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セピア色の回想録:杉原爽香<49歳の春> [日本の作家 赤川次郎]


セピア色の回想録 (光文社文庫)

セピア色の回想録 (光文社文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/09/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大富豪・三田村朋哉は、孫娘の奈美に、遺産を渡したい人物として杉原爽香の名前を挙げる。以前、爽香によって助けられたことがあるらしいが、当の爽香にはさっぱり覚えがない。一方、娘の珠実は中学一年に。放課後に担任・里谷美穂の手伝いをしたおり、コピー機に置き忘れられた書類に気付き、里谷に預ける。だがその夜、里谷から不可解な内容のメールが届き、彼女は襲われてしまう。


2023年4月に読んだ2冊目の本です。
シリーズも第35弾で、爽香はもうすぐ50歳!。

冒頭、いきなり爽香が息を引き取るシーンでスタートするので何ごとかと思いますが、これは中学生の珠実が書いた作文。
「当たり前のお母さんを書いても面白くないと思った」(13ページ)という明男の解釈もありますが、これは無理ですね。

無理と言えば、今回の五十歳マイナス一歳のお祝いの会、というのは無理があります。いくら大女優・栗原英子のご発案とはいえ。
五十歳を避ける、あるいは四十九歳とは呼ばない、大義名分があればよいのですが、それも設定されていません。手抜き?(これ、次作のネタにすればよくて、何も今回使う必要はなかったのでは? とも思ってしまうんですよね)

事件は、珠実の学校の先生が主体のもので、特に爽香の誕生パーティとリンクするものではありません。
もう一つのエピソードとして、爽香に遺産を残そうとする富豪というのがありますが、こちらは一応絡んできます。
いずれも、爽香にまとわりつくように展開してくところはさすが赤川次郎、というところなのですが、いかんせん現実離れした感じが拭えないのが残念です。

また、これもいつものことで、爽香が他人のことにどんどん介入していき、一応の決着を見せるのですが、
「いずれ立ち直りますよ、どちらも」(292ページ)
という爽香のセリフをどう受け止めるかで読後感が変わってくるような気がしました。


<蛇足>
「爽香がレポート用紙を手にして怖い声を出した。」(12ページ)
冒頭、珠実の作文を見つけた爽香というシーンですが、珠実の中学校の課題の作文はレポート用紙に書くのですね。
昔は作文は縦書きで提出すべしという感じでしたが、時代が変わったのでしょうね。




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リアルの私はどこにいる? [日本の作家 森博嗣]


リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side? (講談社タイガ)

リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/04/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ヴァーチャル国家・センタアメリカが独立した。南米の国や北米の一部も加え一国とする構想で、リアル世界とは全く別の新国家になるという。リアルにおける格差の解消を期待し、移住希望者が殺到。国家間の勢力図も大きく塗り替えられることが予想された。
そんなニュースが報じられるなか、リアル世界で肉体が行方不明になりヴァーチャルから戻れない女性が、グアトに捜索を依頼する。


2023年4月に読んだ1冊目の本です。
森博嗣のWWシリーズの、
「それでもデミアンは一人なのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「神はいつ問われるのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「キャサリンはどのように子供を産んだのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「幽霊を創出したのは誰か?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「君たちは絶滅危惧種なのか?(講談社タイガ)(感想ページはこちら
に続く第6作です。


ずっと、リアルだバーチャルだという風に物語が展開してきたので、「リアルの私はどこにいる?」 (講談社タイガ)というタイトル自体が不穏で恐ろしい気配。
同時にヴァーチャル国家というものがうごめき始めます。
急展開、ではないかもしれませんが、なかなかに物語が大きく転回していっている気配。

リアルの肉体が行方不明で、ヴァーチャルからリアルに戻れない、というのはぱっと考えても恐ろしいのですが、それはリアルを主と考えているから、なのでしょう。

「そもそも、リアルからヴァーチャルへ個人をシフトさせる試みが、最近話題になっているところだ。それはまだ『先進的』な行為として一般には認識されている。」(32ページ)
というレベル感ではあるものの、リアルからヴァーチャルへのシフトはあちこちで進んでいるような雰囲気ですし、

「もし、ウォーカロンが代替ボディとして使われたとすれば、これは世界的な事件といえるかもしれない。」(60ページ)
「以前から、そうだね、五年ほどまえから考えていた。人がヴァーチャルへ生活の主体をシフトするようになれば、逆に、リアルでは別のボディを受け皿にしたニューライフが登場するんじゃないかって。」(62ページ)

なんて考察をグアドがするくらいには物事は進んでしまっているようです。

「ヴァーチャルでのみ存在する人格というものを、一個人と認めて良いのか、という問題に行き着くのかもしれない。リアルでは、個人は躰の存在で区別ができる。その境界は皮膚の外側であり、思考は頭蓋の中で実行されている。内と外が明確だ。したがって、個人を明確に一人と数えることができる。
 ヴァーチャルへシフトした個人は、このように区別できる存在だろうか?」(81ページ)
もはやここまでくると、個人を超えて、人とは何か、ということになりますよね。
リアルからヴァーチャルへシフトした結果であれば、もともとはリアルの人間だった、という認識が可能ですが、そもそもヴァーチャルから生み出されたヴァーチャル個人であれば、そもそも人間として認めるのかどうか。

