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錆びた滑車 [日本の作家 若竹七海]


錆びた滑車 (文春文庫)

錆びた滑車 (文春文庫)

  • 作者: 七海, 若竹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い、記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する──。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。


2023年7月に読んだ8作目(冊数だと9冊目)の本です。
若竹七海の「錆びた滑車」 (文春文庫)
2018年 週刊文春ミステリーベスト10 第6位
「このミステリーがすごい! 2019年版」第3位。

「静かな炎天」 (文春文庫)(感想ページはこちら)に続く葉村晶シリーズの長編です。

いつもながらの安定した若竹節を存分に楽しみました。
大団円を迎えてみると、非常にシンプルな事件だったことがわかります。
ところがプロットは入り組んだ非常に複雑なもの。
見事ですね。
登場人物の出し入れが絶大な効果を産み出しています。

そんななかちゃんと葉村晶は酷い目にあいます。
「飛べなくてもブタはブタだが、歩けない探偵は探偵ではいられない。」(237ページ)
こう感じながらも、満身創痍でも葉村晶は探偵をするのです。
そろそろ楽をさせてあげたらいいのに(笑)。

ハードボイルドの作品は、意外と(意外ではないのかもしれませんが)家庭の悲劇を描いたものが多いようにも思うのですが、この「錆びた滑車」 (文春文庫)でもさまざまな形の悲劇が提示されます。
そういった群れなす悲劇や捜査に当たる側の様々な思惑がプロットを複雑にしていきます。


タイトルの「錆びた滑車」は冒頭に掲げてあるサン=テグジュペリの「小さな王子さま」の引用から。

ぼくもまた星空をながめるんだ。
全部の星が錆びた滑車のついた井戸になるよ。
全部の星がぼくに飲み水をそそいでくれるに違いない……

本文中には出てこないので(読み落としでなければ)、解釈は読者に委ねられています。
事件に苦い決着がついたエンディングで、短期間とはいえ一緒に暮らしたミツエやヒロトを想いながら葉村晶は冬空を見上げて何を思うのか。
いつも以上につらい事件になってしまったような印象を受けました。




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静かな炎天 [日本の作家 若竹七海]


静かな炎天 (文春文庫)

静かな炎天 (文春文庫)

  • 作者: 七海, 若竹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/08/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ひき逃げで息子に重傷を負わせた男の素行調査。疎遠になっている従妹の消息。依頼が順調に解決する真夏の日。晶はある疑問を抱く(「静かな炎天」)。イブのイベントの目玉である初版サイン本を入手するため、翻弄される晶の過酷な一日(「聖夜プラス1」)。タフで不運な女探偵・葉村晶の魅力満載の短編集。


2023年2月に読んだ5冊目の本です。
若竹七海「静かな炎天」 (文春文庫)
「このミステリーがすごい! 2017年版」第2位です。


「青い影 7月」
「静かな炎天 8月」
「熱海ブライトン・ロック 9月」
「副島さんは言っている 10月」
「血の凶作 11月」
「聖夜プラス1 12月」
の6話収録の短編集。
各話7月から12月まで、月が振られているのがいいですね。
葉村晶ものとして短篇集は「依頼人は死んだ」 (文春文庫)以来ですが、あちらもこういう趣向だったかな? 実家に戻ったら確かめてみなければ。

