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インフェルノ [海外の作家 は行]

インフェルノ(上) (角川文庫)

インフェルノ(上) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

インフェルノ(中) (角川文庫)

インフェルノ(中) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫
インフェルノ(下) (角川文庫)

インフェルノ(下) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「地獄」。そこは“影”──生と死の狭間にとらわれた肉体なき魂──が集まる世界。目覚めたラングドン教授は、自分がフィレンツェの病院の一室にいることを知り、愕然とした。ここ数日の記憶がない。動揺するラングドン、そこに何者かによる銃撃が。誰かが自分を殺そうとしている? 医師シエナ・ブルックスの手を借り、病院から逃げ出したラングドンは、ダンテの『神曲』の“地獄篇”に事件の手がかりがあると気付くが──。<上巻>
医師シエナとともにヴェッキオ宮殿に向かったラングドン教授は、ダンテのデスマスクを盗み出す不審人物の監視カメラ映像を見て、驚愕する。一方、デスマスクの所有者で大富豪のゾブリストは、壮大な野望の持ち主だった。彼は「人類は滅亡の危機に瀕している」と主張し、人口問題の過激な解決案を繰り広げ、WHO“世界保健機関”と対立していた。デスマスクに仕込まれた暗号には、恐ろしい野望が隠されていた──。<中巻>
人類の未来を永久に変えてしまう、恐るべきゾブリストの野望──。破壊的な「何か」は既に世界のどこかに仕掛けられた。WHO事務局長シンスキーと合流したラングドンは、目に見えぬ敵を追ってサン・マルコ大聖堂からイスタンブールへと飛ぶ。しかし輸送機の中でラングドンに告げられたのは、驚愕の事実だった! ダンテの“地獄篇”に込められた暗号を解読し、世界を破滅から救え!怒涛のクライマックス!<下巻>


2023年5月に読んだ7作目(7~9冊目)の本です。


「天使と悪魔」 (上) (中) (下) (角川文庫)
「ダ・ヴィンチ・コード」(上) (中) (下) (角川文庫)
「ロスト・シンボル」 (上) (中) (下) (角川文庫)(感想ページはこちら
に続く、ラングドン・シリーズ第4作です。

トム・ハンクス主演の映画を先に観ています(感想ページはこちら)。

今回原作を読んで、映画が原作に基本的に忠実に作られていることがわかって驚きました。
各巻薄いことは薄いのですが、それでも文庫で上中下巻あるものを、映画の長さに押し込めるとは......すごい手腕ですね。
逆に、原作がスカスカなのかというと、特段そういうわけでもなく、映画のほうの感想では「専門知識があまり活躍しない」と述べましたが、小説という形態だとそこが書き込まれています。

今回は、ダンテの「神曲」ということで、なじみがあまりにも......(こちらに教養がないだけですが)
積み重ねられる蘊蓄もただただ「ああ、そうですか」と受け止めるだけしかできないのですが、フィレンツェやベネツィアの観光名所を巡っていく目まぐるしくスピーディーな逃走・追跡劇の小休止として機能しているのかもしれません。

扱われているのは、いわゆる「人口論」で、いかにも古めかしく、ヨーロッパの古い街並みに合っているのかも。
「人類は、抑制されないかぎり、疫病のごとく、癌のごとくふるまう。」(258ページ)
と考える悪者、ちょくちょく出てきますよね。

映画とはラストが違う(映画の記憶があいまいで......)のですが、原作の方では前作「ロスト・シンボル」同様に、作者の想像の翼は現実からちょっと飛躍したところにまで伸ばされています。

それにしても、ラングドンは敵味方が入り乱れる中、手がかりをたどって一種の宝探し(到底宝とは言えませんが)を演じるわけですが、今回の敵がどうして手がかりをばらまいているのか、ちっとも理由がわかりません。
狙いは明らかであるし、それが正しいことと確信しているのだから、阻止されてしまうような手がかりをばらまいたりせず、黙って実行に移せばよいと思うのですが...自己顕示欲というのでは説明しきれない大きな問題のように思えました。


