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映画:エゴイスト [映画]

エゴイスト 1.jpg


いつものように(?) 「シネマトゥデイ」から引用します。

見どころ:エッセイスト、高山真の自伝的小説を実写化したドラマ。セクシャリティーを隠して生きてきた過去を持つ男が、ある青年に愛を注ぐ一方で言いようのない葛藤を抱える。メガホンを取るのは『Pure Japanese』などの松永大司。強がって生きてきた主人公を『俺物語!!』などの鈴木亮平、主人公と惹(ひ)かれ合うパーソナルトレーナーを『his』などの宮沢氷魚が演じる。

あらすじ:東京の出版社で、ファッション誌の編集者として働く浩輔(鈴木亮平)。自由気ままな日々を送る彼だが、14歳で母を失い、田舎町でありのままの自分を隠しながら思春期を過ごした過去があった。ある日彼は、シングルマザーである母親を支えながら働く、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会い、惹(ひ)かれ合っていく。亡き母への思いを抱える浩輔は、母親に寄り添う龍太に手を差し伸べ、彼を愛する日々に大きな幸せを感じる。あるとき浩輔は、龍太とドライブの約束をするが、龍太はいつまでたってもやってこなかった。


通常日本映画は観ないのですが(このブログにも映画の感想はかなり書きましたが日本映画の感想は数本だと思います)、たまたまつけたテレビで主演の鈴木亮平が宣伝に出ていて、興味が湧いたので観ました。
日本映画を観ないのは、映画の世界に入り込むときに、現実との間でワンクッション欲しいからです。リアルな映画であっても、現実からは飛躍を感じたい。
日本映画だと、どうも地続き感がぬぐえないのですね。
あと日本映画の間があまり好みではないということもあります。

いい映画を観たな、と感じました。
ゲイを扱った映画で、タイ・ドラマで個人的にお馴染みになったBLテイストかな、と思っていたのですが、浩輔(鈴木亮平)と龍太(宮沢氷魚)が出会って、付き合うようになる前半はそれっぽいところもありますが、BLというにはストレートすぎます(ストレートという語をここで使うと誤解を招くかもしれませんね。直線的すぎます、でしょうか)。二人は自然に付き合うようになります。
うまくいきだしたところで、龍太が関係をやめたいと言い、山場登場。なんとかこれを二人で乗り越えたと思ったら、大きな転機が訪れる(個人的には、この転機を予感させるシーンをもっと事前に出しておいてほしかったところなのですが、それはミステリ好きだから来る勝手な要求なのでしょう)。

ゲイというとまだまだ世間での受け止め方が進んでいるとは言えない状況で、家族との関係というのも一つのテーマとなりうるものだと思います。
この「エゴイスト」でも、龍太の家で龍太の母(阿川佐和子)と会った浩輔が、二人の関係を隠すシーンがあります。
ここはとても重要なシーンなのですが、この映画のテーマはこれとは違うベクトルで存在します。
ゲイテーマの映画かと思っていたら(いや、確かにゲイテーマの映画なのですが)、ここからタイトル「エゴイスト」にも連なる要素が強く前面に出てくるのです。
ポスターに「愛は身勝手」と書かれていて印象的です。
この言葉を念頭におくと、浩輔の父(柄本明)が言う「出会っちゃったからしょうがない」という言葉の響きが共鳴します。

映画を観た直後から、浩輔の「愛」の向きをどう受け止めてよいのか考えています。
映画と原作は別物ということは理解していますが、原作も読んでみるかな、と考えている次第です。

映画の感想が続きましたが、ひとまずこれで本の感想に戻ります。


製作年:2023年
製作国:日本
監 督:松永大司
時 間:120分


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映画:ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り [映画]

ダンジョンズ&ドラゴンズ 1.jpg

映画の感想が続きます。

「シネマトゥデイ」HPから引用します。

見どころ:盗賊や戦士、魔法使いといった個性豊かなメンバーが巨悪に立ち向かうアクションファンタジー。さまざまな種族やモンスターが生息する世界で、盗賊である主人公がユニークなメンバーとチームを組み、世界を脅かす悪の勢力とバトルを繰り広げる。出演は『スター・トレック』シリーズなどのクリス・パインや『ワイルド・スピード』シリーズなどのミシェル・ロドリゲス、『噂のモーガン夫妻』などのヒュー・グラントなど。監督を『お!バカんす家族』などのジョン・フランシス・デイリーとジョナサン・ゴールドスタインが務める。