葉村晶は相変わらずの不運続きで、トラブルに巻き込まれて、という定番の怪我以外に、四十肩まで襲ってくるという(笑)。
しかも、毎月、毎月。

amazon に各話の簡単な紹介があったので、引用します。

バスとダンプカーの衝突事故を目撃した晶は、事故で死んだ女性の母から娘のバッグがなくなっているという相談を受ける。晶は現場から立ち去った女の存在を思い出す…「青い影~7月~」
・かつて息子をひき逃げで重傷を負わせた男の素行調査。疎遠になっている従妹の消息。晶に持ち込まれる依頼が順調に解決する真夏の日。晶はある疑問を抱く…「静かな炎天~8月~」
・35年前、熱海で行方不明になった作家・設楽創。その失踪の謎を特集したいという編集者から依頼を受けた晶は失踪直前の日記に頻繁に登場する5人の名前を渡される。…「熱海ブライトン・ロック~9月~」
・元同僚の村木から突然電話がかかってきた。星野という女性について調べろという。星野は殺されており、容疑者と目される男が村木の入院する病院にたてこもっていた。…「副島さんは言っている~10月~」
・ハードボイルド作家・角田港大の戸籍抄本を使っていた男がアパートの火事で死んだ。いったいこの男は何者なのか?…「血の凶作~11月~」
・クリスマスイブのオークション・イベントの目玉になる『深夜プラス1』初版サイン本を入手するため、翻弄される晶の過酷な一日を描く「聖夜プラス1~12月~」。

いずれも、ふと覗く悪意、邪気が魅力なのですが、その中でも鮮烈なのが表題作「静かな炎天」でしょうか。
葉村晶にしては珍しく、快調に細かな依頼を迅速にこなしてしまうという幸運の中、まさかそんな、とあっけにとられてしまいました。
すばらしい。

こちらがヨタヨタと積読している間に、すでにシリーズの続刊が2冊も出ています。
「錆びた滑車」 (文春文庫)
「不穏な眠り」 (文春文庫)
今年は読むぞ!


<蛇足1>
「住人の留守を狙って忍び込む空き巣には、侵入のための技術がいる。一方で、住人が在宅中、庭に面した窓を開けっ放しにしているその隙をつき、屋内に入り込み、リビングやキッチンにおきっぱなしのバッグなどから現金だけを抜き取って、一分足らずで仕事を終える居空きには、確かな観察眼となによりも度胸が必要だ。」(37ページ)
居空きというのがあるんですね。恐ろしい。

<蛇足2>
「ディック・フランシスの主人公がこういう仕事をしていたな、と思いつつ、さらに情報をかき集めた。」(166ページ)
うわぁ、覚えてないなぁ、どの小説かなぁ、と思ったのですが、巻末の「富山店長のミステリ紹介ふたたび」で説明されていました。(308ページ)
こういうのありがたいです。

このミステリ紹介は、知っている本でも知らない本でも楽しめるとても楽しい好企画ですね。

『血の収穫』 前記ダシール・ハメットの傑作。原題は ”Red Harvest” なので『赤い収穫』という邦題もありますが、『血の収穫』のほうがぐっとくるかな。いろいろご意見もありましょうが、私は「原点に忠実」よりも「生き生きとした日本語」派。『四人姉妹』より『若草物語』、『二年間の休暇』より『十五少年漂流記』、『リトル・プリンス』より『小公子』。昭和の邦題は味がありましたなぁ。

というくだりとか共感して自分の年齢を実感したしたりして。


<2023.8.3追記>
このミステリーがすごい!  のランキング情報を追記しました。


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暗い越流 [日本の作家 若竹七海]


暗い越流 (光文社文庫)

暗い越流 (光文社文庫)

  • 作者: 七海, 若竹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/10/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏表紙あらすじ>
凶悪な死刑囚に届いたファンレター。差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、その女性は五年前に失踪していた! (表題作) 女探偵の葉村晶は、母親の遺骨を運んでほしいという奇妙な依頼を受ける。悪い予感は当たり……。(「蝿男」) 先の読めない展開と思いがけない結末──短編ミステリの精華を味わえる全五編を収録。表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。


読了本落穂拾いです。
2016年12月に読んでいます。

「蠅男」
「暗い越流」
「幸せの家」
「狂酔」
「道楽者の金庫」
の5話収録の短編集で、表題作である「暗い越流」は日本推理作家協会賞の短編部門を受賞しています。
最初の「蠅男」と最後の「道楽者の金庫」は葉村晶もので、間の3編はノンシリーズ。

