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県警外事課 クルス機関 [日本の作家 か行]



<カバー裏あらすじ>
“歩く一人諜報組織” = “クルス機関” の異名をとる神奈川県警外事課の来栖惟臣は、日本に潜入している北朝鮮の工作員が大規模テロを企てているという情報を得る。一方そのころ、北の関係者と目される者たちが口封じに次々と暗殺されていた。暗殺者の名は、呉宗秀。日本社会に溶け込み、冷酷に殺戮を重ねる宗秀であったが、彼のもとに謎の女子高生が現れてから、歯車が狂い始める――。


2022年4月に読んだ5作目(6冊目)の本です。

志駕晃「スマホを落としただけなのに」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
桐山徹也「愚者のスプーンは曲がる」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
綾見洋介「小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録」 (宝島社文庫)
と第15回 『このミステリーがすごい!』大賞に応募された作品から選ばれた2017「このミス大賞」隠し玉を読んできましたが、この柏木伸介「県警外事課 クルス機関」 (宝島社文庫)は第15回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞。
三好昌子「縁見屋の娘」 (宝島社文庫)と2作が優秀賞でした。
ちなみに大賞は岩木一麻「がん消滅の罠 完全寛解の謎」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)。

この小説のポイントを帯が端的に表しています。
いわく
“一人諜報組織・クルス” VS. “北”の暗殺者
違法捜査もいとわない公安警察・来栖惟臣(くるすこれおみ)と、
祖国に忠誠を誓う冷酷な殺人鬼・呉宗秀(オ・ジョンス)。
大規模テロをめぐり、二つの“正義”が横浜の街で激突する!

勝手な公安のイメージとして、対する相手が強大なものであることが多いだけにより一層組織的な対応が必要なのではないかと考えてしまうので、一人なのに ”機関” とはなぁと思わないでもないですが、物語としてこういう主役設定は定番ともいえるのでこれでよいのでしょう。
全国都道府県警に所属する公安捜査員の中から選び抜かれた者だけが受講を許される《警察大学校警備専科教養講習》講習済の作業員でエース級(37ページ)ということになっています。

おもしろいのは
「今の東アジアは、一種の冷戦状態にあると言っていい。《東アジア冷戦》だな。そいつは言ってみれば世襲権力者同士のいがみ合いだ。奴等はそうやって非難し合うことで、互いの権力基盤を支え合っている。日本の政治家が靖國参拝をする。中韓が、それに反発。日本の政治家が、またそれに反論。そうやってやり合えばやり合うほど、国内での支持率が上がっていくって寸法だ」(282ページ)
と日本を含めた世襲国家の対立を捉えているところでしょう。
もっとも
「だが、所詮は口だけだ。今どき日本が侵略したり、中国が韓国が日本を占領したりすると思うか? そんな真似したら、世界中から袋叩きだ。その程度の知恵なら、世襲のバカ殿にもある。だが、そのバランスが崩れたら? ある国で、世襲権力者の足元が危うくなってきたとしたら?」(283ページ)
あたりの感覚は、ウクライナを受けて変容せざるを得ないかもしれませんけれども。

ストーリーは、二人の視点で進んでいき、北の侵入者が日本の右翼系組織に潜入するくだりとか、少ないながらも来栖が協力者と捜査を進めるところとか、おもしろく読めました。
こういうの好きなんですよね。

ただ、最後のテロのターゲットが明かされて、個人的にはずっこけてしまいました。
これは設定ミスではないでしょうか?
確かに派手で世間の耳目を引くとは思うのですが、このターゲットそのものがちょっと首をかしげたくなるような内容になっているからです。
もっともこの点を置いておくと、非常に緊迫感あるクライマックスになりますし、映像にすると格好いいのではないかと思います。

欠点はあるものの、非常に力のこもった力作だと思いました。
シリーズ化もされているので、読んでみようと思います。





<蛇足1>
「痩せた初老の男だった。背も高くはない。大きなトンボ眼鏡を掛けている。」(83ページ)
ぱっと童謡が思い浮かびましたが、トンボ眼鏡がイメージできませんでした。
ネットによると「ファッショングラスの一種で、大きな丸型のメガネを表す俗語として用いられる。
トンボの目のように大きいことに由来する」らしいです。

<蛇足2>
「有村幸正。パネラー。作家。小説『零式の風神』がベスト・セラー。映画も大ヒット。マスコミへの露出も増加。作品の評価は “歴史の真実を伝える名作”/ “戦争を美化した駄作” と二分。」(356ページ)
これは実在の作家をイメージしたもの、でしょうか?




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