<蛇足1>
「難なく読めた── ”SALIGIA” と。
 ──略──
 『七つの大罪をキリスト教徒にそらんじさせる目的で、中世にヴァチカンが考え出したラテン語だよ。”サリギア(SALIGIA)” というのは頭字語で、スペルビア(superbia)、アワリティア、ルクスリア、インウィディア、グラ、イラ、アケディアの頭文字をそれぞれとっている』 
 ──略──『高慢、貪欲、邪淫、嫉妬、貪食、憤怒、怠惰』」(上巻104ページ) 

<蛇足2>
「いちばん上の濠に視線をもどし、十の濠に書かれた文字を上から下へ順に読んでいった。
  C……A……T……R……O……V……A……C……E……R」
『カトリヴァサー?』ラングドンは言った。『イタリア語だろうか?』」(上巻118ページ)
この段階では、CATROVERCER という語にラングドンはまったく心当たりはなさそうです。しかし、
「CATROVERCER。この十の文字は、美術界有数の謎──数世紀にわたって解明されていない謎──の中核をなしている。一五六三年、フィレンツェの名高いヴェッキオ宮殿で、壁の高い位置にこの十文字を用いたメッセージが記された。
 ──略──
 ラングドンにとって、その暗号は慣れ親しんだものだった」(上巻171ページ)
となっていて、あれ? となりました。意味はわからないにせよ、単語そのものは馴染みのあるものなのですから。
上巻118ページの段階では記憶喪失がまだ抜けきっていなかったということでしょうか?

<蛇足3>
「サンドロ・ボッティチェルリによるこの地図こそ、ダンテの描いた地獄を最も正確に再現しています。」(上巻154ページ)
このイタリアの画家は、ボッティチェリだと思っていましたが、この本ではボッティチェルリと表記されています。
ボッティチェリは、ボッティチェッリとも書かれることがあり、スペルを見ると "Sandro Botticelli" でうから、llの部分の発音がポイントですね。

<蛇足4>
「メディチ家。
 その名前はまさにフィレンツェの象徴になっている。三世紀に及ぶ統治時代に、計り知れない富と影響力を持ったメディチ家は、四人の教皇とふたりのフランス王妃、さらにはヨーロッパ最大の金融機関をも生み出した。今日に至っても、銀行はメディチ家が考案した会計方法を用いている──貸方と借方からなる複式簿記だ。」(上巻172ページ)
複式簿記はルカ・パチョーリにより考え出されたと思っていたのですが、違うのですね。
ルカ・パチョーリは複式簿記を学術的に説明した人だったようです。
ただ、wikipekia を見ただけですが、メディチ家が銀行に導入する以前より、複式簿記はあったようですね。

<蛇足5>
「フィレンツェ共和国の威厳ある政庁舎として建てられたこの宮殿を訪れる者は、雄々しい彫像の数々に圧倒される。アンマナーティの作である、四頭の海の馬を踏みしめるたくましいネプチューンの裸像は、フィレンツェによる海の支配の象徴だ。宮殿の入口では、ミケランジェロの<ダヴィデ像>──まちがいなく世界で最も称賛されている男性裸像──の複製が、栄光に満ちた立ち姿を披露している。<ダヴィデ像>の横には<ヘラクレスとカークス像>──さらにふたりの裸の大男を刻んだ像──があり、ネプチューンの噴水に配されたいくつものサテュロスの像と合わせて、総数一ダースを超える露出したペニスが観光客を出迎えることになる。」(上巻260ページ)
ヴェッキオ宮殿についての説明で、たしかにその通りなのでしょうが、言い方(笑)。

<蛇足6>
「昔からの習わしによると、ベアトリーチェへの祈りの手紙をこの籠に入れると、利益(りやく)があるという──相手にもっと愛されたり、真実の恋が見つかったり、死んだ恋人を忘れる強さが身についたりするらしい。」(中巻107ページ)
ダンテ教会として知られるサンタ・マルゲリータ・ディ・チェルキ教会の場面です。
御利益(ごりやく)という使い方しか触れたことがない気がしますが、ここでは利益(りやく)。

