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バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 [日本の作家 藤木稟]


バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 (角川ホラー文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2011/10/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
英国での奇跡調査からの帰り、ホールデングスという田舎町に滞在することになった平賀とロベルト。ファイロン公爵領であるその町には、黒髪に赤い瞳の、美貌の吸血鬼の噂が流れていた。実際にロベルトは、血を吸われて死んだ女性が息を吹き返した現場に遭遇する。屍体は伝説通り、吸血鬼となって蘇ったのか。さらに町では、吸血鬼に襲われた人間が次々と現れて…!? 『屍者の王』の謎に2人が挑む、天才神父コンビの事件簿、第5弾!


2022年1月に読んだ6冊目の本です。

「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」(角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「バチカン奇跡調査官 闇の黄金」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
につづく、バチカン奇跡調査官シリーズの第5巻です。

前作でいったん読むのを辞めようかと思ったシリーズですが、感想を書いた時点で思い直し、読むのを再開することにしました。

作者は特にミステリを目指してはいらっしゃらないという前提で、このシリーズはもうミステリだという思い込みは捨てて読むことに。
だから、ミステリーうんぬんではなく、大仕掛けとか大胆な設定とかを楽しむことに。

だったのですが、なんとなんと。

今回扱っているのは吸血鬼。
吸血鬼と言えばルーマニア、トランシルバニアで、ブラド公というのが通り相場ですが、
「この小説(吸血鬼ドラキュラのことです)が初めてルーマニア語に翻訳されたのは一九九〇年でね。」「それまで、地元ではブラド・ツェペシュやドラキュラは無名の存在だsった。実際のトランシルバニアのツェペシュ家の領地一帯には吸血鬼伝説はないしな。作者のブラム・ストーカーは単にドラキュラという名前だけを拝借したものと思われる。ともかく、ルーマニアにはドラキュラのごとき不滅の吸血鬼がいないことは確かだ。」(84ページ)
というから、驚きでした。

その吸血鬼が出てくるわけなので、当然すべてが合理的に解釈できるとは限りません。
吸血鬼の特徴として知られていることもそうですよね。
蘇る、人を金縛りにする、吸血鬼に嚙まれると快感に襲われる......
それを前提に物語を楽しめばよい。

そう思って読んでいたのですが、この「バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架」 (角川ホラー文庫)では、できる限り合理的な説明をつけようとしているのです。
346ページからの謎解き部分は圧巻だと思いました。
すごい。
かなりの力技で無理もありますが、いや、作者の剛腕でねじ伏せようという強い迫力を感じます。
素晴らしい。
やはりこのシリーズ、好きですね。
追いかけていきたいです。


<蛇足1>
「ただ、そのローカル紙はエープリルフールに派手なでたらめ記事を載せることでも有名な、少し怪しい新聞ではある。」(14ページ)
欧米では、というと主語が大きすぎるかもしれませんので、少なくともイギリスでは、エープリルフールにでたらめ記事を載せるのは、まったくもって普通のことであり、一流紙やTVでも同断です。エープリルフールの記事をもって怪しいと言われることは絶対にないと思います。

<蛇足2>
「盾の左側、すなわちデクスターと呼ばれる位置に、銀地に四つの赤い薔薇の模様と、その下に小さく五つの尖りを持つ星が入っている。」(66ページ)
盾・紋章の左側をデクスターというのですね。
デクスターはラテン語で「右」という意味で、持ち手から見て右、すなわち見る側からすれば左となるそうです。
逆はシニスター(ラテン語では「左」)だそうです。
ベン・アーロノヴィッチの「顔のない魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)感想の蛇足で、シニスター、デクスターという語に触れましたが、そちらの疑問は解消しませんでした......

<蛇足3>
「大学教授の助手という割には、鈍根そうな顔つきで、臭覚の鋭いロベルトは、その男の体から羊毛のような微かな体臭を感じ取った。」(72ページ)
漢字の字面で意味は想像がつくのですが「鈍根」という単語は知りませんでした。

<蛇足4>
「冗談じゃありゃあせんぜ。」(133ページ)
雰囲気は伝わって来たのですが、このセリフ、声に出して読んでみると変だなと思ってしまいました。こういう言い回しする人、いますかね?
<2022.12.04追記>
これ、読み間違いをしていましたね。冗談じゃ、で一旦切ればよかったのですね。

<蛇足5>
「教会から戻って来た平賀たちは、『お疲れ様でした』と召使い達に労われ、ティールームに通された。」(162ページ)
舞台はイギリスなのですが、「お疲れ様」は英語でどういう表現だったのでしょうね? とても気になります。

<蛇足6>
「ええ。イギリスと違って、霧は殆ど出ません。」(164ページ)
バチカンの説明で出てきたセリフです。
日本でよく言われる「霧のロンドン」からの連想でしょうが、このブログでも何度か言っていますように、ロンドンでも霧は殆ど出ません(場所によるかもしれませんが)。
名高いロンドンの霧は、往年の名物ではありますが、霧よりはむしろスモッグに近いと聞いたことがあります。石炭を良く使っていた頃の話ですね。近年では出ないでしょう。
まあ田舎へ行き、条件が整った地域だと自然現象としての霧も出るでしょうけれども。

<蛇足7>
「今日の夕方、僕がハイスクールから帰ってくると」(177ページ)
必ずしも間違いとは言えない気もしますが、イギリスでハイスクールと言うのは違和感があります。

<蛇足8>
「遺伝子情報は、おもに毛球にあるので、脱落毛や切った髪からは、特殊なケースで無い限り鑑定困難なのだ。」(232ページ)
ミステリでちょくちょく見られる蘊蓄ですね。こういうの楽しいのでもっと盛り込んでください。

<蛇足9>
「二人ともこれ以上美しい発音はあるまいというぐらいの生粋のキングズ・イングリッシュである。」(236ページ)
この物語の時代設定が気になりますね。
先日亡くなられたばかりのエリザベス女王治世下ですと、クイーンズ・イングリッシュと言われますので。パラレルワールドなのかしらん?

<蛇足10>
「新聞で報じられている吸血鬼事件は、一七六一年までが多く、それからピタリとなくなって、再び一八七九年から一九二九年までがピークとなっている。」(262ページ)
1700年代中盤からローカル新聞があったのか、とびっくりします。そしてそれが保存されているということにも。
でもなんでも物持ちのいいイギリス人たちのこと、あり得るかも。

<蛇足11>
「どれぐらいの状況の仮死状態だったかによりますが、血圧が五十以下で、脈拍が十回/分以下になったのでしょう。」(349ページ)
これ、地の文ではなく、セリフなんですが、「十回/分」はどう発音したのでしょうね?



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