吸血鬼と猛獣使い [日本の作家 赤川次郎]
<カバー裏あらすじ>
町を渡り歩くサーカス団から、ライオンが脱走した!? ひとたび騒ぎになれば、大事なライオンが射殺されてしまう。団員たちは秘密裏に捜索を始めるが……。一方、ぐっすり眠っていたエリカを一本の電話が叩き起こした。相手は「あんたのせいで娘が家出したから捜せ」と怒鳴りつけ!? 表題作ほか2編を収録。吸血鬼はお年ごろシリーズ、待望の最新作!
2023年2月に読んだ最後の本です。
「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ 第40弾(と書いてないですが、手元で数えたところ、そのはずです)。
「吸血鬼に雨が降る」
「不屈の吸血鬼」
「吸血鬼と猛獣使い」
の3編収録です。
「吸血鬼に雨が降る」は当事者にとって大変ことではありますが、ミステリらしい事件は起こりません。
災害が迫りくるという緊迫感と登場人物たちの繰り広げる出来事が絡み合って盛り上がっていくところはさすがです。
「不屈の吸血鬼」はマラソン選手とコーチの話題ですが、赤川次郎の別の作品でみたような話です。
最後に、
「お父さんが『力』を送ったのね!」(168ページ)
とエリカが考えるシーンがあり、クロロックも認めているようなのですが、吸血鬼のクロロックにこういう「力」まであったかな、と不思議な気分。
こういう「力」が使えるなら、解決の仕方が変わった話がいっぱいありそうです。
「吸血鬼と猛獣使い」は、「吸血鬼は猛獣使い」とするのがふさわしい気がします。
ライオンが逃げ出すという以外に大したことは起きないのですが(いや、それだけで十分大事件ですが)、クロロックたちがさほど活躍しなくても収まるところに収まるのが見事──で、それを読んでいる間は受け入れさせてしまう。
とはいえ、ライオンって、こんなにいいやつなんでしょうか?
3話まとめて、あまりミステリ、ミステリしていない話、かつ吸血鬼ならではという感じの薄い作品が揃っていました。
シリーズとしては異色作かもしれません。
<蛇足1>
「すでに日本に長く、若い妻涼子との間には一子虎ノ介もいる、良きパパである。」(88ページ)
地の文にあるクロロックの説明なのですが、あれ、エリカは?と思いました。
そのあとに登場し
「クロロックの亡き日本人の先妻との間の娘である。今、大学生。」
と説明が付されるのですが、間違いではないものの、前段の紹介文には違和感。
この作品では違いますが、叙述トリックのような使い方ができるのでしょうか? なんとなく、アンフェアと言われそうな。
<蛇足2>
「見えなかったが……。野生の動物のような匂いだった。」(204ページ)
サーカスからライオンが逃げ出すという大事件でクロロックがいうセリフです。
サーカスで飼われているライオンは「野生の動物のような匂い」なのでしょうか? 獣の匂いには違いないですが、野生、ではないですよね。
<蛇足3>
「理屈はよくわからなかったが、隊長は『死んでも日本人でないのなら、責任問題になるまい』と思ったのである。」(224ページ)
ライオン捕獲のため出動した警察の隊長の判断なのですが、こういう思考をすることがあるでしょうか?
まあ、ここでいう「日本人でない」人というのはクロロックなので、なんの問題もないのですが。
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