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セオイ [日本の作家 さ行]


セオイ (ハヤカワ文庫JA)

セオイ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 丈 武琉
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「セオイ」──それは、悩める人々が最後に頼ると噂される謎の伝承技である。技の使い手の鏡山零二と助手の美優は、西新宿の裏路地に居を構え、人知れず老若男女を救っていた。だがある時、有名作家の事故死との関連でベテラン刑事に目をつけられ、執拗につきまとわれる。必ずしも無関係とは言いがたいのだが……。鏡山はやがて、美女連続殺人事件に絡んだ恐ろしい陰謀の渦中にのみ込まれていく──衝撃のデビュー長篇!


2023年3月に読んだ5冊目の本です。
丈武琉の「セオイ」 (ハヤカワ文庫JA)
第3回クリスティー賞の候補作が出版されたもの。
ちなみにこのときの正賞は三沢陽一「致死量未満の殺人」 (ハヤカワ文庫JA)(感想ページはこちら)。

冒頭、鏡山零二が新宿駅で、周囲から作家の堀井次郎だと指摘されつつ、飛び込み自殺をします。
ところが続く第一章では、鏡山零二は「セオイ」の事務所で「背負い人」として登場。
あれ? 冒頭のシーンと時点が違うのかな? と思っていると、「セオイ」の事務所のテレビで、新宿駅で絵作家の堀井次郎が電車に轢かれて死亡したというニュースが流れる。

読者はよくわからない状態にさらされますが、次第に「セオイ」の説明とともに事情が明かされていきます。
この人の人生を “背負う” という設定が魅力的で、引き込まれてとても楽しく読みました。快作だと思います。

登場人物たちも興味深かったです。
背負われる人たちの物語も魅力的に思えました。
震災後の写真を撮る写真家のセリフ
「あの子は両親を亡くしておばあちゃんと二人で暮らしている。あんたが抱き上げた女の子は父親と姉さんが津波に飲まれて遺体も出ていない。さっき集まった子供達の誰もが、何かしらを失っているんだ。子供ってそういうことにじっと耐える。大人みたいに器用に言葉にできないし泣けない。心が砕け散りそうでも愚痴ひとつ言わない。」(162ページ)
が印象的でした。ありふれた意見かもしれませんが、折々思い返すべき言葉のような気がします。
これ以外の物語も様々です。
いろいろなエピソードを盛り込めるので、これをメインに据えた連作も作れそう。

背負い人である鏡山零二と赤星美優の関係性もおもしろかったですし、他人の人生を背負うという物語が、次第に背負い人鏡山零二自身物語になっていく展開もよかった。

ただ、物語の終盤で、この設定がよくわからなくなった、というか、「セオイ」で何ができて何ができないかが物語に都合よく後出しジャンケンされたような気になりました。
「セオイ」同士の対決的物語へと至るので、通常モードの「セオイ」と、プロ対プロとしての究極の「セオイ」とは違うのだ、ということかもしれませんが、このあたりを事前に説明しておいてもらえればいっそう感心できたのにと少し残念。
それでもとても面白い作品でした。

このときは正統派本格ミステリ「致死量未満の殺人」が受賞作でしたが、この「セオイ」 (ハヤカワ文庫JA)のような作品が受賞してもおもしろかったかも、と思えました。



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