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磔刑の木馬 [海外の作家 さ行]


磔刑の木馬 (文春文庫)

磔刑の木馬 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/12/07
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
回転木馬に磔にされた男。散乱する金貨の中で殺された娘。射殺されたドイツ軍伍長。ナチ占領下パリの連続殺人に挑むはフランス人警部サンシールとゲシュタポ捜査官コーラー。占領軍は伍長の死の代償にパリ市民27名の処刑を決定。彼らの生命を救うため、二人は真犯人を見つけねばならない──好評のシリーズ第二弾。


2023年12月に読んだ最初の本です。
J.ロバート・ジェインズの「磔刑の木馬」 (文春文庫)
例によって長らくの積読から引っ張り出してきた本で、奥付は2002年6月。
「虜囚の都──巴里一九四二」 (文春文庫)に続くシリーズ第2弾です。

ナチス占領下のパリを舞台に、フランス国家治安警察のフランス人刑事サンシールが、ゲシュタボの捜査官コーラーと組んで事件の捜査に当たる、という枠組みの作品です。

「虜囚の都──巴里一九四二」 (文春文庫)がなかなか面白かったので第2作の本書も購入したのですが、舞台設定が設定だけに重苦しい内容で、なかなか手に取らないうちに、積読の山に埋もれてしまいました。

占領サイドのドイツといっても、軍、ゲシュタボ、SSとさまざまな組織があり、占領されるサイドのフランスも普通の(?) フランス人に、レジスタンスに、ギャングに、とさまざま。
いろいろと思惑が入り乱れる状況です。
ゲシュタボと組んでいる、というだけで捜査はやりにくくなったりしますし、捜査を命ずる上役たちにもそれぞれの思惑があって状況を複雑にしていきます。

解説で関口苑生が書いているように
「場面場面のディテールは詳細に描かれるのだが、物語の繋がり、ブリッジの部分が実に大雑把──といって悪ければ、前後の脈絡を無視したような形で展開されていく」
ので、話の筋が掴みづらく、読むのに時間がかかってしまいました。

引用したあらすじにもあるように、「回転木馬に磔にされた男。散乱する金貨の中で殺された娘。射殺されたドイツ軍伍長」と3つの殺人事件があるのですが、それぞれたどるべき筋がたくさんあるという感じで、相互につながりがあるのかないのかもわからない(まあミステリなんで繋がるはずなんですが)。

掴みにくかった物語の姿が、サンシールの謎解きによって見えてきます。
殺人事件そのもの以外にも、いくつもの物語の要素が絡み合っていて複雑なプロットが浮かび上がってきます。
振り返ってみれば、事件の構図とプロットの複雑さに落差があるようにも思われ、この部分が本書の魅力なのかもしれません。

第3作「万華鏡の迷宮」 (文春文庫)まで訳されていたのですが、買えずじまいで絶版ですね。
読んでみたいな、と思いましたが、残念。
復刊は......難しいでしょうね。


原題:Carousel
著者:J. Robert Janes
刊行:1993年
訳者:石田善彦



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判事とペテン師 [海外の作家 さ行]


判事とペテン師 (論創海外ミステリ)

判事とペテン師 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2005/12/01
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
謹厳な判事と敬虔な牧師。尊敬すべき二人の共通点は、なんと〈競馬〉だった! さらに、判事の息子は決して誇れることのない悪行を生業としていた……。
自身も法廷弁護士、そして判事という職歴を持つ法廷ミステリの名手セシルが、法知識をふんだんに盛り込みながらもユーモラスに綴る、判事とペテン師の親子二代記。



2023年8月に読んだ8冊目、最後の本です。
ヘンリー・セシルの「判事とペテン師」 (論創海外ミステリ)
単行本です。論創海外ミステリ36

ヘンリー・セシルは昔「メルトン先生の犯罪学演習」(創元推理文庫)を読んだことがあります。
「メルトン先生の犯罪学演習」は、ローマ法と法理学の権威メルトン教授が、列車から飛び降りた際に転んで頭を打ったことがきっかけで、法の間隙を縫うあの手この手を連続抗議していくという連作長編(以上、「判事とペテン師」巻頭の「読書の栞」から引用)で、馬鹿馬鹿しくて楽しめた記憶。

この「判事とペテン師」は、引用したあらすじにもある通り、判事とペテン師の親子二代記です。
この二人の苗字がペインズウィック。
原題 "The Painswick Line" は、ペインズウィック家を代々貫く流れ、あたりの意味でしょうか。
最後のセリフはこのタイトルを踏まえたものですね。

判事の息子がペテン師とは、まさに不肖の息子。
なので絶縁、没交渉──というわけではなく、なにくれと気にしているというのがポイントです。
なにしろ、息子のために金を用意しなくては、と職権を利用して(?)、競馬必勝法を入手しようとするのが物語のスタートですから。

