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火村英生に捧げる犯罪 [日本の作家 有栖川有栖]


火村英生に捧げる犯罪 (文春文庫)

火村英生に捧げる犯罪 (文春文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「とっておきの探偵にきわめつけの謎を」――臨床犯罪学者・火村英生のもとに送られてきた犯罪予告めいたファックス。術策の小さな綻びから犯罪が露呈する表題作ほか、過去の影におびえる男の哀しさが余韻を残す「長い影」、殺された男の側にいた鸚鵡が真実を暴く「鸚鵡返し」など珠玉の作品が並ぶ人気シリーズ。


本書は、火村シリーズの短編集で、いつものように短い枚数で本格ミステリを楽しむ標本のような仕上がりになっているので、内容については安心印です。
突き抜けたものがない、という批判は可能とは思いますが、レベルを落とさないで本格ミステリを書き続けるって大変なことだと思うので、いい意味での職人技をみているようです。
表題作の意味深なタイトルは、ヘンリー・スレッサー「ママに捧げる犯罪」 (ハヤカワ・ミステリ)「夫と妻に捧げる犯罪」 (ハヤカワ文庫NV)や土屋隆夫「妻に捧げる犯罪」 (光文社文庫)が念頭にあったということですが、「火村と知能的な犯人の火花を散らすような対決がみられる」という誤解をした読者がいた、と披露されています。そうでしょうねぇ。上で引用したあらすじの書き方も、わざとそういう誤解を煽っているかのような。
中身の方は、いくらでも引き延ばして長い作品に仕立てられそうなプロットが、短い枚数でテンポよく描かれています。
個人的に気に入ったのは「鸚鵡返し」。現場にいたオウムが犯人の名前を告発する、なんて、そのまんまであってひねりようがないと思っていたら、さすがは有栖川有栖、きっちりひねってみせてくれました。なるほどねー。
「あるいは四風荘殺人事件」は、ミステリ作家の遺作のトリックを火村が暴く、という構図です。ここで示されるトリックは、どう考えても現実的ではないものですが、現実の世界の事件ではないことにして突破してきます。一方で、そういう設定にすることで本格ミステリがもつ魅力というか魔力が示される、という柄刀一の解説(乱暴に要約してしまいましたが)も味わい深いですね。


P.S.
火村英生シリーズは、これまで21冊刊行されているようです。
短編集が非常に多い印象があったので確認してみました。下のリストで、太字にしている作品が短編集です。
数えると21冊中14冊が短編集。
作者のあとがきで「火村英生を探偵役とするシリーズとしては、ちょうど十冊目の短編集」と書かれていますが11冊目みたいです...どれかカウントされていないのがあるのでしょうね。2編収録の「妃は船を沈める」 (光文社文庫)は中編集!?

1. 「46番目の密室」 (講談社文庫)
2. 「ダリの繭」 (角川文庫)
3. 「ロシア紅茶の謎」 (講談社文庫)
4. 「海のある奈良に死す」 (角川文庫)
5. 「スウェーデン館の謎」 (講談社文庫)
6. 「ブラジル蝶の謎」 (講談社文庫)
7. 「英国庭園の謎」 (講談社文庫)
8. 「朱色の研究」 (角川文庫)
9. 「ペルシャ猫の謎」 (講談社文庫)
10. 「暗い宿」 (角川文庫)
11. 「絶叫城殺人事件」 (新潮文庫)
12. 「マレー鉄道の謎」 (講談社文庫)
13.「スイス時計の謎」 (講談社文庫)
14. 「白い兎が逃げる」 (光文社文庫)
15. 「モロッコ水晶の謎」 (講談社文庫)
16. 「乱鴉の島」 (新潮文庫)
17. 「妃は船を沈める」 (光文社文庫)
18 「火村英生に捧げる犯罪」 (文春文庫)
19 「長い廊下がある家」 (光文社文庫)
20. 「高原のフーダニット」(徳間書店)
21. 「菩提樹荘の殺人」(文藝春秋)

こうしてみると最近は短編集ばかりで、長編は2006年の「乱鴉の島」 (新潮文庫) 以来出ていないのですね。
また長編も読みたいです。


<2014.7.19追記>
「妃は船を沈める」 (光文社文庫)を読んだところ、「猿の左手」と「残酷な揺り籠」の二つの話があるものの、この二つはつなげて長編にするのがあるべき姿、ということで、「長編としてまとめてお読みいただければ」という作者のはしがきもあるので、長編扱いですね。
なので、上のリストの17番目がカウント外ということですね。


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