「そもそも人間のインスピレーションというものは、人工知能が最も欲しがる能力であり、各方面から研究が進められている。現代では、その半分ほどは起動のメカニズムが解明され、人工的な再現も可能となりつつある。いずれそのうち、人工知能も人間と同様に連想し、発想し、予感し、突飛なことを思いつくようになるはずだ」(142ページ)
インスピレーションまで人工知能が駆使するようになれば、ますますリアルの人間との差はなくなっていきそう。
これらすなわち、人工知能も人間と同等と捉えるのか、ということの壁がどんどんなくなっていく、ということですね。

ヴァーチャル国家というものも、そもそも不穏に感じてしまいますが、ヴァーチャルでも人として認識するのであれば、当然ながら国家もそれを束ね、表象する存在として存在しなければならないのでしょうね。

「戦い? リアルで戦争になる?」
「可能性があります」(146ページ)
なんて物騒な展開になります。
ヴォッシュ博士が
「暴力というものは、リアルに未練がある精神の発想だ。リアルから逃れるのは、暴力を嫌い、争いごとから離れたいことが主な動機になっているはずではないか」(156ページ)
と考えたりもしますが、そもそも存在を脅かされるような状況であれば、ヴァーチャルであれリアルであれ、暴力に訴えざるを得ない局面は想定されるということでしょう。

枠組みとして大きく転回しているように思えますが、もちろんこれらのステップは、真賀田博士の想定内であるはず。

「博士が考案したとされている共通思考なるシステム。実際にどこで稼働し、何を目的にしているのかは、今のところ謎に包まれている。」(63ページ)
「ただ……、おそらく今は、自力で成長している段階なんだろう。鳴りを潜めている。表に出てこないというだけ」(63ページ)
「でも、グアトは、その共通思考が人類に不利益をもたらすものだとは考えていませんよね?」
「そう、私は、マガタ・シキという才能を信じている。これには、理由はない。完全に宗教だね」(63ページ)

宗教という語が出てきましたが、Wシリーズ、WWシリーズは、畢竟、マガタ・シキを信じる物語なのだと思っているので、違和感はありません。

「人間は、今や死を迎えない。それに比べると、ロボットは劣化し、いずれは旧型となって廃棄される。これは、人間以上に生物らしい。」(263ページ)
人間が死ななくなると、確かにこう考えることもできるでしょう。
ロボット、人間、ウォーカロン、そしてヴァーチャルの人間と敷衍していって、
「共通思考でマガタ・シキが見据えた未来は、きっとそれらがすべて同じ生命となったさきのことにちがいない。」(263ページ)
と結論づけるグアドの論考は、当然の帰結なのかもしれません。


いつものように英語タイトルと章題も記録しておきます。
Where Am I on the Real Side?
第1章 私はどこにいるのか? Where is my identity?
第2章 私の存在とは何か? Whaat is my existence?
第3章 存在の根源とは? The origin of existene?
第4章 なにも存在しなければ? What if nothing exists?
今回引用されているのは、ダン・ブラウンの「ロスト・シンボル」 (角川文庫)です。



<蛇足1>
「監視されている方が安全です。ガードしてもらっていると考えれば、晴れやかな気持ちになれます」(112ページ)
ロジのセリフです。
なんだか楽しくなってきます。

<蛇足2>
「一フィートを〇・五ミリにする比率は、さきほどの数字、 六十五万八千五百三の三乗根の、ほぼ七倍になります」
「 六十五万八千五百三は、三かける二十九、八十七の三乗です」(221ページ)
漢数字というのはつくづく読みにくいですね。馴れの問題なのでしょうか?
「一フィートを三・五ミリに縮小するのは、ドイツで発明されたミニチュア・モデルでは一般的で、世界のほとんどの国が、この縮尺を採用しています」(222ページ)
というのはおもしろい豆知識ですね。

<蛇足3>
手元にある、2022年4月15日第1刷版では、上で引用したように、あらすじには「センタアメリカ」と書かれていますが、本文中は「センタメリカ」です。








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GOTH番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻 [日本の作家 あ行]


GOTH番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻 (角川文庫)

GOTH番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻 (角川文庫)

  • 作者: 乙 一
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
12月のある日の午後。森野夜は雑木林の地面に横たわっていた。死や恐怖など、暗黒的な事象に惹かれる彼女は、7年前、少女の死体が遺棄された場所に同じポーズで横たわって、悪趣味な記念写真を撮るつもりだった。まさかそこで出会ったのが本物の殺人犯だとも知らず、シャッターを押してほしいと依頼した森野の運命は? 「なぜか高確率で殺人者に出会い、相手を魅了してしまう」謎属性をもつ少女、森野夜を描いたGOTH(ゴス)番外篇。


2023年3月に読んだ最後の本です。わずか6冊しか読めませんでした。低調。
これは、乙一「GOTH―リストカット事件」(角川書店)の番外編という位置づけのようです。

