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ミステリと言う勿れ (4) [コミック 田村由美]


ミステリと言う勿れ (4) (フラワーコミックスアルファ)

ミステリと言う勿れ (4) (フラワーコミックスアルファ)

  • 作者: 田村 由美
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売: 2019/02/08
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
広島での狩集家の代々の相続争いで、過去をさかのぼるうちに、明らかになった仕掛け人の存在。
さらに、汐路の父母たちの意外な意思が明らかとなり…
追加ページ有りで広島編、ついに決着!
そして、新章スタートの必見の第4巻!


シリーズ第4巻となりました。
田村由美の「ミステリと言う勿れ」 (4) (フラワーコミックスアルファ)

「ミステリと言う勿れ」 (2) (フラワーコミックスアルファ)(感想ページはこちら)に収録の
episode4 思惑通りの予定外
から、
「ミステリと言う勿れ」 (3) (フラワーコミックスアルファ)
を経て、
この「ミステリと言う勿れ」 (4) (フラワーコミックスアルファ)の冒頭の
episode4-5 殺すのが早すぎた
で、ようやく広島編が完結します。

「episode4-5 殺すのが早すぎた」って、第3巻第4巻にまたがって収録されているのですね。
かわった編集の仕方だと思います。
とはいえ、第3巻に入れきってしまうには長すぎる気もしますね。

いや、そもそも広島編が長い!
もともとこのシリーズ作品は、整のセリフが異常に長いので、小さい話でも長くなってしまう特徴を持っているのですが、広島編はとりわけ長いですね。
もちろん、それだけ物語の幅も広がってはいるのですが、ちょっと長すぎるように思います。
用いられているプロットは、横溝正史? と軽く思うほどの、因習に満ちた広島の旧家(1軒ではなく3軒というのがすごいですが)を舞台にした事件です。
ミステリ読者としてはこういうの支持したいのですが(ミステリとしては大事にしたい伝統芸のようなものですよね)、現代においてもこのようなプロットは説得力を持つでしょうか?
ただ、真相解明シーンの犯人のセリフに、業(と呼んでおきます)の深さが伺われましたし、連綿と続いていく(あるいは続いていってしまう)”呪い” の強さを垣間見た気がしましたので、印象には強く残っております。

続くepisode5 雨は俎上に降る は、道端で整が出会うおじさんとの会話が中心です。
冒頭、整が「雨は蕭々と降っている」と三好達治の「大阿蘇」を引用します。
この詩、個人的には学校では習わなかったのですが、教科書に広く採用されている詩のようですね。
対するおじさんが口ずさむのが、みんなの歌「山賊の歌」。こちらも知りませんでした......
でも、これだけのきっかけで長話をするようになるのは、さすが整というところでしょうか。
だいぶ話が盛り上がった(わけではない気もしますが)頃、記憶喪失かと思われるおじさんが「どこかに爆弾を仕掛けたような……」と言いだして、話は急展開。
さて、どこに? という話。
やや強引な推理(というか実態はあてずっぽうに近い)により首尾よくつきとめます。

episode6 ばちあたり夜話 は、整が入院した(させられた?)病院で、病室で隣り合わせた元刑事の老人から聞かされる話が中心です。
まるでクイズのように、事件の真相を解いてみよ、と言われる整という構図がおかしい。
途中で整のほうから「ぼくもう寝てもいいですか」と音を上げるような発言がでるので、なおさら(笑)。
最後に怪談テイストを盛ったのがよかったのか、悪かったのか。中途半端になってしまった印象ですが......

episode7 暖かいのか温かいのか は、病院の誤字だらけの掲示から温室に導かれた整が、温室に秘められた謎(というのとは少々違うのですが)を解くという話です。
ちょっと仕組み過ぎではないかと思われるのですが、シリーズを通しての重要人物と思われる翔くんとの連関が示唆されているので、これでよいのでしょう。
ラストで謎めいた少女(に見えないんですが)が登場して、続きが気になります。


<蛇足>
episode5に「カルテットの話でしたけど」と整が会話を転換するシーンがあるのですが、それまでにカルテットの話なんかしてないんですよね.......なんだろ? と思って調べたら、直前にテレビドラマの話を整がしていて、そのドラマのタイトルが「カルテット」なんですね。




タグ:田村由美
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晴れた日は図書館へいこう [日本の作家 ま行]


