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ブラウン神父の知恵 [海外の作家 た行]


ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫 ち 12-4)

ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫 ち 12-4)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「どこかおかしいんです。ここまで正反対にできているものは、喧嘩のしようがありません」──謎めいた二人の人物に隠された秘密をめぐる「イルシュ博士の決闘」。呪われた伝説を利用した巧妙な犯罪、「ペンドラゴン一族の滅亡」など、全12篇を収録。ブラウン神父が独特の人間洞察力と鋭い閃きで、逆説に満ちたこの世界の有り方を解き明かす新訳シリーズ第二弾。


久しぶりですが、読了本落穂ひろいです。アップし忘れていた模様。

2016年3月に読んだG・K・チェスタトンの「ブラウン神父の知恵」 (ちくま文庫)
「ブラウン神父の無心」 (ちくま文庫)(感想ページはこちら)から間を開けずに読んだようです。
もちろん、南條竹則さんによる新訳。

「グラス氏の不在」
「盗賊の楽園」
「イルシュ博士の決闘」
「通路の男」
「機械の誤り」
「カエサルの首」
「紫の鬘」
「ペンドラゴン一族の滅亡」
「銅鑼の神」
「クレイ大佐のサラダ」
「ジョン・ブルノワの奇妙な罪」
「ブラウン神父の御伽話」
の12編収録。

ブラウン神父シリーズは、逆説的推理と言われることがあるように、常識とか思い込みを大胆にひっくり返す、それをうだつの上がらない凡庸そうな神父の口から暴かれるのがポイントです。
「ペンドラゴン一族の滅亡」のように逆説ではなく奇想が爆発している作品や呪いなどの言い伝え・伝説を利用した犯罪を描く「クレイ大佐のサラダ」のような作品、あるいは「ブラウン神父の御伽話」のように銃のない状況下で射殺されたオットー公の謎を解く作品もありますが。

あまたの後続作品を読んできた現在の目から見ると、「見かけどおりではないんだな」「何をひっくり返すのかな」と考えて読めば、ある程度はブラウン神父に先回りして回答を予想することはできるのでしょうが、そういう先回りはせずに、素直にそのまま意外な結末を迎えたほうが、新鮮に楽しめる気がします。

「紫の鬘」で公爵がひた隠すものは、ミスディレクションのお手本かと思います。

もっとも、たとえば「盗賊の楽園」なんか、いまや定番中の定番のひっくり返しです──これだけなら昔の作品だな、と思って終わりですが、ブラウン神父の目のつけどころであったり、登場人物たちの配置であったり、あるいはタイトルのいわれなど注目するところはほかにもたくさんあり、謎が解ったからといってつまらなくなるような作品ではありません。
「機械の誤り」もわりとありふれたひっくり返しを見せますが、タイトルに象徴される、ブラウン神父が解明に至る道筋に置かれた ”逆説” (教訓?)こそが見どころなのでしょう。

ブラウン神父が示す逆説は、言う本人にはそんなつもりは全くない(ですよね?)ものでも、きわめて皮肉なものだったりします。そこが楽しかったり(←こちらの性格が悪いのがばれてしまう)。
「カエサルの首」における「守銭奴の悪いところは、たいてい、蒐集家の悪いところでもあるんじゃないかね?」などはいい例かと思います。

またひっくり返してみるとかなりの綱渡りであることがわかって、驚嘆したり、苦笑したり。
「イルシュ博士の決闘」の真相をみなさんはどう受け止められるでしょう?
あるいは「ジョン・ブルノワの奇妙な罪」のようにかなり無理筋な事態を背景にしていたり。

逆に極めて平凡な着地を見せるひっくり返しもあります──「通路の男」。この作品はよくあるコントをミステリ仕立てにしたかのよう。
「銅鑼の神」のアイデアもかなりありふれた発想ですが、この作品が嚆矢なのでしょうね。

また、常識をひっくり返す、となると、真相はバカバカしいと思えるようなものになることが往々にしてある、ということも気になる点でしょうか。
冒頭の「グラス氏の不在」なんかはこれに該当するかもしれません──ただ、そう見える、ということは、違うようにも見える、ということでもあります。バカバカしいと思えるような真相から溢れ出す余情もまた愉し、ということかと。そしてブラウン神父の目のつけどころが、この余剰に一役買っているというのも大きなポイントのように思えます。

だからこそ、100年以上前の作品であっても、さらには再読、再再読であっても、どこか新鮮な読み心地となるのでしょう。
「ブラウン神父の無心」に続き、まだまだ傑作が並んでいる短編集です。

ブラウン神父シリーズの、南條竹則さんと坂本あおいさんによる新訳は、この「ブラウン神父の知恵」で止まっているようです。
ぜひぜひ、続けていただきたいです。






原題:The Wisdom of Father Brown
著者:G. K. Chesterton
刊行:1914年(wikipediaによる)
訳者:南條竹則・坂本あおい






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シャーロック・ホームズの回想 [海外の作家 た行]


シャーロック・ホームズの回想 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

シャーロック・ホームズの回想 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 作者: アーサー・コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/04/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大レースの本命馬が失踪、その調教師の死体も発見されて英国中が大騒ぎとなる「名馬シルヴァー・ブレイズ」。そのほか、ホームズが探偵になろうと決心した若き日の事件「グロリア・スコット号」、兄マイクロフトが初めて登場する「ギリシャ語通訳」、宿敵モリアーティ教授と対決する「最後の事件」まで、雑誌掲載で大人気を得た12編を収録した第2短編集。


