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紅楼夢の殺人 [日本の作家 芦辺拓]


紅楼夢の殺人 (文春文庫)

紅楼夢の殺人 (文春文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ところは中国、栄華を極めた大貴族の邸内に築かれた人工庭園「大観園」。類稀なる貴公子と美しき少女たちが遊ぶ理想郷で、奇々怪々な連続殺人が勃発します。衆人環視の中で消え失せる犯人。空を飛ぶ被害者……。中国最大の奇書『紅楼夢』を舞台にした絢爛たる犯罪絵巻は、中国古典ファンも必読の傑作ミステリー。


2022年9月に読んだ9作目(10冊目)の本です。
芦辺拓
昔文藝春秋社から本格ミステリ・マスターズという叢書が出ていまして、その中の一冊でした。
文庫化されてすぐに購入したのですが、中国の古典を題材にとっているということで、なかなか手に取る勇気がなかったんですよね。なにしろ『紅楼夢』読んでいませんから。
ようやく読みました。
「本格ミステリ・ベスト10 2005」第4位。
「このミステリーがすごい! 2005年版」第10位。

『紅楼夢』を知らなくても楽しめました。
巻頭にでーんと家系図が掲げられていてちょっと臆してしまいますが、次に主な登場人物というページが控えていて、このページがわかりやすいうえに、舞台となった「大観園」の図が続いていて(これは曹 雪芹著、伊藤漱平訳の「紅楼夢2」 (平凡社ライブラリー)からの転載とのことです)、わくわくして読み出しました。
しかし、後知恵ですが、井波律子国際日本文化研究センター教授の解説を先に読んでおけばよかったな、と思いました。
それでお、文中でも作者は必要な分はきっちり説明してくれていますので、無用な心配でしたし、どこまでが原典の力で、どこからが芦辺拓の力かわかりませんが、非常に蠱惑的な世界が展開します。
華麗な舞台で次々と(華麗な)殺人が連続する贅沢な趣向で、「大観園」の中の人、賈宝玉と、「大観園」の外の人頼尚栄(司法官)を探偵役に据えて展開される物語に夢中になりました。

「衆人環視下の賈迎春殺し、死者が天下ったがごとき王熙鳳殺し、お花畑の中の史湘雲殺し、そしておのが死を自覚していなかったとしか思えない香菱殺し──そこへ今度は、何と二重殺人事件が加わった。
死者の亡魂が白昼堂々と現われ、しかも手に触れられる存在だったにもかかわらず、そのまま水底に消えた鴛鴦殺し、そして、いったいどういう妖術を用いたのか、居合わせた人々の扇子が裂かれ、そのことによって発覚した晴雯殺し。」(321ページ)
と尚栄が振り返るところがあるのですが、いやあ、次々と派手に殺されていきますね。

個々のトリックは奇抜なものが用いられているわけではないのですが、世界観とマッチして非常におさまりがよい。
なにより最後に明かされる真相がポイントです。
「その作品が探偵小説であること自体が探偵小説としての仕掛けにつながっている作品」と単行本あとがきで作者が述べている狙いがどこまで読み取れたか自信はまったくないものの、本格ミステリの衣をまとっていること自体が一種のミスディレクションになっているのは間違いありません。
中国の古典を材にとった傑作として山田風太郎の「妖異金瓶梅 」 (角川文庫)」がありますが、これは見事な返歌だな、と感じました。
こうやって本格ミステリの世界は豊穣になっていくんだと感動できます。
中国の古典に臆することなく、早く読めばよかったと後悔しました。



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