珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛 [日本の作家 岡崎琢磨]
珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 岡崎 琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2019/11/07
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
狭心症を発症し、突然倒れてしまった珈琲店〈タレーラン〉のオーナー・藻川又次。すっかり弱気になった彼は、バリスタである又姪の切間美星にとある依頼をする。四年前に亡くなった愛する妻・千恵が、生前一週間も家出するほど激怒した理由を突き止めてほしいと。美星は常連客のアオヤマとともに、大叔父の願いを聞き届けるべく調査を開始したが……。千恵の行動を追い、舞台は天橋立に!
2023年12月に読んだ3冊目の本です。
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように」 (宝島社文庫 )(感想ページはこちら)
に続くタレーラン6冊目。
岡崎琢磨の「珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛」 (宝島社文庫)。
このシリーズ、伸びやかに続いている印象。
今回は、タレーランのオーナーであるおじさん藻川が倒れるという非常事態。
弱気になったおじさんは、亡き妻千恵が、生前一週間も家出するほど激怒した理由を突き止めてほしいと切間美星にお願いをする。
回想の殺人ならぬ回想の失踪事件(家出事件)。
大人が家出する理由。
調べ始めるとちらつく男の影。不倫?
とこういう風に物語は流れていきます。
この謎の設定だと、どう転んでもあまりスッキリしなくなりそうなのに、きちんと着地して見せたところがすごいな、と思いました。
技巧を凝らした物語になっていまして、作りこまれた印象。
ある意味狂言回し的な存在として登場する、藻川の孫藻川小原(オハラ)などは、プロローグである老画家のシーンと並んで、キーとなる存在でしょう。
小原を登場させず、美星とアオヤマだけで探求をすすめても物語としては成立するとは思いますが、小原が登場することで ”どう転んでもあまりスッキリしない” 物語に陰影が加わったように感じます。
ただ、この小原の扱いは諸刃の剣で、全体の印象が散漫になったようにも思われます。少々欲張りすぎでしょうか。
シリーズは快調に続いていて、今のところ「珈琲店タレーランの事件簿 8 願いを叶えるマキアート」 (宝島社文庫)まで出ています。
当然買ってあります。
珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように [日本の作家 岡崎琢磨]
珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 岡崎 琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2016/11/08
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
アオヤマが理想のコーヒーを探し求めるきっかけとなった女性・眞子。11年ぶりに偶然の再会を果たした初恋の彼女は、なにか悩みを抱えているようだった。後ろめたさを覚えながらも、アオヤマは眞子とともに珈琲店《タレーラン》を訪れ、女性バリスタ・切間美星に引き合わせるが……。眞子に隠された秘密を解く鍵は――源氏物語。王朝物語ゆかりの地を舞台に、美星の推理が冴えわたる!
2021年9月に読んだ6冊目の本です。
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
に続くタレーラン5冊目。
タイトルになっている鴛鴦茶(えんおうちゃ)とは「コーヒーと紅茶を混ぜ、無糖練乳と砂糖を加えて作る香港のお茶」らしいです。帯から引用しました。
うーん、これだけだと、あまりおいしそうじゃない......
章という構成なので長編の体裁ですが、ゆるやかにつながって長編をなす連作短編集という感じでしょうか。
冒頭
「良いコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い」(12ページ)
という、タレーランの残した格言?が出てきます。
言ったのは、アオヤマの初恋の相手眞子、言われたのは中学生のアオヤマ。
この初恋の相手と再会し、まつわる謎を解いていきます。
こういう存在を美星に会わせるという流れになるのですが、なかなか難しいシチュエーションですね。
美星の謎解きの切れ味はいつも通り鋭いわけですが、美星はどちらかといえば「勘ぐる」ことで謎を解くタイプだと思っているので、恋敵?をめぐる謎はうってつけなのかもしれませんね。
ただ、このシチュエーションだからか、最後は落ち着くところに落ち着くのに、どことなく歯切れが悪いというか。
眞子の行く末と、アオヤマと美星の仲が進展したように思えることとの対比が気になってしまったからかもしれません。
シリーズは快調に続いていて、今年第7弾が出たんですよね。
当然買ってあります。読みます!
<蛇足1>
出町柳駅の説明で
「地下は京阪電鉄の、地上は叡山電鉄のそれぞれターミナルにあたる交通の要所だが」(55ページ)
とあります。
なるほどねー。確かにターミナル駅ではありますね。
ただ、個人的イメージとして交通の要所といった感じはまったくしないのですが......
