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京の縁結び 縁見屋の娘 [日本の作家 か行]



<カバー裏あらすじ>
「縁見屋の娘は祟りつき。男児を産まず二十六歳で死ぬ」――江戸時代、京で口入業を営む「縁見屋」の一人娘のお輪は、母、祖母、曾祖母がみな二十六歳で亡くなったという「悪縁」を知り、自らの行く末を案じる。謎めく修行者・帰燕は、秘術を用いて悪縁を祓えるというが……。縁見屋の歴史と四代にわたる呪縛、そして帰燕の正体。息を呑む真実がすべてを繋ぎ、やがて京全土を巻き込んでいく。

2022年4月に読んだ6作目(7冊目)の本です。
柏木伸介「県警外事課 クルス機関」 (宝島社文庫)と同時に第15回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞しています。

解説で宇田川拓也が「京都が舞台の人情時代小説に伝奇スペクタクルを融合させた本作」と書いていますが、ミステリーというよりは伝奇時代小説と言った方がふさわしいような作品です。
ただ、たとえば主人公お輪をめぐる「二十六歳で死を迎える」という噂だったり、あるいは、愛宕山から来たという謎の美しい行者「帰燕」の正体であったりと、ミステリ的要素もふんだんにちりばめられています。

京都中を巻き込むような大火事の夢をお輪が見ていることから、クライマックスはこの大火事なのだろうな、と想定できます。
その意味では、人情味あふれる市井のエピソードを積み重ねながらも、じわりじわりと不穏な気配が積み重なってきて、平凡だけれど穏やかな日常が変わってしまうような不安と焦燥を感じながらの読書体験となります。

非常に筆力のある作家でして、人物像が妙に現代風なのは気になるものの、江戸時代の京都を舞台に、盛り沢山な要素を打ち込んで作り上げた一大絵巻です。
時代小説には詳しくないのですが、人情話に隣接する形でこういう一大スペクタクルを展開するのは珍しいのではないでしょうか?
とても楽しく読めました。
続編も書かれているようです。


<蛇足1>
「――嬢(とう)はん、ここにいてはったんやな――」(9ページ)
嬢はんというのは、そのままお嬢さんという意味ですが、京都でも使ったのですね。
こいさん(長女)、いとさん(末娘)同様大阪の言葉だと思っていました。

<蛇足2>
「ここで堀川の流れも二手に分かれ、西へと続く四条川が、三条台村と西院村の間を流れる紙屋川へと注いでいる」(17ページ)
京都にある地名の「西院」に「さい」とフリガナが振ってあります。
現在では「さいいん」と読むようですが(阪急電車の駅名は「さいいん」です)、京都の人たちは「さい」(少し伸ばして「さーい」)と言うと教えられてことがあり、ここのフリガナにニンマリしてしまいました。
ネットで調べてみると、京福電鉄のほうの駅名は「さい」と読むらしいです。

<蛇足3>
「天行者には、『四戒』と言うものがある」
「一つ目は『偽戒』や。嘘をつき、人を惑わすことや。二つ目は『俗戒』言うて、俗世と関わること、三つ目は女人を愛しみ、交わる『女戒』や」
「ただ四つ目に『過戒』と言うのがある。先の三つの戒律のどれかが過ぎれば、罰を受けねばならんのや」(311ページ)
メモ代わりに、写しておきます。




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