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伽羅の橋 [日本の作家 か行]

伽羅の橋 (光文社文庫 か 54-1)

伽羅の橋 (光文社文庫 か 54-1)

  • 作者: 叶 紙器
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/02/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
介護老人保健施設の職員・四条典座(のりこ)は、転所してきた認知症の老女・安土マサヲの凄惨な過去に驚く。太平洋戦争の末期、マサヲは自分の子ども二人と夫を殺したというのだ。事件の話は施設内で知られ、殺人者は退所させるべきだという議論になる。だが、マサヲが家族を殺したと思えない典座は彼女の無実を確信、“冤罪”を晴らすために奔走するが──!? 傑作本格ミステリー!


2024年3月に読んだ2冊目の本です。
叶紙器「伽羅の橋」 (光文社文庫 )
第2回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。

昭和二十年八月十四日、終戦間近の大阪を襲った大空襲のさなかに起こった事件を平成六年に解く、というストーリーで、謎解き役を務める主人公:四条典座が、猫間川とそこにかかる橋の来歴や残されていた手紙を手掛かりに、図書館での調べものや老人たちへの聞き込み、そして古い住宅地図の探索と、一歩、一歩真相に迫っていく様子を楽しむことができます。
これ、実際に作者がこの作品を書くための調べ物をこのような形で少しずつ迫っていったのでは? と思えてきます。
これが楽しい。

不可能興味の焦点は、空襲下で京橋から桃谷までどうやって二十分という短時間で移動できたか、という点にあり、103ページに地図が掲げられているとはいえ土地鑑がないとわかりづらいのが難点ですが、ハーレー・ダヴィッドソンを祖とする九七式側車付自動二輪とか暗渠とか、さらには桃谷地区を襲った水害被害まで、徐々に徐々に真相に迫っていきます。

物語のクライマックスは、阪神淡路大震災。
大阪の空襲と悲劇・惨事が二重写しに。
この中、典座が謎解きを関係者にしてみせ、細かな手がかり、ヒントを着実に回収していきます。

気になった点を挙げておきますと、視点がうろうろしてしまう点。
特に当事者の視点で物語ってしまうと、その段階で真相を明らかにすべきに思えてしまいます。あまりに作者にとって都合の良い視点の切り替えです。
心の中に踏み込まなくても、サスペンスは十二分に高まったように思うのでここは残念。
(この点以外でも視点がちょくちょく切り替わって分かりづらい箇所がところどころに)

気になる点はあるものの、戦争そして震災を背景としたイメージが強く印象に残りますし、謎を追い、解いていく楽しさにあふれた作品でしたので、また新作を発表してもらいたい作家さんです。



<蛇足1>
「制服のジャージから私服のジャージに穿き替え、〇ニクロのワゴンセールで買った、一枚五百円なりの白Tシャツを着て、スクーターにまたがった。」(122ページ)
あからさまにユニクロですが、小説の地の文で「〇ニクロ」という表記は珍しいように思います。

<蛇足2>
「元々料理をしなかった東にとって、連れ合いこそが文字通り竈神(かまどがみ)だったということかと。」(311ページ)
竈神という語自体は知っていましたが、ここのように台所を預かる主婦そのものを指す例は知りませんでした。
おもしろいですね。

<蛇足3>
「ずっと、みなさんのお話を、ドアの外でうかがっておりました。申し訳ないことでございます」(508ページ)
「申し訳ない」を丁寧にいうには、「申し訳ありません」「申し訳ございません」ではなく、「申し訳ないことでございます」である、と説いている文章を読んだことがあります。





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