2023年10月に読んだ最初の本です。
ホームズ物を大人物で読み直している第4弾で、「シャーロック・ホームズの回想」 (光文社文庫)

「名馬シルヴァー・ブレイズ」
「ボール箱」
「黄色い顔」
「株式仲買店員」
「グロリア・スコット号」
「マスグレイヴ家の儀式書」
「ライゲイトの大地主」
「背中の曲がった男」
「入院患者」
「ギリシャ語通訳」
「海軍条約文書」
「最後の事件」
以上12編収録。

驚くほど覚えていなかった......(笑) まるで初読状態でした。
ミステリとしてみた場合、事件そのものは地味なものが多い(「シャーロック・ホームズの冒険」(光文社文庫)(感想ページはこちら)と比べてみれば言いたいことがおわかりいただけるかと)のですが、シリーズの重要な登場人物が出て来たり、あるいはとても印象的なセリフが出て来たり、と楽しみどころが多かった印象です。

巻頭の第1話「名馬シルヴァー・ブレイズ」の
「あの夜の、犬の奇妙な行動に注意すべきです」
「あの夜、犬は何もしませんでしたが」
「それが奇妙なことなんです」(43ページ)
とか、いいですよねぇ。

また3作目の「黄色い顔」で、少々シャーロック・ホームズの推理が外れたのを受けて
「ワトスン、ぼくが自信過剰ぎみに思えたり、事件のために努力を惜しむように見えたりしたら、そっと『ノーベリ』と耳打ちしてくれないか。恩にきるよ」(128ページ)
というところも、フォロワーの多い台詞でとても印象的です。
(ただこの「黄色い顔」事件自体は、ホームズの推理もここまで反省するほどの外れ具合ではなかったように思うのですが)

あるいは「海軍条約文書」の
「あなたの今回の事件でいちばんの難点は、証拠がありすぎるということでした」「そのため、最も肝心なことが、どうでもいいことの陰に隠れてしまったのです。ですから、提示されたあらゆる事実のなかから本質的と思われるものだけを選び出し、それらを正しくつなぎ合わせて、この驚くべき一連のできごとを再構成しなければなりませんでした。」(440ページ)
というのも、その後あまたの推理作家が倣ってきた、多すぎる証拠という論点を提示してくれています。

名探偵像という観点でも、
「ワトスン、ぼくはね、謙遜を美徳だなどとは思っていないんだよ。論理を扱う人間だったら、ものごとはなんでも正確にありのままに見なければならない。必要以上にへりくだることは、大げさに見せるのと同じで、事実からはずれてしまうことになる。」(「ギリシャ語通訳」346ページ)
などは注目のセリフですね。

作品として印象深いのはなんといっても「最後の事件」でしょうね。
非常に高名な作品なので書いてしまいますが、ホームズを殺してしまうとは!
今回大人物で読み直して驚いたのは、この作品、ただただホームズを死なせる為だけに書かれているのですね。
事件らしい事件も、推理らしい推理もない。
さらに言えば、宿敵となる ”犯罪界のナポレオン” モリアーティ教授の起こした事件も、具体的には描かれません──まあ、黒幕ということでモリアーティ教授が直接手を下しているわけではないので仕方のないところかもしれませんが、終始思わせぶりなホームズの言葉だけなんですね。
よほどドイル先生はホームズのことを殺したくて仕方なかったのですね。
その後ホームズが復活することを知っているうえでの後知恵になりますが、死なせる方法としてライヘンバッハの滝を選んだのは素晴らしかったですね.......

前作「シャーロック・ホームズの冒険」を読んでから間が空いてしまったので、この次はもっと早めに読みたいと思います。



<蛇足1>
「ボンド街のマダム・ラスュアーという婦人服店から」(30ページ)
スュって、どう発音するのでしょうか?
原文を見てみたくなりました。

<蛇足2>
「きょうは金曜日だから、小包を発送したのは木曜の午前中だ」(70ページ)
この小包、ベルファスト(北アイルランド)からクロイドン(ロンドンの南部)に届けられたものなのですが、翌日に届いているとはこの頃からなんと優れた郵便事情だったのですね。
一般的にはサービスの質は日本対比劣るイギリスですが、そういえば、郵便サービスに関しては充実していたことを思い出しました。

<蛇足3>
「アクトン老人という、この州の勢力家のひとりの家に、この前の月曜日、泥棒が入ったんです。」(241ページ)
”勢力家” という語は見慣れない語だったのですが、意味はすぐにわかりました。
面白い表現だと思いました。

<蛇足4>
「なくなったものといえば、ポープ訳の『ホメロス』の端本が一冊と」(241ページ)
「端本」という語を知らなかったのですが、字面からイメージがつかめました。
”揃いのうちの一部分が欠けた(残りの)本”のことなんですね。

<蛇足5>
「その五分後には、わたしたちはリージェント・サーカスのほうに歩きだしていた。」(347ページ)
リージェント・サーカス? 聞いたことのない地名でした。
調べてみると、現在のピカデリー・サーカスあたりにあったようにも思えますが(
Piccadilly from Regent Circus to Hyde Park Corner)、まったく違う記述もあり(Unbuilt London: The Regent’s Circus)よくわかりませんでした。
物語の中身からすると、ピカデリー・サーカスあたりを指しているような気もしますが、ちょっとベイカー街からは遠いようにも思えます。

<蛇足6>
「それどころか、運動場で彼を追い回してクリケットの棒でむこうずねを引っぱたいたりするのが、わたしたちの最高に愉快な遊びだった。」(380ページ)
クリケットの棒? バットのことではないでしょうし、ウィケットのことでしょうか?