「蠅男」のオープニングは、葉村晶が蠅男に階段から突き落とされるシーン。
悪霊が出るという噂の僻地にある洋館に遺骨を取りに行く、という依頼なのですが、相変わらずひどい目にあっています(笑)。
悪霊と蠅男をこうやって結びつけるのですね。

「暗い越流」は死刑囚へのファンレター、しかも死者から届いたものという魅力的な謎です。
ミステリとしてもかっちり作られているのですが、主人公である編集者が事件の真相をつきとめた後に訪れる悪意(と言ってはいけないのかもしれませんが)がポイントだと思いました──故に、葉村晶シリーズにしてはいけないものですね。
個人的に、この作品には作者の意図を読み切れていない箇所があるので(協会賞の選評で北村薫が指摘していることと同じなのではないかと思います)、いつか読み返さねばと思っています。
ひょっとしたら、日本推理作家協会賞の受賞の言葉で
「わたしの思い描く理想のミステリ短編には、三つの必須条件があります。五十枚から七十枚ほどの長さに最低でも二回のツイスト&ターン、読者にはそれと気づかれないけれども印象的な伏線、そして、世界がひっくり返るほどの強烈なフィニッシング・ストローク。」
と述べられているので、ツイストというだけのことなのかもしれませんが。

「幸せの家」は、女性編集長が消えた謎を編集者が追うという話で、ここに出てくるライターの南治彦は「暗い越流」にも出てきます。
こちらも「暗い越流」同様、事件を解いた後に大きなポイントが待ち受けています。

「狂酔」 は、教会で開かれている集会での独白という形式をとっています。教会が運営している児童養護施設<聖母の庭>にまつわる思い出話という風情が、次第に変わっていき......
ミステリのある古典的なテーマがすっと立ち上がってくるところがポイントですね。

「道楽者の金庫」はふたたび葉村晶もの。
バイト先の書店<MURDER BEAR BOOKSHOP>に遺品整理人から持ち込まれた蔵書査定のお仕事、だったはずが、やはり面倒ごとに巻き込まれる、怪我もする(笑)。
謎めいた金庫に、その鍵となるこけし、という意匠がありそうな、なさそうなというラインを攻めてきていて楽しい。
最後に金庫の中身が明かされて(そしてそれはおそらく大抵の読者の想定通り)終わるのですが、その結果葉村晶がつきとめることにゾクリとします。


「暗い越流」、「幸せの家」 、「道楽者の金庫」といった、物語が一応の決着を見せた後にもう一コマつけ足されている作品群が印象に強く残りました。
いわばつけ足し部分が全体を飲み込んでしまうような、そんな居心地の悪さが味わい深いです。



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御子柴くんと遠距離バディ [日本の作家 若竹七海]

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/12/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
長野県警から警視庁へ出向中の御子柴刑事。おおむね平穏な生活を送っていたものの、暮れも押し詰まってから次々と事件が発生。さらには凶刃に襲われて! 相棒の竹花刑事は異変を察知し、御子柴のもとに駆けつけるが……。御子柴くんの身に危険と大きな変化がおとずれる、スイーツ&ビターなミステリー第二弾。


「御子柴くんの甘味と捜査」 (中公文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
前作感想に、
「これでシリーズ終わらせるのもったいないと思うので、ぜひ、続編書いてください。」
と書いた願いが叶いました!

オープニングの「御子柴くんの災難」がいきなり衝撃的です。
あとがきで作者も
「どうやらわたしには、自分の生み出したキャラクターを千尋の谷に突き落とす癖があるらしい。」
なんて書いていますが、それにしてもこれは......
御子柴くん、すごくいい人なのに......

で、次の「杏の里に来た男」を読んで安心。
あ~よかった、生きてた。
シリーズものなので、死んでしまうはずないんですけど、いやあ、心配しました。
警視庁での三年間の勤務期間が終わり、長野県警に戻っています。
異動先は、千曲川署に新設された〈地域生活安全情報センター〉のセンター長。一見偉くなっていますが、やや微妙な異動です。
それでも御子柴くんはちゃんといい人のままです!

