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錆びた滑車 [日本の作家 若竹七海]


錆びた滑車 (文春文庫)

錆びた滑車 (文春文庫)

  • 作者: 七海, 若竹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い、記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する──。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。


2023年7月に読んだ8作目(冊数だと9冊目)の本です。
若竹七海の「錆びた滑車」 (文春文庫)
2018年 週刊文春ミステリーベスト10 第6位
「このミステリーがすごい! 2019年版」第3位。

「静かな炎天」 (文春文庫)(感想ページはこちら)に続く葉村晶シリーズの長編です。

いつもながらの安定した若竹節を存分に楽しみました。
大団円を迎えてみると、非常にシンプルな事件だったことがわかります。
ところがプロットは入り組んだ非常に複雑なもの。
見事ですね。
登場人物の出し入れが絶大な効果を産み出しています。

そんななかちゃんと葉村晶は酷い目にあいます。
「飛べなくてもブタはブタだが、歩けない探偵は探偵ではいられない。」(237ページ)
こう感じながらも、満身創痍でも葉村晶は探偵をするのです。
そろそろ楽をさせてあげたらいいのに(笑)。

ハードボイルドの作品は、意外と(意外ではないのかもしれませんが)家庭の悲劇を描いたものが多いようにも思うのですが、この「錆びた滑車」 (文春文庫)でもさまざまな形の悲劇が提示されます。
そういった群れなす悲劇や捜査に当たる側の様々な思惑がプロットを複雑にしていきます。


タイトルの「錆びた滑車」は冒頭に掲げてあるサン=テグジュペリの「小さな王子さま」の引用から。

ぼくもまた星空をながめるんだ。
全部の星が錆びた滑車のついた井戸になるよ。
全部の星がぼくに飲み水をそそいでくれるに違いない……

本文中には出てこないので(読み落としでなければ)、解釈は読者に委ねられています。
事件に苦い決着がついたエンディングで、短期間とはいえ一緒に暮らしたミツエやヒロトを想いながら葉村晶は冬空を見上げて何を思うのか。
いつも以上につらい事件になってしまったような印象を受けました。




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