(P[み]4-1)晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[み]4-1)晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 緑川 聖司
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/07/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
茅野しおりの日課は、憧れのいとこ、美弥子さんが司書をしている雲峰市立図書館へ通うこと。そこでは、日々、本にまつわるちょっと変わった事件が起きている。六十年前に貸し出された本を返しにきた少年、次々と行方不明になる本に隠された秘密……本と図書館を愛するすべての人に贈る、とっておきの“日常の謎”。
知る人ぞ知るミステリーの名作が、書き下ろし短編を加えて待望の文庫化。


読了本落穂ひろいです。
2017年11月に読んだ、緑川聖司「晴れた日は図書館へいこう」 (ポプラ文庫ピュアフル)
第一回日本児童文学者協会長編児童文学新人賞佳作受賞作。

第一話 わたしの本
第二話 長い旅
第三話 ぬれた本の謎
第四話 消えた本の謎
第五話 エピローグはプロローグ

番外編 雨の日も図書館へいこう
を収録した連作短編集です。

The 日常の謎、とでも言いたくなるような謎を扱っています。
第一話 図書館で見かけた三歳くらいの迷子が年齢不相応な本を「わたしの本」というのは?
第二話 少年が返却に来た本は、六十年前に少年の祖父が借りていたものだった。どうして?
第三話 図書返却用のブックポストにどうして水が投げ込まれたのか?
第四話 急に児童書が盗まれるようになった。盗まれた本の共通点から浮かび上がる犯人は?
第五話はこれまでの集大成的な顔見世が行われると同時に、主人公茅野しおりにちょっとしたサプライズ。
文庫化の際に追加された番外編は、雨の中で本を読む女性の謎を扱っていますが、シリーズ読者にちょっとうれしいプレゼント的な色彩も添えられています。

プロローグで、わたしが「晴れた日は、図書館へいこう!」と心の叫びをあげますが、その中で
「読みたい本は、たくさんある。その上、わたしが一冊の本を読んでいる間にも、世界中でたくさんの人が、わたしたちのために新しい本を書いてくれているのだ。」(7ページ)
と書いているのに注目しました。
ミステリーを読み始めた子供の頃、愚かにも、世の中のミステリーを全部読む!、と考えていたからです。
主人公の茅野しおりは小学五年生という設定ですが、当時のぼくよりもはるかに賢い(笑)。

謎を解くのはしおりではなく周りの人物たちで、謎もさほど大きなものがないので、解いたというよりも解けた、という風情を漂わせていますが、この種の謎に図書館はふさわしいのかも、と思えました。
あとがきで作者も
「図書館を舞台にした作品を書こうと思ったのは、頻繁に通っていてよく知った場所だったということと、いわゆる『日常の謎』ものの舞台になりそうだな、と思ったからでした。」
と書いています。

集中のお気に入りは「第二話 長い旅」。
繰り返し出てくる「そういう時代」という語を味わってしまいました。
こういう作品が気に入るようになったのは、こちらが歳を取ったということなのでしょうか?

シリーズも好調なようで、
「晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語」 (ポプラ文庫ピュアフル)
「晴れた日は図書館へいこう 夢のかたち」 (ポプラ文庫ピュアフル)
と第3作まで出版されています。



<蛇足>
「去年のテーマは『光害(ひかりがい)について』(『公害』と区別するために、『ひかりがい』と読むのだそうだ)。」(127ページ)
光害は「ひかりがい」と読むのですね。知りませんでした。



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シェルター 終末の殺人 [日本の作家 三津田信三]


シェルター 終末の殺人 (講談社文庫)

シェルター 終末の殺人 (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
目覚めた場所は硬くて冷たい床の上だった──。“私”は自称ミステリ作家の富豪、火照陽之助の屋敷を取材する。目当ては庭の迷路に隠されたシェルターだったのだが……。そこで発生する極限状況下の連続密室殺人事件。地の底で待つ謎と恐怖と驚愕の結末とは何か? “作家三部作”に連なるホラー&ミステリ長編。


読了本落穂ひろいです。
手元の記録によると2018年3月に読んでいます。
三津田信三「シェルター 終末の殺人」 (講談社文庫)

核シェルターの取材に訪れた作家三津田信三。そのとき核爆発が起こったらしく、逃げ込んだ核シェルター内で起こる連続殺人事件。
たまたま居合わせたと思われる登場人物たちで連続殺人が起こる、というあまりにも非日常の世界で、シェルターの持ち主をシェルターの外に締め出してしまったという負い目を負う三津田信三の視点から事件がつづられます。