<蛇足7>
「きみの友人のホームズ氏をぼくのところまでお連れしていただけないでしょうか?」(381ページ)
敬語というのは難しいですが、「お連れしていただけないでしょうか?」に違和感を感じました。
「お連れする」というのがホームズに対する敬意を含む一方、いただけないかという部分はワトスンに対する敬意を表すもので、一つの分の中で敬意の向かう先が入り混じっているからかな、と思います。
そのすぐ後ろに
「ぜひあの方を連れてきてください。」
とあって、こちらは違和感ありません。

<蛇足8>
「先が彎曲した大きなレトルトがブンゼン灯の青みがかった炎を下から浴びて、激しく沸騰している。」(382ページ)
レトルトというのは、蒸留釜とも呼ばれる化学実験用具らしいです。ついレトルト食品を連想してしまいました。

<蛇足9>
「ホームズは、いったんそう心に決めると、まるでアメリカ・インディアンのよう無表情になるので」(419ページ)
インディアンって、こういうイメージだったのですね。
日本人なども無表情(表情に乏しい)と言われますが、似たような感じなのでしょうか?



原題:The memoirs of Sherlock Holmes
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1893年(原書刊行年は解説から)
訳者:日暮雅通





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ブラウン神父の無心 [海外の作家 た行]


ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)

ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/12/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ホームズと並び称される名探偵「ブラウン神父」シリーズを鮮烈な新訳で。「木の葉を隠すなら森の中」など、警句と逆説に満ちた探偵譚。怪盗フランボーを追う刑事ヴァランタンは奇妙な二人組の神父に目をつける……「青い十字架」/機械人形でいっぱいの部屋から、血痕を残して男が消えた。部屋には誰も出入りしていないという。ブラウン神父の推理は……「透明人間」。


読了本落穂ひろいです。
2016年2月に読んだG・K・チェスタトンの「ブラウン神父の無心」 (ちくま文庫)

近年、チェスタトンの作品は南條竹則さんによる新訳が刊行されていて、そのうちの1冊です。
旧訳としては、創元推理文庫の中村保男訳である「ブラウン神父の童心」 (創元推理文庫)(ただし新版ではなく旧版ですが)で読んでいます。
訳者あとがきで原題の "Innocence" が訳者泣かせだと言及されていますが、採用された訳は「無心」。
「童心」もなかなか考えた訳だとは思いますが、ここでの "Innocence" の訳語として違和感を感じておりました。

「青い十字架」
「秘密の庭」
「奇妙な足音」
「飛ぶ星」
「透明人間」
「イズレイル・ガウの信義」
「間違った形」
「サラディン公の罪」
「神の鉄槌」
「アポロンの目」
「折れた剣の招牌」
「三つの凶器」

ブラウン神父は風采は上がらないのに驚くような洞察と推理、という設定ですが、それにしても、外見描写は容赦がないですね。
初登場の場面がこちら。
「小柄な神父はあたかも東部地方の平地の精気が凝って出たかのようで、顔はノーフォークの茹で団子のように間が抜けており、目は北海のごとく虚ろだった。」(「青い十字架」11ページ)
目がうつろって......
余談ですが、ブラウン神父って煙草を吸うんですね。そういう印象がありませんでした。
「中から聖マンゴー小教会のブラウン神父が、大きなパイプをふかしながら出てくるのをご覧になっただろう。フランボーという、いやに背の高いフランス人の友達が一緒で、こちらはうんと小さな紙巻煙草を吸っている。」(「間違った形」191ページ)
また、所属教会も作品によって違うのかな?
「背の低い男を正式に御紹介すると、こちらはキャンバーウェルの聖フランシスコ・サビエル教会所属のJ・ブラウン師で」(「アポロンの目」282ページ)
教会名が、上の「間違った形」から変わっていますね。

その凡庸そうなブラウン神父から繰り出される鋭い洞察と推理、逆説的なロジックが醍醐味なのですが、ミステリとしてみた場合、これはすごい! と感嘆することもあれば、こちらの実感に合わずにそうかなぁ、と思うこともあり、その振れ幅も実は読んでいて楽しかったりもします。

たとえば、ブラウン神父デビューの「青い十字架」は、二人組の神父が繰り返す奇行が解き明かされるのですが、面白いことを考えるなぁ、とニヤリ。
「秘密の庭」も「透明人間」も「神の鉄槌」も「三つの凶器」も「折れた剣の招牌」も....と挙げだすときりがない、というよりこれ全編そうなのですが、ミステリ的に斬新(だった)アイデアで、鋭さにびっくり。これらの作品、ネタがわかってから読んでも(今回は新訳ではありますが、物語自体は何度目かわからないくらい読んでいます)やはりニヤニヤできます。
ブラウン神父のこと、大見得を切ることなくしずかに絵解きをするのですが、そこに至ると「待ってました!」と声をかけたくなるような興奮を覚えます。