その後の展開から、これはミステリとは言い難い作品であることがわかりましたが、それでもユーモラスで面白かった。
楽しんで読めました。
あのメルトン先生もゲスト出演していましたよ。

ヘンリー・セシルの作品はハヤカワや創元のものは絶版で、ほかには「判事とペテン師」のあと論創ミステリから「サーズビイ君奮闘す」 (論創海外ミステリ)が出版されているだけのようです。
まずは復刊をお願いしたいですね。



原題:The Painswick Line
作者:Henry Cecil
刊行:1951年
翻訳:中村美穂







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メアリー-ケイト [海外の作家 さ行]


メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/11/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
毒を盛ったから、あなた十時間後に死ぬわ──バーで飲んでいたジャックは、隣の席に座った美女の言葉に耳を疑った。さらに、解毒剤がほしければいうことをきけと言い、奇妙奇天烈な要求をしてくる。片時も離れず、女がトイレに行く時も一緒についてこいというのだ。やがてムラムラしたジャックは彼女に襲いかかってしまう。そんな馬鹿なことをしている間に悲劇は着々と進行し……予測不可能なタイムリミット・サスペンス。


空港のバーで隣に座ったブロンドの美女ケリーに
「毒を盛ったから、あなた十時間後に死ぬわ」
と言われてしまったジャック。
開巻早々のこの場面で、つかみはOK。
なんだそれ、という感じではありますが、もう一つ、SF的な発想の、これまたとんでもないアイデアが(一応伏せておきます)盛り込まれていまして、ぶっ飛んだ設定で、悲劇のジャックはもとよりこちらを振り回してくれます。
ひょっとしてAIDSにインスピレーションを受けたのかな? という感じも受けたのですが、原著が2006年ということなので、それはないですね。

このジャック視点に加えて、国土安全保障省の諜報組織CI−6に所属する工作員コワルスキーの視点でも物語が語られます。
こちらは、どうやらケリーを追えという指示を受けているよう。SF的設定の方と関連があるらしいことが想像できます。
このコワルスキーという人物、平気で殺人も犯すというか任務として殺人も行っているという設定でして、ジャックから見た時の敵か味方ががわからず、まさにサスペンス(宙づり)状態でものがたりが進んでいきます。

関係者が増え、謎が増え、物語の拡がりが感じられても、ジャックは窮地からなかなか抜け出せず、というか、いよいよ深みにはまっていく一方で、タイムリミット・サスペンスとしての緊迫感がすごい。
この物語はどうなってしまうのだろう、どこに着地するのだろう、と不安にもなるのですが、エンターテイメントとして見事なエンディングを迎えます。

ドゥエイン・スウィアジンスキーの作品はいくつか訳されているので、もっと読んでみたいですね。

<蛇足>
「六十から七十パウンドの体重の子供のための、組みこみ式のブースターシートがあった。」(63ページ)
チャイルドシートとは違う、ブースターシートというのがあるのですね。
重さの単位の Pound は日本語では普通ポンドと表記されると思いますが、ここでは発音に忠実にパウンドと書かれていますね。1ポンドは 453.592g らしいです。
アメリカも早くメートル法にしましょう!


原題:The Blonde
作者:Duane Swierczynski
刊行:2006年
翻訳:公手成幸

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死の味 [海外の作家 さ行]


死の味〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)死の味〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

死の味〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
死の味〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/03/02
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
教会の聖具室で血溜まりの中に横たわる二つの死体は、喉を切り裂かれた浮浪者ハリーと元国務大臣のポール・ベロウン卿だった。二人の取り合わせも奇妙だが、死の直前の卿の行動も不可解だった。突然の辞表提出、教会に宿を求めたこと……卿は一体何を考えていたのか? 彼の生前の行動を探るため、ダルグリッシュ警視長は名門ベロウン家に足を踏み入れる。重厚な筆致で人間心理を巧みに描く、英国推理作家協会賞受賞作。<上巻>
不可解なのはポール卿の行動だけではなかった。前妻の事故死、母親を世話していた看護婦の自殺、家政婦の溺死……彼の周辺では過去に謎の怪死事件が続いていた。ふたたび捜査線上に浮かびあがってきたこれらの事件に、今回の事件を解決する鍵があるのか? それぞれに何かいわくありげなベロウン家の人々の複雑な人間関係から、ダルグリッシュ警視長が導きだした推理とは? 緻密な構成が冴える、英国本格派渾身の力作。<下巻>


2022年2月に読んだ5作目の本です。
P・D・ジェイムズの感想を書くのは初めてですね。
手元の記録をみると、2010年(!)に「わが職業は死」(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んで以来。
例によって長年の積読だったのですが、今般2022年2月に新版が出た、ということで、積読から引っ張り出して読みました。新しい書影も末尾に掲げておきます。