<蛇足7>
「さわやかな海風に、駅の外の露店で売られているホワイトピザの香りが混じっている。」(中巻247ページ)
ホワイトソースをかけたピザをホワイトピザというのですね。

<蛇足8>
サン・シメオーネ・ピッコロ教会の特徴的な緑青の丸屋根が高く見える。──略──勾配がとりわけ急なドームと円形の内陣はビザンチン様式であり、円柱が並ぶ大理石のプロナオスは明らかにローマのパンテオンの入口を模したギリシャ古典様式だ。」(下巻247ページ)
プロナオスがわからず調べました。



原題:Inferno
作者:Dan Brown
刊行:2013年
翻訳:越前敏弥





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殺しのパレード [海外の作家 は行]


殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2007/11/27
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ケラーが今回依頼されたターゲットは、メジャーリーグの野球選手。球場へ足を運んだケラーは、その選手が通算四百本塁打、三千安打の大記録を目前にしていることを知る。仕事を逡巡するケラーがとった行動とは? 上記の『ケラーの指名打者』をはじめ、ゴルフ場が隣接する高級住宅地に住む富豪、ケラーと共通の趣味をもつ切手蒐集家、集団訴訟に巻き込まれる金融会社役員など、仕事の手筈が狂いながらも、それぞれの「殺し」に向かい合うケラーの心の揺れを描いた連作短篇集!


2023年3月に読んだ1冊目の本です。
ローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズ3冊目。
前作「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)の感想で書いたように、ちょっと読むピッチを上げて手に取りました。といっても半年以上間が空いていますが......
「殺しのリスト」は長編でしたが、今回は
「ケラーの指名打者」
「鼻差のケラー」
「ケラーの適応能力」
「先を見越したケラー」
「ケラー・ザ・ドッグキラー」
「ケラーのダブルドリブル」
「ケラーの平生の起き伏し」
「ケラーの遺産」
「ケラーとうさぎ」
以上9編収録の短編集、のはずなんですが、章立てというのでしょうか、ナンバリングは通算されています。最初の「ケラーの指名打者」が 1 から 5 までで、次の「鼻差のケラー」が 6 から、という具合です。
ケラーと元締めトッドとの会話も健在ですし、作者ブロックは本書も長編として読まれることを期待しているのかもしれませんね。
「殺しのリスト」のように全体を貫くストーリーが明確にあるわけではないのですが。

この本を読むのにずいぶん時間がかかりました。
この本のせいではなく、諸般の事情によりあまり本を読む気になれなかった、というのが主因ですが、今となってみると、ゆったり読んだのはこの本の内容にぴったりだったような気がしています。
なにしろ「殺し屋ケラーの穏やかな日常」ですから。

ケラーが狙われるという「殺しのリスト」にあったような派手なストーリーはないものの、ケラーが引退を考えたり、あるいは、引退後の資金を確保するために仕事を増やそうとしたりと、ゆるやかな展開のうねりはあります。

個々の短編はそれぞれのエピソードに特段ひねりがあるわけではなく、そのエピソードやモノローグを通してケラーが人柄(といってよいのでしょうか?)が浮かび上がってくるような感じですね。
「どんなに長生きしようと、どれほど金を稼ごうと、探す切手がなくなることはないからだ。もちろん空白は埋めたい──それはひとつ大きなポイントだ──しかし、人に喜びをもたらすものは達成しようとする努力にある。喜びとは達成そのものではない。」(60ページ)
人の命を奪うことを職業としている人間にこう言われるのは少々複雑な思いもありますが、感覚的に突拍子もない人物ではないことがよく伝わってきます。

