SSブログ

花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮 [日本の作家 は行]


花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 春坂 咲月
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/11/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
仙台の夏の夕暮れ。篠笛教室に通う着物が苦手な女子高生・八重はふとしたことから着流し姿の美青年・宝紀琥珀(とものりこはく)と出会った。そして仕立屋という職業柄か着物にやたらと詳しい琥珀とともに、着物にまつわる様々な謎に挑むことに。ドロボウになる祝着や、端切れのシュシュの呪い、そして幻の古裂《辻が花》……やがて浮かぶ琥珀の過去と、徐々に近づく二人の距離は果たして──? 第6回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作。


2023年3月に読んだ4冊目の本です。
第6回クリスティー賞優秀賞受賞作。
このときの正賞は受賞作なしでした。

あらすじから、またもや日常の謎かぁ、と思いました。正直、食傷気味なので。
篠笛教室に通う女子高生が主人公。そこで出会う和装の美形が探偵役、というのも型どおり。
着物を題材にしたのは目新しく面白く感じましたが、柄の扱いという方向だと「こじつけ」感が出てきてしまいますね。
普通は禁じ手だけど逆の意味が込められている「吉祥柄として尊ぶ人がいる一方で、縁起が悪いといって忌避する人もいる。そういう柄です」(149ページ)なんてパターンが出てくると、素人にはまったく判断がつかないし、興趣がわくという風にはなりません。
「着物は雄弁なんですよ」(86ページ)
という極めて印象的な好セリフがあるのですが。
まあ、蘊蓄ミステリで、そういう楽しみ方をすべきなのでしょう。

後半は物語のトーンが変わって、辻が花をめぐる騒動(?)となります。
したがって本書「花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮」 (ハヤカワ文庫JA)は日常の謎とはいいがたい構成になっています。

《辻が花》は
「露草の汁で下絵を描き、下絵に沿って並み縫いをして、その糸をぎゅっと絞る。出来上がった帽子ふうの突起は、中に染料が入らないように、さらにビニールで──昔は竹で──覆う。それを染料に浸してもう一度ほどくと、覆われていた部分が白く残る。それが《縫い締め絞り》の染色技法だ。そうやって染められた平織の布に、描絵や摺箔、刺繡などを加えたものが《辻が花》なのである。」(194ページ)
と説明されているのですが、同時に
「実は近現代の研究で、本来の《辻が花》とは、縫い締め絞りではなかったことが指摘されているんです」(197ページ)
とも言われて混乱します。

古裂コレクターの間で、主人公である八重の家に《辻が花》の古裂があるという噂が立ったことがある、とか、八重が「辻が花の娘」と父親や周りから言われていた、とか、怪しいコレクターがうごめく、八重自身の事件ともいうべき話へと進化していきます。
主人公自身の事件と絡めて、《辻が花》の真の正体をさぐる物語なのか、と予想して読み進むことになります。

主人公自身の事件となる流れ自体は王道なのでこれでよいと思うのですが、そのせいで《辻が花》の正体を探る物語としての性格がぼやけてしまったように思います。
そのため、明かされる真相が意外なはずなのに意外感がないのが不思議です。

日常の謎仕立ての前半と、主人公自身の事件の後半が分離してしまっている点は、巻末の選評で選考委員が指摘しています。探偵役の紹介、推理能力のお披露目という位置づけもあるのだと思いますが、さほど効果的とは思いませんでしたし、本書はそういう段取りが必要な設定となっていないのが気になります。
前半の謎解きに使っている要素が後半に響いてくると面白かっただろうなと感じました。

と全体として批判的な感想になってしまっていますが、この作者、複数の登場人物を重層的に絡め合うことに長けていらっしゃるようにお見受けしましたので期待しています。


<蛇足1>
「マフラーはどんどん伸びていく。まるで増え続ける借用証書みたい。」(179ページ)
マフラーを伸びていく様を借用証書に譬えるでしょうか? なかなかイメージがわきません。
それにこの譬え、高校生が使うのですが、あまりにも似つかわしくなくてびっくりしました。

<蛇足2>
「──RAY、英語のレイがフランス語の発音だとヘになるんだよ」(188ページ)
RAY、フランス語でも「へ」にはならないように思うのですが。
いわゆる「口蓋音」というのでしょうか? フランス語のRはとても発音が難しく、日本語の「ラ」行の音とは似ても似つかない音ではありますが、「ヘ」とは程遠い気がしてなりません。

<蛇足3>
「もじもじしていると、琥珀さんはしゅっと膝行して」(369ページ)
「膝行(しっこう)する」って初めて見た気がします。意味はすぐにわかるんですが。




nice!(12)  コメント(0) 

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。