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消えた消防車 [海外の作家 マイ・シューヴァル ペール・ヴァール]


刑事マルティン・ベック 消えた消防車 (角川文庫)

刑事マルティン・ベック 消えた消防車 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
厳寒のストックホルム。警察が監視中のアパートが突如、爆発炎上した。任務についていたラーソン警部補は住人を救うべく孤軍奮闘するが、出動したはずの消防車が一向に到着しない。焼死者の中には、ある事件の容疑者が含まれていた。刑事マルティン・ベックは捜査を進めるうち、この火災に奇妙な点があると気づく。やがて捜査陣の前に浮かび上がってきたのは、意外な犯罪の構図だった──。警察小説の金字塔シリーズ、第五作。


2022年7月に読んだ3冊目の本です。

「ロセアンナ」(角川文庫)(感想ページはこちら
「煙に消えた男」(角川文庫)(感想ページはこちら
「バルコニーの男」 (角川文庫)(感想ページはこちら
「笑う警官」(角川文庫)(感想ページはこちら
に続く、マイ・シューヴァル ペール・ヴァールーによる、マルティン・ベックシリーズ第5作。
スウェーデン語からの直接翻訳である新訳シリーズですが、この「消えた消防車」 (角川文庫)で途絶えてしまっているようです。それどころか、この「消えた消防車」自体が品切れ状態......
再開してほしいですね。

さておき、本書は、マルティン・ベックの名前を書き残した自殺者という魅力的なオープニングで始まります。
そして爆発事件。派手な幕開きなのが目を惹きます。
しかも爆発事件は、いつまでまっても到着しない消防車という極めて魅力的な謎つき。

でもそのあと、非常に地味にとなります。
扱われている事件は、冒頭の爆発が派手なだけではなく、意外な広がりを見せる事件となっているのですが、どうも展開が地味なんですよね。
事件はわりと面白い構図となっていると思うのですが、扱いが軽いのがちょっと残念です。この事件、普通の警察小説のような展開にしたら、相当派手なものになると思うのです。
でも、謎は解かれますがミステリ的興趣より刑事さんたちの群像に重きが置かれている感じがしました。
マルティン・ベックをはじめとする刑事さんが印象的ですから。
新婚のようなコルベリもいいですが、なんといってもマルメ警察のモンソンですね。コペンハーゲンまで出張っていってくれるのですが、いや、ダメでしょ、いくら相手に対して権限はない、警察官としてではなくただ話をしたいだけと告げたからといって.....さすが性におおらかな北欧ですね、と考えてしまいます。

タイトルの消えた消防車ですが、もちろん、冒頭の爆発事件のときの消防車を指すのですが、もう一つ作中に別の消えた消防車が出てきます。そのもう一つの方はかなり微笑ましい謎になっていて、それまた刑事群像を支えるエピソードになっています。

最後にもう一度書いておきます。
新訳、再開してほしいです。


<蛇足1>
「『あのおかしな火事のことだけど、放火かしらね?』
『いや、絶対にそうじゃないとおれは思う。いくらなんでもそんなことはありえない』
 これでもコルベリは二十年も警察官をしているのだ。もっとわかってもよさそうなものだ。」(58ページ)
かなり早い段階での地の文ですが、「もっとわかってもよさそうなものだ。」というのは放火であることを作者が顔を出して示唆しているのでしょうか?
なかなか小説技法として不思議な箇所です。

<蛇足2>
「昨晩はベッドに入ってから日本軍の対馬沖海戦についての本を朝の四時まで読んだので、」(59ページ)
対馬沖海戦? 第二次世界大戦でそんなのあったのか? と思ったら、日露戦争のときの日本海海戦のことのようです。
Wikipedia によると「日本以外の国々では、この海戦を対馬沖海戦と呼ぶ(ロシア語『Цусимское сражение』、英語『Battle of Tsushima』)」とのことです。
こういう場合は、日本海海戦と訳して注を付けてほしかったです。

<蛇足3>
「紙を綴じていたゼムピンをまっすぐに直すと、新しいパイプを取り出して中を掃除し始めた。」(97ページ)
ピンなのに向きを治せるのか、と思ったら、ゼムピンというのはゼムクリップのことなんですね。
文房具の呼び名はいろいろあっておもしろいですね。

<蛇足4>
「奥の壁沿いのソファで見慣れた男がブランデーを甘い果汁で割ったドリンクをチビチビ飲んでいた。」(182ページ)
「強い酒の砂糖水割りさ。」(183ページ)
なんとも説明的な表現です。
「ブランデーを甘い果汁で割ったドリンク」「強い酒の砂糖水割り」
原文もこの通りなのでしょうか? 
カクテル名というほどのものではないのかもしれませんが、なにか名前がついていそうな気がします。

<蛇足5>
「アメリカ国旗を燃やすのは罰せられる犯罪だが北ベトナム国旗ではなをかむのは値段的に見て許すことができると思っている人々だ。」(245ページ)
値段的に? どういうことでしょうか?
アメリカ国旗よりも北ベトナム国旗の方が安く売られていたのでしょうか、当時のスウェーデンでは?
この後の文章も意味が分かりません。
「彼らは、デモ隊に対して向けられる放水、棍棒、口を大きく開けたシェパード犬などは、人々との接点を作るつもりならやり過ぎと思っていた。」(245ページ)
人々との接点を作るつもりって、なんでしょうね?

<蛇足6>
「デモ行進とも言えないほどの小規模な行進の際には、吹奏楽隊がインターナショナルを演奏するとき政治家までが起立して敬礼する。」(268ページ)
メーデー(5月1日)の記載で、インターナショナルがわからなかったのですが、社会主義・共産主義を代表する曲らしいです。なるほど。
ぼくの歳でもインターナショナルがわからないです。若い人はメーデーもわからないのではないでしょうか?
訳者の柳沢由実子さんがおいつくなのかわかりませんが、年配の方でしょうね、きっと。ここに限らず、古さ、時代を感じさせる訳文が多いです。
もっともそれがかえってこのシリーズを味わい深くもしてくれているのですが、若い読者には不親切な感じを受けます。編集者がもっと手をかけてくれていれば、と思わないでもないです。特にシリーズの後続の新訳が打ち切られてしまったことを考えると。




原題:Blandbilen son forwann
作者:Maj Sjowall & Per Wahloo
刊行:1969年
訳者:柳沢由実子









刑事マルティン・ベック 消えた消防車 (角川文庫)


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