<蛇足2>
「京都御苑の近くに蘆山寺というお寺があって、そこは紫式部の邸宅址なのよ。」(58ページ)
ここを読んで京都御苑かぁ、と思いました。あまりあの場所を京都御苑と呼んだことはないなぁ、という感慨。あの一帯は「御所」と呼んでいました。
<蛇足3>
「ひと月くらいかけて、世界中を回ったな。各国の評判のいいコーヒーショップを探して、二人で足を運ぶんだ。」(129ページ)
婚前旅行と称した旅の説明ですが、贅沢な旅ですね。うらやましい。
でも、こういう感じの旅作りだと、ひと月では到底世界など回れないと思いますね......
珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで [日本の作家 岡崎琢磨]
珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 岡崎 琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2015/02/05
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
「主人公はレモンが書店で爆発する場面を想像して、辛気くさい思いを晴らしたんやったな」――五年前に失意の美星を救ったのは、いまは亡き大叔母が仕掛けた小さな“謎”だった――。京都にひっそりとたたずむ珈琲店《タレーラン》の庭に植えられたレモンの樹の秘密を描いた「純喫茶タレーランの庭で」をはじめ、五つの事件と書き下ろしショート・ショートを特別収録したミステリー短編集。
読了本落穂拾いです。
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」 (宝島社文庫)
に続くタレーラン四冊目。
「午後三時までの退屈な風景」
「パリェッタの恋」
「消えたプレゼント・ダーツ」
「可視化するアール・ブリュット」
「純喫茶タレーランの庭で」
の5話に、
特別書き下ろし掌編「リリース/リリーフ」
を加えた短編集です。
シリーズ最初こそ、三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」 (メディアワークス文庫)の真似か、と軽く見ていましたが、その後着実に巻を重ねていくうちに、独自色も強く感じられるようになり、楽しめるシリーズになりました。
4冊目となる今回は純然たる短編集です。
(今までも、日常の謎を扱った短編が集まってはいたのですが、第一章、第二章という扱いになっていて、長編として読まれることを企図されていたようです)
読んだのは2017年11月ということで、今回感想を書くのにほぼ読み返しました。
第一話「午後三時までの退屈な風景」を読み返して、探偵役である切間美星のことを、いやな女だなぁ、と感じてしまいました。頼まれていない謎解き、というのはもともと出しゃばりでありますが、それにしてもこの作品の美星はやりすぎでしょう。
もっとも、この点は本作品に仕掛けられたちょっとしたお遊び(と呼んでよいと思います)の効果とも考えられます。
ミステリとしては、喫茶店の砂糖壺をめぐる謎なんですが、ミステリ・ファンにとって砂糖壺ときたら、チェスタトンであり北村薫だと思うんですね。どうしてもこれらの諸作と比べてしまう。相手にしては手強すぎる。
砂糖壺の使い方としては平凡な使い方を見せる「午後三時までの退屈な風景」は、ミステリとしては残念な仕上がりでした。
「パリェッタの恋」のタイトルに使われているパリェッタは人名で、フランシスコ・パリェッタ。「ブラジルにコーヒーノキを持ち込んだとして著名な人物」(107ページ)とのことです。
また、銀ブラについて
「銀ブラとは本来、日本の民衆にコーヒーが普及するきっかけのひとつとなった銀座のカフェーで、文化人らに愛好されたブラジルコーヒーを飲むことを意味した、という説があります」(107ページ)
ということが知れて、楽しかったです。
ミステリ的には、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した日本の某有名作品(ネタばれにつき伏せます。amazon にリンクをはっています)のバリエーション。
ちょっと最後の解釈は強引だな、と思わないでもないですが、パリェッタのエピソードが現在のエピソードと響きあるところはいいな、と思えました。
「消えたプレゼント・ダーツ」は苦しいな、と思いましたが、アオヤマくんの奮闘ぶりがほほえましい。
「可視化するアール・ブリュット」は美術大学生の話。
クロッキーに現れた小人の絵の謎というのはおもしろいですし、使われているトリックが極めて印象的なのですが、こんなにうまくいくかなぁ、という思いがぬぐえません。
「じゃあさ、凜はオレの肖像画を描ける?」(201ページ)
というセリフともに、記憶に残ると思います。
「純喫茶タレーランの庭で」は、梶井基次郎「檸檬」 (新潮文庫)を念頭に置いた作品ですが、このトリックも無理がありますねぇ。
「目立たないように細工されてはいる」(240ページ)とありますが、最初から外見でわかっちゃうと思いますよ。
また、「どれだけの時間と労力がかかったのか」(247ページ)なんてさらっと書いてありますが、いや、無理です。
とはいえ、美星をめぐるエピソードとして、寄り添ったものになっているので、さほど不満は覚えませんが。
なんだかケチばかりつけたので誤解されそうですが、楽しく読んだということははっきり書いておきたいと思います。
シリーズはこのあと、
「珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛」 (宝島社文庫)
と出ていましす。
ゆっくりとではありますが、フォローしていきます。
<蛇足>
「急用ができてどうしても一、二時間抜けなあかんくなった言うから」(26ページ)
これ、おじいさんのセリフなんですよね。
お年寄りなら「あかんくなった」とは言わないでしょうね。関西の風味を出すなら、「あかんようになった」でしょうか?