シェルター外に取り残された主人を除くと、当日来ていた客とシェルターの中の人物の数が合わない、というあたりから、ミステリとしての興味が強く立ち上がってきます。
そして矢継ぎ早に起こる連続殺人。

三津田信三のミステリにつきものといえそうな、ミステリ談議が楽しい。
本作は、密室談義。
また、ホラーとミステリのビデオコレクションを前にディスカッション(?)するところ(133ページあたりから)もとても楽しい

「そして誰もいなくなった」 (クリスティー文庫)を思わせる展開を見せ、ということは通常の謎解きミステリとは違う趣の作品なのかも、と多少は身構えながら読むのですが、真相というのかエンディングというのか、なかなか特殊な地点に連れていってくれます。そう来ましたか!
なので、解説で篠田真由美が「読んで喜ぶ人とそうでない人がいるかも、と思った」と書いているように、読者を選ぶ小説ではあると思いますが、三津田信三の読者であれば問題なく楽しめるのではないでしょうか? だいたい、語り手が三津田信三なんですから。

作中に展開されるホラー、ミステリ談議も、おそらくは結末に対するヒントなのでしょう。
この衝撃のラストの余韻に浸っているうちに、最後に、巻頭言を読み返します。
「何処か別の世界でも
小説を書いているかもしれない
もう一人の三津田信三に本書を捧ぐ──」
これ、とてもよい巻頭言ですね。


<蛇足1>
「私の実家がある奈良の杏羅(あんら)に住む、飛鳥信一郎という親友の妹が、明日香だった。」(25ページ)
あすかあすか、という名前なのか......

<蛇足2>
「その登場人物の描き分けという難題を、無理なく処理する方法が実はないこともない」
「すでにクリスティも、自身の小説でやっているしな。」
「類型的な人物を登場させること」
「えっ……、個性的やのうて?」
「その逆やな。悪く言えば類型的、良く言えば典型的な登場人物を操ることで、物語が構成されているのが、クリスティ作品の特徴じゃないか」(142ページ)
赤川次郎がエッセイ「ぼくのミステリ作法」 (角川文庫)で同じような趣旨のことを述べていたので、おやっと思いました。

<蛇足3>
「調べることができるかぎり、どんな難しい問題でも解けないものはない。
 これはテレンティウスの言葉で、S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』からの孫引きである。」(449ページ)
非常に印象的なセリフですが、「僧正殺人事件」 (創元推理文庫)は何度も読んでいるというのに覚えていませんでした。
もっといろんな作品に引用されていてもよさそうなセリフですよね。



タグ:三津田信三
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伊藤博文邸の怪事件 [日本の作家 岡田秀文]


伊藤博文邸の怪事件 (光文社文庫)

伊藤博文邸の怪事件 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/06/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
明治十七年、伊藤博文邸の新入り書生となった杉山潤之助の手記を、小説家の「私」は偶然手に入れた。そこに書かれていたのは、邸を襲った、恐るべき密室殺人事件の顛末だった。奇妙な住人たちに、伊藤公のスキャンダル。不穏な邸の空気に戸惑いつつも、潤之助は相部屋の書生・月輪(がちりん)龍太郎とともに推理を繰り広げる。堂々たる本格ミステリの傑作、シリーズ第一弾!


読了本落穂ひろいです。
岡田秀文の「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)
月輪シリーズの第一作です。
このあとシリーズは
「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
「海妖丸事件」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
短編集の「月輪先生の犯罪捜査学教室」 (光文社文庫)
と書き継がれています。

伊藤博文の屋敷へ書生としてやってきた杉山潤之助の手記(を現代の小説家のわたしが現代文に直したもの)という体裁で物語は語られます。
大きく時代が動いた激動の明治初期、舞台は伊藤博文邸、というのが目を引きますが、なにより書生の生活というのが興味深かったですね。
伊藤博文邸の書生というのが一般的な書生像かというと、おそらくそんなことはないのでしょうが、現代ではごくごく例外的な存在と思われる書生には興味津々です。

ミステリ的側面に目を向けると、まず目を引くのが密室状況にしていることだと思いますが、こちらはトリックもあっさりしたもので、物語の中の比重はさほど大きくはないでしょう。
明治ならでは、というよりはもっと細かく伊藤博文邸ならではの犯行動機であったりの物語全体の構図面白い狙いを持った作品をシリーズ第1作に持ってきたな、と感じました。