あらすじ:さまざまな種族やモンスターが共存する世界、フォーゴトン・レルム。盗賊のエドガン(クリス・パイン)は相棒の戦士ホルガ(ミシェル・ロドリゲス)と共に、ある目的のための旅を始める。魔法使いのサイモン(ジャスティス・スミス)らも加わり、世界を脅かす悪の勢力を倒すべく、彼らは立ち上がる。


こういうの痛快作というんでしょうね。
原作(?) はゲームのようですが、そちらはプレイしたことはなく興味もあまりありません。それでも問題なく楽しめます。

もともとは正義の味方(ですよね?)だったのに盗賊に身を落としている主人公。盗みに失敗して投獄されている。魔法使いソフィーナと手を組み支配者となっている昔の仲間フォージに復讐し、死者をよみがえらせることのできる石板を手に入れ妻を復活させ、娘を取り戻すため、仲間のホルガと脱獄し旅に出る。
桃太郎みたいに(たとえが古い......)仲間を募り、城を目指します。
この手の作品では途中で仲間割れとか起こって足の引っ張り合いをしたりする作品が多いですが、この作品ではそういうこともなく、一本調子でずんずん進むので極めて快調。
笑いの要素もちりばめられていて、飽きることなく楽しめます。

時間を停めることのできる魔法使いとどう戦うのかも含めて、魔法の使い方も工夫が凝らされていて楽しい。
死者をよみがえらせて当時の状況を聞くあたりとか、製作者も気に入っていたのでしょうね、と思わせる仕上がり。ついでに書いておくと、吹替版製作者も気に入っていたのでしょう、このシーン。

こういう娯楽映画は難しいことを考えず、すっと世界に入りこめて楽しめることが重要ですよね。
観ていて、敵役のヒュー・グラント含めて演じている役者さんたちも楽しんでやっているんだろうなと感じられました。

誤算は、吹替版だったこと。
観た映画館で「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は吹替版しかなかったんですよね。
1種類しかない場合、当然字幕版だと思い込んで予約して、劇場に着いたら吹替版......
個人的に、映画の吹替特有のセリフ回しがあまり好きではないんです。ちゃんと確認しないといけなかったですね。反省。


製作年:2023年
原 題:DUNGEONS & DRAGONS: HONOR AMONG THIEVES
製作国:アメリカ
監 督:ジョン・フランシス・デイリー/ジョナサン・ゴールドスタイン
時 間:135分





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映画:逆転のトライアングル [映画]

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映画のHPからあらすじと作品紹介を引用します。
場所は高級レストラン。「ありがとう。ごちそうさま」と、恋人のヤヤ(チャールビ・ディーン) に言われ、憮然とするカール(ハリス・ディキンソン)。2人ともファッションモデルだが、ヤヤは超売れっ子でカールの何倍も稼いでいる。毎度男が払うのが当然という態度のヤヤにカールが疑問を呈すると、激しい言い争いになってしまう。「男女の役割にとらわれるべきじゃない」とカールは必死で彼女に気持ちを伝えようとするが、難しい。インフルエンサーとしても人気者のヤヤは、豪華客船クルーズの旅に招待され、カールがお供することに。乗客は桁外れの金持ちばかりで、最初に2人に話しかけてきたのは、ロシアの新興財閥“オリガルヒ”の男とその妻だ。有機肥料でひと財産築いたと語る男は、「私はクソの帝王」と笑う。船には、ヤヤに写真を撮ってもらっただけで、「お礼にロレックスを買ってやる」という「会社を売却して腐るほど金がある」男もいる。上品で優しそうな英国人老夫婦は、武器製造会社を家族経営していた。国連に地雷を禁止されて売り上げが落ちた時も、「夫婦愛で乗り切った」と胸を張る。そんな現代の超絶セレブをもてなすのは、客室乗務員の白人スタッフたち。旅の終わりに振舞われる高額チップを夢見ながら、乗客のどんな希望でも必ず叶えるプロフェッショナルだ。そして、船の下層階では、料理や清掃を担当する有色人種の裏方スタッフたちが働いている。
ある夜、船長がお客様をおもてなしするキャプテンズ・ディナーが開催される。アルコール依存症の船長(ウディ・ハレルソン) が、朝から晩まで船長室で飲んだくれていたために、延び延びになっていたイベントだ。キャビアにウニにトリュフと、高級食材をこれでもかとぶち込んだ料理がサーブされる中、船は嵐へと突入。船酔いに苦しむ客が続出し、船内は地獄絵図へ。泥酔した船長は指揮を放棄し、通りかかった海賊に手榴弾を投げられ、遂に船は難破してしまう。
数時間後、ヤヤとカール、客室乗務員のポーラ、そして数人の大富豪たちは無人島に流れ着く。海岸には救命ボートも漂着、中には清掃係のアビゲイル(ドリー・デ・レオン) が乗っていた。彼らはボート内の水とスナック菓子で空腹をしのぐが、すぐになくなってしまうのは目に見えている。すると、アビゲイルが海に潜りタコを捕獲! サバイバルのスキルなど一切ない大富豪とインフルエンサーが見守る中、アビゲイルは火をおこし、タコをさばいて調理する。
革命が起きたのは、アビゲイルが料理を分配する時だった。「ここでは私がキャプテン」という彼女の宣言を、認めなければお代わりはもらえない。全員を支配下に置いたアビゲイルは、“ 女王”として君臨していくが―。