「何や胸騒ぎがする思って来てみたら」(106ページ)
というのも、できたら「思て」と促音便はやめてもらいたかったところです。
一方で、
「こんなところで何してんの、風邪引くえ!」(106ページ)
「お店に行くからはよ仕度しよし」(230ページ)
というセリフは、いかにも京都らしくていいですね。
(ただ、あまり男性が言うのを聞かない言い回しではありますが)
珈琲店タレーランの事件簿 3 心を乱すブレンドは [日本の作家 岡崎琢磨]
珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 岡崎 琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2014/03/24
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
実力派バリスタが集結する関西バリスタ大会に出場した珈琲店《タレーラン》の切間美星は、競技中に起きた異物混入事件に巻き込まれる。出場者同士が疑心暗鬼に陥る中、付き添いのアオヤマと犯人を突き止めるべく奔走するが、第二、第三の事件が……。バリスタのプライドをかけた闘いの裏で隠された過去が明らかになっていく。珈琲は人の心を惑わすのか、癒やすのか――。美星の名推理が光る!
タレーラン三冊目です。
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)
と違い、今度の「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」は、1冊で1つのお話です。連作長編ではなく、長編になりました。
殺人こそ起きませんが、関西バリスタ大会を舞台に、密室事件(!) を取り扱った、きわめてミステリ色の強い1冊です。意外...
一般公開されているバリスタ大会って、ミステリの舞台には扱いづらいんじゃないだろうか、と余計な心配をしましたが、あれこれ作り込まれていて容疑者はちゃんと限定されていきます。
この舞台設定、作者は楽しみながら作り上げられたんじゃないでしょうか? 大会の様子、読んでいて楽しかったですよ。
事件は、僕・アオヤマが監視している状況下でもおきまして、その結果、関係者一同の面前で美星から「怪しい」と指摘される始末。もちろん、美星がアオヤマのことを本気で疑ったりするはずもありませんが、ニヤリとできます。
また、前2作ではコーヒーに関する薀蓄がいかにも薀蓄のための薀蓄だったのに対し、今回は事件の要素としてなんとか溶け込んでいます。事件そのものが、コーヒーを淹れることと密接にかかわっているのがよかったんでしょうね。
問題は、犯人と動機と犯行がちょっとちぐはぐな点でしょうか。この動機だったら、この犯人はこういう犯行はしないのではないでしょうか? こちらがそう思い込んでいるだけで、実際はしてしまうのかもしれませんし、こちらがそう信じたいだけなのかもしれませんが。
疑問や難点は多々ありますが、ミステリ方向へ大きく一歩踏み出した感がありますので、応援していきたいです。
<蛇足>
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」で気になった、第1作との人物設定の食い違いはそのままで、第2作を踏襲して、この「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」は書かれているようです。
こちらの読み方がおかしいのかな?
それにしても、アオヤマと美星の関係、ちっとも進展しませんねー。
珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る [日本の作家 岡崎琢磨]
珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)
- 作者: 岡崎 琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2013/04/25
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
京都の街にひっそりと佇む珈琲店〈タレーラン〉に、頭脳明晰な女性バリスタ・切間美星の妹、美空が夏季休暇を利用してやってきた。外見も性格も正反対の美星と美空は、常連客のアオヤマとともに、タレーランに持ち込まれる“日常の謎”を解決していく。人に会いに来たと言っていた美空だったが、様子がおかしい、と美星が言い出して……。姉妹の幼い頃の秘密が、大事件を引き起こす!