本書成立の経緯はあとがきに書かれていますが、「GOTH―リストカット事件」が2008年に映画化された際、それと連動する形で新津保健秀による写真集「GOTH モリノヨル」が出版され、そのときに寄稿されたものを独立して文庫化したものとのことです。

ちなみに「GOTH―リストカット事件」は文庫化に際して以下の2分冊となっています。表紙がかっこいい。

GOTH 夜の章 (角川文庫)GOTH 僕の章 (角川文庫)

GOTH 夜の章 (角川文庫)
GOTH 僕の章 (角川文庫)

  • 作者: 乙一
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/06/25
  • メディア: 文庫


登場人物が極めて少なく、女子高生の死体遺棄現場である落葉樹林を主要舞台に、なんともいえない不思議な物語が展開されます。
主人公(?) である森野という高校生の少女(?) の設定が ”変” なのですが(それを言うと、全登場人物が ”変” ですが)、この味わいをしっかり感じ取るには本編を読んでおいた方がよいと思いました。
一方で、予備知識なく番外編であるこの「GOTH番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻」 (角川文庫)をいきなり読んだときにどういう感想になるか気になるところです。
それはそれで楽しい読書体験のような気もします。

いつものように乙一は、ジャンルの壁を軽やかに越えて、独特の世界観に引き込んでくれます。
この ”境地” と呼びたくなるような独特の世界観を表現する語彙を持ち合わせていないのが残念ですが、緊迫感なく緊迫感、(変な表現ですが)といった風情を感じます。

乙一は別名義での作品が多くなり、乙一名義の作品は少なくなっていますが、また乙一名義のものでも楽しませてほしいです。




タグ:乙一
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セオイ [日本の作家 さ行]


セオイ (ハヤカワ文庫JA)

セオイ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 丈 武琉
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「セオイ」──それは、悩める人々が最後に頼ると噂される謎の伝承技である。技の使い手の鏡山零二と助手の美優は、西新宿の裏路地に居を構え、人知れず老若男女を救っていた。だがある時、有名作家の事故死との関連でベテラン刑事に目をつけられ、執拗につきまとわれる。必ずしも無関係とは言いがたいのだが……。鏡山はやがて、美女連続殺人事件に絡んだ恐ろしい陰謀の渦中にのみ込まれていく──衝撃のデビュー長篇!


2023年3月に読んだ5冊目の本です。
丈武琉の「セオイ」 (ハヤカワ文庫JA)
第3回クリスティー賞の候補作が出版されたもの。
ちなみにこのときの正賞は三沢陽一「致死量未満の殺人」 (ハヤカワ文庫JA)(感想ページはこちら)。

冒頭、鏡山零二が新宿駅で、周囲から作家の堀井次郎だと指摘されつつ、飛び込み自殺をします。
ところが続く第一章では、鏡山零二は「セオイ」の事務所で「背負い人」として登場。
あれ? 冒頭のシーンと時点が違うのかな? と思っていると、「セオイ」の事務所のテレビで、新宿駅で絵作家の堀井次郎が電車に轢かれて死亡したというニュースが流れる。

読者はよくわからない状態にさらされますが、次第に「セオイ」の説明とともに事情が明かされていきます。
この人の人生を “背負う” という設定が魅力的で、引き込まれてとても楽しく読みました。快作だと思います。

登場人物たちも興味深かったです。
背負われる人たちの物語も魅力的に思えました。
震災後の写真を撮る写真家のセリフ
「あの子は両親を亡くしておばあちゃんと二人で暮らしている。あんたが抱き上げた女の子は父親と姉さんが津波に飲まれて遺体も出ていない。さっき集まった子供達の誰もが、何かしらを失っているんだ。子供ってそういうことにじっと耐える。大人みたいに器用に言葉にできないし泣けない。心が砕け散りそうでも愚痴ひとつ言わない。」(162ページ)
が印象的でした。ありふれた意見かもしれませんが、折々思い返すべき言葉のような気がします。
これ以外の物語も様々です。
いろいろなエピソードを盛り込めるので、これをメインに据えた連作も作れそう。

背負い人である鏡山零二と赤星美優の関係性もおもしろかったですし、他人の人生を背負うという物語が、次第に背負い人鏡山零二自身物語になっていく展開もよかった。

ただ、物語の終盤で、この設定がよくわからなくなった、というか、「セオイ」で何ができて何ができないかが物語に都合よく後出しジャンケンされたような気になりました。
「セオイ」同士の対決的物語へと至るので、通常モードの「セオイ」と、プロ対プロとしての究極の「セオイ」とは違うのだ、ということかもしれませんが、このあたりを事前に説明しておいてもらえればいっそう感心できたのにと少し残念。
それでもとても面白い作品でした。

このときは正統派本格ミステリ「致死量未満の殺人」が受賞作でしたが、この「セオイ」 (ハヤカワ文庫JA)のような作品が受賞してもおもしろかったかも、と思えました。



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花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮 [日本の作家 は行]


花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 春坂 咲月
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/11/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
仙台の夏の夕暮れ。篠笛教室に通う着物が苦手な女子高生・八重はふとしたことから着流し姿の美青年・宝紀琥珀(とものりこはく)と出会った。そして仕立屋という職業柄か着物にやたらと詳しい琥珀とともに、着物にまつわる様々な謎に挑むことに。ドロボウになる祝着や、端切れのシュシュの呪い、そして幻の古裂《辻が花》……やがて浮かぶ琥珀の過去と、徐々に近づく二人の距離は果たして──? 第6回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作。


