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鍋奉行犯科帳 [日本の作家 田中啓文]

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/12/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大坂西町奉行所に型破りな奉行が赴任してきた。名は大邉久右衛門。大食漢で美食家で、酒は一斗を軽く干す。ついたあだ名が「大鍋食う衛門」。三度の御膳が最優先で、やる気なしの奉行に、与力や同心たちはてんてこ舞い。ところが事件が起こるや、意外なヒラメキを見せたりする。ズボラなのか有能なのか、果たしてその裁きは!? 食欲をかきたてる、食いだおれ時代小説。


読了本落穂ひろいです。
2016年1月に読んだ田中啓文「鍋奉行犯科帳」 (集英社文庫)

「フグは食ひたし」
「ウナギとりめせ」
「カツオと武士」
「絵に描いた餅」
以上4編収録の連作短編集です。

解説で有栖川有栖がこう書いています。

「田中さん、これ、まず題名を思いついたんでしょ」
 想像するに、こんな具合だ──(ある日、すき焼きなどを食しながら)考えてみたら鍋奉行というのは、えらい大層で面白い言葉やなぁ。ん、待てよ。料理にうるさいお奉行さんが出てくる時代小説というのはどうやろう。はは、いけるな。いけるやん。
「いやいや、そんなんと違うで」とは言わせない。

読んでいて楽しくなってしまいます。
これが事実とすると、なんともふざけた、ということになるかもしれません。
でも、このタイトルを思いついただけで、これだけの連作を書き上げるという作家の想像力にはびっくり。
このシリーズ好調なようで、
「鍋奉行犯科帳 道頓堀の大ダコ」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 浪花の太公望」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 京へ上った鍋奉行」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 お奉行様の土俵入り」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 お奉行様のフカ退治」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 猫と忍者と太閤さん」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 風雲大坂城」 (集英社文庫)
と第8作まで書き継がれています。

読者を笑わせようという狙いに満ちた作品ではありますが、そこは田中啓文、きちんとミステリしています。
解説で有栖川有栖が指摘しているので、そちらをご参照願うとして、ここでは田中啓文ならでは駄洒落方面で。

「フグは食ひたし」については有栖川有栖は動機に焦点を当てています。真相が明かされると、そこにまで駄洒落が忍び寄っていることに驚嘆します。さすが、田中啓文。
「ウナギとりめせ」も根っこは駄洒落と見ました。すごいな。菟年寺(ずくねんじ)の住職の夏負け解消の人情噺的な部分すら謎解きに奉仕しています。
「カツオと武士」は駄洒落控え目。かつお節を”勝男武士” と洒落る箇所はありますが、これはある種言い伝えに近いと解すべきでしょうか。駄洒落控え目だとミステリ味も控え目。有栖川有栖指摘どおりにぎやかな道具立てですが、主人公格で鍋奉行の部下、視点人物になることの多い勇太郎をめぐるエピソードが眼目のように思えます。
「絵に描いた餅」は菓子職人が道で襲われる事件から、京都と大坂の菓子合戦へとするするとなめらかに話が進んでいきます。謎解きの比重は低く、その分菓子合戦そのものの行く末に興味が集中するようになっているのがポイントかと思いました。
この第四話のラスト、すなわち本書のラストが
「勇太郎は、苦笑しながらそんな奉行を見つめていたが、そのときはこの先もずっと大邉久右衛門の目茶苦茶ぶりに翻弄され続けようとは予想だにしていなかった。」(377ページ)
というもので、シリーズとして続いていくことが宣言されていて心強い。

それにしても、用人がお奉行さまのことを
「あのお奉行さまは、食うことについてはえげつない執念だすなあ」(150ページ)
と陰でいうのはまだしも、
聞こえるところで
「声はすれども姿は見えず、ほんにおまえは屁のような……」(60ページ)
などというには、まあ、小説だからではありますが、大坂を舞台にすればこそ、かもしれません。
楽しいですね。
駄洒落とミステリ要素が健在であることを期待して、シリーズを読んでいきたいと思います。


タグ:田中啓文
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