シリーズは「月輪先生の犯罪捜査学教室」だけが未読です。楽しみ。


<蛇足>
「紺の手拭いを姉さん被りにし、襷掛けに尻端折りという、どこか勇ましい姿」(173ページ)
時代を感じさせる格好ですが、”尻端折り” がわからず、調べてしまいました。
着物の裾を外側に折り上げて、その端を帯に挟むこと。
とあります。





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さよなら、シリアルキラー [海外の作家 ら行]


さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/05/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ジャズは高校三年生。町ではちょっとした有名人だ。ある日、指を切りとられた女性の死体が発見され、ジャズは連続殺人だと保安官に訴える。なぜジャズには確信があったのか──彼が連続殺人犯の息子で、父から殺人鬼としての英才教育を受けてきたからだ。親友を大切にし恋人を愛するジャズは、内なる怪物に苦悩しつつも、自ら犯人を捕えようとする。全米で評判の青春ミステリ。


読了本落穂ひろい。
バリー・ライガの「さよなら、シリアルキラー」 (創元推理文庫)
2017年10月に読んだようです。

冒頭のシーンは、警察が現場検証を行っているのを背の高い草に隠れて伺っている主人公ジャズ。
非常に怪しい幕開けで、これだけではジャズがいわゆる正義サイドなのか悪サイドなのかわからない。
次第に、ジャズは正義サイドで、あらすじにもあるように不幸なことに父親ビリーがシリアル・キラーで、連続殺人鬼としての英才教育(!) を受けてきた17歳の青年、ということがわかります。
連増殺人鬼のことがわかるから、捜査を手伝わせてくれ、というジャズ。

もうこれだけで面白そうではないですか!
当然のことながら、ジャズを取り巻く環境は容易ではありません。
シリアル・キラーが父親。その手にかかった被害者の家族がやってきたりする日常も、事件の捜査とならんで、しっかり描かれていきます。
祖母と暮らす毎日もジャズにとっては厳しい。今はいない母親に関するあやふやな記憶も悩み。
ジャズを支えるのは、ジャズにとってかけがえのない友人、ビリーの側に堕ちてしまいそうになるのをつなぎとめ、正気でいさせてくれるハウイーと、彼女であるコニー。

70ページになると、ジャズが伺っていた事件の犯人である”ものまね師”が登場。逆にジャズを伺っていることがわかります。
このあたりはシリアル・キラーものサスペンスの王道のパターンではありますが、主たる視点が連続殺人鬼の息子ということで自らに対する疑問を抱える青年の思春期の苦悩と照射しあってとても新鮮です。
「おまえは人殺しだ。まだ誰も殺していないだけで」(351ページ)
というセリフ、強烈でしょう?

青春小説のテイストが好きなので、とても楽しく読みました。
このあとのシリーズも購入してあるのですが、未読です。
(超)久しぶりに手に取ってみたいと思います。








原題:I Hunt Killers
作者:Barry Lyga
刊行:2012年
訳者:満園真木






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こなもん屋うま子 [日本の作家 田中啓文]


こなもん屋うま子 (実業之日本社文庫)

こなもん屋うま子 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/08/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
たこ焼き、お好み焼き、うどん…
絶品「こなもん」でお悩み解決!

その店は、大阪のどこかの町にある。仕事に、人生に、さまざまな悩みを抱える人びとが、いかにも「大阪のおばはん」の女店主・蘇我家馬子(そがのやうまこ)がつくるたこ焼き、お好み焼き、うどん、ピザ、焼きそば、豚まんなど、絶品「こなもん」料理を口にした途端……神出鬼没の店「馬子屋」を舞台に繰り広げられる、爆笑につぐ爆笑、そして感動と満腹(!?)のB級グルメミステリー!