このあと
「火の国から来た男」
「御子柴くんと春の訪れ」
「被害者を探しにきた男」
「遠距離バディ」
と続く、合計6作収録の短編集となっています。

各話ともに、警視庁時代の相方である竹花一樹と御子柴くんとの話がほぼ交互に語られ、連携していきます。
このシリーズの醍醐味の一つに、一見関係なさそうなエピソードがすっと結びついていくところにありますが、東京と長野と結びつけるのが難しそうな設定をものともせず、さすがは若竹七海。
竹花の方も、いいキャラクターで、この二人の活躍を読むのはとても楽しいですね。

小林警部補が定年を迎えて引退し、悠々自適な(と思われる)生活を送っている(17ページ~)こともわかりました。
なので、すっかり出番は少なくなってしまいましたが、ゲスト出演という感じでちらっと出てくると、おおっ、と思いうれしくなりますね。

最後の「遠距離バディ」で、御子柴くん、さらに異動が決まっていて、シリーズの続刊に期待が高まります。
また名産品の数々が登場すると楽しいですね。
期待大です!

<蛇足1>
こちらの勝手な勘違いではありましたが、御子柴くんの年齢に冒頭からびっくりしました。
「三十代も後半戦に入りかけ、自分も上の世代に甘えていられる歳ではなくなった。」(18ページ)
えっ、そんな高めの年齢設定だったんだ...
勝手にもっと若いんだと思い込んでずっと読んでいました。

<蛇足2>
「どっちにしても、ますます、ずくがなくなるな。」(195ページ)
ここに出てくる「ずく」、長野の方言のようです。
「惜しまず働く力」だと goo の方言辞典には書いてありますが、なかなか奥の深い言葉のようです。
「やる気」と言い換えると上のセリフは意味が通りますね。




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ポリス猫DCの事件簿 [日本の作家 若竹七海]


ポリス猫DCの事件簿 (光文社文庫)

ポリス猫DCの事件簿 (光文社文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
三十人ほどの人間と百匹以上の猫がのん気に暮らす通称「猫島」。島の臨時派出所の巡査・七瀬晃の相棒は、丸顔で目つきの悪いでっかいドラ猫、DCだ。個性的すぎる島民や困った観光客が引き起こす騒動にてんてこまいの毎日。そんな中には、大きな事件も隠されていて…。お気楽だけど真面目な青年警官とポリス猫が、意外な(?)活躍を見せる傑作コージー・ミステリ。


ずいぶん久しぶりの若竹七海です。
このブログで感想を書くのは、「さよならの手口」 (文春文庫)(リンクはこちら)以来で、実に2年10ヶ月ぶり。
例によって感想を書けていない本として日本推理作家協会賞受賞作を表題作にした短編集「暗い越流」 (光文社文庫)があるのですが、これすら手元の記録では読んだのは2016年12月なので、2年3ヶ月前ですね。
佳多山大地による解説によると葉崎市シリーズの7作目とのことです。
「ヴィラ・マグノリアの殺人」 (光文社文庫)
「古書店アゼリアの死体」 (光文社文庫)
「クール・キャンデー」 (祥伝社文庫)
「猫島ハウスの騒動」 (光文社文庫)(リンクはこちら
「プラスマイナスゼロ」 (ポプラ文庫ピュアフル)(リンクはこちら
「みんなのふこう~葉崎は今夜も眠れない」 (ポプラ文庫ピュアフル)(リンクはこちら
「ポリス猫DCの事件簿」 (光文社文庫)

