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キネマ探偵カレイドミステリー [日本の作家 さ行]


キネマ探偵カレイドミステリー (メディアワークス文庫)

キネマ探偵カレイドミステリー (メディアワークス文庫)

  • 作者: 斜線堂 有紀
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
華麗なる謎解きの名画座へ、ようこそ。
「休学中の秀才・嗄井戸高久(かれいどたかひさ)を大学に連れ戻せ」
 留年の危機に瀕するダメ学生・奈緒崎は、教授から救済措置として提示された難題に挑んでいた。しかし、カフェと劇場と居酒屋の聖地・下北沢の自宅にひきこもり、映画鑑賞に没頭する彼の前に為すすべもなく……。そんななか起こった映画館『パラダイス座』をめぐる火事騒動と完璧なアリバイを持つ容疑者……。ところが、嗄井戸は家から一歩たりとも出ることなく、圧倒的な映画知識でそれを崩してみせ――。


読了本落穂拾いに戻ります。
手元の記録によると2017年10月に読んでいるようです。
今注目度の高い作家、斜線堂有紀のデビュー作、第23回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞作です。

「ビブリア古書堂の事件手帖」 (メディアワークス文庫)シリーズ(感想ページはこちら)の三上延が帯で推薦しています。いわく
「豪快に蘊蓄が詰めこまれた、
 映画好きによる映画好きのためのミステリー。
 想像を超えるクライマックスに震えた。」

第一話「逢縁奇縁のパラダイス座」(『ニュー・シネマ・パラダイス』)
第二話「断崖絶壁の劇場演説」(『独裁者』)
第三話「不可能密室の幽霊少女」(『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』)
第四話「一期一会のカーテンコール」(『セブン』)
の四話からなる連作短編集です。
幸い、映画は四作とも観ています。

巻頭に見開き2ページの導入部分が書かれていて、探偵役を務める嗄井戸高久と語り手である俺・奈緒崎とのやりとりが掲げられています。
その結びに
「現実より映画の方が素敵で素晴らしいなんてことは、本当にあるんだろうか?」
なんとも気宇壮大な投げかけで物語が始まるではありませんか。
新人作家らしいこういう気負いいいですよね。

第一話の冒頭いきなり
「俺は映画というものを殆ど観たことがない。強いて言うなら小学生のときに観た『ドラえもん』が最後だろうか。-略- 中学に上がってからはあの恐ろしくて楽しい映画を観返したことがない。というか、映画自体を観なくなってしまった。」(8ページ)
でびっくり。
あら、映画の蘊蓄たっぷりらしいのに、映画を知らない人物を中心に据えるのか。
蘊蓄パートは名探偵役に委ねるとしても、映画好きとは言えなくても、それなりに映画は観ている人物あたりを使うのではと思っていたのです。
ダメ押し的に
「大学に入ってから、俺は映画なんか観なくなってしまった。」(8ページ)
と続きます。
小学校以来観ていないのだから、大学に入ってから「観なくなった」のではなく、「大学に入ってからも映画なんか観なかった」でないとおかしいだろう、と思いましたが、このあたりがダメ学生の由縁なんでしょうね。

同時にこのあとすぐに、しっかり読もう、と決意していました。
というのも、語り手の文章の密度が(比較的)濃いのです。
文章の響き、トーン、使われる単語や漢字、みっしり、という感じ。
ラノベ的な軽い文章を予期していたので、かなり意外感あり。
大学生(しかもダメ大学生)というよりは、もっと年齢の高い男性が書いているかのよう。
と、今感想を書きながら気づいたのですが、この作品、冒頭の見開き導入がつけられていることからしても、ひょっとして奈緒崎がかなり後になって振り返っているという構造の作品なのでしょうか?
大学の事務室の女性からの電話で、「きっとまだ若い女の子だろう」(10ページ)なんて、到底大学生が抱きそうもない感想が書かれたりもしますし。
この推測が当たっているかどうかはともかくとして、かなりの後出しじゃんけんっぽいですが、このあとラノベではない小説分野で活躍されるのを予見させてくれるような。

各話みていくと、
「逢縁奇縁のパラダイス座」は、実現性があるのかどうかわからないのですが、トリックがなんともいえない味がある。
「断崖絶壁の劇場演説」は、うーん、無理じゃないですか? 演説者である坂本くん次第ではあると思うのですが。
「不可能密室の幽霊少女」は、タイトルになっている不可能現象の解明は見え見えなのは置いていくとして(見え見えだけど、高校生がやったと考えると楽しいです)、若干アンフェア気味なのが気になります。
「一期一会のカーテンコール」は、割と早めに書いてあるで明かしてしまいますが、見立て殺人を扱っているのですが、犯人の狙いのずらし方が残念。

といろいろと注文を付けてしまいましたが、映画とミステリ、どちらも好きなので、とても楽しく読めるシリーズになっています。
続刊も出ているので、読んでいきたいです。



<蛇足1>
第一話のタイトルにある「逢縁奇縁」。この言葉知りませんでした。
ネットで検索しても、固有名詞以外では出てきませんね。検索では、合縁奇縁(あいえんきえん)は出てきます。
意味は、合縁奇縁と同じだろうとわかるんですけどね。

<蛇足2>
「高畑教授からの呼び出しまでバックレるほど、俺は強い人間ではなかった。」(11ページ)
「バックレる」という表現、表記は「バックレる」で、「バックれる」ではないのですね。
「バックレ」自体が名詞として使われることもありますので、確かにこの表記のほうがしっくりくるかも。

<蛇足3>
第一話のパラダイス座に関し、運営者の常川さんが
「私が今までで一番愛した作品から頂いた名前だ。」(32ページ)
と語るシーンがあります。
言うまでもなく、『ニュー・シネマ・パラダイス』なわけですが、とすると歴史の浅い映画館だなぁと思ってしまいました。
でも、ですよ、この「キネマ探偵カレイドミステリー」 (メディアワークス文庫)が出版されたのが2017年で、『ニュー・シネマ・パラダイス』は調べてみると1988年公開の映画。
とするともう30年前の作品なんですね。
『ニュー・シネマ・パラダイス』が出てすぐにできた映画館ではないとしても、それなりに時間は経っていて「歴史の浅い」とは限らないですね。
こちらが歳をとってしまって、このあたりの感覚がずれてきていますね(苦笑)。

<蛇足4>
「元々成績優秀者の名を欲しいままにしていた坂本真尋のことだ。」(145ページ)
「ほしいままにする」は「欲しい」ではないですね。
新人作家なのだから、しっかり校正してあげてほしいです。

<蛇足5>
「それは……如何とも言い難い話だったが、」(284ページ)
「如何とも言い難い」って言いますか? 「如何とも」だと続くのは「し難い」ではなかろうかと。



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