一方で各種アンソロジーにも収録され世評高い(と思われる)「奇妙な足音」は何回読んでもすっきりしないんですよね。ブラウン神父の目の付け所には感心できるのですが、そこから真相に至るには飛躍が多すぎる気がします。
それでもそんな作品でも、
さよう。紳士になるのはまことに大変でしょう。しかし、わたしは時々考えるんです。給仕になるのも、同じくらい骨が折れるんじゃないかとね」(106ページ)
などというブラウン神父のセリフにはニヤリとできるんですよね。

ブラウン神父シリーズの、南條竹則さんと坂本あおいさんによる新訳は、次の「ブラウン神父の知恵」 (ちくま文庫)で止まっているようです。
ぜひ続けていただきたいです。



<蛇足1>
「彼の道楽の一つは、アメリカにシェイクスピアが現れるのを待つことだった──釣りよりも気長な趣味といえる」(45ページ)
イギリス人らしい言い方かとは思いますが、比較対象が「釣り」だと皮肉のレベルは低い??

<蛇足2>
「劇の始まりは、贈り物の日(ボクシング・デー)の午後からということになろう。」(109ページ)
贈り物の日には、「クリスマスの翌日に使用人などに祝儀を配る習慣がある」と注意がついています。
BOXING DAY はイギリスにいたとき祝日でした。(24日クリスマス・イヴは休みではありません)
BOXINGときいて、スポーツのボクシングを思い浮かべてしまって???でした。
BOXに動詞としての使い方があることをこれで知りました。日常生活で使うことはなかった気がしますが(笑)。

<蛇足3>
「彼はそう言うと、縁の奇妙な丸い帽子を脱いで、鋼の裏張りがしてあるのを見せた。ウィルフレッドはそれが日本か支那の軽い兜で、屋敷の古い広間にかかっている戦利品から剥ぎ取ってきたものであることに気づいた。」(「神の鉄槌」256ページ)
日本と中国では兜の形はずいぶん違うように思うのですが、そこはやはりFar East(極東)でいっしょくたなのでしょうね。
ところで、支那って漢字変換が出ないようになっているのですね......

<蛇足4>
「あのエレベーターがじつに滑らかに音も立てないで動くことも、知っての通りだ。」(「アポロンの目」305ページ)
当時にこんな音を立てないエレベーターがあったのでしょうか? 今の技術でも音は消せていませんよね。
ひょっとして(ハンドルをくるくる回して操作するような)手動式で、ゆっくりやれば音がしなかった、とかいう感じなのでしょうか?

<蛇足5>
「事務所を通り抜けてバルコニーへ出、雑踏する通りの前で安全に祈祷をしていたんだ。」(「アポロンの目」306ページ)
「雑踏」も動詞としての使い方があるのですね。

<蛇足6>
「ステイシー姉妹のような人達は決まって万年筆を使うが」(「アポロンの目」306ページ)
決まって万年筆を使う人たちって、どういう人なのでしょう??


原題:The Innocence fo Father Brown
著者:G. K. Chesterton
刊行:1911年(wikipediaによる)
訳者:南條竹則・坂本あおい




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夜のエレベーター [海外の作家 た行]


夜のエレベーター (海外文庫)

夜のエレベーター (海外文庫)

  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2022/07/31
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
「ぼく」は6年ぶりにパリへ帰ってきた。ともに暮らしていたママが死んでしまい、からっぽのアパートは孤独を深めるだけだった。だが今日はクリスマス・イヴ。にぎわう街の憧れの店へ食事に入ると、小さな娘を連れた美しい女性に出会う。かつて愛した運命の人に似た、若い母親に……彼女が思いもかけないドラマへと「ぼく」を導いていく! 「戦後フランス・ミステリー界最高の人気作家」と称されるフレデリック・ダールが贈る、まさに予測不能、謎と驚きに満ちた名品。


2022年11月に読んだ最初の本です。
さらっと読める小粋で小洒落たフレンチ・ミステリです。

クリスマスイヴと言う設定で、登場人物がしきりにレヴェイヨンを気にしています。
クリスマス・イヴの深夜にとる祝いの食事のことらしいですが、知りませんでした。フランスでは一般的なのでしょうね。

主人公が出会うドラヴェ夫人も、ほかならぬ主人公自身も何やら謎めいた部分があり、そこも気になってクイクイ読み進みます。
ドラヴェ夫人の家に二人が戻った時に見つけたあるもの(言ってしまっても差し支えないと思いますが、念のため伏せておきます)を軸に物語は急展開。
ミステリを読み慣れている方なら物語の行きつく先の見当がこのあたりで十分ついてしまうと思います。
そこへ新たな人物が登場することで、その読みが裏付けられます。
それでも主人公を覆う不安に感化されて、先がとても気になります。

ラストの方で現れるある小道具の使い方が、常套的といえば常套的なのですが、とても鮮やかな印象を受けました。

本訳書は訳者の長島氏が生前出版の予定もないまま自主的に訳したものが発掘されたものだそうです。
生前に出版が決まっていれば、きっと推敲を重ねられたでしょうが、お亡くなりになっているためそれが果たせなかったのでしょうね。
訳文が非常にぎこちないものになってしまっていて、翻訳ものにかなり慣れた読者でないと読み進めるのがつらいかもしれません。