読了本落穂ひろい。
2016年6月に読んだ田中啓文「こなもん屋うま子」 (実業之日本社文庫)

「豚玉のジョー」
「たこ焼きのジュン」
「おうどんのリュウ」
「焼きそばのケン」
「マルゲリータのジンペイ」
「豚まんのコーザブロー」
「ラーメンの喝瑛」
以上7編収録の連作短編集。

ふと見つけた食べ物屋さん。
そこで悩みや謎を解決(あるいはその糸口をつかむ)。
でも再び訪れようと思っても見つからない。
こういう設定の物語、ちょくちょくありますが、楽しいですよね。
このこなもん屋は、話の順に、宗右衛門町、天神橋筋商店街、(ミナミの)谷町筋沿い、(ミナミの)三津寺筋、JR天王寺駅周辺、心斎橋筋の裏通り、鶴橋の駅周辺、にあるというのですから転々としています。
物語の中には書かれていませんが、田中啓文のことですから、どんな裏設定を仕込んでいるのかな、とあれこれ想像しながら読むのも楽しい。

引用したあらすじには、B級グルメミステリーとありますが、ミステリーというほどの謎があるかというとない気がしますね。
人情ものの方が近そうです──それぞれ結末へ向けての伏線や手がかりは仕込まれていることが多いですが。

ところで、このこなもん屋の馬子とイルカ、
「UMAハンター馬子―完全版〈1〉」 (ハヤカワ文庫JA)
「UMAハンター馬子―完全版〈2〉」 (ハヤカワ文庫JA)
の馬子たちですよね......裏設定なのかもしれませんが。


タグ:田中啓文
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怪盗紳士モンモランシー2 ロンドン連続爆破事件 [海外の作家 あ行]


怪盗紳士モンモランシー2 (ロンドン連続爆破事件) (創元推理文庫)

怪盗紳士モンモランシー2 (ロンドン連続爆破事件) (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/12/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
諜報員モンモランシーは崖っぷちにいた。仕事先のトルコで麻薬に溺れてしまったのだ。手を焼いたジョージ・フォックス・セルヴィン卿は友人の医師に治療を依頼しようとしたが、肝心の医師は自分のミスで患者を死なせてしまい、引退を決意する始末。ジョージは二人を立ち直らせようと、スコットランドに連れていく。一方ロンドンでは爆破事件が起こり、諜報員が必要とされていた。


2023年2月の感想が終わったので、読了本落穂ひろい。
エレナー・アップデールの「怪盗紳士モンモランシー2 ロンドン連続爆破事件 」(創元推理文庫)
2017年6月に読んでいます。
前作「怪盗紳士モンモランシー」(創元推理文庫)(感想ページはこちら)を読んだのが2017年1月だったので、割と間を開けずに読んだのですね。珍しい。

非常に広い意味でのミステリーではあるのでしょうが、ミステリ味は非常に薄味で、前作の感想にも書きましたが、古き良き時代の大衆小説、という趣きです。

副題に、ロンドン連続爆破事件とあるように、ウォータールー駅、キングスクロス駅の爆破事件を扱っています。
もう一つの主要な事件は、スコットランドの離島タリモンド島で赤ん坊が次々と死んだ事件。

いずれも、きちんと捜査する、というよりは、行き当たりばったり。出たとこ勝負で真相に辿り着くのですから、ミステリとして評価するのは難しいでしょう。
それよりは、その折々で登場人物たちの変貌ぶりとか、ドタバタぶりを楽しむのが吉なのでしょう。
古き良き時代の大衆小説という所以です。

大衆娯楽小説を目指していることは、たとえば「26 ウォータールー駅」という章で、モンモランシーはジョージ卿に過去を打ち明けるシーンでも明らかです。
このシーンの芝居がかっていることといったら。
おそらくはあえて古めかしい展開、描写にしているのでしょう。
邦訳はこの第2作で打ち切られてしまったようですが、本国では好評なのかシリーズがかなり続いているようです。

こういう作品が日本で受けるのは難しいのかもしれませんね。


<蛇足1>
「この時期は『焚き火の夜(ガイ・フォークス)(十一月五日の晩の祭)』の準備でフル稼働していますからね。」(41ページ)
ガイ・フォークス・デイ(あるいはガイ・フォークス・ナイト)。懐かしく感じますね。
日本語で「焚き火の夜」と訳すのですね。知りませんでした。
焚き火や花火をする日です。
ガイ・フォークスというのは国王ジェームズ1世を暗殺しようと国会議事堂に火薬を運び込んだ暗殺未遂犯で、それを記念するとは変なお祭り、と思っていましたが、ジェームズ1世の生存を祝ったのがいわれなのですね。そりゃ、そうですよね。暗殺犯を祝ったりはいないですね(笑)。

<蛇足2>
「30 キュー・ガーデンとコベント・ガーデン」において、キュー・ガーデンで人を探すというシーンがあります。作中では広くて見つからなかった、となっているのですが、当たり前です!
あんな広大な場所で人を探すのは無理でしょう( 132 haあるそうです)。


