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私のサイクロプス [日本の作家 や行]


私のサイクロプス (角川文庫)

私のサイクロプス (角川文庫)

  • 作者: 山白 朝子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/02/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
書物問屋で働く輪は、旅本作家・和泉蝋庵と彼の荷物持ち・耳彦と未踏の温泉地を求める旅に出ては、蝋庵のひどい迷い癖のせいで行く先々で怪異に遭遇していた。ある日山道で2人とはぐれてしまった輪は、足をすべらせて意識をうしなう。眠りからさめると、背丈が輪の3倍以上あるおおきな男が顔をのぞきこんでいた。心優しき異形の巨人と少女の交流を描いた表題作を含む9篇を収録した、かなしくておぞましい傑作怪異譚。


2022年9月に読んだ1冊目の本です。
「エムブリヲ奇譚」 (角川文庫)(感想ページはこちら)から続くシリーズ第2弾。

この「私のサイクロプス」 (角川文庫)には
「私のサイクロプス」
「ハユタラスの翡翠」
「四角い頭蓋骨と子どもたち」
「鼻削ぎ寺」
「河童の里」
「死の山」
「呵々の夜」
「水汲み木箱の行方」
「星と熊の悲劇」
の9編収録です。

旅本作家の和泉蠟庵が狂言回しをつとめます。蠟庵のお伴(荷物持ち)をつとめるのが、博打好きの耳彦で、蠟庵のお目付け役が書物問屋で働いている輪。
旅先で怪異に出会うというのが基本のフレームワークです。
 
「私のサイクロプス」ははぐれた輪の経験談で、出会ったサイクロプス(キュクロープスとも呼ばれる、ひとつ目の神)の話。最後に一寸法師の逆で大太郎法師と呼ばれているのをだいだらぼっちと聞き間違うエピソードが象徴的ですね。

「ハユタラスの翡翠」のハユタラスというのは海のむこうにあると言われている国の名前で、海辺に落ちている翡翠はハユタラスの人々の持ち物だから持ち帰ってはいけないという言い伝え。耳彦が翡翠と知らずに拾った指輪を身に着けてしまって......

「四角い頭蓋骨と子どもたち」は、ある村に辿り着いてしまった蠟庵たちに、四角い頭蓋骨がどうしてできたのか、が語られるのですが、非常におぞましい。

「鼻削ぎ寺」は、坊主になりすましている鼻削ぎ平次という通り名の悪党にとらわれてしまった耳彦の話。寺の蔵に監禁される。
「入棺の前には湯かんが行われるという。肉体を清めた後、白布で縫ったひとえの着物を着せる。棺に米を入れた白布の袋やわらじを入れる。家から棺を出す際は、いつもの出入り口は使わず、竹や葦で仮門を作ってそこから出すようにする。門前で火をたき、これを門火と呼ぶ。死者が再び家に帰ってこないようにするまじないであり、葬列の帰りに行きとは異なった道を通るのと同じ理由であるという。棺が墓地に到着したら、棺を左向きに三回転させ、死者の頭を北に向けて墓穴に埋める。喪主に続き、死者と血縁の濃い順に土をかける。」(121ページ)という葬式の手順を知り、「なんのこっちゃねえ、俺が殺した相手の鼻を削ぐのと一緒じゃねえか。死人が起き上がってくるのがこわいのさ。俺は自分勝手にしきたりを作って安心していたのかもな。」(122ページ)という平次のセリフにぞっとします。耳彦に何が待ち受けるのか。
ここまでの話だけでも恐ろしいのに、なんとか助かった耳彦が、蠟庵と輪と再会してからの一コマがまた怖い。

「河童の里」 は、河童を見世物にしている河童の里で耳彦が村の秘密を知ってしまいます。
154ページから語られる河童の作り方(!)にはびっくりしました。

「死の山」は、「目隠しヤマハおそろしいところです。山道でだれかに会っても、決して目を合わせたり、話しかけたりしてはいけません。声をかけられても、返事をしてはならないのです。怪異が起きても、気づかないふりをするのです。」(166ページ)という山を三人が行くという話。乙一らしく、というべきか、ミステリの技法が効果的に使われています。

「呵々の夜」は迷った耳彦がたどりついた民家で聞かされる怖い話。逃げ出した耳彦が温泉宿についたら、そこには蠟庵と輪がいて、助かったと安堵した耳彦だったが、そこへ民家の三人が来て...

「水汲み木箱の行方」には、死んでからも心臓だけが生き続ける父親が出てきます。この父親の腸は、母親が楽に井戸から水が汲めるように、井戸につながって木箱に至りそこから水が出る仕組みにもなっています。この木箱を盗もうとする温泉の女将がいて......

「星と熊の悲劇」では下りに向かうことのできない不思議な山に閉じ込められた三人。
興味深いのは、旅本が売れ行きが芳しくないという話が出ていること、また、不思議な山のエピソードに加えて、蠟庵の秘密が垣間見えること。そして最後には各地のこわい話や伝承を集めればいい、という流れになっていること。

これからもシリーズを楽しめるのでしょうか。


<蛇足>
「『入鉄炮出女』という言葉がある。」(6ページ)
江戸時代の言葉で歴史の授業で習いましたが、鉄砲ではなく鉄炮なのですね。






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