2023年3月に読んだ4冊目の本です。
第6回クリスティー賞優秀賞受賞作。
このときの正賞は受賞作なしでした。

あらすじから、またもや日常の謎かぁ、と思いました。正直、食傷気味なので。
篠笛教室に通う女子高生が主人公。そこで出会う和装の美形が探偵役、というのも型どおり。
着物を題材にしたのは目新しく面白く感じましたが、柄の扱いという方向だと「こじつけ」感が出てきてしまいますね。
普通は禁じ手だけど逆の意味が込められている「吉祥柄として尊ぶ人がいる一方で、縁起が悪いといって忌避する人もいる。そういう柄です」(149ページ)なんてパターンが出てくると、素人にはまったく判断がつかないし、興趣がわくという風にはなりません。
「着物は雄弁なんですよ」(86ページ)
という極めて印象的な好セリフがあるのですが。
まあ、蘊蓄ミステリで、そういう楽しみ方をすべきなのでしょう。

後半は物語のトーンが変わって、辻が花をめぐる騒動(?)となります。
したがって本書「花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮」 (ハヤカワ文庫JA)は日常の謎とはいいがたい構成になっています。

《辻が花》は
「露草の汁で下絵を描き、下絵に沿って並み縫いをして、その糸をぎゅっと絞る。出来上がった帽子ふうの突起は、中に染料が入らないように、さらにビニールで──昔は竹で──覆う。それを染料に浸してもう一度ほどくと、覆われていた部分が白く残る。それが《縫い締め絞り》の染色技法だ。そうやって染められた平織の布に、描絵や摺箔、刺繡などを加えたものが《辻が花》なのである。」(194ページ)
と説明されているのですが、同時に
「実は近現代の研究で、本来の《辻が花》とは、縫い締め絞りではなかったことが指摘されているんです」(197ページ)
とも言われて混乱します。

古裂コレクターの間で、主人公である八重の家に《辻が花》の古裂があるという噂が立ったことがある、とか、八重が「辻が花の娘」と父親や周りから言われていた、とか、怪しいコレクターがうごめく、八重自身の事件ともいうべき話へと進化していきます。
主人公自身の事件と絡めて、《辻が花》の真の正体をさぐる物語なのか、と予想して読み進むことになります。

主人公自身の事件となる流れ自体は王道なのでこれでよいと思うのですが、そのせいで《辻が花》の正体を探る物語としての性格がぼやけてしまったように思います。
そのため、明かされる真相が意外なはずなのに意外感がないのが不思議です。

日常の謎仕立ての前半と、主人公自身の事件の後半が分離してしまっている点は、巻末の選評で選考委員が指摘しています。探偵役の紹介、推理能力のお披露目という位置づけもあるのだと思いますが、さほど効果的とは思いませんでしたし、本書はそういう段取りが必要な設定となっていないのが気になります。
前半の謎解きに使っている要素が後半に響いてくると面白かっただろうなと感じました。

と全体として批判的な感想になってしまっていますが、この作者、複数の登場人物を重層的に絡め合うことに長けていらっしゃるようにお見受けしましたので期待しています。


<蛇足1>
「マフラーはどんどん伸びていく。まるで増え続ける借用証書みたい。」(179ページ)
マフラーを伸びていく様を借用証書に譬えるでしょうか? なかなかイメージがわきません。
それにこの譬え、高校生が使うのですが、あまりにも似つかわしくなくてびっくりしました。

<蛇足2>
「──RAY、英語のレイがフランス語の発音だとヘになるんだよ」(188ページ)
RAY、フランス語でも「へ」にはならないように思うのですが。
いわゆる「口蓋音」というのでしょうか? フランス語のRはとても発音が難しく、日本語の「ラ」行の音とは似ても似つかない音ではありますが、「ヘ」とは程遠い気がしてなりません。

<蛇足3>
「もじもじしていると、琥珀さんはしゅっと膝行して」(369ページ)
「膝行(しっこう)する」って初めて見た気がします。意味はすぐにわかるんですが。




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起爆都市 県警外事課クルス機関 [日本の作家 か行]


起爆都市 県警外事課クルス機関 (宝島社文庫)

起爆都市 県警外事課クルス機関 (宝島社文庫)

  • 作者: 柏木 伸介
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/06/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
違法捜査の数々で交番勤務に配置換えされていた公安警察の来栖惟臣は、警備部長の厚川から呼び出しを受ける。対立が激化している米中両国の動向を探ってほしいという。調査を始めた来栖は、一連の事件の背後に、違法ドラッグで荒稼ぎをしている横浜の半グレ組織の存在があることに気付く。一方、《マトリの疫病》と呼ばれる女性麻薬取締官もまた、組織を摘発するため内情を探っていた──。


2023年3月に読んだ3冊目の本です。

第15回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞した「県警外事課 クルス機関」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作。
作風的に好きだったので、こちらも手を取ることに。