原題:Montmorency on the Rocks
著者:Eleanor Updale
刊行:2004年
訳者:杉田七重




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吸血鬼と猛獣使い [日本の作家 赤川次郎]


吸血鬼と猛獣使い (集英社オレンジ文庫)

吸血鬼と猛獣使い (集英社オレンジ文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2022/07/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
町を渡り歩くサーカス団から、ライオンが脱走した!? ひとたび騒ぎになれば、大事なライオンが射殺されてしまう。団員たちは秘密裏に捜索を始めるが……。一方、ぐっすり眠っていたエリカを一本の電話が叩き起こした。相手は「あんたのせいで娘が家出したから捜せ」と怒鳴りつけ!? 表題作ほか2編を収録。吸血鬼はお年ごろシリーズ、待望の最新作!


2023年2月に読んだ最後の本です。
「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ 第40弾(と書いてないですが、手元で数えたところ、そのはずです)。

「吸血鬼に雨が降る」
「不屈の吸血鬼」
「吸血鬼と猛獣使い」
の3編収録です。

「吸血鬼に雨が降る」は当事者にとって大変ことではありますが、ミステリらしい事件は起こりません。
災害が迫りくるという緊迫感と登場人物たちの繰り広げる出来事が絡み合って盛り上がっていくところはさすがです。

「不屈の吸血鬼」はマラソン選手とコーチの話題ですが、赤川次郎の別の作品でみたような話です。
最後に、
「お父さんが『力』を送ったのね!」(168ページ)
とエリカが考えるシーンがあり、クロロックも認めているようなのですが、吸血鬼のクロロックにこういう「力」まであったかな、と不思議な気分。
こういう「力」が使えるなら、解決の仕方が変わった話がいっぱいありそうです。

「吸血鬼と猛獣使い」は、「吸血鬼猛獣使い」とするのがふさわしい気がします。
ライオンが逃げ出すという以外に大したことは起きないのですが(いや、それだけで十分大事件ですが)、クロロックたちがさほど活躍しなくても収まるところに収まるのが見事──で、それを読んでいる間は受け入れさせてしまう。
とはいえ、ライオンって、こんなにいいやつなんでしょうか?

3話まとめて、あまりミステリ、ミステリしていない話、かつ吸血鬼ならではという感じの薄い作品が揃っていました。
シリーズとしては異色作かもしれません。


<蛇足1>
「すでに日本に長く、若い妻涼子との間には一子虎ノ介もいる、良きパパである。」(88ページ)
地の文にあるクロロックの説明なのですが、あれ、エリカは?と思いました。
そのあとに登場し
「クロロックの亡き日本人の先妻との間の娘である。今、大学生。」
と説明が付されるのですが、間違いではないものの、前段の紹介文には違和感。
この作品では違いますが、叙述トリックのような使い方ができるのでしょうか? なんとなく、アンフェアと言われそうな。

<蛇足2>
「見えなかったが……。野生の動物のような匂いだった。」(204ページ)
サーカスからライオンが逃げ出すという大事件でクロロックがいうセリフです。
サーカスで飼われているライオンは「野生の動物のような匂い」なのでしょうか? 獣の匂いには違いないですが、野生、ではないですよね。

<蛇足3>
「理屈はよくわからなかったが、隊長は『死んでも日本人でないのなら、責任問題になるまい』と思ったのである。」(224ページ)
ライオン捕獲のため出動した警察の隊長の判断なのですが、こういう思考をすることがあるでしょうか?
まあ、ここでいう「日本人でない」人というのはクロロックなので、なんの問題もないのですが。



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ニャン氏の童心 [日本の作家 ま行]


ニャン氏の童心 (創元推理文庫)

ニャン氏の童心 (創元推理文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/11/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
仕事に悩む女性編集者の田宮宴はある日、袋小路で人が忽然と消えるという事件に遭遇。謎の実業家にして童話作家のミーミ・ニャン吉先生の事務所で、秘書の丸山にその不思議な出来事について話すと、そばにいた猫が何かを伝えようとするかのようにニャーニャーと鳴いている……。ニャン吉先生ことニャン氏の正体とは?! 愛すべき猫探偵・ニャン氏の事件簿パート2、出来だニャ。


