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シャーロック・ホームズの回想 [海外の作家 た行]


シャーロック・ホームズの回想 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

シャーロック・ホームズの回想 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 作者: アーサー・コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/04/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大レースの本命馬が失踪、その調教師の死体も発見されて英国中が大騒ぎとなる「名馬シルヴァー・ブレイズ」。そのほか、ホームズが探偵になろうと決心した若き日の事件「グロリア・スコット号」、兄マイクロフトが初めて登場する「ギリシャ語通訳」、宿敵モリアーティ教授と対決する「最後の事件」まで、雑誌掲載で大人気を得た12編を収録した第2短編集。


2023年10月に読んだ最初の本です。
ホームズ物を大人物で読み直している第4弾で、「シャーロック・ホームズの回想」 (光文社文庫)

「名馬シルヴァー・ブレイズ」
「ボール箱」
「黄色い顔」
「株式仲買店員」
「グロリア・スコット号」
「マスグレイヴ家の儀式書」
「ライゲイトの大地主」
「背中の曲がった男」
「入院患者」
「ギリシャ語通訳」
「海軍条約文書」
「最後の事件」
以上12編収録。

驚くほど覚えていなかった......(笑) まるで初読状態でした。
ミステリとしてみた場合、事件そのものは地味なものが多い(「シャーロック・ホームズの冒険」(光文社文庫)(感想ページはこちら)と比べてみれば言いたいことがおわかりいただけるかと)のですが、シリーズの重要な登場人物が出て来たり、あるいはとても印象的なセリフが出て来たり、と楽しみどころが多かった印象です。

巻頭の第1話「名馬シルヴァー・ブレイズ」の
「あの夜の、犬の奇妙な行動に注意すべきです」
「あの夜、犬は何もしませんでしたが」
「それが奇妙なことなんです」(43ページ)
とか、いいですよねぇ。

また3作目の「黄色い顔」で、少々シャーロック・ホームズの推理が外れたのを受けて
「ワトスン、ぼくが自信過剰ぎみに思えたり、事件のために努力を惜しむように見えたりしたら、そっと『ノーベリ』と耳打ちしてくれないか。恩にきるよ」(128ページ)
というところも、フォロワーの多い台詞でとても印象的です。
(ただこの「黄色い顔」事件自体は、ホームズの推理もここまで反省するほどの外れ具合ではなかったように思うのですが)

あるいは「海軍条約文書」の
「あなたの今回の事件でいちばんの難点は、証拠がありすぎるということでした」「そのため、最も肝心なことが、どうでもいいことの陰に隠れてしまったのです。ですから、提示されたあらゆる事実のなかから本質的と思われるものだけを選び出し、それらを正しくつなぎ合わせて、この驚くべき一連のできごとを再構成しなければなりませんでした。」(440ページ)
というのも、その後あまたの推理作家が倣ってきた、多すぎる証拠という論点を提示してくれています。

名探偵像という観点でも、
「ワトスン、ぼくはね、謙遜を美徳だなどとは思っていないんだよ。論理を扱う人間だったら、ものごとはなんでも正確にありのままに見なければならない。必要以上にへりくだることは、大げさに見せるのと同じで、事実からはずれてしまうことになる。」(「ギリシャ語通訳」346ページ)
などは注目のセリフですね。

作品として印象深いのはなんといっても「最後の事件」でしょうね。
非常に高名な作品なので書いてしまいますが、ホームズを殺してしまうとは!
今回大人物で読み直して驚いたのは、この作品、ただただホームズを死なせる為だけに書かれているのですね。
事件らしい事件も、推理らしい推理もない。
さらに言えば、宿敵となる ”犯罪界のナポレオン” モリアーティ教授の起こした事件も、具体的には描かれません──まあ、黒幕ということでモリアーティ教授が直接手を下しているわけではないので仕方のないところかもしれませんが、終始思わせぶりなホームズの言葉だけなんですね。
よほどドイル先生はホームズのことを殺したくて仕方なかったのですね。
その後ホームズが復活することを知っているうえでの後知恵になりますが、死なせる方法としてライヘンバッハの滝を選んだのは素晴らしかったですね.......

前作「シャーロック・ホームズの冒険」を読んでから間が空いてしまったので、この次はもっと早めに読みたいと思います。



<蛇足1>
「ボンド街のマダム・ラスュアーという婦人服店から」(30ページ)
スュって、どう発音するのでしょうか?
原文を見てみたくなりました。

<蛇足2>
「きょうは金曜日だから、小包を発送したのは木曜の午前中だ」(70ページ)
この小包、ベルファスト(北アイルランド)からクロイドン(ロンドンの南部)に届けられたものなのですが、翌日に届いているとはこの頃からなんと優れた郵便事情だったのですね。
一般的にはサービスの質は日本対比劣るイギリスですが、そういえば、郵便サービスに関しては充実していたことを思い出しました。

<蛇足3>
「アクトン老人という、この州の勢力家のひとりの家に、この前の月曜日、泥棒が入ったんです。」(241ページ)
”勢力家” という語は見慣れない語だったのですが、意味はすぐにわかりました。
面白い表現だと思いました。

<蛇足4>
「なくなったものといえば、ポープ訳の『ホメロス』の端本が一冊と」(241ページ)
「端本」という語を知らなかったのですが、字面からイメージがつかめました。
”揃いのうちの一部分が欠けた(残りの)本”のことなんですね。

<蛇足5>
「その五分後には、わたしたちはリージェント・サーカスのほうに歩きだしていた。」(347ページ)
リージェント・サーカス? 聞いたことのない地名でした。
調べてみると、現在のピカデリー・サーカスあたりにあったようにも思えますが(
Piccadilly from Regent Circus to Hyde Park Corner)、まったく違う記述もあり(Unbuilt London: The Regent’s Circus)よくわかりませんでした。
物語の中身からすると、ピカデリー・サーカスあたりを指しているような気もしますが、ちょっとベイカー街からは遠いようにも思えます。

<蛇足6>
「それどころか、運動場で彼を追い回してクリケットの棒でむこうずねを引っぱたいたりするのが、わたしたちの最高に愉快な遊びだった。」(380ページ)
クリケットの棒? バットのことではないでしょうし、ウィケットのことでしょうか?

<蛇足7>
「きみの友人のホームズ氏をぼくのところまでお連れしていただけないでしょうか?」(381ページ)
敬語というのは難しいですが、「お連れしていただけないでしょうか?」に違和感を感じました。
「お連れする」というのがホームズに対する敬意を含む一方、いただけないかという部分はワトスンに対する敬意を表すもので、一つの分の中で敬意の向かう先が入り混じっているからかな、と思います。
そのすぐ後ろに
「ぜひあの方を連れてきてください。」
とあって、こちらは違和感ありません。

<蛇足8>
「先が彎曲した大きなレトルトがブンゼン灯の青みがかった炎を下から浴びて、激しく沸騰している。」(382ページ)
レトルトというのは、蒸留釜とも呼ばれる化学実験用具らしいです。ついレトルト食品を連想してしまいました。

<蛇足9>
「ホームズは、いったんそう心に決めると、まるでアメリカ・インディアンのよう無表情になるので」(419ページ)
インディアンって、こういうイメージだったのですね。
日本人なども無表情(表情に乏しい)と言われますが、似たような感じなのでしょうか?



原題:The memoirs of Sherlock Holmes
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1893年(原書刊行年は解説から)
訳者:日暮雅通





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