英国推理作家協会賞のシルヴァー・ダガー受賞作。
いや、もう、たっぷりジェイムズ節ですよ。
悠々たる雄編という下手な駄洒落しか出てきませんが、まさに堂々たる風格。
たっぷりとじっくりと、そしてじっくりとたっぷりと、これでもかというくらいに、微に入り細を穿ち、細かく細かく、書き込まれていきます。
建物の外観、部屋の様子、調度品、登場人物たちの衣装に至るまで、作者の筆は事細かにつづっていきます。
これらの中から登場人物が立ち上がってくる、という仕掛けです。
若いころ、そうですね、高校生や大学生の頃だったら途中で投げ出していたかもしれないほどの濃密さ。

被害者は浮浪者と、国務大臣を辞任したばかりの貴族。
執拗と言ってもいい描写から浮かび上がる人間関係。
こういう作品は、トリックだとかストーリー展開を過度に期待してはいけませんね。(あくまで過度に期待は禁物ということであって、ストーリーやプロットはまずまず凝っています。)
幸い(歳を取ったおかげか)楽しく読みましたが、ちょっと日本人向きではないテーマかな、とも思いました。
というのも、宗教(観)が絡むからです。

タイトルもそうですね。
A Taste for Death
「死の味」と訳されていますが、単語としては簡単ながら、いろいろと解釈できるフレーズです。
巻頭のエピグラフ
「血と息を、人はこう言う、/死に惹かれる心を呼び起こす、と。」(A・E・ハウスマン)
では、「死に惹かれる心」と訳されています。
Tasteは 味、であり、味わい、であり、嗜好あるいは選好、です。

テーマが手強かったのでしょうか、シルヴァー・ダガー受賞作とはいっても、ミステリとしての建付けは今一つ。
数多の描写、装飾を取り払ってみると、被害者も犯人も、果ては捜査側である刑事まで、このテーマの周りをぐるぐると回っていた印象。これら登場人物たちは、テーマのための描写だったのかもしれません。

この後の何作かも、絶賛積読中。
いずれ読みたいですね。


<蛇足1>
「ダルグリッシュはスーツケースをオフィスに置いて、荒模様の秋の朝に備えてツイードのコートを着込み、セント・ジェイムズ駅を抜けて省舎に向かった。」(上巻39ページ)
1986年刊行の作品ですから、この時ダルグリッシュのいるスコットランドヤードは未だ現在の場所に移転する前ですね。
しかし駅名はセント・ジェイムズパーク駅です。”パーク”はどこにいったのでしょう?


<蛇足2>
「マトロックの後ろから、古い厩とガレージに入る二番目のドアを通った。」(上巻220ページ)
原文だと Mews だろうと思われ、確かに厩。
でも今や厩として使っていることはなく、普通に改造して人が住んでいます。〇〇 Mews という地名や物件名はあちこちにあります。
この作品でも、使用人が住んでいます。したがって、ここは厩と訳すべきではないように思いますが、かといって、では何と訳すのか? となると難しい。厩を改装した建物あるいは元厩では締まらないですしねぇ。

<蛇足3>
「法曹界は今もって特権階級に独占され、労働者階級の子弟が法曹学院のテーブルで夕食をとる身分になることはめったにない。」(上巻223ページ)
こういうことがさらっと書かれるのだから、イギリスはすごいですね。

<蛇足4>
「運の悪いロブスターを、生きながら煮湯に落とすのと、店の敷地内で客が溺死するのとでは、話がまったく別ということらしいですね。ロブスターが何も感じないなんて、どうして言えますか?」(上巻344ページ)
今では、ここで書かれているような”残虐な料理法”は禁止される国が相応数ありますよね......

<蛇足5>
「その時には支払はすでにすませていたんでしょうね」
「ああ、もちろん、すべて清算ずみだった」(上巻345ページ)
間違いではないのですが、この「清算」には違和感があるんです。「精算」であってほしいところです。

<蛇足6>
「セント・ジェイムズ公園の野外音楽堂を背景に、宮殿の園遊会のために着飾って、芝生をそぞろ歩く男女。」(上巻360ページ)
セント・ジェイムズパークには、野外音楽堂はなかったと思うのですが......??
あと、セント・ジェイムズパークはセント・ジェイムズ公園なんですね。ハイド・パークはハイド・パーク(262ページ)。
本書ではありませんが、グリーン・パークもグリーン公園とはあまり言われないですね。リージェント・パークは時折リージェント公園と訳されているのを見かけます。
固有名詞はなかなか難しい。

<蛇足7>
「ミスター・ヒギンズの店は大繁昌だった。夏季には昼食あるいは夕食のテーブル予約は遅くても三日前にとらなければだめだし、」(10ページ)
おそらく原文は "or" が使われているのだと思いますが、この場合は「あるいは」と訳すのではなく「昼食であれ夕食であれ」と訳さないとおかしいですね。

<蛇足8>
「ポルシェがドライブウェイから出てゆくのを、この目で見ました。」(下巻17ページ)
ドライブウェイ。日本語では、観光道路などの有料道路を連想してしまいます。
ここでは、レストランの駐車場(あるいは車寄せ)から一般道路までの間の(私有地内の)車道のことを指しますね。でも、あの道、確かに日本語では言いにくいですね。何というのがいいのでしょうね?

