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殺しのリスト [海外の作家 は行]


殺しのリスト (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

殺しのリスト (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2002/05/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
〔殺し屋ケラー・シリーズ〕殺しの依頼を受けたケラーは空港に降り立った。迎えの男が用意していたのは車とピストル、そして標的の家族写真だった──。いつものように街のモーテルに部屋をとり相手の動向を探る。しかし、なにか気に入らない。いやな予感をおぼえながらも“仕事”を終えた翌朝、ケラーは奇妙な殺人事件に遭遇する……。巨匠ブロックの自由闊達な筆がますます冴えわたる傑作長篇ミステリ。


2022年8月に読んだ11作目(冊数でいうと12冊目)の本です。
ローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズ2冊目で、長編です。
このシリーズは
「殺し屋」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのパレード」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋ケラーの帰郷」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
と5冊刊行されています。

ずいぶん久しぶりのシリーズ読書になるのですが、前作である第1作の「殺し屋」のことはまったくと言っていいくらい覚えていません。まあ、これは記憶力のなさからくるもので、いつものことですが。
いったいいつ読んだんだろうと思って手元の記録を見返してみたところ、2001年の1月でした。なんと20年以上前。

殺し屋が主人公といっても、派手にドンパチするのではありません。
非常に淡々。プロフェッショナルというのはこういうものなのかもしれませんが。
そうですね、物騒な職業ではありますが、「殺し屋ケラーの穏やかな日常」とでも言いたくなるような佇まいの作品です。
ケラーは、占い師から
「でも、あなたの人生には実に多くの暴力が存在している」
「それでいて、あなたは思慮深く、神経が細やかで、おだやかな人なんだから。」(184ページ)
と言われることからも、想像できるかもしれません。
こういったケラーの性格が大きな読みどころにつながっています。

この「殺しのリスト」は長編とされていますが、訳者あとがきに
「実は、本書は上梓されるまえにその一部が短篇として“切り売り”されている」
と書かれていまして、中のエピソードは取り出して短篇ともいえる作りになっています。

それぞれのエピソードの背後に、長編として全体を支えるストーリーが展開されています。
それが、ケラーが何者かに狙われているのではないか、というお話。

個々のエピソードもおもしろいですし、全体に流れるストーリーもおもしろい。
さすがはローレンス・ブロック。職人芸がさえていますね。

個々のエピソードにおいては、ケラーが自らに課していると思われるルールに反し、関係者と深入りしてしまったりしているのが見どころでしょうし、ケラーがなんと陪審員に選ばれるというのも楽しい。

カバー袖の登場人物紹介に「殺しの元締め」と書かれているトッドと、ケラーのやりとりが頻繁に挿入され、個々のエピソードや全体のストーリーに関して考察していく部分もとてもおもしろいです。
トッドの言動も本書においては大きなポイントとなっています。

なんといっても殺し屋が主役ですから、物騒な話なんですが、ケラーも、作者のブロックも、肩の力がぬけているような感じが心地よい。
上述のとおり、ずいぶん長い間積読にしてきましたが、読むピッチを上げて読んでいこうかな、と思いました。



<蛇足1>
「一ブロック離れたところにポーランド料理店があり、そこでボルシチとピロシキを食べ、頼まないのに持ってきたグレープのクールエイドを飲んだ。」(110ページ)
東欧、ロシアの料理は共通点も多いと思われるので、ボルシチとピロシキがポーランド料理店で出てきても驚くことではないのでしょうね。


<蛇足2>
「でも、公判になっても週末は休みなんでしょう?」
「金曜日の午後から月曜日の朝までは」
「隔離されなければ」
「陪審員を毎晩缶詰めにするような類の裁判だと」「陪審員の選出に一週間はかける。」(352ページ)
上の本文にも書きましたが、作中ケラーが裁判の陪審員に選ばれるという驚きの展開になります。
陪審制度自体、ミステリで読むだけで具体的には知らないのですが、週末休みとかあるんですね。まあ、そうですよね、市民の義務とはいえ拘束というのは限定的でないと困りますよね。

<蛇足3>
「翌朝九時、ケラーは幸運な十三名とともに陪審席に坐っていた。」(357ページ)
あれ? 陪審員は十二名なのに、と一瞬思ったのですが、自らの勘違いに気づいて苦笑しました。
「陪審員十二人と補欠ふたり」(347ページ)とわずか10ページ前に書いてあったというのに。

<蛇足4>
「あるホテル・チェーンがほかのチェーンから一軒だけ引き抜いて、自分のチェーンに加えるというのは、どういうことなのか。ホテル業界というのはずいぶんと勝手気ままなことをしているように思われた。」(394ページ)
それほど勝手気ままなことだとも、奇妙なことだとも思わなかったのですが....

<蛇足5>
「ホッケーなんて嫌いだった。でも、ハットトリックが何かってことは知ってる。一試合で三つのゴールを決めることでしょ? 同じ選手が」(533ページ)
ハットトリックという語はサッカーで覚えた語ですが、サッカー以外の競技でも言うのですね。




原題:Hit List
作者:Lawrence Block
刊行:2000年
翻訳:田口俊樹





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コメント 2

トモ

私のご贔屓の海外の作家の内の一人、ローレンス・ブロック。
特に、マット・スカダーシリーズを愛読しています。
そのローレンス・ブロックの殺し屋ケラーシリーズの1篇「殺しのリスト」の感想を述べられていますので、コメントしたいと思います。

この「殺しのリスト」は、「殺し屋」に続く、殺し屋ケラーシリーズの第2弾ですね。
一見、ごく普通のサラリーマンのように見えるケラー。
普段の生活は、ごくごく常識的で、趣味は切手蒐集で、ドットから仕事の連絡が入ると、まるで普通のサラリーマンが出張に行くかのようにして出かけていくんですね。

非情な殺し屋というイメージからは程遠いのに、仕事は完璧にこなすケラー。
仕事ぶりだけを見ていると、殺し屋という稼業は、ケラーにとって天職だと思えるのに、普段はまるでそういう人物ではないのが可笑しいですね。

ケラーにほとんど目立った特徴がないという辺りで、スパイにも向いているのかもしれないと、ふと思ったのですが、本当に実在する殺し屋も、もしかしたらケラーのような、ごく普通の人物なのかもしれません。

噛み合っているような、噛み合っていないようなといった感じの、ドットとの会話も、実に楽しいですね。

長編と言いつつも、前半はまるで連作短編集のようだったのは、実際に短編として雑誌に掲載されていたからなのですね。

前作「殺し屋」の方が切れが良かったような気がしますし、マット・スカダーシリーズや泥棒バーニー・シリーズに比べると、まだまだ役不足といった感もありますが、やはり面白かったですね。
by トモ (2023-05-23 22:54) 

31

トモさん
コメントありがとうございます。
ローレンス・ブロックいいですよね。
マット・スカダーもいいですし、泥棒バーニーもおもしろい。
このケラー・シリーズは、凄腕作家の余技みたいな風情が漂うところがなんともいえず心地よいです。

またよろしくお願いします。
by 31 (2023-05-25 08:06) 

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