作者のフレデリック・ダールの作品はずっと読みたいと思っていて、何冊か訳されたことがあるのですがすべて絶版。
こうやって読めて本当によかったです。
しかも、おもしろかったですし。
復刊もしてほしいし、もっともっと訳してほしいですね。


原題:Le Monte-Charge
作者:Frederic Dard
刊行:1961年
訳者:長島良三





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ぼくを忘れたスパイ [海外の作家 た行]


ぼくを忘れたスパイ〈上〉 (新潮文庫)ぼくを忘れたスパイ〈下〉 (新潮文庫)ぼくを忘れたスパイ〈下〉 (新潮文庫)
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/09/29
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
父がスパイだった? それも辣腕? 競馬狂いで借金まみれのチャーリーは、金目当てで認知症の父を引き取ってから次々と奇怪な出来事に見舞われる。尾行、誘拐未遂、自宅爆破に謎の殺し屋の出現。あげく殺人犯に仕立てられ逃げ回る羽目に……。父は普通の営業マンではなかった? 疑念は募る。普段のアルツハイマーの気配も見せず、鮮やかに危機を切り抜ける父の姿を見るたびに――。<上巻>
何が真実で、何が真実でないのか? チャーリーは混乱するばかりだった。父はCIAに所属していて、なんらかの秘密作戦に従事していた。二人を追うのはCIAなのか? 何を聞いても返事が意味不明な父の病。時折訪れる明晰な瞬間にはスーパーヒーローに化けるが、普段は過去も現在もわからない彼が重大な国家機密を握っていたとしたら。独創的な主人公像が絶賛を浴びた痛快スリラー。<下巻>


9月に読んだ13作目の本です。
キース・トムスンの「ぼくを忘れたスパイ」〈上〉 〈下〉 (新潮文庫)

颯爽と敵の目をかいくぐり、危機を切り抜け、情報を手に入れるスパイ。
そんな勝手なイメージを持っているスパイですが、痴呆症になったら大変でしょうねぇ。国家機密すら知っていたりするのですから。
主人公チャーリーは、そんな父を持つダメ男。
理不尽にも狙われて父親と一緒に逃げ惑う羽目に。

と言ってしまえばこれだけの話ですが、おもしろいですねぇ。
いつもはボケていける父親が、ふっと正気を取り戻しスーパーヒーローの活躍を見せる、という痛快さ。
相次ぐ危機を乗り越えていきます。
痴呆症の父親を守る息子、という構図が、痴呆症の父親に守られる息子、に転じるおかしさもあります。

痴呆症となると、いつ正気を取り戻すかという点どうしてもご都合主義というか、都合のいいときに正気を取り戻すようになってしまいがちで、この作品もその弊からは逃れられていないのですが、ありふれていても「息子が危ない」ときに正気を取り戻す、というのはなかなか手堅いですね。

一方で
「馬体の血液量は一般的に体重の十八分の一だということはわかるぞ」(67ページ)
なんて、スパイにどう役に立つのかわからない知識が披露されたりもします。

というわけで、読み終わって、あー面白かった、といっておしまいにすればよいのですが、振り返ってみると、消化不良というか、この題材ならもっと面白くなったんじゃないかな、と思えてなりませんでした。
息子チャーリーに視点を置いていることからくるユーモアも、一転ハバナで繰り広げられるスパイ戦も、逃避行の間繰り広げられる戦闘シーンも、どれもこう今一歩感が漂うんですよね。

まさにないものねだりなのですが、ちょっと残念です。



原題:Once A Spy
作者:Keith Thomson
刊行:2010年
訳者:熊谷千寿


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知りすぎた男 [海外の作家 た行]


知りすぎた男 (創元推理文庫)

知りすぎた男 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
新進気鋭の記者ハロルド・マーチが財務大臣との面会に行く途中で出会った人物、ホーン・フィッシャー。上流階級出身で、大物政治家ともつながりを持ち、才気に溢れながら「知りすぎているがゆえに何も知らない」という奇妙な苦悩を抱えるフィッシャーは、高度な政治的見地を要する様々な事件を解決に導いてゆくが……。巨匠が贈る異色の連作が、新訳にて創元推理文庫に初収録。


2021年10月に読んだ5冊目の本です。
論創海外ミステリから「知りすぎた男―ホーン・フィッシャーの事件簿」 (論創海外ミステリ)として出版されていたものが、南條竹則さんの新訳で創元推理文庫へ!