事件簿、というだけあって短編集でして
「ポリス猫DCと多忙な相棒」
「ポリス猫DCと草もちの謎」
「ポリス猫DCと爆弾騒動」
「ポリス猫DCと女王陛下の秘密」
「ポリス猫DCと南洋の仮面」
「ポリス猫DCと消えた魔猫」
「ポリス猫DCと幻の雪男」
の7編に、全体のプロローグ、エピローグとして
「ポリス猫の食前酒」
「ポリス猫のデザート」
が付け加わっています。

各話、猫島(のお馴染みの面々)と直接関係なさそうなエピソードから始まり、そのあと、いつもの猫島のドタバタ(?) となります。冒頭のエピソードがどう猫島と絡んでくるのか、興味を惹かれます。
また、若竹七海らしいと申しますか、猫島の外での事件が全編の根底にあって、1冊を最後まで読むことでその事件の真相が浮かび上がってくる、という趣向が忍ばせてあります(これ、一種のネタバレかもしれませんが、最初から放り投げてあるような事件、記述があるので、ある程度ミステリを読んだことのあるならすぐなにかあると気づくと思いますので書いてしまっても構わないと思います)。
他愛ない事件がほとんどですが、そんな中にも若竹七海らしい意地悪な視線があって楽しい作品集でした。


<蛇足1>
「招き猫だって、もともとは客寄せだったのが金寄せになって、厄除けになったり方位除けになったりしたじゃん。それと同じでしょ」(83ページ)
というセリフが出てきまして、招き猫が金寄せになっている、ということまでは知っていましたが、厄除け、方位除けにまで活躍しているとは知りませんでした...

<蛇足2>
猫島観光協会とやらが作ったポスターのキャッチコピー(?) が注目です(141ページ)。
「よそにくらべりゃすいてます 猫島海岸」
「よそとくらべりゃ及べます 猫島海岸」
「よそより海がよく見えます 猫島海岸」
これを見て、つい最近話題になった三重県にある志摩スペイン村の宣伝を思い浮かべました。
「①並ばないから乗り放題
 ②空いてるから映え放題
 ③ライバルが少ないから目立ち放題
 ④距離も近いから仲良し放題」
ぜひHPをご覧ください! とってもおもしろいですよ。(←HPと書いてあるところをクリックするとスペイン村のHPが開きます。勝手リンクです)

<蛇足3>
「神事の直後から、低気圧が日本付近に腰を据えててこでも動かなくなり、海上には稲妻が走り、葉崎付近では一時間に四十八ミリという豪雨を観測し、葉崎山で土砂崩れが起きて、葉崎在住の作家・角田港大先生宅が半壊し、高価なスコッチウイスキー数本と、こつこつ集めたハードボイルドのペーパーバック・コレクションが土砂とともに押し流された。」(143ページ)
というのが出てきまして、この嵐、「火天風神」 (光文社文庫)の背景でしょうか??

<蛇足4>
「あいかわらず貧乏かわかしている、という財政事情を除けば」(160ページ)
この「貧乏かわかしている」の意味がわかりません....どなたかお分かりになりませんか?

<蛇足5>
「温泉の二文字は、葉崎のロコの心をしっかりとらえ、日帰り入浴にやってくる地元民がひきもきらない。」(280ページ)
ロコ? 
ネットで調べたら、
『「ロコ」とは、ハワイ生まれ、ハワイ育ち、ハワイ英語を第一言語とする人たちを指します。 厳密にはハワイで生まれ育った、白人以外の人々のことなんだそうです。』(勝手リンクです)
とありました。Local が訛っている(か、そう聞こえる)もののようですね。
その転用ということでしょうか。


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さよならの手口 [日本の作家 若竹七海]


さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
探偵を休業し、ミステリ専門店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元女優の芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた――。有能だが不運な女探偵・葉村晶が文庫書下ろしで帰ってきた!


まさに待望の葉村シリーズ。
前作「悪いうさぎ」 (文春文庫)が出たのが2001年。
この「さよならの手口」が2014年ですから、なんと13年ぶり。
13年ぶりの新刊が文庫書き下ろし...ぜいたくですねぇ。(作者は大変でしょうけれど)
「このミステリーがすごい! 2016年版」第4位です。発売時期が違えばもっと上位に来たのでは?