モデル・人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルカールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態に追い込まれる中、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった――。
驚くべき人間観察眼とセンス抜群のブラックユーモアで、毎度私たちを絶妙にいたたまれない気持ちにさせてくれるスウェーデンの鬼才リューベン・オストルンド監督。2014年、フレンチアルプスのリゾートホテルで繰り広げられる、とある一家の気まずすぎるバカンスを描いた『フレンチアルプスで起きたこと』でカンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を、続く2017年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で、同映画祭最高賞であるパルムドールを受賞。その手腕は、今回も絶好調で、本作『逆転のトライアングル』で再びカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞という快挙を成し遂げた。パルムドールを2回連続受賞をした監督としては史上3人目(ビレ・アウグスト、ミヒャエル・ハネケに次ぐ)の快挙となる。
出演は、人気に陰りが見え始めたイケメンモデルのカールに『マレフィセント2』のハリス・ディキンソン、人気インフルエンサーでありカールの恋人でもあるヤヤに、2022年惜しくも急逝したチャールビ・ディーン、無人島で予想外のサバイバル能力を見せるトイレ清掃婦のアビゲイルには、本作でゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされているドリー・デ・レオン、そしてアル中の船長として圧倒的な個性をみせつけていたのは『スリー・ビルボード』などでアカデミー賞[レジスタードトレードマーク]に3度ノミネートされている名優ウディ・ハレルソン。ファッション業界やルッキズム、現代階級社会などを痛烈に皮肉りながらも、私たちの価値観を見事にひっくり返す、世紀の大逆転エンタメがここに誕生した!

長い引用となったので、いつもの「シネマトゥデイ」HPからの引用はやめておきます。

意地の悪い視点とはいえ、金持ちやスノビズムを笑う、カラッとした娯楽作かと想像して観に行きました。
冒頭、H&Mとバレンシアガの違いをモデルの表情で笑い飛ばして見せるシーンあたりはまさにそんな感じで、これは楽しめるな、と思いました。
ところがそういう感じではなかったですね。
もっとグロい話。

豪華クルーズ船でも、金持ちのいやらしさは存分に描かれます。
クルーに泳げと強要し、クルーズ船運営側もそれを受け入れてしまうシーンの醜悪さ。
醜悪といえば、キャプテンズ・ディナーのシーンが最悪です。
ここまで執拗に嘔吐シーンを映し出す必要があるでしょうか......
観ているだけで気分が悪くなってしまう。

いよいよクルーズ船は沈没し、人の見当たらない島に舞台が移ります。
生き残った乗客、クルーの中で、サバイバル能力にたけていたのが掃除係で、彼女が全体を支配していく。
この流れでも、十分コミカルにすることは可能だと思うのですが、話の方向はそちらではありません。
ことさらに人間の醜悪さを描き出すことに重きが置かれています。

