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魔術王事件 [日本の作家 な行]


魔術王事件 上 (講談社文庫 に 22-20)魔術王事件 下 (講談社文庫 に 22-21)

魔術王事件 上 (講談社文庫 に 22-20)
魔術王事件 下 (講談社文庫 に 22-21)

  • 作者: 二階堂 黎人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/11/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏表らすじ>
函館の実家に伝わる3つの家宝のうち〈炎の眼〉を持ち出した銀座のホステス・ナオミ(=宝生奈々子)を大胆なトリックで殺害した殺人鬼「魔術王」メフィストは、残る〈白い牙〉〈黒の心〉を狙って宝生家の縁者を襲う。奇術道具の回転ノコギリが芝原悦夫の婚約者を切り刻み、宝生貴美子は連れ去られる──。<上巻>
貴美子の恋人・竜岡に銃殺されたはずのメフィストが生きていた!? 誘拐された伸一少年のバラバラ死体が届き、当主らが見守る邸内で〈白い牙〉は盗まれる。榎本武揚ら旧幕臣が隠した埋蔵金をめぐる因縁と宝生家の忌まわしき過去が封印を解かれるとき、名探偵・二階堂蘭子が不死身のメフィストを追い詰める!<下巻>

2022年8月に読んだ7作目(冊数でいうと7冊目と8冊目)の本です。
二階堂蘭子が探偵役をつとめる長編第7作です。

「エドウィン・ドルードの謎」に挑んでいるのも重要なポイントなのですが、「エドウィン・ドルードの謎」を読んでいないので、そちらについては留保しなければなりません。

二階堂黎人らしい、通俗探偵小説を模した本格ミステリ。
あらすじをご覧いただいただけでも十分お分かりいただけると思いますが、ミステリが洗練されてきた道筋をあえて逆行するかのような作風です。
(ここで「江戸川乱歩風の」と書こうとして、江戸川乱歩の通俗物の内容をすっかり忘れてしまっていることに気づきました。ぼくのイメージの中の江戸川乱歩の通俗ものがちょうどこういう感じなのです)

「警察は守らなければならない人間を守れなかったのだ。殺人鬼の用いた摩訶不思議な奇術の前に、警察の人海戦術はみごとに敗れたのだった。」(上巻426ぺージ)
と簡単に犯人に出し抜かれる警察。
「芸術を創造するのは一個の天才だが、皮肉なことに、それを評価するのは凡庸な一般大衆である。彼らの称賛の大小が、物事の芸術性を決定する。俺は、俺が作り出した殺人芸術の美を、多くの人間に理解されたいと願っているのさ。それ故に、君に期待することがたくさんあるのだよ、蘭子君」(下巻290ページ)
と言ってのける犯人。
「あまりと言えば、あまりに突飛な奇術のアクロバットだった。」(下巻291ぺージ)
と評される真相解明シーン。
今のミステリが置いてきたものを取り戻しています。

二階堂黎人といえば、トリックも注目点ですが、今回のトリックはどうでしょうか。
二階堂黎人にしては小粒(こんなに長大な長編ですが)かと思いますし、いくつか無理も目立ちます。
たとえば下巻428ページで明かされるトリックは、たちどころに気づかれてしまうように思えてなりませんし、下巻452ページで「とびっきりの魔術」と二階堂蘭子がいうトリックは、確かにとびっきりでミステリ的にはとても魅力的なトリックなのですが、現実の警察の前には無力な気がします。

大仰な表現とかいかにもなトリックとか、こういうのを楽しむにはこちらが歳を取りすぎたようで、もっと早く読んでいればな、と強く感じました。
同時に、ここまで通俗的にしなくてもよいので、元の作風に戻ってくれれば、とも。


<蛇足>
「坂下警部、皆様、お仕事中失礼いつぃます。貴美子お嬢様が、坂下警部様にお話があると申しております。客間の方まで、お越しいただけませんでしょうか?」(上巻541ページ)
執事の言葉というものに対しては、東川篤哉の「謎解きはディナーのあとで」 (小学館文庫)(感想ページはこちら)シリーズの感想で文句をつけていますが、敬語は難しいですよね。
ここの「申しております」にも違和感を感じたのですが、これが正しい言い方なのですよね。
つい「おっしゃって」とここにも尊敬語を持ってきてしまいそうです。







魔術王事件 上 (講談社文庫 に 22-20)




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