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大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢 [日本の作家 や行]


大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/12/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
史上最高額――根津・明昌院の千両富くじに沸く江戸の町で、呉服商の大店に盗人が忍び込んだ。同心の伝三郎たちは、その鮮やかな手口から、七年前に八軒の蔵を破った神出鬼没の盗人“疾風の文蔵”の仕業に違いないと確信する。一方、江戸と現代で二重生活を送る元OLの関口優佳=おゆうは、長屋の奥さんから依頼された旦那探しと並行して、現代科学を駆使して伝三郎の捜査に協力するが……。


2023年2月に読んだ最初の本です。
山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢」 (宝島社文庫 )
シリーズ第3弾。

このシリーズ、快調ですね。
広く解禁されることになった富くじとして、高額賞金で耳目を集める根津・明昌院の千両富くじが中心テーマです。
それと、江戸を騒がせる大店の窃盗事件がどう絡むのか。七年間遠ざかっていた盗人“疾風の文蔵”はなぜ戻ってきたのか、という謎もついてきます。

富くじをめぐる事件の構図が非常に印象的です。
このアイデアは素晴らしい。

これと比べると窃盗事件の方は底が割れやすくなっていますが、おゆうが近所の奥さんから捜索を頼まれる元錠前師で金物細工師の行方と絡ませるのは手堅いですし、事件全体の構図にしっかり溶け込んでいるのがいいですね。

蔵を守る鍵として、和錠が出てきます。錠前師の出番ですね。
「和錠とは日本独特の錠前で、泰平の世になって失業した刀鍛冶が技術を生かして製作し、江戸時代に発達したものだ。明治以降は手軽な南京錠に取って代わられたが、いかにも日本の匠らしい精緻で凝った作りは、芸術品と言うべき価値がある。」(73ページ)
と説明されていますが、たぶん、見たことないですね。
見てみたい。

このシリーズは、江戸を舞台に科学捜査を持ち込むところが特色ですが、遺留品を手掛かりにする手際も、指紋やDNAといった技術を表立っては説明に使えないことによる限界も、かなりこなれてきて、自然な仕上がりです。
もっとも暗視スコープやスタンガンまで持っていって、立ち回りまで演じるのはさすがにやりすぎで苦笑しますがーーこれはこれで見どころなんですけどね。255ページに、おゆうが活躍できた言い訳(?) が書かれていますが、苦しいですよね。

そして、おゆうを敵視する茂三とのやりとりもいい。
シリーズ第1作の「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 (宝島社文庫)で披露されていた設定がここで生きてくるとは。

最後に、伝三郎が少々不穏な独白をするシーンで終わるので、シリーズの今後がますます楽しみになりました。

シリーズは、
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ドローン江戸を翔ぶ」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁掘のおゆう 北からの黒船」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 妖刀は怪盗を招く」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ステイホームは江戸で」 (宝島社文庫 )
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 司法解剖には解体新書を」 (宝島社文庫)
と順調に続いています。
読み進めるのが楽しみなシリーズです。おすすめです。


<蛇足1>
「はい、ちょっと拝見させていただきます」
おゆうは鷹揚に告げると、ざっと店の中を見渡した。(180ページ)
「拝見」が敬語なので「拝見します」が正しい。まあ、「させていただきます」自体があまりよろしくはないのですが......
江戸時代にこれはないでしょう、と普通ならいうところですが、この話者は、おゆう=現代人の関口優佳ですから、問題ないのですね。現代人ならよくある間違いですから。
ただ、こう言われた店の者は、ぎょっとしたと思います。
そういえば、古文の授業で二重敬語は天皇にしか使わないと習ったのですが、江戸時代将軍にも使ったのでしょうか? ふと気になりました。


<蛇足2>
途中、伝三郎が謹慎となった際、勝手な行動を奉行所が見て見ぬふりしようとするくだりがあります。
「そうか。処分を出した浅川の立場もあるので、奉行がそれを取り消すわけにもいかない。さりとて、明昌院も放置できない。そこで謹慎を逆手に取って、利用することにしたのだ。さすが切れ者と評判の、筒井和泉守だ。」(214ページ)
でも、これ、切れ者の判断でしょうか?
現代の感覚でコンプラ意識というつもりは毛頭ありませんが、そもそもそれほどの妙手とも思えないのですが。
一方で、伝三郎に相当の信を置いていることの証ではありますね。

<蛇足3>
「その午後、おゆうは大番屋の一室で、他の目明したちと座って伝三郎と境田を待っていた。」(268ページ)
さらっと書いてありますが、十手を渡されているので、こういうオフィシャルな場(今でいうと捜査本部の会議ですね)にもしれっとおゆうは参加できるのでしょうか? 今だと考えられない気がしますね。
この場には引退した茂三も参加しています。

<蛇足4>
「目明したちから控えめな失笑が漏れた。」(269ページ)
言葉本来の意味からすると、控えめな失笑というのは変らしいですね。
調べてみると失笑というのは「(笑ってはならないような場面で)おかしさに堪えきれず,ふきだして笑うこと。」ということですから。
文化庁が毎年やっている調査で知りました。

<蛇足5>
「大宮宿を経て、粕壁には明日にも着くだろう。日光街道を行けば真っ直ぐ粕壁だが、江戸所払いは三カ所ある大木戸で執行と決まっているので、少し遠回りでも中山道を行くことになる。」(360ページ)
春日部は粕壁と書いたのですね。
「埼玉県の粕壁町が町村合併で春日部町になったのは、昭和十九年の四月」と作中に説明があります。






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