<蛇足9>
「軍人恩給があるんですが、臨時収入が少々あっても邪魔にはなりません。」(下巻20ページ)
レストランで働いている人物が語るセリフです。
この場合「臨時収入」ではないですね。余分とか追加とかいうイメージでしょうか?

<蛇足10>
「ダルグリッシュは室内を調べ出した。将軍の心配そうな期待の眼ざし、マズグレイヴの初めて在庫調べをする見習い店員を見守るような鋭い視線を感じた。」(下巻30ページ)
心配そうな、期待の、とはまた変な取り合わせを一緒くたにしたものですね。
原語が知りたくなります。まさか ”expected” を安直に「期待」と訳したりはしないでしょう、中学生でもあるまいし。


<蛇足11>
「洗礼を受けたからといって、特に害はなかったようだ。積極的な反感を持っているわけでもないのに、先頭を切って伝統を破ることもないじゃないか」(下巻105ページ)
神や教会、宗教を信じていないのに子供ができたら洗礼させるのはなぜ、との質問への答えです。
典型的なイギリス人らしい回答だなぁと感じ入りました。

<蛇足12>
「詩は嫌いだった。詩そのものが悪いわけではないが、詩を書くことで声望が高まるので、釣りや園芸、木彫りなど邪気のない趣味と同列には見なせない。警官は警察活動で満足すべきだというのがニコルズの考え方だった。」(191ページ)
ダルグリッシュに反感を持つ警視監の考えです。
その是非はともかく、こういう書き方がされるということは、詩は邪気のある趣味なのですね......

<蛇足13>
「お風呂に入っている間に、服を脱水機で絞りました。洗濯機はありません。一人暮らしですから、必要もないのです。シーツもノーアイロンのが出回っているので、何とかなります。でも脱水機はないとどうにもなりません。」(下巻228ページ)
脱水機、ですか。検索するといろいろあるみたいですが、見ないですね...... 


原題:A Taste for Death
作者:P. D. James
刊行:1986年
訳者:青木久恵


最後に、新版の書影です。






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裁くのは俺だ [海外の作家 さ行]


裁くのは俺だ (ハヤカワ・ミステリ文庫 26-1)

裁くのは俺だ (ハヤカワ・ミステリ文庫 26-1)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/05/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
私立探偵マイク・ハマーの胸にぐっと嗚咽がこみあげてきた。ともに戦火の下をくぐり、みずからの右腕を失ってまで彼を救ってくれたかつての戦友ジャックが至近距離から下腹部に銃弾をぶちこまれて見るも無残な死体となっていたのだ。マイク・ハマーは誓った。この犯人は俺が裁く! この俺の45口径が裁くんだ! 金と顔にものをいわせる特権階級、ボスどもを憎悪し、法律の盲点をついた犯罪をあばいてゆく、タフガイ探偵マイク・ハマー登場! 全世界に一大センセーションをまき起こし、ハードボイルド・ブームの火つけ役ともなった衝撃の問題作!


2021年12月に読んだ9冊目の本です。
またもやどこから引っ張り出してきたんだという古い本で、奥付を見ると昭和63年9月30日の十刷。カバー裏にはバーコードがありません!

同題の作品が大藪春彦にありますが、こちらの原題は "I, The Jury"。意訳ですが、名訳ですね。
非常に雰囲気がよく伝わってきます。

読む前は、ミステリ的興趣は薄く、暴力描写・性描写がすごくて、荒々しくセンセーショナル、という印象を持っていましたが、読んでみるとずいぶん印象が変わりました。

暴力描写ですが、今から見ると、あっさりしたものです。
最近のシリアル・キラーものやサイコ・サスペンスの方がよほど残虐で暴力的です。

そして意外だったことに、マイク・ハマー、それなりにしっかり謎解きをしている!(笑)
確かに本格ミステリではないですし、犯人も探偵もかなり行き当たりばったりではあるのですが、腕力あるいは銃にものを言わせて関係者の口をこじ開けていく、というだけではないのですね。
それなりに考えて行動しています。

印象的なラストも、ちょっと飛躍があるというか、マイク・ハマーの心情に寄り添いにくいところはあるのですが、やはり衝撃的ですね。

ほかの作品も読んでみたい気がしてきましたが、今では入手困難ですね......
もっと早く読めばよかったかな。


<蛇足1>
「フォアイエのわきに女中部屋があった。」(54ページ)
いまだとフォワイエとでも書くでしょうか?
住居にフォワイエがあるって、どんな大邸宅に棲んでいるのだろうと思ってしまいますね。

<蛇足2>
「ハル・カインズ、ご最期だよ」(147ページ)
聞きなれない表現ですが、ご最期という言い方をしたんですね。


原題:I, The Jury
作者:Mickey Spillane
刊行:1947年
翻訳:中田耕治




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探偵レミングの災難 [海外の作家 さ行]


探偵レミングの災難 (創元推理文庫)

探偵レミングの災難 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
レオポルト・ヴァリシュ、あだ名は“レミング”。刑事時代、犯人の逃走車輛の前に思わず飛び出したのを集団自殺するネズミのようだと言われ、以来その名前で呼ばれている。訳あって警察を辞め、現在は興信所の調査員だ。ある日、浮気調査で元教師を尾行中、目を離した一瞬の隙に彼が殺害されてしまい……。後先考えないお人よしの探偵が、事件の真相を求めてウィーンを駆ける!


