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白魔 [海外の作家 さ行]


白魔 (論創海外ミステリ 156)

白魔 (論創海外ミステリ 156)

  • 作者: ロジャー・スカーレット
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/10/01
  • メディア: 単行本




単行本です。
「エンジェル家の殺人」 (創元推理文庫)で日本で高名なロジャー・スカーレットの作品ですが、このブログで感想を書くには初めてですね。
なんとなく意外です。

『新青年』誌上へ犯人当て懸賞を付けて抄訳された「白魔」 82年の時を経て待望の完訳!

と帯にありまして、つい手に取ってしまいました。
(もっとも、スカーレットのその他の作品は全部読んでいるので、最後の1冊として手に取るのは必然だったのかもしれませんが)

非常にクラシカルなお屋敷ものですね。
1/3ほど(は、言い過ぎかもしれません。2/5ほど)進んだところ(104ページ)で、あっさり犯人の名前をケイン警視が言ってのけるケレンが楽しいですが、まあ、大した仕掛けではありません。当時は新鮮だったのかな?
お屋敷に加えて、奇矯な住人、さらには、盲人、白猫、自動ピアノと本格ミステリらしい道具立てがそろっており(政治的に正しくない発言かもしれませんが)、クラシック・ミステリ好きの方なら、来た、来たーっ、と思うことでしょう。

邦題は「白魔」ですが、原題は「The Back Bay Murders」。
Back Bay は巻末の解説によると、「十九世紀に造成された住宅街の、バックベイ地区を指しています」とのことです。
「白魔」とは思い切った訳題ですが、
「この『白魔』というネーミングには、フーダニットに特化した技巧的なパズラーでありながら、いっぽうで、蠱惑的な“怪人対名探偵”の味わいを残した原作ーーその意味では、端正な本格が中心のスカーレット作品のなかでは、異色の側面をもつーーの魅力を伝える、捨てがたい味わいがあり、スカーレットの紹介に尽力した先人への敬意を込め、今回の完訳でも、その訳題を踏襲することになりました」
と書かれています。なんかベタ褒め。
しかし、正直、「白魔」というの、ぴんと来なかったんですよね...本筋ではないですが。
訳者あとがきに
『本書のタイトル「白魔」のもととなった白いペルシャ猫』
とありますが、この猫、ちっとも魔じゃないんですよね...
カバー絵にも白い猫が書かれていますし、確かに重要な役割も果たすのですが、「白魔」のいわれは、この猫ではなくて、最終ページで語られている内容を象徴したものではないかな、と推察はするのですが(猫のことも掛けていたのかもしれませんが)、いずれにせよ、いいタイトルとは思えませんでした。

本筋と関係のないところで気になったといえば、探偵役であるケイン警視と、モーラン巡査部長の会話。
「ビーコン街の殺人」 (論創海外ミステリ)に続いての登場となるわけですが、部下であるモーランがケインに対してタメ口どころか...
「頑張って名をあげなきゃならないようだ、なっ、ケイン? また同じ顔触れでチームを組むことになるんだから」(34ページ)
が本書初登場のセリフですが、終始この調子です。
これはちょっと受け入れがたかったですね。いくらなんでも、上司にこんな口調で話す人物、ましてや警察官がいるとは思えません。
「ビーコン街の殺人」 もこんな感じでしたっけ?
記憶にありません。
訳者あとがきでも
「その巡査部長も、前作に比べると別人のようなキャラクターだ」
と書かれてはおりますが... 変なの。

大技は見られませんが、小技の組み合わせで楽しませてくれる作品だと思いました。ところどころ、無理がありますが...そこはまあご愛敬ということで...
忘れてしまっているスカーレットの他の作品、読み返してもよいかもしれませんね...

<蛇足1>
「ラブジョイは椅子に沈み込んだが、あまり関心のありそうな態度ではない。線の細い人物で、その細さが背丈を実際よりも高く見せている。あまりにも弱々しくて、本当に針金のようだ。身のこなしは機敏だが、動作がいくら静かでも、図太さのようなものは隠しきれない。のんびりとした表情にもかかわらず、その目が落ち着くことはいっときもなかった」(55ページ)
この文章の意味がわかりませんでした。
ラブジョイという人物の様子を描写しているところなんですが...
下線部分からすると、見かけによらず図太い人物だ、という風に思えるのですが、この人物ちっともそんなところがありません。なんだろうな...

<蛇足2>
「錠はかなり旧式で、鍵がなければ内側からはもちろん、外からもあけられない」(89ページ)
この文章も謎です。
外側からはもちろん、内側からもあけられない」
ならわかるのですが...



原題:The Back Bay Murders
作者:Roger Scarlett
刊行:1930年
訳者:板垣節子


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