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薬喰 [日本の作家 さ行]


薬喰 (角川文庫)

薬喰 (角川文庫)

  • 作者: 清水 朔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/07/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ジビエで町おこしを狙うU県北篠市二桃地区には、子どもの神隠し伝説がある。その取材に同地を訪れた作家・籠目周(かごめあまね)は、近くの小学生が山で行方不明になっったと聞く。現場を散策中、包丁を振り下ろし一心不乱に何かをしている男と遭遇。気圧されて後退った先に発見したのは、切株のうえの小さな「右手」だった――。驚異的な舌を持つ名探偵と直感(のみ)が冴えるイケメン作家、相性サイアクのバディが現実事件を追う。痛快民俗学ミステリー。


映画の感想が続きましたが、本の感想に戻りまして、2022年9月に読んだ8作目(9冊目)の本です。
清水朔さんというのは初見の作家で、通常だとスルーしてしまうところなのですが、帯に民俗学ミステリーと書かれていたことと帯に京極夏彦の名前が見えたことで、気になって購入しました。
京極夏彦のコメント
「つぎつぎと“謎”が死んでゆく。その先にあるものは、果たして何か。」
というもので、特段褒めているようには思えませんが(笑)。

軽いタッチで描かれていましてスラスラ読めました。
でも、軽いタッチとはいっても、いわゆる民俗学ミステリのある意味王道をいく作品だと思いました。

語り手はミステリ作家の籠目周(かごめあまね)。
作品のタイトルが「早起きはサーモンの得」「イスカの嘴のスレ違い」「周期的なオコジョ」というのだから、どういう作風なのだか不明ですが(笑)。
子どものころ、神隠しにあった経験を持つ、というのがポイントですね。
対する探偵役は、地元のローカルテレビで、隔週で珍しい食材や調理法、お店などを紹介する「タヌキ先生の珍食(ちんしょく)バンザイ!」という自分のコーナーを持っているという祝(いわい)秋成。名探偵ミステリでは定番と言える奇矯な主人公です。

神隠しについて取材していた籠目が現地で祝と会うという流れですが、この二人出会いからして相性が悪く、ことあるごとに角突き合わせる感じです。このやりとりを通して食に関する蘊蓄が繰り広げられます。
身土不二(「人と土地とは二つならず――つまり密接に結びついた関係」(129ページ))とか三里四方(「三里四方で取れる食べ物を食べていれば病にならないという昔からある俗諺」(130ページ))とかの語がさらりと出てきます。

タイトル「薬喰」も
「古来、食べ物は薬と同義でもあったんだ。滋養をつけるための方便を『薬喰(くすりぐい)』て言ってな」
「普段は忌んでいたとしても、病人には滋養をつけるために肉食が必要ならば、薬として食べればいい。つまり方便だ。そうやって搔い潜ってきた者たちがいるからこそ、牡丹や柏、紅葉などと言った暗喩が今も使われているんだ。山くじらなんてそのままじゃないか。」(131ページ)
とその中で簡単に説明されています。
作品を読んでいただくとわかりますが、そのままのようでいて鋭い、いいタイトルだと思いました。

籠目自身の神隠しの謎の解明は、当時のビデオ録画を通して祝が真相を提示するのですが、かなり無理が多く、あまり感心できません。
一方でメインの事件の方は、ちょっと雑なところもあるのですが、テーマに寄り添っていて、いわゆる民俗学ミステリのある意味王道をいく作品と思ったゆえんです。

気になる作家になりましたので、他の作品もいずれ読んでみたいと思います。



タグ:清水朔
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