「ニャン氏の事件簿」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾です。

「袋小路の猫探偵」
「偽りのアプローチ」
「幸運の星の下に」
「金栗庵の悲劇」
「猫探偵と土手の桜」
「ニャン氏のクリスマス」
の6編収録の短編集で、題して「ニャン氏の童心」 (創元推理文庫)
「〇〇の事件簿」だと先行作が多くてどれだと特定できませんが、「〇〇の童心」とくれば、これは絶対にブラウン神父。「ブラウン神父の童心」 (創元推理文庫)に違いない!
それが証拠に? 冒頭の「袋小路の猫探偵」なんて、ちょっとチェスタトンっぽい謎解きです。
もっとも、ニャン氏はやり手の実業家でもあり、innocent な感じはあまりしませんけれども(笑)。

視点人物が「ニャン氏の事件簿」のときの佐多くんから、童話作家「ミーミ・ニャン吉」先生の担当編集者である田宮宴に代わりました。また佐多くんとは会ってみたかったのにな。

他の作品にも触れておきます。
「偽りのアプローチ」は、チェスタトンというよりは、〇〇〇〇・〇〇〇〇ですね。
東京準備室開設をめぐるエピソードやタイトルの「偽りのアプローチ」の意味は、少々やりすぎ感ありますが、そこはチェスタトンらしいかな?
前作を実家に送ってしまって今手元にないので確認できないのですが、ここに出てくる来栖というバイトのメイド、再登場ですよね?

「幸運の星の下に」は、古書査定中の出来事で、この前に読んだ「キネマ探偵カレイドミステリー ~再演奇縁のアンコール~ 」(メディアワークス文庫)にDVDの査定の話があって、思わぬ暗合を楽しみました。
謎解きそのものは他愛のないものですが、ネコの世界にもこういうことがあるのでしょうか?

前話のラストで、ニャン氏の正体が視点人物である田宮宴に明かされましたので、「金栗庵の悲劇」からニャン氏は、堂々たる名探偵として登場します。この切り替わり具合が結構心地よいですね。
金栗庵はきんぐりあんと読むのですが、まさかねぇ(笑)。
この作品に岡崎という人物が出てきます。ニャン氏のことを知っています。
すっかり忘れていましたが、佐多くんの先輩だったような気がします。上のメイドさんと併せて確認しなければ。

「猫探偵と土手の桜」には参りました。
傑作というのとは違うのですが、個人的に完璧にツボです。
ある意味、日常の謎の頂点ではなかろうかと勝手に思ってしまったくらい、大好き。
仕掛ける(?)のが執事というのがいいですし、これを解くのがネコというのも、とても気が利いていると思いました。
怒る人もいるでしょうねぇ、これ。でも、好きです。偏愛です。

「ニャン氏のクリスマス」はうって変わってものものしい雰囲気の作品となっています。
ニャン氏にお届け物をしないといけなくなった田宮宴という設定ですが、ニャン氏の居場所を教えることができない、という冒頭から不穏な香り。
もっとも、そのために、起こる事件の真相が非常にあからさまである点はミステリとしては弱いですが、シリーズの転回点というか、本書の大団円という感じがステキでした。

シリーズは、次の「ニャン氏の憂鬱」 (創元推理文庫)に続いているので、とても楽しみです。


<蛇足1>
「日本では『ハチワレ』、英語圏では『タキシードキャット』と呼ばれる、顔の上半分と背中および手足が 黒、残りは真白な猫だ」(13ページ)
恥ずかしながら「ハチワレ」という語を知りませんでした。

<蛇足2>
「猫好きがみんないい人だなんて言うつもりはありません」島村はつづけて「しかし、猫が嫌いな人というのは、まずたいてい、ろくなものじゃないのです」(100ページ)
いわゆる「動物好きに悪い人はいない」という言い回しはバカバカしいものですが、ここまで言い切られると天晴れですね。思わず笑ってしまいました。


<2024.1.10追記>
改行されず、とても読みにくい状態になっていたのを修正しました。
中身はいじっていません


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キネマ探偵カレイドミステリー ~再演奇縁のアンコール~ [日本の作家 さ行]


キネマ探偵カレイドミステリー ~再演奇縁のアンコール~ (メディアワークス文庫)

キネマ探偵カレイドミステリー ~再演奇縁のアンコール~ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 斜線堂 有紀
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
日常は映画より奇なり
 火事で家が燃え、嗄井戸(かれいど)が住む銀塩荘の一階に引っ越した奈緒崎(なおさき)は、嗄井戸の部屋に入り浸る日々を過ごしていた。
 夏休みが終わり、大学に赴いた奈緒崎は同級生にかけられた『スタンド・バイ・ミー』窃盗容疑を晴らすため、嗄井戸のもとへ向かうが――。
 実力派女優の家に残されたピンク色の足跡、中古ビデオ屋の査定リストに潜む謎……圧倒的な映画知識で不可解な事件を解決してみせる引きこもりの秀才・嗄井戸。その謎解きの中には彼自身の過去が隠されていて――?!