前作「県警外事課 クルス機関」を読んだ際にも感じたことなのですが、やはり、クルス機関=来栖惟臣個人という設定には違和感を禁じ得ません。

この「起爆都市 県警外事課クルス機関」 (宝島社文庫)にはもうひとりはみ出し者が出てきます。
麻薬取締官の鬼塚瑛里華。《マトリの疫病》と呼ばれている、と。
こちらのキャラクターも作りすぎで、かつ、ありきたり。
これ、苦笑する読者もいらっしゃると思うんですよね。

いろいろな利害関係人が交錯する複雑なプロット(なにしろ、麻薬だ暴力団だ半グレだというのに加えて、米中の諜報機関が出てきます。さらには警察内部の確執まで)なのに、来栖の勘がよすぎて少々興ざめなところはありますが、こういう傾向の作品は大好きで、楽しく読んでしまいました。
欠点は多い作品だと思うのですが、個人的には十分あり、です。
なによりスピード感あふれるサスペンスが持ち味ですよね。

個人的に気に入ったのは、矢代(やしろ)祐輝。
IT企業に勤めたもののパワハラ上司を殴って首になり、誘われた半グレ集団《ヨコハマ・カルテル》主催のパーティで居心地悪く感じていたところを鬼塚にスカウトされてマトリのS(情報提供者)となり《ヨコハマ・カルテル》に潜入している。
矢代くんが幸せになるといいな、と思って読み終わりました。
彼の今後が気になります。

ところで、冒頭
「《ひっかけ橋》──ナンパ/スカウト/キャッチの聖地」(8ページ)
というところではなんとも思わなかったのですが、その後
「鬼塚の視線は、橋上を交差する人々に向けられたままだ──無数のサラリーマン/学生風/チンピラ紛い」(8ページ)
「何らかの取引をしていないか/売人(プッシャー)はいないか、マトリ──麻薬取締官の習い性だ。」(9ページ)
「いつもと変わらぬアーミールック。緑色のフィールドジャケットM・六五/コンバットパンツ/編み上げのブーツ」(9ページ)
「後ろに、二人の男を従えていた。よく似ていたが、一人は少し瘦せ型/一人は少し肥満。」(13ページ)
と矢継ぎ早に繰り出してくる「/」の使い方が気になりました。このあとにも数えきれないほど出てきます。これ、小説の文章としてどうなのでしょうか?
前作「県警外事課 クルス機関」で同様の使い方がされていたのか未確認なのですが......


<蛇足>
「大哥大(タイコータイ)!」
 大哥大──大兄貴。劉永福(リイウ・ヨンフー)が、そう呼ぶ人物は一人だけだ。(19ページ)
劉の字のルビはリイウなのですが、この手元の文庫本のルビはイウが横倒しになっています。



タグ:柏木伸介
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ダンジョン飯(8) [コミック 九井諒子]


ダンジョン飯 8巻 (ハルタコミックス)

ダンジョン飯 8巻 (ハルタコミックス)

  • 作者: 九井 諒子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/09/14
  • メディア: コミック



ダンジョン飯、シリーズ第8弾です。

今回は
第50、51話 ダンプリング1 ~ 2
第52話 ベーコンエッグ
第53~55話 地下1階にて1 ~ 3 
第56話 バイコーン
を収録しています。

巻数が重ねられてくることで、物語の方向性もずいぶん変わってきました。

出てくる料理は
第50話 ヒポグリフの水餃子
第51話 ダンプリングをフェアリーリングでチェンジリング
第55話 ハンバーグのチェンジリングソースがけ 
第56話 カリカリ茸と卵のサンドイッチ
だけで、かなり料理の比重が下がっていることがこのことからもわかります。

「ダンジョン飯 7巻」 (ハルタコミックス)(感想ページはこちら)のラストで、ライオスたち一団の足元に”チェンジリング”をもたらす茸が描かれているのが気になっていたのですが、「ダンプリング」で種族が入れ替わってしまっています。
ライオスがドワーフに、センシはエルフに、マルシルはハーフフットに、チルチャックはトールマン、そしてイヅヅミは犬(!) に。
入れ替わったそれぞれの造型が面白いのですが(とくに、センシが笑撃的です)、なんとか元に戻そうとする展開となります。

第53~55話では一旦ライオスたちと離れて、地下1階という地上に極めて近い場所で、カブルーの物語となります。
"狂乱の魔術師" そしてファリンと対決することになるカブルー。
結構カッコいい対決シーンが繰り広げられますよ。
今回表紙がカブルーなのは、このためですね。

第56話では、ユニコーンならぬバイコーンが登場し、チルチャックの過去(?) がさらに明らかに。
最後でマルシルが「他に隠してることがまだあるでしょ!!」とチルチャックに詰め寄っていますが、いやほんとに、チルチャックは奥が深い(笑)。



タグ:九井諒子
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科警研のホームズ [日本の作家 喜多喜久]


科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
科学警察研究所・本郷分室にやってきた三人の研修生たちは、科警研の仕事に興味を示さない室長・土屋の態度に困惑する。かつての彼は科警研の研究室長を務め、鋭い洞察力と推理の切れ味で、警察関係者から「科警研のホームズ」と称されていたらしいが…。土屋にやる気を取り戻させるため、そして自分たちの成長のため、三人は科警研の所長・出雲から持ち込まれる事件の調査に邁進する。