いや、「それぞれのエピソードに特段ひねりがあるわけではな」いというのは正しくないですね。
ひねりはあちらこちらに仕掛けてあります。
たとえば「先を見越したケラー」では、空港に降り立ったケラーは、殺すはずだったターゲットに迎えられ、車へと連れ込まれます。
そこからのストーリー展開は読者の想定を大きく外れていると思います。
ひねりはあって、予想外の展開になっても、非常に落ち着いた印象を受けるところが、このシリーズのミソなのかも。

ケラーが請け負う殺しのターゲットがバラエティに富んでいることもポイントですよね。
タイトルからも明らかですが、野球選手、競馬の騎手、キューバ人亡命者グループの重要人物、、犬(!)、金融会社の不正事件の証人、切手コレクター......
それに応じ、ケラーとトッドが洒落た(?)会話を交わし、ゆっくりとケラーの物語が進んでく。

9.11の影響が強くでていますし(ケラーがボランティアしたりします!)、引退が視野に入ってきていて、「ケラーの遺産」 なんてタイトルの作品もあったりして、シリーズ幕引きモード感が漂ってくるので、いっそう淡々としたイメージが強くなっているのかもしれません。


最後にこのシリーズのリストを。
「殺し屋」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのパレード」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋ケラーの帰郷」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
と5冊刊行されています。


<蛇足1>
「しかし、ヤンキースのピッチャー──ぎくしゃくしたワインドアップ・モーションの不愛想な日本人投手には、ブーイングに動じたところなどまるでなかった。」(9ページ)
ヤンキースに所属したことはない選手ですが、記述ぶりから野茂英雄投手を連想しました。

<蛇足2>
「あなた自身、指名打者(デジグネイティッド・ヒッター)なんだから。」(15ページ)
「(ヒッターには“殺し屋”の意もある)」と訳注つきで書かれている箇所で、題材となっている野球の打者と、ケラー自身の殺し屋が掛けられています。
今まで疑問に思ったことがなかったのですが、代打者(ピンチヒッター)や指名打者は、バッター(Batter)ではなく Hitter なのはなぜでしょうね?

<蛇足3>
「それはリーワード諸島からオランダまで、国別に切手を収めたアルバムで、ケラーはマルティニクのページを開くと、まずこれまでに蒐集した二百枚ほどのコレクションを眺めてから、そのあと二枚分の開いたスペースを見つめた。」(63ページ)
リーワード諸島というのは、カリブ海の西インド諸島の一部らしいです。リーワードというのは風下のこと。
マルティニクは、ウィンドワード諸島に属する島で、フランス領らしいです。ウィンドワードは風上で、リーワードとウィンドワードはセットですね。「世界で最も美しい場所」とコロンブスに呼ばしめた、と Wikipedia には書かれています
切手コレクターの間では有名な島なのでしょうか??

<蛇足4>
「最初のうちは引き金を引くことを自分に強いなくてはならないだろう。悪夢を見ることもあるだろう。だけど、そういったことにもすぐ慣れて、自分でも気づかないうちに、そのことにいくらか愉しみを覚えるようになる。セックスとはちがう。セックスではあの種の興奮は得られない。言ってみれば、狩りみたいなもんだ。」(180ページ)
殺し屋稼業について述べたところではなく、軍隊の話です。
引き合いに出ている狩りも経験がないので実感がまったく湧きませんが、そういうものなのでしょうか?

<蛇足5>
「何千何万というニューヨークのタクシー運転手の中から、ケラーはよりにもよって英語が話せる運転手を引きあててしまったのだった。」(275ページ)
短編の冒頭、タクシー運転手にあれこれ話しかけられて閉口するケラーを描いたところですが、確かに、ニューヨークのタクシーは英語を話せない運転手が多い印象ですね。

<蛇足6>
「マイレッジを貯めるためだ」(275ページ)
航空会社が実施しているサービスですが、日本では「マイレージ」と表記するのが通例ですね。
英語では Mileage で、マイレージより、マイレッジの方が絶対的に近いです。

