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未来探偵アドのネジれた事件簿 タイムパラドクスイリ [日本の作家 森川智喜]


未来探偵アドのネジれた事件簿: タイムパラドクスイリ (新潮文庫nex)

未来探偵アドのネジれた事件簿: タイムパラドクスイリ (新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
依頼を解決するのは未来のボク?過去のボク?
「愛犬の行方を探してほしい」「息子が暴れて……」「大切な宝石が消えてしまった」。益井探偵事務所にはさまざまな依頼が舞い込む。彼の相棒は芽原アド、23世紀からやってきた元タイムパトロール隊員だ。携帯式時間移動装置を片手に、真相を探る二人のもとに、未来から武村ロミが加わって──。未来犯罪との対決の行方は? 本格ミステリ大賞受賞作家が贈る、時空間ミステリ誕生。


2023年2月に読んだ2冊目の本です。
森川智喜の7作目の本のようです。「未来探偵アドのネジれた事件簿: タイムパラドクスイリ」 (新潮文庫nex)
5作目、6作目にあたる
「半導体探偵マキナの未定義な冒険」(文藝春秋)
「なぜなら雨が降ったから」(講談社)
の2冊が文庫化されておらず、ぼくが読むのは5冊目となります。

今回森川智喜が用意した趣向は、未来探偵。タイムマシンが常態化した未来から来た探偵です。
タイムマシンも、小型化されていて、名付けて《タマテバコ》。

この作品、未来二二四X年から作品がスタートし、タイムパトロール内で、芽原アドの提唱した取り組みが否定されたよう。

で、話は現在二〇一X年へ。
益井丸太は、相棒である未来探偵芽原アドと探偵事務所を営んでいる。芽原アドはタイムマシンを持っています。
もう一つ、重力遮断服というのがあって、宙を浮くことができる。いいですねぇ。

タイムマシンがあれば、事件発生時に飛んで行って、犯行を目的すれば簡単に真相がわかる、とは誰でも思うことですよね。
この作品ではなんと、本当にそうしてしまいます(笑)。
あるいは未来に行って、事件がどう決着したのか聞いてしまう。または未来から芽原アドがやってきて真相を教えてくれる。
なんだそれ、という感じですね。ミステリの探偵なのに推理は放棄しちゃってますよ!
<ズル>だ!

過去に行って犯行を阻止してしまったら、事件自体が起こらず、すると事件の捜査を依頼されることもなく.....とタイムパラドックスに悩むことになるのですが、そこは「因果」という概念が導入されていて、因果ポテンシャルの多寡によりうまく修復されたりされなかったりする、と。題して因果物理学。なんか楽しそうです。
でも正直このあたりのメカニズムは納得するレベルには到底至りません。
登場する現代人である益井丸太同様
「この矛盾はね、無限のものを扱っているのに、有限と同じ発想で計算したから発生したの。いま益井さんがいったのも同じこと。無限に伸びる時間軸や、未来からやってくることができる無限回の機会を、有限と同じ感覚で扱うのがだめなの。わかった?」(156ページ)
と言われても、なんのことだか......
でも、要するに、タイムパラドックスを吹っ飛ばしたんだと思うんですよね、作品の設定上。
矛盾している、あるいは矛盾が起こってしまうという印象がぬぐえないのですが、それでも、タイムパラドックスを気にしなくてもいい、ということだ、と割り切ってしまって、理屈はわからなくてもこの作品は楽しめます。

この作品のメインは、現在時点における探偵の活動で、探偵事務所に持ち込まれる事件が、殺人はなく軽めのものである点も効果を上げています。
そこへ未来人の犯罪者が絡んできます。そこは盗難とか詐欺という事件になって、その中では重めの犯罪です。
<ズル>をする探偵による軽妙な捜査が楽しいのですが、この物語の様相がラストに至ってすっとボーイ・ミーツ・ガールに転じるところがポイントだと思います。
この変化の根底をなす部分は堂々と明らかになっていまして好印象。
楽しかったですね。


<蛇足>
「どうして、後ろに人がいるってわかったんですか?」
「街頭に照らされて、顔が見えていましたので」(216ページ)
わかりやすい誤植ですね。街灯。





タグ:森川智喜
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