2023年3月に読んだ2冊目の本です。
「残光のメッセージ」
「楽園へのナビゲーター」
「惜別のロマンチシズム」
「伝播するエクスタシー」
の4話収録の連作短編集。

喜多喜久による新シリーズ、科警研のホームズ。
帯に「『化学探偵Mr.キュリー』シリーズの著者、初の警察科学捜査ミステリー!」とあって、あれっ、そうだっけ? と思いましたが、確かに科学、化学を題材にした作品を数多く書かれているものの、警察捜査で扱ったものはなかったようです。

タイトルにもなっている科警研──科学警察研究所は警察庁の附属機関で、TVドラマでお馴染みになった各都道府県の警察本部に置かれている科学捜査研究所──科捜研とは違います。科警研、科捜研について「警察を食品会社に喩えるなら、科捜研は各地にある工場、科警研はその商品開発を行う研究所、という風になるだろう。」(17ページ)と説明されています。わかりやすい。
で、わけあって設立された<科学警察研究所・本郷分室>。
科警研のホームズこと土屋は、この分室の室長、兼、東啓大学の理学部の准教授という設定です。
この東啓大学、「国立大学の中でも屈指の名門」(33ページ)という説明ですが、こういった兼務可能なのでしょうか? また、本郷という所在地からしてもどう考えても東京大学なのですが、どうして東啓大学にしたのでしょうね?
喜多喜久さんご自身の出身大学ということもあって遠慮されたのか? それとも作中には実在のものは登場させないご方針なのか?

「残光のメッセージ」はタイトルが既にネタバレですが、走査型電子顕微鏡(SEM)で残留物質を分析して真相に迫ります。
「楽園へのナビゲーター」は死因の特定できない事件を遺留物質から解明していきます。
「惜別のロマンチシズム」は監視カメラに映った犯人が一卵性双生児のどちらだったのかを解き明かします。
「伝播するエクスタシー」は、これまたタイトルがネタバレ気味ですが、連続通り魔事件の犯人をつきとめます。
いずれも冒頭に半倒叙形式とでもいうようは犯行シーン(?)が描かれています。
これは捜査を研修生が進めていく中で、土屋がアドバイスする内容を読者に分かりやすくする効果があるようです。

いずれの事件も、目新しい捜査方法が出てきてとても楽しかったのですが、肝心かなめのホームズに喩えられる土屋の鋭さが、さほど伝わってこないのが残念。少なくとも、科警研の所長が「何としても科警研に復帰させたい」というほどのレベル感ではないように思えました。
とはいえ、北上純也、伊達洋平、安岡愛実の3人の研修生のキャラクターも深まってきましたし、続編も順調に出ているようなので、楽しみです。


<蛇足1>
「彼の顔を見た途端、伊達がはっと息を呑み、『ご苦労様です!』と背筋を伸ばした。」(36ページ)
「ご苦労様」というあいさつについては、目上の人に使ってはいけないとか、いや問題ないとか諸説あるようですが、使う場所(会社)のしきたりなのかもしれません。ぼくは個人的には目上の人には絶対使わない文化で育ちました。いずれにせよ「お疲れ様です」よりも目上の人には使いづらいあいさつではあると思います。
ここで出世意欲、上昇志向が強い伊達が使っているところからして、警察という組織は「ご苦労様」を目上の人にも気にせず使える文化だと考えてよいのでしょうか??

<蛇足2>
「いかんいかん、つい学生を相手に議論する時のようになってしまった。」(147ページ)
土屋が研修生と議論したあとで漏らすのですが、研修生という立場であれば学生とさほど変わりない気がします。
そもそも土屋は、科警研における議論はどのようなものを目指していたのでしょうね? ボールペンの扱いが気になったのでしょうか?

<蛇足3>
「研究の背景を導入部で語り、そこから自分の研究の意義へと繋げる。研究によって導き出したい主張をしっかりと打ち出し、そのための方法を提示する。無論、科学的に妥当と思われる手順でなされる字実験でなければならない。そのあとに、具体的な実験の手法の記述があり、実際に取得したデータが続く。分析機器から出力されたデータを加工する必要はあるが、結論を歪めるような補正は決して認められない。あらかじめ決めた処理を施し、相手が理解しやすいグラフや表を作成するだけだ。そして最初に立てた仮説と得られた結果が合致するか否かを、最後のパラグラフで論じる。強引な論理があってはならない。同じ分野の研究者が読めば、百人中百人が納得する考察がなされる必要がある。」(177ページ)
学生の書いた論文を添削する土屋が考えている論文の基本的な構成です。
さほど難しいことを言ってはいないようですが、論文執筆に限らず、伝える技術というのはスキルが必要ですね。








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殺しのパレード [海外の作家 は行]


殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2007/11/27
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ケラーが今回依頼されたターゲットは、メジャーリーグの野球選手。球場へ足を運んだケラーは、その選手が通算四百本塁打、三千安打の大記録を目前にしていることを知る。仕事を逡巡するケラーがとった行動とは? 上記の『ケラーの指名打者』をはじめ、ゴルフ場が隣接する高級住宅地に住む富豪、ケラーと共通の趣味をもつ切手蒐集家、集団訴訟に巻き込まれる金融会社役員など、仕事の手筈が狂いながらも、それぞれの「殺し」に向かい合うケラーの心の揺れを描いた連作短篇集!


