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ソロモン王の絨毯 [海外の作家 あ行]


ソロモン王の絨毯 (角川文庫)

ソロモン王の絨毯 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2023/01/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ロンドンの混んだ地下鉄で、一人の娘が圧死した。手に、ペルーの花嫁衣裳を握ったまま……。地下鉄マニアのジャーヴィスは祖父が残してくれた学校をアパートにしている家主。そこに集まってきたのは、出戻りの親戚で自由奔放なティナとその子供たち、地下鉄構内でフルートを吹くトム、夫と娘を捨てヴァイオリニストを目指すアリス。そして、謎めいた男アクセル……。愛憎入り乱れ、人生も目的も違う人々を乗せた〈ソロモン王の絨毯〉が行き着く先にある、驚くべき運命とは!? あなたは果して巧みに仕掛けられた謎に気づくことが出来るか? ゴールド・ダガー賞受賞作。


2022年7月に読んだ最初の本です。
5月にルース・レンデルの作品として「眠れる森の惨劇」 (角川文庫)を12年ぶりに読み、今回はこのバーバラ・ヴェイン名義の「ソロモン王の絨毯」 (角川文庫)
1991年英国推理作家協会賞(CWA賞)のゴールド・ダガー受賞作。

タイトルのソロモン王の絨毯とは、地下鉄のことです。
「プラットホームで待っている間、ジャーヴィスはソロモン王の絨毯について話した。緑のシルクでできたこの魔法の絨毯は、すべての人間がその上に立てるぐらい大きい。用意ができると、ソロモンは行きたい場所を命令し、絨毯は空中に舞い上がり、望みの駅で一人一人を下ろした。地下鉄はこの絨毯のことを 連想させるとジャーヴィスはいい、彼のテーマについて詳しく語ったが、二人は聞いていなかった。」(175ページ)
そして巻頭の献辞は
「ロンドン地下鉄で働く男性と女性に、そして、その地下道で音楽を作り出している人々に。」

冒頭、ロンドン地下鉄で起きた女性の死が描かれます。
その後、地下鉄マニアのジャーヴィスとその周囲の人物たちへと物語の重心が移ります。
ルース・レンデルのノン・シリーズものや、バーバラ・ヴァイン名義の作品は、ねちねちしている印象があります。この作品もねちねちしているのですが、ねちねち度は低め。おそらく地下鉄という題材のおかげかと思います。
久しぶりだったからということもあるかもしれませんが、快調に読み進みました。

ミステリとしては、濃厚な人間関係のなかで徐々に明らかになっていく計画・狙いがラストへ向けて高まっていくところ、違った角度から光がさっとあたって見え方が変わるところがポイントかと思われます。
解説で新保博久がいうとおり「これまで著者の作品にあまり馴染んでこなかった読者にも新鮮な一冊として手に取ってもらえる」作品かと思います。


<蛇足1>
「死体がのせられたのはグルセスター・ロードか、その近辺で、このあたりは高い建物が線路のすぐ際まで迫っているとはいえ」(146ページ)
シャーロック・ホームズ「ブルース・パーティントン設計書」を引き合いに出して語られる部分で、駅名なのか地名なのか、Gloucester Road が出てきています。
グルセスターと訳されており、スペルを見るとそう書きたくなるのですが、発音はグロスターです。
ところが、150ページに来ると、今度はきちんと「グロスター・ロード」となっています。修正漏れだったのでしょうか?

<蛇足2>
「右回りの環状線に乗るためにホームを移動し」(150ページ)
確かに、Circle Line は訳すと環状線ですね。ほかの路線と合わせて、サークル線とでもしておけばよい気もしますが。Central Line は中央線とせずに、セントラル線(15ページ)となっているのですから。


<蛇足3>
「クレジットカード一枚、口座即時引き落としカード一枚、銀行のキャッシュ・カード一枚。彼女の小切手帳も抜き出した。」(365ページ)
口座即時引き落としカードというのは、訳者も苦労されたでしょうね。
デビット・カードとして日本でも1999年から始まった制度のようですが、それほど普及はしていないですね。
ただ、デビットカードは銀行のキャッシュカードと一体になっているのが普通でしたので、ここに書いてあるように別々になっているのは少し珍しいですね。



原題:King Solomon's Carpet
著者:Barbara Vine
刊行:1991年
訳者:羽田詩津子




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