あらすじを読んで思いました。
「お人よし探偵」
いいではないですか。こういう作品は、ユーモアにあふれていて、たぶん、ぬくもりに包まれたような読後感になれるんじゃないかな。
ドイツ推理作家協会賞受賞作、と帯にも書いてありますし。
ウィーンを舞台にしたというのも物珍しくていいかな、と。

実際に読んでみると、ユーモアというよりは、自虐、苦い笑い、いった感じで、あれれ?
軽やか、という感じではないですね。
笑いはあっても、ずっしり。
最近はやりの北欧ミステリもそうですが、どうも湿っぽい感じがしてなりません。






<蛇足>
「それにしても、ジャンニにグルメな喜びを味わうしたがないのは幸いだった。グルメであれば、自分の注文した料理すら思い出せなくなることだろう。おそらくスープだった。ミネストローネだったのかもしれない。」(220ページ)
この部分、意味が分かりませんでした。
グルメであれば、思い出せない?? どういうこと?


原題:Der Fall Des Lemming
作者:Stefan Slupetzku
刊行:2004年
訳者:北川和代






探偵レミングの災難 (創元推理文庫)


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ナイン・テイラーズ [海外の作家 さ行]

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1998/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏表紙あらすじ>
年の瀬、ピーター卿は沼沢地方の雪深い小村に迷い込んだ。蔓延する流感に転座鳴鐘の人員を欠いた村の急場を救うため、久々に鐘綱を握った一夜。豊かな時間を胸に出立する折には、再訪することなど考えてもいなかった。だが春がめぐる頃、教区教会の墓地に見知らぬ死骸が埋葬されていたことを告げる便りが舞い込む……。堅牢無比な物語に探偵小説の醍醐味が横溢する、不朽の名編!


今月(2020年12月)に最初に読んだ本です。
セイヤーズの作品としては、前作「殺人は広告する」 (創元推理文庫)感想を書いたのが2017年9月なので3年ちょっと経ちます。
ようやく読みました伝説の作品! という感慨でいっぱいです。
というのもこの作品、重厚だ、文学的だ、退屈だ、ときわめてとっつきにくそうな評判だったからです。
奥付を見ると1999年1月(初版は1998年2月)。セイヤーズの作品をゆっくりと刊行順に読んできたから、というのもありますが、実にのんびり積読にしていたものです。怖かったし(笑)。

確かに、重厚で読むのにも時間がかかりましたが、退屈はしませんでしたし、読みにくいとも思いませんでした。=訳者である浅羽莢子さんのお力によるところが大なのだとは思います。
もっとも、463ページに及ぶ大部な作品で、ゆったり進むことにはご留意、ではありますが。

たまたま居合わせたウィムジイ卿が、鐘を撞く次第となる、というだけで90ページ近く費やされますから。巻の一となっている第一部がまるごとこれです。
この部分、鳴鍾術に関する蘊蓄がたっぷりつめこまれていまして、一応謎ときに資するような形にはなっていますが、まあ正直どうでもいい蘊蓄(失礼)なので蘊蓄部分は飛ばし読みしても一向に差し支えありません。

そう、タイトルのナイン・テイラーズというのは、Tailors であっても仕立て屋さんではなく、
九告鐘=死者を送る鐘。男用は九回、女用は六回鳴らされる。一説によれば、テイラーは告げるものの訛ったもの
と37ページに書かれています。
鐘のお話です。

第二部にあたる巻の二で死体が発見され、ウィムジイ卿が村を再訪することになるのですが、ここからの展開が意外と(失礼)おもしろいんです。
墓に忍ばされていた正体不明の死体。
村で以前発生した宝石(エメラルド)盗難事件がどう絡むのか、どう絡まないのか。

今の感覚からすると極めておっとり、ゆったりと進む捜査のテンポが不思議と趣き深い。
もともとウィムジー卿って、神のごとき名探偵、という感じでもないし、行き当たりばったりのような捜査がこの作品のテンポにはピッタリです。
田舎の警察と、行き当たりばったりの貴族探偵。なかなかいい組み合わせではないですか。

