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致死量未満の殺人 [日本の作家 ま行]


致死量未満の殺人

致死量未満の殺人

  • 作者: 三沢 陽一
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
雪に閉ざされた山荘で、女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は一緒に宿泊していた同じ大学のゼミ仲間4人――龍太、花帆、真佐人、圭。外の世界から切り離された密室状況で、同じ食事、同じ飲み物を分け合っていたはずなのに、犯人はどうやって弥生だけに毒を飲ませることができたのか。警察が到着するまで、残された4人は推理合戦を始める……。
15年後、雪の降る夜。花帆と夫の営む喫茶店を訪れたのは、卒業以来、音信不通の龍太だった。あと数時間で時効を迎える弥生の事件は、未解決のまま花帆たちの人生に拭いきれない影を落としていた。だが、龍太はおもむろに告げる。「弥生を殺したのは俺だよ」
たび重なる推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真相とは? 第3回アガサ・クリスティー賞に輝く正統派本格ミステリ。


単行本です。
あらすじにもありますが、第3回アガサ・クリスティー賞受賞作。

アガサ・クリスティー賞は
第1回が森晶麿「黒猫の遊歩あるいは美学講義」 (ハヤカワ文庫JA)
(ブログの感想へのリンクはこちら
第2回が中里友香「カンパニュラの銀翼」(早川書房)
(ブログの感想へのリンクはこちら
と非常に癖のある作品が続けて受賞していましたが、この「致死量未満の殺人」でようやく普通の、というか、正統派の、本格ミステリが受賞作として登場しました。
なんといっても、嵐の山荘(吹雪の山荘ともいいますね)もの。本格ミステリならでは、という感じがしますね。
帯に「選考委員をうならせた巧緻なる毒殺トリック」という惹句がある通り、毒殺を扱っています。
思い返せば、クリスティもデビュー作「スタイルズ荘の怪事件」 (ハヤカワ・クリスティー文庫)では毒殺を取り扱っていましたし、クリスティー賞にふさわしい作品かも。

「殺したのは俺だよ」というセリフで始まりますので、自慢の(?) トリックを勝負の中心に据えたハウダニットものかと思わせておいて、微妙にずれていく。
作中人物が自白したからといって、そいつが犯人とは限らないのは常道ではありますが、犯人でないとするとなぜ嘘の自白をしたのか、という新たな謎が立ち上がってくるので、わりと気を使うところの多い設定ですが、うまく処理されているように思いました。
肝心の毒殺トリックですが、単純なものです。割と簡単に思いつくような感じもしますが、先行作が思い浮かびません。コロンブスの卵、というと言い過ぎですが、ちょっと盲点をついたアイデアなのかもしれませんね。おもしろい。(もっとも現実にこれと同じことができるか、というとなかなか難しいのではないかと思いますが、ミステリとしては〇だと思います)
作中にも刑法の講義(の話)が出てきますが、作者も法学を学ばれたようですので、ひょっとしたら刑法の講義から思いつかれたトリックなのかもしれませんね。
「致死量未満の殺人」というタイトルはあまりいいとは思いませんでしたが、クリスティー賞応募時のタイトルは「コンダクターを撃て」だったらしいです。本格ミステリであることを強く打ちだしたタイトルに変更した、ということなのでしょうが、あまりピンときませんね。
コンダクターとは何か、というのがもう一つの本作品の仕掛けに絡む部分になるわけですが、ちょっと無理しすぎですね。同様の趣向を狙った作品は巷に溢れていますが、うまく着地させるのが難しい趣向だと感じます。毒殺トリックと相似形になる枠組みの提示、というのはなかなか面白い着眼点だとは思うのですが、この部分がなくても、いやなかった方がすっきりした仕上がりになっていたのではないでしょうか。

ということで、注文も多々ありますが、本格ミステリらしいミステリの登場にまずは拍手を贈りたいです。

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