「標的の顔」
「消えたプリンス」
「少年の心」
「底なしの井戸」
「塀の穴」
「釣師のこだわり」
「一家の馬鹿息子」
「彫像の復讐」
の8編収録の連作短編集です。

「知りすぎて何も知らない」とはいかにもチェスタトンが好きそうなフレーズで、読む前からワクワクします。
巻頭の「標的の顔」からして逆説のオンパレードです。
楽しめますよ。

この「知りすぎた男」 (創元推理文庫)で特徴的なのは、政治的である、ということです。
ただし、血気盛んな理想に燃えた政治ではなく、衰え行く大英帝国を悲しみに満ちた視線で捉えています。
探偵役であるホーン・フィッシャーは、事件を解決し犯人を捕まえればめでたし、めでたし、というようには事件を処理しません。
大英帝国を守るため、いや、大英帝国そのものよりむしろ大英帝国の誇りを守るため
逆説たっぷりの皮肉に満ちた物語は、衰退する大英帝国にこそ似つかわしいのかもしれませんね。

だからこそ、ホーン・フィッシャー最後の事件となる最終話「彫像の復讐」が一層印象的なのだと思います。

ところで、解説の「底なしの井戸」のところで大山誠一郎が「後年、別の英国人作家が某有名作で同じアイデアを使っていますが」と触れている、別の英国人作家、某有名作ってなんでしょうね? 気になりました。



<蛇足1>
「何なら、月並(コモンプレイス)ではあっても普通(コモン)ではないと言いましょうか。」(39ページ)
commonplace と common ですか。

<蛇足2>
「もしも民衆が、こんぐらがった上流社会をダイナマイトで丸ごと地獄まで吹っ飛ばしたとしても、人類がさして悪くなるとはおもいませんね。」(43ページ)
「この話は、耳新しいと同時に伝説的な名前にまつわる、こんぐらがったいくつもの話の中から始まる。」(47ページ)
こんぐらがる? 
「こんがらがる」だと思っていたら、「こんがらがる」「こんがらかる」「こんぐらかる」「こんぐらがる」、いずれも言うんですね。

<蛇足3>
「このバーガンディーをどう思うかね? このレストランもそうだが、僕のちょっとした発見なんだ。」(78ページ)
葡萄酒について述べたところですが、もう日本ではブルゴーニュではなく、バーガンディーと呼ぶのが普通になったのでしょうか?

<蛇足4>
「ウェストミンスター寺院を見せられた時は茫然としたが、あの教会は十八世紀の大きくて、あまり出来の良くない彫像の物置になっているから、無理もあるまい。」(83ページ)
チェスタトンにかかっては、ウェストミンスター寺院もかたなしですね(笑)。
出来の良くない彫像の物置......

<蛇足4>
「警備責任者のモリス大佐は小柄で活発な男で、いかめしい、がさがさした顔をしているが、」(86ページ)
がさがさした顔、というのはどういう顔でしょうね? 著しく乾燥しているってことでしょうか?

<蛇足5>
「私はマグスです」と見知らぬ男は応えた。「たぶん、マギという名は聞いたことがおありでしょう。私は魔術師(マジシャン)なのです」(87ページ)
ここには注がついていまして、マギというラテン語は知っていましたが、その単数形がマグスなんですね。


原題:The man who knew too much
著者:G. K. Chesterton
刊行:1922年
訳者:南條竹則






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奇商クラブ [海外の作家 た行]


奇商クラブ【新訳版】 (創元推理文庫)

奇商クラブ【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: G.K.チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
巨大な蜂の巣のようなロンドンの街路の中で「奇商クラブ」は扉を開かれる時を待っている――この風変わりな秘密結社は、前例のない独創的な商いによって活計を立てていることが入会の条件となる。突然の狂気によって公職を退いた元法曹家のバジル・グラントが遭遇する、「奇商クラブ」に関する不可思議な謎。巨匠が「ブラウン神父」シリーズに先駆けて物した奇譚六篇を新訳で贈る。


チェスタトンの感想を書くのは、「木曜日だった男 一つの悪夢」 (光文社古典新訳文庫)(感想ページはこちら)以来ですね。
本書も南條竹則さんによる新訳です。

旧訳で昔読んでいますが、楽しめなかった記憶。
今回はちゃんと楽しめました。新訳さまさまです。

「ブラウン少佐の途轍もない冒険」
「赫々たる名声の傷ましき失墜」
「牧師さんがやって来た恐るべき理由」
「家宅周旋人の突飛な投資」
「チャド教授の目を惹く行動」
「老婦人の風変わりな幽棲」
の6編収録の短編集。
”奇商クラブ” という「何か新しくて変わった金儲けの方法を発明した人間だけからなる結社」にふさわしい、新奇な職業を集めています。

”奇商クラブ” の参加資格?は
自分が生計を立てる方法を見つけていなければならない
です。
そして
第一に、それは既存の商売の単なる応用とか変種とかであってはいけない
第二に、その商売は純然たる商業的収入源、それを発明した人間の生計の資でなければならない。

この視点で見ると、たとえば「家宅周旋人の突飛な投資」など ”奇商クラブ” たる資格を満たしていないんじゃないかと思われますし、「チャド教授の目を惹く行動」は職業ではないですし、さすがのチェスタトンもこの趣向を満たすアイデアをそんなにたくさんは思いつけなかったのでしょうね。

それでも「ブラウン少佐の途轍もない冒険」あたりはニーズはそんなになさそうな気もするけれど、楽しい職業のように思いましたし、「赫々たる名声の傷ましき失墜」や「牧師さんがやって来た恐るべき理由」あたりは実際に職業として成立しそうな気がします(笑)。
そして最後の「老婦人の風変わりな幽棲」では、いかにもチェスタトンらしいというか、いや逆にストレートすぎるというべきか、奇商クラブの内幕を垣間見せてくれます。

チェスタトンも近年南條竹則さんにより新訳がわりと出ていて重畳ですね。
読み進んでいきたいです。
(そういえば、ちくま文庫のブラウン神父の新訳も読んだのに感想を書いていませんね......ただ続巻が途絶えているので気になっています。残りも新訳してほしいです。)


<蛇足1>
「彼が黒体文字の二折り判本の山のうしろにしまっている贅沢なバーガンディーをいっぱいやっていた。」(17ページ)
バーガンディーとあるのは新訳ならではだと思いますが、未だブルゴーニュの方が一般的ではないでしょうか?