邦題は「逆転のトライアングル」ですが、原題は ”Triangle of Sadness”。
眉間のあたりの皴のできるエリアのことを指します。冒頭のシーンでさらっと出てきます。
もちろんこれは、主演格のモデルカップル、ヤヤとカールと遭難後リーダーとなる掃除係アビゲイルの間の三角関係をも指すわけで、そのことはラストシーンからも明らかですね。
このラストシーン、はっきりと描かれていないので観客の想像にゆだねられているのですが、登場人物の行動面でいうというほど選択の余地(想像の余地)はないにも関わらず、登場人物の心理面ではさまざまな想像をめぐらすことができるのが興味深いと思いました。特にカールの心理には注目かな、と。



製作年:2022年
原 題:TRIANGLE OF SADNESS
製作国:アメリカ
監 督:リューベン・オストルンド
時 間:147分



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映画:マジック・マイク ラストダンス [映画]

マジックマイクラストダンス.jpg

映画、です。

いつものように(?) 「シネマトゥデイ」HPから引用します。

見どころ:『ローガン・ラッキー』などのチャニング・テイタムの実体験を基に男性ストリップダンスの世界を描き、ミュージカルも製作された『マジック・マイク』シリーズの最終章。全てを失いステージから遠ざかっていた元ストリップダンサーが、人生を懸けた一夜限りのラストショーを成功させるべく奮闘する。監督は1作目を手掛けた『オーシャンズ』シリーズなどのスティーヴン・ソダーバーグ。シリーズを通して続投するチャニングをはじめ、『フリーダ』などのサルマ・ハエックらが出演する。

あらすじ:破産して落ちぶれた元ストリップダンサーのマイク(チャニング・テイタム)は、現在はバーテンダーとして働きながらさえない日々を送っていた。ある日、資産家の女性マックス(サルマ・ハエック)と出会い「バーテンの仕事は好き?」と尋ねられた彼は、「本当は別の夢がある」と答える。彼女から究極のステージを成功させるよう依頼を受けたマイクは、再起を懸けてロンドンへ向かい、世界中から集まったダンサーたちと共に一夜限りのラストショーに挑む。


これ、シリーズ第三作なのですね。
「マジック・マイク XXL」という第二作が作られているのを見逃していました。
第一作「マジック・マイク」(感想ページはこちら)を観たのは映画1000円均一の日(当時)でした。
「マジック・マイク」の感想を読み返すと、全然褒めてないですね(笑)。
なのに不思議に悪い印象が残っていなくて、つい「マジック・マイク ラストダンス」を観に行ってしまいました。今回も水曜サービスデイという名目で1,200円という割引価格で観ることができる日でしたが。

ミュージカル化もされていて、ロンドン滞在中に劇場は見かけました。ロンドンのど真ん中、レスター・スクエアの劇場でした(ミュージカルそのものは観ていません)。

非常にストーリーが単純で、しかも型どおり。
脇役陣もかなり面白い設定になっているのですが、もう一息活躍が足りない。

このダンスを作り上げるきっかけとして、女性の解放だなんだという能書きが垂れられるのですが、正直不要。
そんなお題目は不要だし、この映画の展開を見る限りにおいては、あまり効果を上げていません。
このお題目で男性ストリップということなら、いつの時代の話!? とも思えてしまいますね。

なのですが、この映画はこれでよいのでしょうね。
ストリッパーたちのダンスこそが見どころで、極論すればそこさえあればいいのですから。
この潔さがポイントかと思います。
映画のHPによるとクライマックスにあたるラストのダンスシーンは30分もあるそうで、圧巻。
ソダーバーグ監督が「この30分にこれまでの映画の全てをかけた」と言っているという記述もありますね。

ただ同時に、ダンスシーンが素晴らしければ素晴らしいほど、これを舞台上で、肉体の躍動を直接目にすることのできる舞台で観たら、もっと素晴らしいだろう、と思ってしまうのを止められません。
舞台だと、席によって見る角度が限られてしまうという弱点はあるんですけどね。
空気を感じる臨場感とでもいうのでしょうか、それがあるといいなぁ、とないものねだりをしたくなります。
ミュージカル、観ておけばよかったかな? とそんな気にさせてくれた映画でした。



製作年:2023年
原 題:MAGIC MIKE'S LAST DANCE
製作国:アメリカ
監 督:スティーヴン・ソダーバーグ
時 間:112分


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魔術王事件 [日本の作家 な行]