そしてこの作品は、トリック(殺害方法)が高名で、そのトリックを読む前から知ってしまっていまして残念ながら驚きが減ってしまったーーというか驚きはなかったのですが、確かにとても印象深いです。
ロープで縛られていたと思しき死体なのですが、
「致命傷、毒物、絞殺、疾病ーーいずれも痕跡すら認められていません。心臓も健康、腸も餓死したのではないことを示していますーーそれどころか栄養状態は良好で、死の数時間前には食事をしていました」(254ページ)
という状況で、どうやって被害者を死に至らしめたのか?
この解決が示されるのは、本当に最後の最後、最終章、しかも最終頁近くになってから、なんですよね(その直前の章で暗示されていますが)。さらっと明かされる。
かなり鮮やかです。
トリックを知らずに読んでいたら、強烈な印象を残したんではないでしょうか。

そしてその殺害方法に思いをはせるとき、蘊蓄たっぷりで飛ばし読みしていた(飛ばし読みしたのはぼくだけかもしれませんが)第一部のイメージががらっと変わる。
(鐘にまつわる蘊蓄が山ほど盛り込まれているものの)ウィムジイ卿のお気楽な性格を物語るエピソードだな、とぼんやり思っていた部分が、違う色彩を放つ。
いいではないですか、こういうの。

とここでふと思ったのですが、この作品、確かに分厚いし、蘊蓄盛だくさんだし、ゆったり進むし、重厚といいたくなる気持ちはよくわかるものの、そういう読み方をする作品ではないのでは?
ウィムジイ卿のおちゃらけた性格もそうですし、インパクトあるトリックもある意味バカミスと呼べてしまえそうなものだし。
真面目な顔して読むのではなく、「なんだこりゃ、バカみたいだなぁ、アハハ」という感じで読むべき作品なのかも、なんて。

違うかな?
この作品の最後の洪水シーンの取り扱いなどからすると、ぼくの単なる勘違い、勝手すぎる解釈である可能性も大なのですが......

このあと、シリーズは
「学寮祭の夜」 (創元推理文庫)
「忙しい蜜月旅行」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
の2冊になりました。
これからも、ゆーっくり読んでいきます。

まったくの余談になりますが、このシリーズでは、パンターがウィムジイ卿に呼びかける二人称が「御前」なのですが、実はずっと、これなんと読むのだろう、と思っていました。
ごぜん? おんまえ? おまえ、はさすがにないでしょうけれど。
静御前とかいますので、ごぜん、だろうなとは思っていたのですが。
この作品で、パンター以外の登場人物が
「御前さま」
と呼びかけています。(302ページなど)
いままでの作品でも出てきていたのを見逃していたのかもしれませんが、さま、と後に続くのでこれはやはり「ごぜん」でしょうね。
<2023.8.25追記>
麻耶雄嵩の「貴族探偵対女探偵」 (集英社文庫)に、御前に”ごぜん”とルビが振ってありました!


<蛇足1>
「教会を逆時計回りに一周するのは不吉だと知っていたので」(59ページ)
知りませんでした。
今後気をつけるようにします。

<蛇足2>
「よりによって日曜に、梯子を教会に持ち込むわけにはいかんからな。この辺りは今も、第四の戒律(『出エジプト記二〇章。安息日を守ることに関するもの』)に敏感でしてな。」(339ページ)
梯子、日曜はダメなんですね。
ただ、梯子が特にだめだからなのか、仕事に近いことをすることが一般的に安息日にはだめだからなのか、信心深くないのでわかりません......

<蛇足3>
「法は妻が夫に不利な証言をすることを認めていない」(384ページ)
妻が夫に有利な証言をしても疑わしいと思われますし、不利な証言をすることを強要されないということも知ってしましたが、そもそも不利な証言をしてはいけないという制度だったのですね......



原題:The Nine Tailors
作者:Dorothy L. Sayers
刊行:1934年
訳者:浅羽莢子






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新車のなかの女 [海外の作家 さ行]


新車のなかの女【新訳版】 (創元推理文庫)

新車のなかの女【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: セバスチアン・ジャプリゾ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
金髪のダニーは、社長の新車を空港から社長宅まで回送するよう頼まれた。しかし彼女は南仏への旅を思いつく。真新しいサンダーバードを走らせるダニーの姿は、束の間、女王のようだった。しかし思いも寄らぬ事件が彼女を待ち受けていた。なぜ彼女は襲われたのか? 初めての地で皆が彼女を知っているのはなぜか? 気まぐれの旅にしかけられた恐るべき罠。鬼才ジャプリゾの真骨頂。


「シンデレラの罠」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)のセバスチャン・ジャプリゾの作品です。
こちらも、平岡敦さんによる新訳です。
旧訳は「新車の中の女」 (創元推理文庫)、新訳は漢字を開いて「新車のなかの女」と表記が変わっています。
この作品「シンデレラの罠」 同様に再読になります。
きれいに忘れてしまっていて、初読のようにまっさらな気持ちで楽しめました(苦笑)。