<蛇足2>
「我々四人はたちまち拱道(きょうどう)の下で身をすくめ、硬くなったが」(37ページ)
拱道の意味がわからず調べました。
アーチ道と出ます。??
アーチ型の門、アーチのある通路という説明もありました。なるほど。

<蛇足3>
「とくに力強い、奇警なものだと思いますよ。」(47ページ)
今度は ”奇警” がわかりません。文脈から見当はつくのですが、「思いもよらない奇抜なこと。」ということのようですね。

<蛇足4>
「こうした習慣への干渉に痛烈な抗義を加えていた。」(164ページ)
抗義とありますが、これは抗議の誤植でしょうか?





原題:The Club of Queer Trades
著者:G. K. Chesterton
刊行:1905年
訳者:南條竹則






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シャーロック・ホームズの冒険 [海外の作家 た行]


シャーロック・ホームズの冒険―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

シャーロック・ホームズの冒険―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/01/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ホームズ物語は、月刊誌『ストランド』に短編が掲載されはじめてから爆発的な人気を得た。ホームズが唯一意識した女性アイリーン・アドラーの登場する「ボヘミアの醜聞」をはじめ、赤毛の男に便宜を図る不思議な団体「赤毛組合」の話、アヘン窟から話が始まる「唇のねじれた男」、ダイイングメッセージもの「まだらの紐」など、最初の短編12編を収録。第1短編集。


本の感想は、7月4日に書いた「半席」 (新潮文庫)(感想ページはこちら)以来ですが、実は?「半席」 までがロンドンで読んだ本でして、この「シャーロック・ホームズの冒険」 (光文社文庫)は日本へ帰る機中で読み始めて、日本で読み終わりました。
また4月に読んだ最後の本でもあります。
4月に読めたのは、たった3冊......

ホームズ物を大人物で読み直している第3弾、なのですが、ロンドンにいる間には結局
「緋色の研究」 (光文社文庫)
「四つの署名」 (光文社文庫)
の2冊しか読めませんでした。3年近くいて、たった2冊......

今回の「シャーロック・ホームズの冒険」(光文社文庫)は、まさに不朽の名作といった貫録を感じます。

「ボヘミアの醜聞(スキャンダル)」
「赤毛組合」
「花婿の正体」
「ボスコム谷の謎」
「オレンジの種五つ」
「唇のねじれた男」
「青いガーネット」
「まだらの紐」
「技師の親指」
「独身の貴族」
「緑柱石の宝冠」
「ぶな屋敷」

12編収録ですが、傑作揃いです。
アイリーン・アドラーが登場する冒頭の「ボヘミアの醜聞(スキャンダル)」からして印象深いですし、その次に、「赤毛組合」が控えている。
「赤毛組合」って知らない人、いないんじゃないでしょうか?
冒頭から、全速力でかっ飛ばしています。
「緋色の研究」 (光文社文庫)「四つの署名」 (光文社文庫)で顕著だった、ロマン色というのか、強い物語性が、短編ということで抑えられて、ミステリとしての骨格がすっきり浮かび上がってくるのがよかったのだと思います。
その後のどんどん複雑化していっている現代ミステリと比べると構図が単純ではありますが、どの作品も、すっきりしたツイストが盛り込まれていて、そりゃあ、当時のロンドンっ子も夢中になったことでしょう。

ホームズの前にホームズなし、ホームズの後にホームズなし、です。

ホームズの職業は諮問探偵ということでしたが、割と一般人(?) からの依頼も引き受けていますね。
「報酬のことなら心配無用です。ぼくにとっては仕事そのものが報酬でしてね。ご都合のいいときに実費だけお支払いいただくだけでかまいません。」(「まだらの紐」313ページ)
なんて言ったりしています。
本当に、ホームズの収入源が心配です(笑)。

またホームズは「ぶな屋敷」で、彼の活躍譚を発表していワトソンに非難を浴びせているのですが、
「ふん! いいかい、一般大衆に--歯を見て織物工だと見抜けず、左手の親指を見て植字工だと見破れないような鈍感な一般大衆にだよ、分析や推理の美しさが理解できるものか!」(487ページ)
は、言い過ぎではないでしょうか?(笑)
ホームズ物語を褒めそやしたのは、ほかならぬその一般大衆ですよ、ホームズさん!

原書刊行順に読もうと思っているので、次は「シャーロック・ホームズの回想」 (光文社文庫)です。
楽しみ。


<蛇足1>
「ボスコム池というのは、ボスコム谷を流れている川が広がってできた、小さな沼だ」(141ページ)
えっと、池なのでしょうか? 沼なのでしょうか?
「クロイドン発12時30分」 (創元推理文庫)感想の蛇足にも書きましたが、池と沼の違いについて、池は人工、と聞いたことがあるので、自然にできた沼を、呼び名としてはボスコム池と呼んでいる、ということでしょうか?

