SSブログ

ラスキン・テラスの亡霊 [海外の作家 か行]


ラスキン・テラスの亡霊 (論創海外ミステリ)

ラスキン・テラスの亡霊 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2017/03/03
  • メディア: 単行本



2023年7月に読んだ10冊目、最後の本です。
論創海外ミステリ188。
ハリー・カーマイケル「ラスキン・テラスの亡霊」 (論創海外ミステリ)
「リモート・コントロール」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)が面白かったので、こちらも手に取りました。

帯に「不幸な事故か? それとも巧妙な殺人か?」と書かれています。
訳者あとがきで簡単に要約されているように「有名なスリラー作家クリストファー・ペインの妻エスターが、彼の最新作のストーリーと同じように、毒物を摂取して死亡する事件から始まります。周りの者すべてに憑りつき、不幸に陥れる邪悪な存在。彼女の死は自殺だったのか、他殺だったのか? その謎に輪をかけるように、彼女の主治医であったフォールケント医師の配偶者も服毒死を遂げます。これもまた、自殺なのか他殺なのか、はっきりしません。」
というのが主のストーリーラインです。

こういう設定のミステリは決着のつけ方が難しいと思っています。
決め手がないから自殺か殺人か事故か、という状況になっているわけで、後出しじゃんけん的に後から証拠を持ち出さないかぎり、なかなか決定的にこれだと決め打つことはできないのに、ミステリであれば最終的には決めないといけないからです。
作者が決めたところで、読者にしてみれば「後出しじゃんけんだな」とか「決め切れていないよな」という感想を抱きがちです。

この作品もその意味では後出しじゃんけんに近い部分はあるのですが、伏線らしきものが引かれていること、探偵役があれこれ揺れ動いてしまう点がミスディレクション的な使われ方をしていることで、印象を緩和してくれています。
ただ、探偵が揺れ動く点のせいで、全体としてごちゃごちゃした印象を受けてしまって残念。
「リモート・コントロール」 のような切れ味は感じられませんでした。

それでも、企もうとする作者の意欲は感じられましたので、別の作品も手に取ろうと思います。



<蛇足1>
「薬棚から睡眠薬の入った細長いガラス製のチューブを取り出す。」「睡眠薬は二錠しか残っていなかった。」(8ページ)
「一錠ずつ縦に並ぶ細長いガラスチューブに入れて。」(20ページ)
錠剤の入ったガラスのチューブ、というのがイメージできませんでした。どういったものなのでしょうね? ガラス壜ならわかるのですが。

そして
「警察の分析官が、空の容器の中にストリキニーネの痕跡を発見しているんだ」(19ページ)
錠剤に入れたストリキニーネの痕跡がチューブで見つかる、というのも不思議ですね......
まあ錠剤の表面にもストリキニーネがあった、ということなのでしょうね。素人にわかりにくいです。
この部分は後の推理にも影響するので、わかりにくくて困りました。


<蛇足2>
「円錐形の屋根とマリオン仕切り(石や木でできた窓の縦仕切り)の窓が、閑静なチェルシー地区(スクエア)を見下ろしている。」(66ページ)
マリオン仕切りがわからなくて調べました。
ムリオンということもあるようですね。また縦とは限らず「ビルや建物の窓や建具などの枠を、構造的に支える水平や垂直の補強材」のことを指すようです。
ところで、チェルシー・スクエアを”地区” と訳してありますが、おそらく地区という日本語でイメージするものではなく、広場あるいは公園のようになっている場所のことを指すと思われます。今地図で確認すると、Chelsea Common というのが広場の名前で、その周りを囲うように Chelsea Square という道路が走っています。こういう場合、一般的に道路で囲まれた部分を チェルシー・スクエアと呼んだりします。

<蛇足3>
「精神力を浪費しないことだな、パイパー君。わたしとペイン夫人のあいだには何のミステリーも存在しないよ。患者と医者、それだけの関係だ。」(112ページ)
精神力を浪費する、とはどういうことでしょうね?
医者に患者との関係を気をつかいつつ聞いているパイパーに、医者本人がいうセリフです。

<蛇足4>
「沈着冷静なジョン・パイパーに、偉大なるドルーリー・レーン劇場(ロンドン中央部にある、十七世紀以来の歴史を持つ王立劇場)の伝統を体現できるなんて、誰に想像できたかな?」(162ページ)
パイパーとホイル警部が物語の終盤で事件の様相を話しているときのホイル警部のセリフです。
ドルーリー・レーン劇場の伝統、が何を指すのかわかりません。ドルーリー・レーン劇場そのものではなく、この伝統の内容について訳注が欲しいところです。

<蛇足5>
「どうして、天才的な殺人計画を練り上げておいて、まったくの他人相手に実行したような話し方をするのだろう?」(186ページ)
この文章の意味がわかりませんでした。
全くの他人相手に実行したような話し方、って何でしょうね?

<蛇足6>
「安全ボタンを使うくらいでよかったのではないか。外からあけられないようにするには、その小さなボタンだけで十分だ。」(195ページ)
「パイパーは偶然、安全ボタンを押したままドアを閉めてしまった。ドアをあけ、同じことをもう一度、繰り返す。今度は、錠の爪が滑り込むときにボタンが上がるのが見えた。もう一度、試してみる。当然のことながら、ボタンは上に跳ね上がった。つまり、これは、室内でのみ利用される目的で作られた装置なのだ。さもなくば、部屋の主が締め出されてしまう危険性がある。」(196ページ)
この部分、謎解きのキーになる、寝室のドアの鍵をめぐる説明なのですが、よくわかりませんでした。
ドアが閉まっている状態のときのみ(錠の爪が動かない状態のときのみ)安全ボタンが動作するようになっているのでしょうね......最近はオートロックが多くてこういうの見かけない気がします。
実物が見てみたいですね。

<蛇足7>
「いいえ、ポーランド人ではありません、お客様。わたしはウクライナの出身です。」「ご存知のとおり、今ではロシアの一部になっています。だから、わたしはそこにいたくなかったのです。」(207ページ)
この時期にウクライナのことが出てくる本を読んでいるのは偶然なのですが、おやっと思いました。
本書の出版は1953年ですので、ここはロシアではなくソ連ではなかろうかと思います。ウクライナは、前のロシアの頃に併合(?)され、ソ連成立でソ連になっているはずですから。

<蛇足8>
「それは、ぼくと預金残高だけの秘密だな」(250ページ)
預金残高そのものが秘密というのではなく、預金残高がぼくと秘密を共有している、というのはおもしろい言い回しですね。日本語にはない言い方だと思います。


原題:Deadly Night-Cap
作者:Harry Carmaichael
刊行:1953年
訳者:板垣節子





nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。