ミステリーズ《完全版》 [日本の作家 山口雅也]
<裏表紙あらすじ>
密室殺人にとりつかれた男の心の闇、一場面に盛り込まれた連続どんでん返し、不思議な公開捜査番組、姿を見せない最後の客。人気の本格推理作家が明確な意図を持ってみずからの手で精密に組み上げた短編集。謎とトリックと推理の巧みな組み合わせが、人間の深奥にひそむ「ミステリー」を鮮やかに描き出す。
この文庫が出たのが1998年7月で、15年以上前です。
「このミステリーがすごい! 〈’95年版〉」第1位です。短編集が第1位になったのは、これが初めてだったと思います。
ちなみに、1994年週刊文春ミステリーベスト10 では第4位。
その後講談社ノベルスに収録されたときに、「《世界劇場》の鼓動」という作品が追加収録されました。音楽のアルバムにちなんで、ボーナストラック、と呼ばれていますね(作者あとがきにあたる「ノベルス版のためのLINER NOTE」には、作品配列も変えたと書かれています)。
なので、《完全版》。
実はこの本自体は、単行本(1994年)を買って読んでいます。
同じ絵を使っているのですが、雰囲気が違いますね。
ノベルス版で新たに収録された作品も読みたいな、と文庫化されたときに購入しておいたものです。
ただ、10作収録の短編集のうち9作までもが既読、ということもあってなかなか手に取らずにおりまして...それにしても15年とは積読にもほどがありますが。
なので各編の内容はすっかり忘れてしまっていて、そのおかげで(?) 新鮮な気持ちで楽しめました。
巻末に作者の「LINER NOTE」があって、各作の意図が説明されています。
それぞれが、拡がりのあるアイデアというか、各作品は作者のアイデアのショーケースのようなものとなっていて、それを発展させていくと新たなフィールドが開けるのだろうな、と感じさせてくれるようなものとなっています。
なので逆に言うと、そういう「あり得るかもしれない」拡がりを考えずに、それぞれの作品だけを取り出してしまうと、ちょっと食い足りないという感想になるかもしれません。
象徴的なのは、「解決ドミノ倒し」ではないでしょうか。
この作品は「一編の中にどれだけ連続したドンデン返しを盛り込めるかという技術的な挑戦」であると同時に「事件の解決シーンだけで小説を書いてしまおう」という挑戦に挑んだ作品なのですが、前提となる事件のありさまがわからない段階からのドンデン返しの連続、というものが、はたしてドンデン返しのカタルシスを与えてくれるものか。読者の思い込みをひっくり返してくれるところにドンデン返しの快感はあると思うのですが、「思い込み」のない段階でただひたすら二転三転していくというのが、ドンデン返しとして機能しているのか、非常におもしろいテーマを提出してくれていると思うので、個人的には楽しんで読みましたが、純粋にドンデン返しを期待する読者には肩すかしかもしれません。作中人物には意外な転換でも、読者は前提がないので、ああそうですか、という感じで置き去りだからです。
でも、作者山口雅也の言う通り、
「こうした技術的な挑戦は、ヒッチコックが自嘲して言うように『実に馬鹿ばかしい』と思う向きもあるだろうが、ミステリーの歴史は、ある意味で技術的挑戦の歴史でもある。そうしたことが最近、意外に軽んじられているのではないかと少々危惧している次第。」
ということなので、ちょっと「LINER NOTE」に感動してしまいました。
そういう意味で、非常にバラエティに富んだ作品集です。
巻頭に、Mysteries perfect edition と英語のタイトルが書かれていますが、日本語「ミステリーズ」は、複数形の Mysteries であると同時に、その所有格でもある Mysteries' でもあるのかもしれないなぁ、なんてふと考えました。
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