2023年3月に読んだ1冊目の本です。
ローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズ3冊目。
前作「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)の感想で書いたように、ちょっと読むピッチを上げて手に取りました。といっても半年以上間が空いていますが......
「殺しのリスト」は長編でしたが、今回は
「ケラーの指名打者」
「鼻差のケラー」
「ケラーの適応能力」
「先を見越したケラー」
「ケラー・ザ・ドッグキラー」
「ケラーのダブルドリブル」
「ケラーの平生の起き伏し」
「ケラーの遺産」
「ケラーとうさぎ」
以上9編収録の短編集、のはずなんですが、章立てというのでしょうか、ナンバリングは通算されています。最初の「ケラーの指名打者」が 1 から 5 までで、次の「鼻差のケラー」が 6 から、という具合です。
ケラーと元締めトッドとの会話も健在ですし、作者ブロックは本書も長編として読まれることを期待しているのかもしれませんね。
「殺しのリスト」のように全体を貫くストーリーが明確にあるわけではないのですが。

この本を読むのにずいぶん時間がかかりました。
この本のせいではなく、諸般の事情によりあまり本を読む気になれなかった、というのが主因ですが、今となってみると、ゆったり読んだのはこの本の内容にぴったりだったような気がしています。
なにしろ「殺し屋ケラーの穏やかな日常」ですから。

ケラーが狙われるという「殺しのリスト」にあったような派手なストーリーはないものの、ケラーが引退を考えたり、あるいは、引退後の資金を確保するために仕事を増やそうとしたりと、ゆるやかな展開のうねりはあります。

個々の短編はそれぞれのエピソードに特段ひねりがあるわけではなく、そのエピソードやモノローグを通してケラーが人柄(といってよいのでしょうか?)が浮かび上がってくるような感じですね。
「どんなに長生きしようと、どれほど金を稼ごうと、探す切手がなくなることはないからだ。もちろん空白は埋めたい──それはひとつ大きなポイントだ──しかし、人に喜びをもたらすものは達成しようとする努力にある。喜びとは達成そのものではない。」(60ページ)
人の命を奪うことを職業としている人間にこう言われるのは少々複雑な思いもありますが、感覚的に突拍子もない人物ではないことがよく伝わってきます。

いや、「それぞれのエピソードに特段ひねりがあるわけではな」いというのは正しくないですね。
ひねりはあちらこちらに仕掛けてあります。
たとえば「先を見越したケラー」では、空港に降り立ったケラーは、殺すはずだったターゲットに迎えられ、車へと連れ込まれます。
そこからのストーリー展開は読者の想定を大きく外れていると思います。
ひねりはあって、予想外の展開になっても、非常に落ち着いた印象を受けるところが、このシリーズのミソなのかも。

ケラーが請け負う殺しのターゲットがバラエティに富んでいることもポイントですよね。
タイトルからも明らかですが、野球選手、競馬の騎手、キューバ人亡命者グループの重要人物、、犬(!)、金融会社の不正事件の証人、切手コレクター......
それに応じ、ケラーとトッドが洒落た(?)会話を交わし、ゆっくりとケラーの物語が進んでく。

9.11の影響が強くでていますし(ケラーがボランティアしたりします!)、引退が視野に入ってきていて、「ケラーの遺産」 なんてタイトルの作品もあったりして、シリーズ幕引きモード感が漂ってくるので、いっそう淡々としたイメージが強くなっているのかもしれません。


最後にこのシリーズのリストを。
「殺し屋」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのパレード」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋ケラーの帰郷」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
と5冊刊行されています。


<蛇足1>
「しかし、ヤンキースのピッチャー──ぎくしゃくしたワインドアップ・モーションの不愛想な日本人投手には、ブーイングに動じたところなどまるでなかった。」(9ページ)
ヤンキースに所属したことはない選手ですが、記述ぶりから野茂英雄投手を連想しました。

<蛇足2>
「あなた自身、指名打者(デジグネイティッド・ヒッター)なんだから。」(15ページ)
「(ヒッターには“殺し屋”の意もある)」と訳注つきで書かれている箇所で、題材となっている野球の打者と、ケラー自身の殺し屋が掛けられています。
今まで疑問に思ったことがなかったのですが、代打者(ピンチヒッター)や指名打者は、バッター(Batter)ではなく Hitter なのはなぜでしょうね?

<蛇足3>
「それはリーワード諸島からオランダまで、国別に切手を収めたアルバムで、ケラーはマルティニクのページを開くと、まずこれまでに蒐集した二百枚ほどのコレクションを眺めてから、そのあと二枚分の開いたスペースを見つめた。」(63ページ)
リーワード諸島というのは、カリブ海の西インド諸島の一部らしいです。リーワードというのは風下のこと。
マルティニクは、ウィンドワード諸島に属する島で、フランス領らしいです。ウィンドワードは風上で、リーワードとウィンドワードはセットですね。「世界で最も美しい場所」とコロンブスに呼ばしめた、と Wikipedia には書かれています
切手コレクターの間では有名な島なのでしょうか??

