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小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録 [日本の作家 あ行]


小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 綾見 洋介
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大学生の白木は、病死した母の友人・ハルに会うため、北海道の東羽帯駅を訪れる。しかしそこは人の住む集落さえ消えた、1日の利用者が0人の秘境駅。ハルは30年前に起きた殺人事件を機に行方不明になっており、唯一彼を知る老婆までもが白木の前から失踪してしまう。東羽帯に隠されていると噂の裏金を探す鉄道マニアたちにも巻き込まれ、旅情豊かな、ひと夏の冒険サスペンス劇が始まる!


2022年4月に読んだ4作目(5冊目)の本です。
2017年「このミス大賞」隠し玉。
第15回 『このミステリーがすごい!』大賞に応募された作品を改稿したもので、このときの応募作からはほかに
志駕晃「スマホを落としただけなのに」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
桐山徹也「愚者のスプーンは曲がる」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
が隠し玉として出版されています。

視点人物は母親を亡くしたばかりの大学生白木恭介と、鉄道マニアの吉井悠司。
母からの頼まれごとを成し遂げるために人探しに秘境駅・東羽帯へ向かう恭介と、趣味で向かう吉井。二人の行程は最初にすれ違った後なかなか交差しませんが、どうなるのかなと興味をひかれて読み進みます。

焦点となる東羽帯駅ですが、架空の駅のようです。
1日の利用者が0人で駅が存続しているのが不思議ですが、こういう駅、全国にあるのでしょうか?
人探しが、やがて国鉄の労働組合をめぐる狩勝の裏金を巡る(過去の)殺人事件とその裏金探しへとつながっていきます。

物語前半はゆっくり進みます。それこそ、秘境駅めぐりにふさわしい、と言いたくなるような。
廃村になったような集落での人探しなど難航するに決まっていますし、展開が遅いのは想定の範囲内ではあるのです。
恭介と吉井の動きかたも、そのスローさに似つかわしい感じがします。
ところが、その後畳みかけるように急展開し始めます。
そして明かされていく事実が、それまでの物語のトーンと落差が大きく、驚きというよりも戸惑いを感じてしまいました。
解説で村上貴史も指摘しているように、伏線回収の手際が心地よく、ミステリのセンスを感じさせてくれましたので、このあたりが改善されればすごく楽しみな作家になるだろうなと思いました。

タイトルの「小さいそれがいるところ」というのは、羽帯駅(こちらは実在の駅名です)を Wikipedia で調べれば載っているので、書いてしまってもネタばれには当たらないかもしれませんが、念のため肝心のところを色を変えておきますと、アイヌ語に由来し「それ」というのはヘビのことだそうです。

解説を読んで驚いたのですが、作者・綾見洋介は鉄道ファンではないらしいのです。
羽帯の名前の由来から、これだけのストーリーを作り上げたのでしょうか? すごいですね。
この点でも期待の作家といえるかもしれません。



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