみです。

原題:The Jack of Diamonds / Murder on New Year’s Eve
著者:Q Patrick
刊行:1936年 / 1937年
訳者:山口雅也




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読者よ欺かるるなかれ [海外の作家 カーター・ディクスン]

読者よ欺かるるなかれ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

読者よ欺かるるなかれ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/12/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
すさまじい、けだものの叫びに似た悲鳴だった。聞いているほうが、思わず耳をふさいで、自分でも叫びだしたくなるような悲鳴……。法医学者サーンダーズは急いでホールに面したドアをあけた。そこには、この邸の主人サム・コンスタブルの姿があった。階段を一歩降りかけたまま、手すりに身体をあずけ、宙に伸ばした片手の指先がひくひく痙攣している。やがて、どっと崩折れるように倒れ込んだ。サーンダーズが駆けよる前に、息はなかった。それを待っていたように、時計が八時を告げた。読心術者ハーマン・ペニイクの予言は、見事適中したのである!
サムと、妻の探偵小説作家マイナが開いたパーティには一つの趣向があった。読心術者ペニイクを招いて、彼の能力を見定めてやろうというのだ。それが、サムは八時の晩餐のまえに死ぬというペニイクの予言を引き出し、まさに予言どおりの結果となってしまったのだ。しかも捜査を始めたマスターズ警部の前で、ペニイクはサムを殺したのは自分の思念波であると宣言した。前代未聞の不可解な事件に、警部が名探偵ヘンリー・メリヴェール卿の出馬を仰いだ矢先、またしても予言殺人が……!
カー独得の怪奇趣味が、本格推理の謎と見事に融合した傑作といえる。警告――各所にあたえられた読者への指針に留意あって、読者よ欺かるるなかれ!


2022年6月に読んだ最初の本です。
上の書影は文庫本のものですが、実際に手に取ったのはポケミスです。amazon でポケミスの書影は見つからなかったので。なのであらすじもポケミスのものです。
非常に高名な作品で、ずっと読みたいと思っていたものです。
文庫にならないなぁ、としびれをきらしてポケミスを買って積読にしているうちになんと文庫化されてしまいました......

まず、タイトルがいいですよね。
「読者よ欺かるるなかれ」
原題を直訳すると、「読者は警告される」(あるいは能動的に訳して「読者に警告する」)
これを「読者よ欺かるるなかれ」と訳したのは訳者のお手柄ですよね。雰囲気、抜群。
これは、小説の折々に挟まれる、記述者(と思われる)サーンダーズ博士から読者への注に由来します。
たとえば76ページ下段では
「サム・コンスタブルを殺害した方法は、犯人がわざと現場から身を遠去けて、何等かの機械的手段を利用して殺害したものと考えるのは非常な誤解である」
などと書かれ、これらの注は
「一言読者に警告を与える。」
と結ばれます。
この警告文が非常に効果的でして、こういう一種のメタ的な手法は、ある意味反則技ではあるのですが叙述トリック花盛りの昨今から考えると、何ら問題ないと言えそうです。
数え落としがなければ、三ヶ所あります。
あとの二つのポイントは
「本事件は、犯人の単独行動であって、その殺人計画を知っていたり、またはこれに手を貸したりした人物はひとりもいない」(131ページ下段)
「この事件における殺人動機は、もちろん、物語のうちにあますところなく述べられているが、疎漏の読者の見逃していることを恐れる。」(185ページ下段)

ただ、肝心の事件の方がちょっと弱い。
思念放射(テレフォース)などという魅力的な謎で引っ張って、まさに幽霊の正体見たりなんとやらという感じです。
加えて、文献まで提示して補強しているものの、「さすがにこれはなしだろう、アウトですよ、カーさん」と言いたくなるような事象まであります。

カーらしさを逆手にとったような部分もあり、とても楽しく読めて満足しましたが、傑作としてお勧めするのは躊躇してしまいますね。


<蛇足1>
「母屋につづく拱路(アーチウェイ)のむこうから、いそいで近づいてくる足音が聞えた。」(36ページ上段)
拱路は、以前「奇商クラブ」(創元推理文庫)(感想ページはこちら)の感想で触れた「拱道」の類語ですね。