「シンデレラの罠」 と趣は違うのですが、何か独特な手触りの作品ですね。セバスチャン・ジャプリゾの術中にしっかり嵌まっているということでしょう。

原題は「La Dame dans L'auto avec des Lunettes et un Fusil」
英語では、The Lady in the Car with Glasses and a Gun。
直訳すると「眼鏡と銃を持った、車の中の女」となりますね。
目次の章立てを見ると


眼鏡

となっています。ちょっと洒落ていますね。

冒頭、いきなりサービスステーションの洗面所で襲われているシーンからスタートします。
おお、怖い。
それからここにに至るまでの経緯を振り返るわけです。
社長の車を勝手に拝借して、海が見たいと小旅行としゃれこんだ女性が、行く先々で不思議な体験+怖い体験をする。
初めて行った場所ばかりなのに、出会う人々が、昨日会ったと言う。

これ、怖いですよねぇ。
洗面所で襲われるというのも怖いですが、知らないはずの場所で、みんなから知っている人だと言われる、というのは。
主人公がもともと自分に自信がなく、ひょっとして私...と惑い始めるところは、おいおい、と思いましたが、次第に精神状態がグラグラしていくのがサスペンスを高めていますね。

ときおり、主人公の視点ではなくて、主人公が出会う人たちの方に視点が移りますので、その人たちが偽証しているわけではないことがわかりますし、同時に、主人公が自分を見失っているだけなのかも、という不安も芽生えてきます。

ミステリとして、冷静に見てみると、ちょっとこれは無理だなぁ、と思えるのですが、登場人物の性格や小道具によって、(主人公にとって)悪夢のような状況が立ち上がってくるのが素敵ですね。

平岡敦による訳者あとがき、連城三紀彦による解説がどちらも素晴らしいので、ぜひ。


原題:La Dame dans L'auto avec des Lunettes et un Fusil
作者:Sebastien Japrisot
刊行:1966年
訳者:平岡敦

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白魔 [海外の作家 さ行]


白魔 (論創海外ミステリ 156)

白魔 (論創海外ミステリ 156)

  • 作者: ロジャー・スカーレット
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/10/01
  • メディア: 単行本




単行本です。
「エンジェル家の殺人」 (創元推理文庫)で日本で高名なロジャー・スカーレットの作品ですが、このブログで感想を書くには初めてですね。
なんとなく意外です。

『新青年』誌上へ犯人当て懸賞を付けて抄訳された「白魔」 82年の時を経て待望の完訳!

と帯にありまして、つい手に取ってしまいました。
(もっとも、スカーレットのその他の作品は全部読んでいるので、最後の1冊として手に取るのは必然だったのかもしれませんが)

非常にクラシカルなお屋敷ものですね。
1/3ほど(は、言い過ぎかもしれません。2/5ほど)進んだところ(104ページ)で、あっさり犯人の名前をケイン警視が言ってのけるケレンが楽しいですが、まあ、大した仕掛けではありません。当時は新鮮だったのかな?
お屋敷に加えて、奇矯な住人、さらには、盲人、白猫、自動ピアノと本格ミステリらしい道具立てがそろっており(政治的に正しくない発言かもしれませんが)、クラシック・ミステリ好きの方なら、来た、来たーっ、と思うことでしょう。

邦題は「白魔」ですが、原題は「The Back Bay Murders」。
Back Bay は巻末の解説によると、「十九世紀に造成された住宅街の、バックベイ地区を指しています」とのことです。
「白魔」とは思い切った訳題ですが、
「この『白魔』というネーミングには、フーダニットに特化した技巧的なパズラーでありながら、いっぽうで、蠱惑的な“怪人対名探偵”の味わいを残した原作ーーその意味では、端正な本格が中心のスカーレット作品のなかでは、異色の側面をもつーーの魅力を伝える、捨てがたい味わいがあり、スカーレットの紹介に尽力した先人への敬意を込め、今回の完訳でも、その訳題を踏襲することになりました」
と書かれています。なんかベタ褒め。
しかし、正直、「白魔」というの、ぴんと来なかったんですよね...本筋ではないですが。
訳者あとがきに
『本書のタイトル「白魔」のもととなった白いペルシャ猫』
とありますが、この猫、ちっとも魔じゃないんですよね...
カバー絵にも白い猫が書かれていますし、確かに重要な役割も果たすのですが、「白魔」のいわれは、この猫ではなくて、最終ページで語られている内容を象徴したものではないかな、と推察はするのですが(猫のことも掛けていたのかもしれませんが)、いずれにせよ、いいタイトルとは思えませんでした。

本筋と関係のないところで気になったといえば、探偵役であるケイン警視と、モーラン巡査部長の会話。
「ビーコン街の殺人」 (論創海外ミステリ)に続いての登場となるわけですが、部下であるモーランがケインに対してタメ口どころか...
「頑張って名をあげなきゃならないようだ、なっ、ケイン? また同じ顔触れでチームを組むことになるんだから」(34ページ)
が本書初登場のセリフですが、終始この調子です。
これはちょっと受け入れがたかったですね。いくらなんでも、上司にこんな口調で話す人物、ましてや警察官がいるとは思えません。
「ビーコン街の殺人」 もこんな感じでしたっけ?
記憶にありません。
訳者あとがきでも
「その巡査部長も、前作に比べると別人のようなキャラクターだ」
と書かれてはおりますが... 変なの。

大技は見られませんが、小技の組み合わせで楽しませてくれる作品だと思いました。ところどころ、無理がありますが...そこはまあご愛敬ということで...
忘れてしまっているスカーレットの他の作品、読み返してもよいかもしれませんね...

