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筋読み [日本の作家 た行]


【2018年・第16回「このミステリーがすごい! 大賞」優秀賞受賞作】 筋読み (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

筋読み (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

  • 作者: 田村 和大
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/02/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
女性モデル殺害の疑いで山下という男が出頭。殺害現場で採取されたDNA型が山下のものと一致したため起訴間違いなしと目されたが、警視庁捜査一課の刑事・飯綱だけは異を唱え、捜査を外されてしまう。同じ頃、少年が車に轢かれ、直後に連れ去られる事件が発生。担当をあてがわれた飯綱は少年の居場所を特定し無事保護したが、少年から山下と全く同じDNA型が検出されたとの報せが入り―。


2022年8月に読んだ最初の本です。
くろきすがや「感染領域」 (宝島社文庫)と同時に第16回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞しています。
ちなみに、このときの大賞受賞は蒼井碧の 「オーパーツ 死を招く至宝」 (宝島社文庫)

警察小説をあまり得意としていませんので、ピント外れの感想になっている可能性が大ですが......
こちらの勝手なイメージですが、警察小説というのは主人公、あるいは主人公格の刑事がメインで、事件は従、と理解しています。
非常に特徴的な一匹狼的なパターンもあれば、群像劇として刑事たちを描くものもありますが、刑事としてのありかた、その人となり、あるいは警察という組織の様子に焦点が当たっていて、事件はそれを描くための道具に近い扱いを受けていることが多い印象です。

その観点で本書「筋読み」 (宝島社文庫)の主人公、「ヨミヅナ」こと飯綱和也は、はみ出してはるけれども一匹狼というほどではなく、刑事集団にそれほど馴染んでもいないという位置づけのようで、この中途半端さはかえってリアルな気がしました。

事件の方は...
あらすじを読まれるとわかりますが、別人なのにDNAが一致するという非常に魅力的な謎からスタートします。
DNAが一致、というと、どうしても想起される事象・事態がありますよね。
事件にはサクラ・ウェルネスという、一部上場企業であるサクラ発酵株式会社の健康食品開発部門を担う子会社が関係しているようで......と流れていって、やはりアレか、と思いつつ読み進むわけです。
用意された真相は、あっけない、というか、少々とってつけたような印象を受けました。そういうトリックなのでしょうけれど、なんだかごまかされた気分。
そのまま力技で押し切った方がよかったのかも。

警察小説には珍しい謎を持ち込んだ、とも言えそうですが、どこか消化不良です。
企業が絡む事件ということからして、個人の捜査では限界があり、警察という組織が必要なので、警察小説の建付けをとったのだろう、と推測するのですが、この真相はあまり警察小説とは相性がよくないような気もしますーーむしろ私立探偵とか素人探偵の方がよかったかな、と。

となんとなく批判的な感想を連ねてしまいましたが、この謎を中心とした物語の作り方は好みなんですよね。不満はあっても、とても楽しく読めました。
警察小説というテイストをつかわない作品もこのあと書かれているようなので、気になる作家です。


<蛇足>
「虚を突かれた。刑事を警察という組織の歯車としてしか捉えていなかったのは自分なのか。その気付きが飯綱をうろたえさせた。」(286ページ)
翻訳調の使役をつかった構文も気になりますが、やはり「気付き」が気になりますね。
もうすっかり市民権を得た表現ということなのでしょうね。なんとも嫌な語感ですが。
ちなみに、今使っているPCだと「きづき」と打っても「気付き」とは変換されませんね。







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