2023年2月に読んだ8冊目の本です。
「キネマ探偵カレイドミステリー」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら)に続く、斜線堂有紀の第2作。
「キネマ探偵カレイドミステリー ~再演奇縁のアンコール~ 」(メディアワークス文庫)

第一話「再演奇縁のオーバーラップ」(『スタンド・バイ・ミー』)
第二話「自縄自縛のパステルステップ」(『アーティスト』)
第三話「正誤判定のトレジャーハント」(『バグダッド・カフェ』)
の三話からなる連作短編集、『バグダッド・カフェ』観てないなぁ。
なんですけど、このエンディングはずるいよ、斜線堂さん。
嗄井戸の過去につながりそうな、とても怖いシーンで終わるだなんて!

巻頭に、探偵役を務める嗄井戸高久と語り手である俺・奈緒崎との牧歌的とも言えるやりとりが掲げられているので、安心していたら、なんという終わり方。
続きが気になって仕方ない。

さておき。各話みていくと、
「再演奇縁のオーバーラップ」は、奈緒崎の同級生が『スタンド・バイ・ミー』を盗んだ疑いをかけられるという物語ですが、盗みそのものから話の焦点がずれていくところがおもしろかったですね。しかし、この同級生は運のいいやつだ。
「自縄自縛のパステルステップ」は、白い敷石につけられたピンク色のペンキの足跡の謎なのですが、正直無理があると思います。実物を見たわけではないので、そういうものだと言われたらそれまでなのかもしれませんが、登場人物は絶対気づくと思いますし、心理的にもありえないと思うのですが(登場人物が状況に慣れていなかったというのがギリギリ可能な解釈でしょうか)。
同種のアイデアを使った作品は、ミステリではいくつか先例がありますが、いずれも鮮やかというよりはミスが目立つので、使いにくいアイデアなのかもしれませんね。
とはいえ、舞台女優である荒園杏子が印象的だったのと、束(たばね)と奈緒崎の話というのがなかなか味わい深かったので、楽しみましたが。
「正誤判定のトレジャーハント」は、遺産が一千万単位で少なかったので、死後に処分されたDVD、VHSコレクションの中にお宝が隠されていたのではないか、という謎で、目のつけ処が面白いなと思いました。でも、簡単にできるのかな、これ?
そして最後にねぇ.....こんな爆弾シーンで締めくくるなんて、斜線堂さん、いじわるです。

この「キネマ探偵カレイドミステリー ~再演奇縁のアンコール~ 」(メディアワークス文庫)は、嗄井戸の影が薄いわけでは決してありませんが、語り手である奈緒崎のキャラクターがどんどん浮き彫りになっていく感じがしてとても楽しかったです。
さて、「キネマ探偵カレイドミステリー ~輪転不変のフォールアウト~」 (メディアワークス文庫)をなるべく早く読まなきゃ。


<蛇足1>
「フィルム・アーキビストです。いわば、映画の保存師ですね。映画を後世に残す為、フィルムの劣化を防ぎ、全ての映画を守る仕事です。」(21ページ)
そういう職業があるのですね。
非常に重要な仕事だと思います。

<蛇足2>
「トーキーってなんだ?」
「そのまま、無声映画に対して音声のついた映画のことだよ。麗しくも喋るもの。Moving Picture が movie になるんだから Talking picture が Talkie になるのも自明だろう?」(153ページ)
なるほど。トーキーという語は知っていましたが、語源的にムービーと相似形ということは意識していませんでした。

<蛇足3>
「終幕だ。……愁作(ゆうさく)だったな」(184ページ)
嗄井戸の決めゼリフで、一話目が奇作で、三話目が「感涙必至の秀作」だったのですが、この第二話の「愁作」がわかりませんでした。まあ、「愁い」という字で雰囲気はわかるんですけど、愁の字を「ゆう」と読んだら伝わらない気がします。
小説ならではの表現ということでしょうか?





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