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科警研のホームズ [日本の作家 喜多喜久]


科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
科学警察研究所・本郷分室にやってきた三人の研修生たちは、科警研の仕事に興味を示さない室長・土屋の態度に困惑する。かつての彼は科警研の研究室長を務め、鋭い洞察力と推理の切れ味で、警察関係者から「科警研のホームズ」と称されていたらしいが…。土屋にやる気を取り戻させるため、そして自分たちの成長のため、三人は科警研の所長・出雲から持ち込まれる事件の調査に邁進する。


2023年3月に読んだ2冊目の本です。
「残光のメッセージ」
「楽園へのナビゲーター」
「惜別のロマンチシズム」
「伝播するエクスタシー」
の4話収録の連作短編集。

喜多喜久による新シリーズ、科警研のホームズ。
帯に「『化学探偵Mr.キュリー』シリーズの著者、初の警察科学捜査ミステリー!」とあって、あれっ、そうだっけ? と思いましたが、確かに科学、化学を題材にした作品を数多く書かれているものの、警察捜査で扱ったものはなかったようです。

タイトルにもなっている科警研──科学警察研究所は警察庁の附属機関で、TVドラマでお馴染みになった各都道府県の警察本部に置かれている科学捜査研究所──科捜研とは違います。科警研、科捜研について「警察を食品会社に喩えるなら、科捜研は各地にある工場、科警研はその商品開発を行う研究所、という風になるだろう。」(17ページ)と説明されています。わかりやすい。
で、わけあって設立された<科学警察研究所・本郷分室>。
科警研のホームズこと土屋は、この分室の室長、兼、東啓大学の理学部の准教授という設定です。
この東啓大学、「国立大学の中でも屈指の名門」(33ページ)という説明ですが、こういった兼務可能なのでしょうか? また、本郷という所在地からしてもどう考えても東京大学なのですが、どうして東啓大学にしたのでしょうね?
喜多喜久さんご自身の出身大学ということもあって遠慮されたのか? それとも作中には実在のものは登場させないご方針なのか?

「残光のメッセージ」はタイトルが既にネタバレですが、走査型電子顕微鏡(SEM)で残留物質を分析して真相に迫ります。
「楽園へのナビゲーター」は死因の特定できない事件を遺留物質から解明していきます。
「惜別のロマンチシズム」は監視カメラに映った犯人が一卵性双生児のどちらだったのかを解き明かします。
「伝播するエクスタシー」は、これまたタイトルがネタバレ気味ですが、連続通り魔事件の犯人をつきとめます。
いずれも冒頭に半倒叙形式とでもいうようは犯行シーン(?)が描かれています。
これは捜査を研修生が進めていく中で、土屋がアドバイスする内容を読者に分かりやすくする効果があるようです。

いずれの事件も、目新しい捜査方法が出てきてとても楽しかったのですが、肝心かなめのホームズに喩えられる土屋の鋭さが、さほど伝わってこないのが残念。少なくとも、科警研の所長が「何としても科警研に復帰させたい」というほどのレベル感ではないように思えました。
とはいえ、北上純也、伊達洋平、安岡愛実の3人の研修生のキャラクターも深まってきましたし、続編も順調に出ているようなので、楽しみです。


<蛇足1>
「彼の顔を見た途端、伊達がはっと息を呑み、『ご苦労様です!』と背筋を伸ばした。」(36ページ)
「ご苦労様」というあいさつについては、目上の人に使ってはいけないとか、いや問題ないとか諸説あるようですが、使う場所(会社)のしきたりなのかもしれません。ぼくは個人的には目上の人には絶対使わない文化で育ちました。いずれにせよ「お疲れ様です」よりも目上の人には使いづらいあいさつではあると思います。
ここで出世意欲、上昇志向が強い伊達が使っているところからして、警察という組織は「ご苦労様」を目上の人にも気にせず使える文化だと考えてよいのでしょうか??

<蛇足2>
「いかんいかん、つい学生を相手に議論する時のようになってしまった。」(147ページ)
土屋が研修生と議論したあとで漏らすのですが、研修生という立場であれば学生とさほど変わりない気がします。
そもそも土屋は、科警研における議論はどのようなものを目指していたのでしょうね? ボールペンの扱いが気になったのでしょうか?

<蛇足3>
「研究の背景を導入部で語り、そこから自分の研究の意義へと繋げる。研究によって導き出したい主張をしっかりと打ち出し、そのための方法を提示する。無論、科学的に妥当と思われる手順でなされる字実験でなければならない。そのあとに、具体的な実験の手法の記述があり、実際に取得したデータが続く。分析機器から出力されたデータを加工する必要はあるが、結論を歪めるような補正は決して認められない。あらかじめ決めた処理を施し、相手が理解しやすいグラフや表を作成するだけだ。そして最初に立てた仮説と得られた結果が合致するか否かを、最後のパラグラフで論じる。強引な論理があってはならない。同じ分野の研究者が読めば、百人中百人が納得する考察がなされる必要がある。」(177ページ)
学生の書いた論文を添削する土屋が考えている論文の基本的な構成です。
さほど難しいことを言ってはいないようですが、論文執筆に限らず、伝える技術というのはスキルが必要ですね。








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