しかしまあ、葉村晶は不運ですねぇ。
オープニング早々、古本を引き取りにいっただけなのに、大けがし、白骨を発見し...
この白骨事件はあっさり解決されますが、その真相もたいがいびっくりできますよ(笑)。

で、そのあとハードボイルドでは定番の失踪人捜しへ。
ここから、葉村には不幸が積み重なり、同時並行で謎もつみあがっていきます。
ころころとストーリーが転がるように広がって行って、最後にきちんとたたまれる。
こんなにあれもこれもと欲張ったプロットなのに、ちゃんとエンディングでまとまるのは本当に素晴らしい。
いやあ、13年待ったかいがありますよ、この充実度は。
ミステリ的にはさほど目新しいところはないのかもしれませんが、組み合わせの妙というのか、カチッと組み上げられた感がしてステキです。
視点が葉村に固定されていて、その語り口にうっすらとユーモアが漂うところもいい。

タイトル、「さよならの手口」
巻頭に掲げられている
「警官にさよならを言う方法はまだみつかっていない、」
というチャンドラーの引用を意識したものですが、これに呼応するエンディングも見事ですね。
でもなぁ、これ、ちゃんとさよならできますかね?

次はこんなに待たせないでほしいですっ!

<蛇足>
それなりに重要な役どころとして登場する美枝子というおばさんの話し方が気になります。
「ねーえ?」
「ねーえ」
どういう発音なんだろな。


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雨降りだからミステリでも読もう・・・
MIDNIGHT DRINKER
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みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない [日本の作家 若竹七海]


みんなのふこう〜葉崎は今夜も眠れない (ポプラ文庫ピュアフル)

みんなのふこう〜葉崎は今夜も眠れない (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 若竹七海
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/01/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
葉崎FMで放送される「みんなの不幸」は、リスナーの赤裸々な不幸自慢が人気のコーナー。そこに届いた一通の投書。「聞いてください、わたしの友だち、こんなにも不幸なんです……」。海辺の田舎町・葉崎市を舞台に、疫病神がついていると噂されながら、どんなことにもめげない17歳のココロちゃんと、彼女を見守る女子高生ペンペン草ちゃん、周囲の人々が繰り広げる、泣き笑い必至の極上エンタテイメント!


俗に不幸体質なんていったりもしますが、このココロちゃんのレベルまで行くと、そんな悠長なこと言ってられないような。
ラジオの投稿コーナーに届けられるココロちゃんの不幸のオンパレード。
よくもまあ、次から次へと、という感じなのですが、話が進むにつれて(すなわち時間が経過してエピソードが積み重なっていくにつれて)、次第次第に、なんだか怪しげな構図が浮かび上がって来るような、来ないような。
この辺りのさじ加減が読みどころなのでしょう。

しかしなぁ、ココロちゃん、身近にいたらどうなんだろう? ダントツの不思議キャラです。
客観的には不幸でも、本人は必ずしも不幸とは捉えていないことも含めて、周りにいたらイライラするかも!?
周りにある毒や悪意も、実はココロちゃんが引き寄せたものだったりして。
ただ、カラッと描かれていまして、不幸が不幸になっていない。
いや、不幸なんですけど、ココロちゃんはそうは受け取っていない。
テンポよく、あらすじにもある通り「泣き笑い」というかたちになっているのはさすがですね。





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御子柴くんの甘味と捜査 [日本の作家 若竹七海]


御子柴くんの甘味と捜査 (中公文庫)

御子柴くんの甘味と捜査 (中公文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/06/21
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
長野県警から警視庁捜査共助課へ出向した御子柴刑事。甘党の上司や同僚からなにかしらスイーツを要求されるが、日々起こる事件は、ビターなものばかり。上田市の山中で不審死体が発見されると身元を探り(「哀愁のくるみ餅事件」)、軽井沢の教会で逃亡犯を待ち受ける(「不審なプリン事件」)。『プレゼント』 に登場した御子柴くんが主役の、文庫オリジナル短篇集。


