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半七捕物帳〈1〉 [日本の作家 あ行]


半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 岡本 綺堂
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2001/11/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
岡っ引上がりの半七老人が、若い新聞記者を相手に昔話を語る。十九歳のとき、『石灯篭』事件で初手柄をあげ、以後、二十六年間の岡っ引稼業での数々の功名談を、江戸の世態・風俗を織りまぜて描く、捕物帳の元祖!


2022年4月に読んだ3作目(4冊目)の本です。
今は新装版が出ていまして上の書影も新装版のものです。手元にあるのは昭和60年11月に出た旧版の初版。カバーにはバーコードもなく、値段は480円。安かったのですね。
半七捕物帳は、著者岡本綺堂が江戸を背景にしたシャーロック・ホームズ物語を書こうとして始めたもの、とあちこちに書かれていますし、この本の都筑道夫の解説にもそうあります。
これが世の中に数多ある捕物帳の始祖。
今更感あるかもしれませんが「半七捕物帳〈1〉」 (光文社時代小説文庫)。まとめて読むのは初めてです。
本家?シャーロック・ホームズを大人もので読みだしたこともあり、いよいよこちらに取り掛かってみようか、という感じでした。

そもそもの
「捕物帳というのは与力や同心が岡っ引きらの報告を聞いて、更にこれを町奉行所に報告すると、御用部屋に当座帳のようなものがあって、書役が取りあえずこれに書き留めて置くんです。その帳面を捕物帳といっていました」(34ページ)
と半七が説明しています。
ここから来ていたのですね。

第一作である「お文の魂」は、いろいろなアンソロジーにも収録されている作品なので何度も読んだことがあります。
しかし今まで一度も感心したことはありませんでした。
一応色は変えておきますがネタバレします。
不思議な現象が起こる怪談話なのですが、その解明が「嘘でした」というのですから、ミステリ好きからしたら落胆しますよね。
今回も正直なんだかなぁと思ったのです。

ところが、そのあとの数作を読んで考えが変わりました。
「石燈籠」も一種の不可能犯罪なのですが、その解明も「プロの軽業師の仕業」というのですから、がっくりきます。

次の「勘平の死」は、極めて標準的な折り目正しいミステリになっています。

ここでふと立ち止まってしまいました。
最初の2作、ミステリでは禁じ手に近い真相となっています。
シャーロック・ホームズを日本に移し替えて日本に新しいタイプの読み物を作ろう、そういう意気込みのもと書かれた作品のはずです。
ミステリの手法を使いこなせることは第3作をみれば明らか。であれば、最初の2作は意図的なもの。わざと禁じ手に近い手法を導入したと考える必要があると思います。当時ミステリがあまり一般的ではなかったという背景もあるでしょう。

そういう目で見ると、ミステリとしては破格の「お文の魂」も「石燈籠」も、ミステリらしい「勘平の死」も、舞台となった江戸当時の常識と非常識、非合理と合理の対比が描かれていると言えます。
捕物帳は江戸の風物を描くものだという意見がありますが、その江戸はミステリの構文を通して描くものだということがわかります。

そのあとの諸作も、そう思いながら読んでいくと興趣が増したように思います。
怪異を合理的に解決する、という道筋を捕物帳に持ち込んだのも綺堂でした、というよりむしろ、捕物帳とは怪異を合理的に解体することによって江戸を照射するミステリである、ということなのでしょう。

なかでも印象深かったのはやはり「半鐘の怪」。
いやあ、堂々と「動物犯人」をやっているではありませんか。
岡本綺堂、「今度はどうやって読者を驚かせてやろう」と楽しみながら書いたのではないかな、と考えて楽しくなります。
(と、こう考えると、たくさんあるシリーズ中に、正真正銘の怪談-合理的な解決のつかない怪談-を岡本綺堂が忍ばせても、またニンマリしちゃいそうです)

じっくり、ゆっくり、シリーズを読み進んでいきたいです。


<蛇足1>
「それでも怖い物見たさ聞きたさに、いつもちいさい体を固くして一生懸命に怪談を聞くのが好きであった。」(9ページ)
「お文の魂」が発表されたのは大正六年(1917年)ということですが、もうそのころから「一生懸命」という言い方があったのですね......

<蛇足2>
「酉の市(まち)の今昔談が一と通り済んで、時節柄だけに火事の話が出た。」(142ページ)
てっきりこれは酉の市(いち)と読むもの、と思っていたので調べました。
古くは「酉のまち」といい、「お酉様」と称して親しまれている。 「まち」は祭りの意。
なるほど。「まち」というのも趣があっていいですね。

<蛇足3>
「それにしても、おみよの書置が偽筆でない以上、かれが自殺を企てたのは事実である。」(211ページ)
おみよは言うまでもなく女性ですので、ここの「かれ」は女性を指す言葉となります。
彼は男性、彼女は女性、というのが今の一般的な使い方ですが、昔は違ったのですね。
彼、彼女については岡本綺堂の例も含めおもしろいHPを見つけたのでリンクを貼っておきます。
綺堂事物(http://kidojibutsu.web.fc2.com/contents/kare.html







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