SSブログ

スノーフレーク [日本の作家 大崎梢]


スノーフレーク (角川文庫)

スノーフレーク (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
函館に住む高校3年生の桜井真乃。東京の大学に進学が決まった彼女の前に、小学生のときに亡くなり、遺体が見つからないままの幼なじみ、速人によく似た青年が現れた。本当は、速人は生きているのかもしれない。かすかな希望を胸に、速人の死にまつわる事件を調べ始めた真乃だったけれど、彼女のもとに亡くなった彼のノートが届き──!? 美しい冬の函館を舞台に描く、切ない恋愛青春ミステリー!!。


読了本落穂ひろいです。
2016年3月に読んだ大崎梢「スノーフレーク」 (角川文庫)
手元にある文庫本と、上に引用した書影が違いますね。カバーが変わったのかな?
出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズや成風堂書店事件メモシリーズの大崎梢ですが(個人的趣味で井辻君シリーズを先に書かせてもらいます)、まったく違う手触りの作品になっていて驚きます。
過去の謎を探るということもあるかと思いますが、物語のトーンは、かそけき、はかない印象を受けます。

タイトルのスノーフレークは花の名前。雪のかけら。花言葉は「純粋」。
物語のトーンにぴったりだと思いました。
似た花としてスノードロップも紹介されています。こちらの方が知名度は高そうですね。花言葉は「希望」。
214ページには両者ならべて出てきます。

一家心中で亡くなったとされている幼馴染の少年・速人に似た青年が現れ、当時のノートが届く。
岸壁から車で海に飛びこんだけれど、死体が見つからなかった速人。
非常にミステリアスな展開です。速人は生きているのではないか?
割とすぐに明かされるので書いてしまいますが、この青年は速人の従兄の勇麻だったことがわかります。
主人公の真乃は、ときに勇麻の協力を得、ときに単独で、速人の一家心中を調べます。

もうひとり、重要な人物に、速人、真乃の幼馴染の享(とおる)がいます。
「ただのちゃらけたナンパ男」と真乃の友人に評される人物で、「百八十に近い身長、しっかりとした肩幅、引き締まった体躯、すんなりした顎のライン、鼻筋、口元、耳、日が当たり茶色に透ける髪」(256ページ)。
一家心中事件の真相に絡めて、この速人、真乃、亨に勇麻を加えた関係性が物語の読みどころとなっています。

真乃を支える友人たちもにぎやかに物語を彩ってくれます。
読んでいて気恥ずかしくなるような青春の一ページ、とも言える甘酸っぱい話に仕立てられており、事件の真相や明らかになる事実の重さをある程度中和してくれています。

とここで感想を終えたほうがよいかも、なのですが、今感想を書こうとして振り返ると、作者にしてやられたな、ということに気づきました。
というのも、一家心中事件の真相そのものは別にして、物語の大半のサプライズや人物の関係性をめぐる部分は、視点人物である真乃が知っていること、わかっていることを読者(や作中人物)に対して隠していることによって成立しているからです。
もし真乃が読者に最初から明かしていれば、ラスト近辺の感慨はまったく生まれないか、別のものになってしまうと思います──というか、そもそもこういうラストにならないかも。
読んでいる間や読んだ直後にはまったく気にしていませんでした。
さりげなく書かれているようでいて、企みに満ちた作品だったということで、読後すぐより今の方が評価が高いです。
ミステリ的にはアンフェアな手法と言われてしまうかもしれませんが、感服。
大崎梢さん、いつか、ガチガチの本格物を書いてみてくれないでしょうか?


<蛇足>
「中学の頃は無理やり『指輪物語』を読ませられて、理想郷とは、国家とはと熱弁をふるわれ、ドワーフやエルフの結婚観について唸っていると、シーコのブームは安倍晴明に移っていた。平安の都の治安についてさんざん蘊蓄をたれたかと思うと、式神を作ると言いだし、和紙にへんな文字を書かせられた。」(113ページ)
最近よく自分でも混乱するのですが、「読ませられ」る、「書かせられ」る、というのは正しい表現なのでしょうか?
「読まされる」「書かされる」の方が自然な表現で、「読ませられる」、「書かせられる」には強烈な違和感を覚えるのですが......




タグ:大崎梢
nice!(15)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 15

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。