<蛇足2>
「遠慮なく言わせてもらえば、あれば失敗作だからね。犯人が死骸を荷車に載せて、ロンドン中を曳きまわし、揚句のはてに、ハイド公園(パーク)で死んだように見せかけるなんて、こいつばかりは、全然頂けないな。」(37ページ下段)
あれ? カーに似たような作品ありませんでしたっけ?(笑)

<蛇足3>
「あれでしたら、拝見させて頂きました。」(38ページ上段)
奥付によるとポケミスの初版は1958年。その頃から「拝見させて頂」くという二重に間違った敬語が広まっていたのですね。

<蛇足4>
「正直いって、お料理って、ずいぶん変なお仕事だわね。初めてやってみたけど、あたし、すっかり疲れてしまったわ。(略)」
「(略)お料理なんて、時間と労力が無駄で、自分でやることはないわ。」(107ページ下段)
なかなか大胆な会話だと思いました。
こういう意識も、イギリスの料理はまずいことの遠因かもしれませんね。

<蛇足5>
「ほんとうに、心からあなたさまを崇拝しておりますの。お扱いになった事件は、残らず承知しております。三〇年のダーワース事件、三一年のクリスマスの映画スター事件、マントリング卿の密室事件。全部覚えておりますわ。」(114ページ下段)
登場人物の一人がH・M卿にいうセリフですが、ここに列挙されている事件、いわゆる「描かれなかった事件」なんでしょうか?

<蛇足6>
「ではあなたは、ペニイクが御良人を、例の神秘的手段で殺害したと主張されるんですね?」(115ページ上段)
「良人」は「おっと」と読むと思っていたので、「御良人」だとなんと読むのだろう?と思ってしまいました。
そのまま「りょうじん」という読み方もあるのですね。しかし「ごりょうじん」と言って伝わるのでしょうか?

<蛇足7>
「マイナのこころは、ふたたび穀のなかにこもってしまったらしく」(116ページ下段)
穀は殻の間違いでしょうね。
「最上階にある庁内食道で、マスターズ警部とH・Mと三人でひるの食事をとりながら打合せわをするためだった。」(143ページ下段)
ここの食道も食堂ですね。

<蛇足8>
「こんな話がある。エジプトの古墳発掘団にまつわる怪事件で、団員が順々に、ファラオの呪で仆れていくってのですよ。事実は、一酸化炭素を巧妙に使ってるんです。」(130ページ上段)
ニヤリとしてしまいますね。

<蛇足9>
「どうして奥さんは、モルヒネを飲んだっていうのに、そうやって、起きていられるのです?」(136ページ上段)
ミステリをかなり読んでいるというのに、モルヒネの副作用として眠気があるという事実をしっかりと認識していませんでした。単なる鎮痛効果のみかと思っていました。

<蛇足10>
229ページ上段「ロンドン地区では」以下で語られる内容は、二度のロンドン暮らしでもその通りで、いまでもその規制は続いているんですよね。
イギリスにウォシュレットがない理由のうちの一つです。


原題:The Reader is Warned
著者:Carter Dickson
刊行:1939年
訳者:宇野利泰




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地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険 [日本の作家 さ行]


地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

  • 作者: そえだ 信
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/11/19
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
鈴木勢太、性別男、33歳。未婚だが小学5年生の子持ち。北海道札幌方面西方警察署刑事課勤務……のはずが、暴走車に撥ねられ、次に気づいたときには……「スマートスピーカー機能付きロボット掃除機」になっていた! しかもすぐ隣の部屋には何故か中年男性の死体が。どんなに信じられない状況でも、勢太には諦められない理由があった。亡き姉の忘れ形見として引き取った姪・朱麗のことだ。朱麗の義父だった賀治野は、姉と朱麗に暴力を働き接近禁止命令が出ていたが、勢太がそばを離れたとわかったら朱麗を取り戻しにやってくる。勢太の目覚めた札幌から朱麗のいる小樽まで約30キロ。掃除機の機能を駆使した勢太の大いなる旅が始まる。だが、行く手にたちはだかる壁、ドア、段差! 自転車、子ども、老人! そして見つけた死体と、賀治野と、姉の死の謎! 次々に襲い掛かる難問を解決して小樽に辿り着き、勢太は朱麗を守ることができるのか?