魔術王事件 上 (講談社文庫 に 22-20)魔術王事件 下 (講談社文庫 に 22-21)

魔術王事件 上 (講談社文庫 に 22-20)
魔術王事件 下 (講談社文庫 に 22-21)

  • 作者: 二階堂 黎人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/11/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏表らすじ>
函館の実家に伝わる3つの家宝のうち〈炎の眼〉を持ち出した銀座のホステス・ナオミ(=宝生奈々子)を大胆なトリックで殺害した殺人鬼「魔術王」メフィストは、残る〈白い牙〉〈黒の心〉を狙って宝生家の縁者を襲う。奇術道具の回転ノコギリが芝原悦夫の婚約者を切り刻み、宝生貴美子は連れ去られる──。<上巻>
貴美子の恋人・竜岡に銃殺されたはずのメフィストが生きていた!? 誘拐された伸一少年のバラバラ死体が届き、当主らが見守る邸内で〈白い牙〉は盗まれる。榎本武揚ら旧幕臣が隠した埋蔵金をめぐる因縁と宝生家の忌まわしき過去が封印を解かれるとき、名探偵・二階堂蘭子が不死身のメフィストを追い詰める!<下巻>

2022年8月に読んだ7作目(冊数でいうと7冊目と8冊目)の本です。
二階堂蘭子が探偵役をつとめる長編第7作です。

「エドウィン・ドルードの謎」に挑んでいるのも重要なポイントなのですが、「エドウィン・ドルードの謎」を読んでいないので、そちらについては留保しなければなりません。

二階堂黎人らしい、通俗探偵小説を模した本格ミステリ。
あらすじをご覧いただいただけでも十分お分かりいただけると思いますが、ミステリが洗練されてきた道筋をあえて逆行するかのような作風です。
(ここで「江戸川乱歩風の」と書こうとして、江戸川乱歩の通俗物の内容をすっかり忘れてしまっていることに気づきました。ぼくのイメージの中の江戸川乱歩の通俗ものがちょうどこういう感じなのです)

「警察は守らなければならない人間を守れなかったのだ。殺人鬼の用いた摩訶不思議な奇術の前に、警察の人海戦術はみごとに敗れたのだった。」(上巻426ぺージ)
と簡単に犯人に出し抜かれる警察。
「芸術を創造するのは一個の天才だが、皮肉なことに、それを評価するのは凡庸な一般大衆である。彼らの称賛の大小が、物事の芸術性を決定する。俺は、俺が作り出した殺人芸術の美を、多くの人間に理解されたいと願っているのさ。それ故に、君に期待することがたくさんあるのだよ、蘭子君」(下巻290ページ)
と言ってのける犯人。
「あまりと言えば、あまりに突飛な奇術のアクロバットだった。」(下巻291ぺージ)
と評される真相解明シーン。
今のミステリが置いてきたものを取り戻しています。

二階堂黎人といえば、トリックも注目点ですが、今回のトリックはどうでしょうか。
二階堂黎人にしては小粒(こんなに長大な長編ですが)かと思いますし、いくつか無理も目立ちます。
たとえば下巻428ページで明かされるトリックは、たちどころに気づかれてしまうように思えてなりませんし、下巻452ページで「とびっきりの魔術」と二階堂蘭子がいうトリックは、確かにとびっきりでミステリ的にはとても魅力的なトリックなのですが、現実の警察の前には無力な気がします。

大仰な表現とかいかにもなトリックとか、こういうのを楽しむにはこちらが歳を取りすぎたようで、もっと早く読んでいればな、と強く感じました。
同時に、ここまで通俗的にしなくてもよいので、元の作風に戻ってくれれば、とも。


<蛇足>
「坂下警部、皆様、お仕事中失礼いつぃます。貴美子お嬢様が、坂下警部様にお話があると申しております。客間の方まで、お越しいただけませんでしょうか?」(上巻541ページ)
執事の言葉というものに対しては、東川篤哉の「謎解きはディナーのあとで」 (小学館文庫)(感想ページはこちら)シリーズの感想で文句をつけていますが、敬語は難しいですよね。
ここの「申しております」にも違和感を感じたのですが、これが正しい言い方なのですよね。
つい「おっしゃって」とここにも尊敬語を持ってきてしまいそうです。







魔術王事件 上 (講談社文庫 に 22-20)




タグ:二階堂黎人
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