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シンデレラの罠 [海外の作家 さ行]


シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)

シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: セバスチャン・ジャプリゾ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/02/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
わたし、ミは、火事で大火傷を負い、顔を焼かれ皮膚移植をし一命をとりとめたが、一緒にいたドは焼死。火事の真相を知るのはわたしだけだというのに記憶を失ってしまった。わたしは本当に皆の言うように大金持ちの伯母から遺産を相続するというミなのか? 死んだ娘がミで、わたしはドなのではないのか? わたしは探偵で犯人で被害者で証人なのだ。ミステリ史上燦然と輝く傑作。


ミステリ史にその名を轟かせている名作「シンデレラの罠」の新訳です。(まあ、この新訳が出たのは2012年2月なのでもう4年経っていますが...)
なんといっても、原書が出たときのキャッチ・コピーが有名ですね。

わたしの名前はミシェル・イゾラ。
歳は二十歳。
わたしが語るのは、殺人事件の物語です。
わたしはその事件の探偵です。
そして証人です。
また被害者です。
さらには犯人です。
わたしは四人全部なのです。いったわたしは何者でしょう?

一人四役、というのも、記憶喪失というのも、続々とこの「シンデレラの罠」にインスパイアされた作品が出ています。

個人的には、「シンデレラの罠」といえば、訳者あとがきでも触れられている、小泉喜美子の「メイン・ディッシュはミステリー」 (新潮文庫)
もともと名高い作品で読みたいと思っていましたが、「メイン・ディッシュはミステリー」 を読んで一層読みたくなりました。

上で引用したキャッチ・コピーに書かれている、一人四役を成立させる超絶技巧。
そして「ミステリーには自由で斬新な個性や冒険こそが大切なので、些細な辻つまなんぞたいして合っていなくったっていいんだ、とうそぶいている感じ……」と評された流麗な作風。
そういう印象を持ちつつ読んだことを思い出します。
で、読んだ感想はというと、わかったような、わからんような....
実は旧訳版は、3回か4回読んでいるのですが、そのたびに、わかったような、わからんような....
一人四役というのは、証人っていうのはちょっとインチキですが(だって、たいてい、犯人は証人を兼ねているでしょう??)、成立していることは読み取れます。
で、わたしは、ミなの?、ドなの? という部分も、ラストでさらっと決め技を出してくれます。うん、洒落ている。
が、どことなく釈然としない。本当にこれでいいんだっけ?
それでも、雰囲気にはどっぷりと毎回浸っていました。小泉喜美子の言うとおりだなぁ、なんて勝手に納得しながら。

で、ようやく長い前振りを経て、今回の新訳です。

まず、雰囲気がかなり違う。すごくクリアな手触りです。
訳者が平岡敦というのに負うところが大きいのでしょう。素晴らしい。
訳者あとがきが、すごいです。
「たしかに旧訳版の『シンデレラの罠』には、首をかしげたくなる部分も少なくなかったが、それらはすべて翻訳上の問題だからだ。」
とばっさりやっつけちゃっています。
たしかに、どこがと指摘はできなくとも、雰囲気も含め、いろいろとクリアになった印象を持ちました。
かなりシャープな物語だったんですね、「シンデレラの罠」は。
さすが、Ce qui n'est pas clair n'est pas francais. (明晰でないものはフランス語ではない)

そして、ミステリとしての趣向も、訳者あとがきでびっくりです。
えーっ、そういう話だったの?
「シンデレラの罠」といえばどうしても一人四役にだけ注目が集まっていて、この訳者あとがきで書かれているような読み方、解釈を教えてくれた本、いままでなかったと思います。
洒落てると思った決め手まで、平岡さんにひっくり返されてしまうとは...
「読者を宙吊りのまま投げ出すかのようなラストも含めて、「シンデレラの罠」は精緻に計算しつくされた作品であり、「感興のおもむくまま」や「奔放」という表現とはおよそ正反対のところに位置している」
いやあ、本当に、どれだけ緻密な設計図を引けば、こんな作品が出来上がるんでしょうか?

なによりすごいのは、それだけ精緻で彫琢の極みみたいな作品で、新訳でクリアな印象となっても、独特の雰囲気を湛えているところですね。
新訳とあとがきが読めてよかったです。

P.S.
「シンデレラの罠」というオー・デ・コロン、匂いをかいでみたいですね。架空のものでしょうから、叶えられない願いですが。

原題:Piege pour Cendrillon
作者:Sebastien Japrisot
刊行:1962年
訳者:平岡敦


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