2022年5月に読んだ最後の本で、11作目(13冊目)です。
単行本で読みました。
第10回アガサ・クリスティ―賞受賞作。
既に文庫化されています。単行本時の副題をタイトルへと改題されています。


掃除機探偵の推理と冒険 (ハヤカワ文庫JA)

掃除機探偵の推理と冒険 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: そえだ 信
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/05/24
  • メディア: 文庫



掃除機探偵?
と思いますが、本当に掃除機。単行本のイラストではわかりにくいかもですが、文庫版の表紙イラストでは中央にドーンといるロボット掃除機です。
そこに主人公の意識が乗り込んでしまう。

いやあ、なんとも素っ頓狂なアイデアを思いついたものです。
なにしろ無生物。
自ら動き回るロボット掃除機というのがミソですが、それでもいろいろと困難が容易に予想されます。このあたりよく考えられていますね。

物語は最初なかなか話がすすまず、正直もたついている印象で、アイデアで驚かされたものの、いわゆるつかみだけなのかな、と思っていたら、ロードノベル風に展開する中盤以降は快調になりました。
この作品は、「掃除機探偵の推理と冒険」 (ハヤカワ文庫JA)ということですが、冒険に比重を置いて楽しむのがよいです。
人の善意に支えらえるという展開も、こういう小説の場合は心地よい。
ーーだって、どうしたって所詮はロボット掃除機。ネットに接続することで都合よくいろいろとわかるとはいっても限界があって、誰かに助けてもらわないければならないことは当初より自明ですから。

せっかくのクリスティー賞なのだから、推理の部分にもう一段も二段も工夫してほしいところではありますが、また驚かされるようなアイデアで楽しい物語を披露してほしいです。




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追撃の森 [海外の作家 ジェフリー・ディーヴァー]


追撃の森 (文春文庫)

追撃の森 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/06/08
  • メディア: ペーパーバック

<カバー裏あらすじ>
通報で森の別荘を訪れた女性保安官補ブリンを殺し屋の銃撃が襲った。逃げ場なし――現場で出会った女を連れ、ブリンは深い森を走る。時は深夜。無線なし。援軍も望めない。二人の女vs二人の殺し屋。暁の死線に向け、知力を駆使した戦いが始まる。襲撃、反撃、逆転、再逆転。天才作家が腕によりをかけて描く超緊迫サスペンス。


2022年5月に読んだ10作目の本です。
ジェフリー・ディーヴァーのノン・シリーズもの。
2009年国際スリラー作家協会賞長編賞受賞作のようです。あまり知らない賞ですが。

女対殺し屋という構図で描かれる、追うもの、追われるもの、というストーリーで、緊迫感あふれるサスペンス。
とても面白いです。
定石通りの展開もあり、また、追うものと追われるものが通じ合うというシーンもあり。
「おれの仲間がこんな話をしてくれた。やつのおふくろさんだか、ばあさんだか忘れたが、トリックスターっていうのがいるって。神話っていうか、おとぎ話に出てくる。そいつがありとあらゆる厄介事を惹き起こすんだそうだ。おれは一晩、あんたのことをそう呼んできたよ、ブリン。」(314ページ)
このセリフ、結構いいですよね。

とても面白く読んだので、それでよし、なのですが、あえて言っておくと、いつものディーヴァーお得意のどんでん返し連鎖がこの作品の場合逆効果なように思えました。
こういう対決型の冒険ものタイプの作品の場合、どんでん返しは連鎖させるよりも、ここぞという時に一発大きく仕掛けるほうがよいのかもしれません。
せっかく骨太の対決に引き込まれていたのに、どんでん返しで構図がずれていくとちょっとすかされたというか、躱されたというか、そんな気分になってしまって少々興ざめ感が出てくるように思いました。



原題:The Bodies Left Behind
作者:Jeffery Deaver
刊行:2008年
翻訳:土屋晃



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