喫茶店タレーランシリーズ第2弾です。
第1作「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)の感想をかいたとき(リンクはこちら)、「「ビブリア古書堂の事件手帖」 (メディアワークス文庫) のエピゴーネン」という趣旨のことを書きました。
その後「オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店」 (メディアワークス文庫)(感想へのリンクはこちら)を読んで、ああ、エピゴーネンとは、この「オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店」のことを言うのだ、「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 はエピゴーネンとしてもまだまだかわいかったな、と反省しました。
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 と「オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店」の両方とも「ビブリア古書堂の事件手帖」 のエピゴーネンではありますが、振り返ってみると「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 には独自性を出そうという意志が感じられたのです。
今回第2作の「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 を読んで独自色が強くなっていることを確認しました。
今回は、美星の妹・美空が登場し、暴れて(?) くれます。
登場する「第二章 狐の化かんす」がまず印象的ですね。
伏見稲荷と京都駅に同時刻に現れた少年、の謎解きは、くだらない、という読者もいらっしゃるかもしれませんが、こういうの好きです。
そしてそれが、美空のキャラクターを印象付けるのにも役立っている。
怪しげな断章が挟まれていくので、作者はなにかたくらんでいるのだな、と推察できて、その仕掛けもまあ他愛のないものではありますが、こちらも美空のキャラクターと関連付けがちゃんとできている。
細かい日常の謎的事件の積み重ねが、探偵自身(とその妹)の事件として立ち上がってくるという構図は、なかなか良いではありませんか。探偵の家族にまつわる事件なので、探偵・美星は語り手の「僕」の知らないデータを知っているわけで、フェアな謎解き、というわけにはいきませんが、本格謎解きを目指した作品ではありませんし、真相自体もなんとなく予想できる範囲内ですし(なので意外性はありません)、この作品はこれでいいのではないでしょうか。
実は第1作と人物設定に食い違いがあるように思えるところがあって気になったのですが、今後も毎回ちょっとずつ設定が食い違っていったら、それはそれでおもしろいなぁ、なんて考えてしまいました。
京都を舞台に、似ているけれど毎回ちょっとずつ設定の違う主人公たちが登場する一種のパラレルワールドみたいな世界??
進化を確かめに、第3作「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」 (宝島社文庫)もいずれ読んでみようと思います。
珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を [日本の作家 岡崎琢磨]
珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 岡崎 琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2012/08/04
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり――。軽妙な会話とキャラが炸裂する鮮烈なデビュー作。
一気に出版された「このミス」隠し玉4冊も、
「Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件」 (宝島社文庫)
「保健室の先生は迷探偵!?」 (宝島社文庫)
「公開処刑人 森のくまさん」 (宝島社文庫)
と順調に(?) 読み進んできて、この
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)
でいよいよ最後です。
隠し玉4冊の中では一番評判がよいみたいで、売り上げも伸びているらしく、もうすでに続編「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫) が出ています。
しかし、長いタイトルですねー。
副題を除くと、「珈琲店タレーランの事件簿」 となりまして、「ビブリア古書堂の事件手帖」 (メディアワークス文庫) を連想させます。
土地を鎌倉から京都へ移し、舞台を古本屋さんから喫茶店に変えるとこの本ができあがります、そう言いたくなるくらい似通っていまして、女性店主と男性店員の関係が、女性バリスタ(従業員)と男性客の関係に置き換わっていますが、日常の謎を女性サイドが解きつつ、二人の仲が進んでいく、というのも同じパターン。
「ビブリア古書堂の事件手帖」 シリーズの方は古書・本に関する薀蓄が単なる彩りを超えた意味合いを持っているのに対し、「珈琲店タレーランの事件簿」 の方はコーヒーに関する薀蓄はさほど意味がない、というあたりが違いでしょうか。これは、もう、立派なエピゴーネン??
連作短編集のようなかたちをとっていますが、目次を見れば、第一章、第二章...となっていまして、長編として読まれたい作品のようです。
ということで、個々の軽めの日常の謎はそれなりだとして(あくまで、それなり、です)、女性バリスタ・切間美星と主人公の関係性が本書の最大の焦点ということになります。
好みの問題になりますが、この2人のキャラクターが好きになれなかったことに加え、あまり好きなラストではありませんでした。うーん。作者の狙った意外性の演出が、個人的にはマイナス方向に作用しました。この方向での意外性を目指すのであれば、視点のとり方とか人物の紹介の仕方とかを違ったものにしてほしかったです。
また副題の「また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 というのは、相応に考えられたものであることがわかるのですが、その意味をしみじみと味わう、というようにならなかったのが残念です。
ところで、「日本ではブラックといえば、砂糖もミルクも加えられていないストレートのコーヒーを指す場合が多い。アメリカを含む外国では、コーヒーの色がブラックであること、すなわちミルクの有無のみを表すのだ」(P95)って、本当ですか? 「アメリカを含む外国では」と日本以外(の英語圏)をぜーんぶまとめて言い切れるのでしょうか? イギリスでもそうだったかなぁ、と悩んでいます。
ここまでが3月に読んだ本です! ようやくここまで来ました。
次からは、4月に読んだ本の感想になります。
<2,023年末い追記>
この感想では、エピゴーネンと失礼なことを書いておりますが、
第2巻である「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)以降撤回し、評価を変えてきております。念のため。