「プレゼント」 (中公文庫)に登場した御子柴くん、とありますが、「プレゼント」 読んでますけど、ずいぶん前のことなので覚えてません...
でも、大丈夫でした。

「哀愁のくるみ餅事件」
「根こそぎの酒饅頭事件」
「不審なプリン事件」
「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」
「謀略のあめせんべい事件」
の5話収録です。
いやあ、貧乏くじを引かされまくって、一身に面倒事を引き受けさせられる御子柴くんがいい味出してますねー。
「警視庁内に、地方の県警本部から、連絡調整役として捜査官を派遣して常駐させるというシステムができた。御子柴はそれに選ばれてしまった」(17ページ)とありますが、そんなポジション、本当に警視庁にあるんでしょうか? まあ、それが捜査共助課と。
で、地元長野の人たちからは東京名物を買うよう頼まれ、東京の人たちからは長野名物を送るよう頼まれ...
「お留守居役もたいへんですねえ。江戸のお菓子を国元に送らなくてはならないし、お国元の名産品を江戸の役人にふるまわなくちゃならないし」
と茶化されたりしてますが。まあ、御子柴くんほどの頻度ではなくても、そういう立場の人がいたらある程度は名産のやりとりは必要になるのでしょうねぇ。
で、事件の推理というか、真相を突き止めるのが御子柴じゃないところも、GOODです。
長野県警時代の上司というのか、相棒というのか、それが「プレゼント」 にも登場した小林警部補。電話で真相を言い当てます。
「なーんか変なこと思いついちゃった」
とか言いながら。
残りページが少なくなってから、すとんと捻ってみせる小林警部補、いい感じです。
で、各話の締めは最終話を除いて、御子柴くんが名産品を食べて言うせりふ、
「ホントだ。これ、うまいわ」
「さすがだ。これはうまいわ」などなど、というところもポイント高い気がしました。
若竹七海らしい、悪意、意地の悪さも健在で、楽しみました。
これでシリーズ終わらせるのもったいないと思うので、ぜひ、続編書いてください。


〈2014.10.30追記〉
書き忘れていましたが、この「御子柴くんの甘味と捜査」から8月に読んだ本となります。


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プラスマイナスゼロ [日本の作家 若竹七海]


プラスマイナスゼロ (ポプラ文庫ピュアフル)

プラスマイナスゼロ (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 若竹七海
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2010/11/05
  • メディア: 文庫



<裏表紙あらすじ>
ある時、センコーがアタシらを見てこう言った――「プラスとマイナスとゼロが歩いてら」。
不運に愛される美しいお嬢様・テンコ、義理人情に厚い不良娘のユーリ、 “歩く全国平均値” の異名をもつミサキの、超凸凹女子高生トリオが、毎度厄介な事件に巻き込まれ、海辺にある おだやかな町・葉崎をかき乱す!
学園内外で起こる物騒な事件と、三人娘の奇妙な友情をユーモアたっぷりに描いた、学園青春ミステリ。

久しぶりに本の感想に戻ります!