<蛇足4>
「最初のうちは引き金を引くことを自分に強いなくてはならないだろう。悪夢を見ることもあるだろう。だけど、そういったことにもすぐ慣れて、自分でも気づかないうちに、そのことにいくらか愉しみを覚えるようになる。セックスとはちがう。セックスではあの種の興奮は得られない。言ってみれば、狩りみたいなもんだ。」(180ページ)
殺し屋稼業について述べたところではなく、軍隊の話です。
引き合いに出ている狩りも経験がないので実感がまったく湧きませんが、そういうものなのでしょうか?

<蛇足5>
「何千何万というニューヨークのタクシー運転手の中から、ケラーはよりにもよって英語が話せる運転手を引きあててしまったのだった。」(275ページ)
短編の冒頭、タクシー運転手にあれこれ話しかけられて閉口するケラーを描いたところですが、確かに、ニューヨークのタクシーは英語を話せない運転手が多い印象ですね。

<蛇足6>
「マイレッジを貯めるためだ」(275ページ)
航空会社が実施しているサービスですが、日本では「マイレージ」と表記するのが通例ですね。
英語では Mileage で、マイレージより、マイレッジの方が絶対的に近いです。

<蛇足7>
「会社の名前は<セントラル・インディアナ・ファイナンス>。抵当権の売買やかなりの量の借換融資をやっていて、ナスダックにも上場してる。」(353ページ)
抵当権の売買、とありますが、原語は Mortgage だと思われ、おそらく日本でいう住宅ローンのことで、住宅ローンの売買(日本ではあまり例がありませんが、住宅ローンの貸し手である銀行が、ローンを売却することはよくある取引です)を指すのだと思います。
日本の概念でいう抵当権を売買する、というのは難しそうです。

<蛇足8>
「一方、株を空売りした投資家が配当金を支払う義務が発生する配当落ちの日よりまえに、なんとか株を買い戻そうとしていた。」(358ページ)
配当落ちの日というのは、投資家から見て配当金を受けとる権利がなくなる日のことを指します。権利落ちともいいますね。
空売りしている投資家は、配当が発生した場合、配当落調整金の支払いが必要ですので、その前にできれば買い戻したい、ということですね。
理論上は、配当落ちすると配当の分だけ株価は下がりますので、実質的な影響はないはずですが、まあ実際には損得が発生しますね。



原題:Hit Parade
作者:Lawrence Block 
刊行:20年
翻訳:田口俊樹




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名探偵コナン (6) [コミック 青山剛昌]


名探偵コナン (6) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (6) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 青山 剛昌
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1995/07/18
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
体が小さいからって大きな奴には負けないぞ!
と威張ってみたものの、仮面の男に追い詰められて大ピンチ!!
でも自慢の頭脳で何とか脱出、
奴らの正体だって暴いてみせるさ。
小さな名探偵・江戸川コナンとは俺のコトさ!!


名探偵コナン第6巻です。

FILE.1 仮面の下の真実
FILE.2 三人の訪問客?
FILE.3 三人のアリバイ
FILE.4 留守番電話の謎
FILE.5 タンスの言葉
FILE.6 結成! 少年探偵団
FILE.7 ナゾの兄弟
FILE.8 動く死体の謎
FILE.9 祭りの夜
FILE.10 アリバイは完璧
の10話収録。

FILE1は、前巻 「名探偵コナン」 (5) (少年サンデーコミックス)の FILE10~11で謎のおばさんに攫われてしまったコナンの話の続きです。
不穏な気配が漂うだけに一層期待して読み進んだのですが...
うーん、作者のやりたかったことは理解したつもりですが、これは好みには合いませんでしたね。

FILE2~5は、来客の隙(?) に離れで殺されてしまった実業家の事件。
部屋中に付けられた刀傷という激しい現場で殺された、居合をやっていた被害者。
累版電話やタンスの傷をめぐる部分はどちらもおもしろい着眼点だとは思うのですが、少々雑な扱いではないでしょうか? もうすこし丁寧に取り扱ってほしかったかな。

FILE6~8は、コナンの悪ガキ友だち(?) が実際に殺人事件に遭遇するけれども、警察を呼んだ時には死体が消えていて......という定番のワクワクする展開。
ただこの展開の場合、犯人が最初から限定されてしまうのが難点ですね。
犯人をほぼ確定させながら読んでいると、最後に明かされるトリック部分がいかにも苦しいように思われました。
ただ、このお茶目な探偵団にはときどき活躍してもらいたい気もします。

FILE9~10は、倒叙形式でスタートするので、天下一春祭りを背景に使い捨てカメラ(と言わないんでしたっけ?)を利用したアリバイトリックが使われたことはわかるのですが、肝心のトリック部分は伏せたまま、次巻へ続きます。

裏表紙側のカバー見返しにある青山剛昌の名探偵図鑑、この6巻は金田一耕助です。
青山さんのオススメは「獄門島」 (角川文庫)とのことです。

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