<蛇足1>
「ラブジョイは椅子に沈み込んだが、あまり関心のありそうな態度ではない。線の細い人物で、その細さが背丈を実際よりも高く見せている。あまりにも弱々しくて、本当に針金のようだ。身のこなしは機敏だが、動作がいくら静かでも、図太さのようなものは隠しきれない。のんびりとした表情にもかかわらず、その目が落ち着くことはいっときもなかった」(55ページ)
この文章の意味がわかりませんでした。
ラブジョイという人物の様子を描写しているところなんですが...
下線部分からすると、見かけによらず図太い人物だ、という風に思えるのですが、この人物ちっともそんなところがありません。なんだろうな...

<蛇足2>
「錠はかなり旧式で、鍵がなければ内側からはもちろん、外からもあけられない」(89ページ)
この文章も謎です。
外側からはもちろん、内側からもあけられない」
ならわかるのですが...



原題:The Back Bay Murders
作者:Roger Scarlett
刊行:1930年
訳者:板垣節子


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そしてミランダを殺す [海外の作家 さ行]


そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・スワンソン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/21
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
実業家のテッドは空港のバーで見知らぬ美女リリーに出会う。彼は酔った勢いで、妻ミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて当然だと断言し協力を申し出る。だが殺人計画が具体化され決行日が近づいたとき、予想外の事件が……。男女4人のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の攻防を描く傑作ミステリ!


「このミステリーがすごい! 2019年版」、2018年週刊文春ミステリーベスト10、ともに第2位です。
とてもおもしろく読みましたが、うーん、第2位になるほどのものか、と思わないでもないですね。

空港のラウンジで偶然隣り合った女性リリーに、工事業者ブラッドと不倫に走っている妻ミランダの愚痴をテッドが話し、「僕の本当の望みは、妻を殺すことだよ」と言ってみたら、リリーは「そうすべきだと思う」と応じ...
解説で三橋曉も書いているように、パトリシア・ハイスミスの「見知らぬ乗客」 (河出文庫)を思い出させるオープニングですが、「見知らぬ乗客」は交換殺人で双方向であるのに対し、この「そしてミランダを殺す」は単に妻を殺したいと思っている主人公が助けてもらう、手伝ってもらうだけという一方向(一緒に殺人計画をたてる)なので、より一層信じがたい設定ですね。
テッド、リリー双方を語り手として登場させることで、この部分をなんとかクリアしているように思いました。
さてどうなるかな、と興味を惹かれてぐんぐん読み進んでいくと、第一部の終わりでびっくり。
ああ、こう来ましたか... これは意外でした。
たぶん、「見知らぬ乗客」を連想させることを逆手にとっているのでしょうね。

このミステリ、引用したあらすじにも、帯にも書いてあるのですが「男女四人の語り」で進行します。
先入観なく読むには邪魔なコメントになってしまいますが、<伏字この四人が誰か>、というのもポイントですね。
<伏字リリー、テッド、そしてミランダとブラッドだと思うじゃないですか、普通...でも、違うんですよね。
この作品は全体を通して、リリーの物語、として成立している、と思いました。過去を振り返るシーンが結構な比重です。

意外な展開(過去の話も含め)にワクワクしながら読み進んでいったのですが、ラストがちょっとねぇ...
このラスト、この展開にしてはつまらないラストだと思いました。
なんか安っぽくなっちゃった感じがします。

あとミステリ的に不満が残るのは、殺人を犯すというのに計画が極めて杜撰なこと。
失敗してもいい、捕まってもいい、と思っているわけではないのだから、しっかり考えてもらわないと、ミステリとしてはつまらなくなってしまいますよね。いくら話の展開が重点のサスペンスだとは言っても...

不満は述べましたが、2位だと思えばこその不満、とも言えまして、読んでいる最中はどっぷり世界に浸ってしまいましたので(だからこそ、第一部の終わりでびっくりしました)、十分おもしろい作品でした。

原題はThe Kind Worth Killing。
直訳すると、殺すに値する種類(の人間)というくらいの意味でしょうか。解説でも触れてありますが。
「あなたの奥さんは、殺されて当然の人間に思えるわ」(43ページ)
というリリーがテッドに言うセリフが当てはまりますね。当然、と訳してあるのはさすがプロ、ですね。



原題:The Kind Worth Killing
作者:Peter Swanson
刊行:2015年
訳者:務台夏子












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