若竹七海の「プラスマイナスゼロ」 (ポプラ文庫ピュアフル)
出版されたレーベルからしても YA (ヤングアダルト向け) になるのですが、作者が続けている葉崎シリーズの1冊のようです。解説によると第5弾。順に、
「ヴィラ・マグノリアの殺人」 (光文社文庫)
「古書店アゼリアの死体」 (光文社文庫)
「クール・キャンデー」 (祥伝社文庫)
「猫島ハウスの騒動」 (光文社文庫)
と来て、この
「プラスマイナスゼロ」 (ポプラ文庫ピュアフル)
になります。
「クール・キャンデー」 もそうだったんだ。なんとなく、カッパノベルスから出たものがこのシリーズだと勝手に認識していたので、気づいていませんでした。
さて、この「プラスマイナスゼロ」 とてもいい!! 若竹七海でいちばん好きかもしれません。
日本のコージー・ミステリを目指している、とかいっても、意地悪というかシビアな目線を特徴とする若竹七海の長所は、この作品でも出ています。
それでいて、いつものように後味が悪い、ということもない。シニカルに、意地悪に構えても、後味が悪くならないって、とっても難しいことだと思うのですが、さわやかな印象をもたらしてくれます(というのはさすがに言い過ぎか。ちゃんと悪意はありますので...)。
女子高生が主人公なんですが、シビアな見方がとても、とても似合っています。
語り口は軽やかだし、テンポよく会話が進んでいくし、YAらしく読みやすく親しみやすいのですが、そんななかでもきちんと若竹テイストは健在。ミステリらしい仕掛けも十分。ああ、もっと早く読めばよかった。こんなに楽しいのなら。
このあと、葉崎シリーズとしては、
「ポリス猫DCの事件簿」 (光文社)
「みんなのふこう〜葉崎は今夜も眠れない」 (ポプラ文庫ピュアフル)
が出ているのですが、この調子だと「みんなのふこう〜葉崎は今夜も眠れない」 に大きな大きな期待を寄せます!!

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猫島ハウスの騒動 [日本の作家 若竹七海]


猫島ハウスの騒動 (光文社文庫)

猫島ハウスの騒動 (光文社文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/05/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
葉崎半島の先、三十人ほどの人間と百匹以上の猫がのんきに暮らす通称・猫島。その海岸で、ナイフが突き刺さった猫のはく製が見つかる。さらに、マリンバイクで海を暴走する男が、崖から降ってきた男と衝突して死ぬという奇妙な事件が! 二つの出来事には繋がりが? 猫アレルギーの警部補、お気楽な派出所警官、ポリス猫DCらがくんずほぐれつ辿り着いた真相とは?

架空の町(といってもモデルがあることははっきりしていますが)葉崎を舞台にしたコージー・ミステリシリーズの1作です。と解説にも、ネットにもコージー・ミステリだとあるのですが、個人的にはコージー・ミステリというにはちょっと違和感があります。
若竹さんといえば毒のある作風でも知られていますが(「悪いうさぎ」 (文春文庫) なんか印象的でした)、その毒がコージーであっても滲み出ているからかもしれません。登場人物も辛口の人が多いですし。
コージー・ミステリとは、という明確な定義があるわけではありませんが(cozyという単語の意味は心地よい、ですから、中身を示唆するものではありませんし)、狭い地域を舞台に主婦探偵が活躍する、というのが典型ではなかろうかと。シリーズ探偵である主婦がストーリーを引っ張っていき、探偵に焦点があたるわけです。
その点、この作品は、舞台こそ狭いですが(なにしろ島ですから)、かなりの多視点なので、探偵役に的を絞らせません。シリーズ探偵でもありません。ストーリーもプロットもかなり複雑です--だからこその多視点なのだと思いますが。この複雑なプロットを、この長さでまとめた作者の腕の冴えにはうれしくなりますが、そのせいで「コージー」の印象が薄れてしまいます。もっと硬質な読後感なのです。
著者自身によれば「小さな町を舞台とし、主として誰が犯人かという謎をメインにした、暴力行為の比較的少ない、後味の良いミステリ--これすなわち、コージー・ミステリです」ということで、こう定義づければあてはまりますが...
実は前作の「古書店アゼリアの死体」 (光文社文庫) でも同じように感じました。好きなシリーズですが、コージー・ミステリとしてにとどまらず、プロットの充実したミステリとして楽しんでいます。
この作品は、タイトル通り猫がいっぱい登場するのですが、ラストを締めくくるのが猫という趣向も、ポイントとしてあげておきたいと思います--この猫、どうやらこの後の作品でも活躍するようですね。
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