<蛇足2>
「都会では世間の目というものがって、法律の手の届かないところを補ってくれる。」
「ところが、あのぽつんぽつんと孤立した農家はどうだい。それぞれがみな、自分の畑に取り囲まれているし、住んでいる者にしても、法律のことなんてろくに知らないような人たちだ。ぞっとするような悪事が密かに積み重ねられていたって不思議ではないくらいだ。しかも、そのまま発覚せずにすんでしまうのさ。」(504ページ)
都会と田舎を対比してホームズが語るシーンですが、最近は?都会も無関心がはびこって、恐ろしいところになってきていますね。時代の違いでしょうか?



原題:The Adventure of Sherlock Holmes
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1892年(原書刊行年は解説から)
訳者:日暮雅通














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紙片は告発する [海外の作家 た行]


紙片は告発する (創元推理文庫)

紙片は告発する (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/26
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った奇妙な紙片のことを警察に話すつもりだと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……!現在の町は、町長選出をめぐって揺れており、少なからぬ数の人間が秘密をかかえている。発覚を恐れ、口を封じたのは誰か? 地方都市で起きた殺人事件とその謎解き、著者真骨頂の犯人当て!


この作品の主な視点人物は、町の副書記官のジェニファー。書記官と不倫関係にあります。
このジェニファーのキャラクターがポイントですね。

父はジェニファーを膝に乗せ、命のはかなさと、別れと痛みを避けることはできないという世の理(ことわり)を話して聞かせた。「頭をあげて」父は言った。「涙はこらえて、おまえは強い子だろう。自分に言い聞かせるんだ。“泣くのは明日にしよう”って……」(295ページ)

これぞまさに、ブリティッシュ、というか、ディック・フランシスの作品を通して培われたイギリス人の気質そのものではありませんか。
本格ミステリなので、ディック・フランシスの作品の主人公のように、肉体的な逆境に陥ったりしませんが、かなりつらい立場に追い込まれます。
そのおかげで、ラストがとても印象的になりました。

とこれだけでも想像がつくかもしれませんが、人物描写がキーとなる作品です。
大がかりなトリック、派手なトリックはないけれど、しっかりとした謎解きを堪能できます。
容疑者となりえるような登場人物が少ないことから、犯人の見当がつきやすくなってしまっている可能性はありますが、十分楽しめる本格ミステリの佳品だと思います。
やっぱり、ディヴァインはおもしろい!



原題:Illegal Tender
著者:D・M・Devine (Dominic Devine)
刊行:1962年
訳者:中村有希









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四つの署名 [海外の作家 た行]

四つの署名 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

四つの署名 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/01/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
月刊誌連載の前に書かれた長編第二作。事件のない退屈をコカイン注射で紛らすホームズという、ショッキングな幕開けから、ホームズの語る“推理の科学”そしてメアリ・モースタン嬢の持ち込む不思議な事件へと、物語は興味深い展開をみせる。ベイカー街不正規隊の活躍、依頼人に惚れてしまうワトスン、アグラの財宝にまつわる話など、面白み満載。


ホームズ物を大人物で読み直している第2弾。
今回は、「四つの署名」 (光文社文庫)です。


「いままで何度も言ってきたじゃないか。ありえないものをひとつひとつ消していけば、残ったものが、どんなにありそうなことでなくても、真実であるはずだって。」(75ページ)
という有名なセリフが出てきて満足(笑)。
この有名なセリフ、ここが初出なのでしょうか? 
「緋色の研究」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)には出てこなかったような。

あと、ベーカー街不正規隊(イレギュラーズ)もこの作品でイレギュラーズと呼ばれるようになっていますね。

「緋色の研究」感想にも書きましたが、ホームズの推理は結構強引ですね。
ワトソンが
「ホームズの推理に、どこか重大な欠陥があったのではないだろうか。何かとんでもない思い違いをしているということはないだろうか。どんなに頭の回転が速くて理性的な人間でも、まちがった前提に立って的はずれな推理をでっちあげてしまうことがあるのではなかろうか。これまで、ホームズがまちがっていたためしはないのだが、どんなに頭の切れる理論家でもときには思いちがいをすることだってあるのではないか。わざわざ好んで、手近の単純な説明よりも複雑で奇妙な説明のほうを選んで、必要以上に論理の筋を通そうとするあまり、あえって誤ってしまうこともあるのではなかろうか。」(133ぺページ)
と、かなり長く心配するシーンがあるのですが、ホームズの実績を知らなければ同じように感じるところですね。
推理の強引さとストーリー展開のこのあたりの微妙なバランスが、このシリーズの素晴らしいところなのでは、とも思いました。

また、「緋色の研究」に続いて、この「四つの署名」 (光文社文庫)もミステリ、謎解きとしてというよりも、物語性が強いことに驚きました。

ワトソンも奥さんを首尾よく手に入れますし、シリーズとしていろいろと意義深い作品だったのだのだなぁ、と思いました。

原書刊行順に読もうと思っているので、次は「シャーロック・ホームズの冒険」 (光文社文庫)です。
楽しみ。




原題:The sign of Four
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1890年(原書刊行年は解説から)
訳者:日暮雅通







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