<蛇足7>
「会社の名前は<セントラル・インディアナ・ファイナンス>。抵当権の売買やかなりの量の借換融資をやっていて、ナスダックにも上場してる。」(353ページ)
抵当権の売買、とありますが、原語は Mortgage だと思われ、おそらく日本でいう住宅ローンのことで、住宅ローンの売買(日本ではあまり例がありませんが、住宅ローンの貸し手である銀行が、ローンを売却することはよくある取引です)を指すのだと思います。
日本の概念でいう抵当権を売買する、というのは難しそうです。

<蛇足8>
「一方、株を空売りした投資家が配当金を支払う義務が発生する配当落ちの日よりまえに、なんとか株を買い戻そうとしていた。」(358ページ)
配当落ちの日というのは、投資家から見て配当金を受けとる権利がなくなる日のことを指します。権利落ちともいいますね。
空売りしている投資家は、配当が発生した場合、配当落調整金の支払いが必要ですので、その前にできれば買い戻したい、ということですね。
理論上は、配当落ちすると配当の分だけ株価は下がりますので、実質的な影響はないはずですが、まあ実際には損得が発生しますね。



原題:Hit Parade
作者:Lawrence Block 
刊行:20年
翻訳:田口俊樹




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蘇えるスナイパー [海外の作家 は行]


蘇えるスナイパー (上) (扶桑社ミステリー)蘇るスナイパー (下) (扶桑社ミステリー)

蘇えるスナイパー (上) (扶桑社ミステリー)
蘇えるスナイパー (下) (扶桑社ミステリー)

  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2010/12/01
  • メディア: ペーパーバック


<カバー裏あらすじ>
4件の狙撃事件が発生した。まずニューヨーク郊外で映画女優が心臓を射抜かれて即死。続いてシカゴの住宅街で大学教授夫妻が頭部を撃たれ死亡。クリ―ヴランドでコメディアンが口を射抜かれて絶命する。使用ライフル弾はどれも同種と判明し、捜査線上にヴェトナム戦争の最優秀狙撃手が浮上するが、彼もまたライフル銃での自殺と推定される状況で発見される。事件は落着かに見えたが、FBI特捜班主任ニック・メンフィスはこれに納得せず、親友のボブ・リー・スワガーに現場検証を依頼した! <上巻>
ニューヨーク・タイムズを初め各メディアは連続狙撃犯の正体は自殺したヴェトナム戦争の名狙撃手だと報道したが、ボブは敢然と異を唱える。最大の理由は異常なまでに正確な狙撃精度だった。被疑者が持っていた旧式のスコープで、ここまでの精密射撃は不可能だった。それを可能にするのは超小型コンピュータ内蔵のハイテク・スコープ〈iSniper〉だけ……。ボブはその製造販売会社の実地講習会に潜入することを決意する。スナイパーの精髄を描破したシリーズ空前の傑作。<下巻>


2022年11月に読んだ4作目(4冊目と5冊目)の本です。
久しぶりに読むスティーヴン・ハンターのスワガー・サーガ。
前作「黄昏の狙撃手」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー) を読んだのが2013年7月ですから、ほぼ9年ぶりですね。
ふたたびシリーズのリストを。

01. 「極大射程」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
02. 「ダーティホワイトボーイズ」 (扶桑社ミステリー)
03. 「ブラックライト」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
04. 「狩りのとき」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
05. 「悪徳の都」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
06. 「最も危険な場所」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
07. 「ハバナの男たち」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
08. 「四十七人目の男」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
09. 「黄昏の狙撃手」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
10.「蘇えるスナイパー」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
11.「デッド・ゼロ 一撃必殺」 〈上〉  〈下〉 (扶桑社ミステリー)
12. 「ソフト・ターゲット」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
13. 「第三の銃弾」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
14. 「スナイパーの誇り」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
15. 「Gマン 宿命の銃弾」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
16. 「狙撃手のゲーム」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
17. 「囚われのスナイパー」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)

シリーズ途中で翻訳が途絶えてしまうシリーズがいろいろとある中で、しっかりと邦訳が続いているのが素晴らしい。
いずれも、冒険小説の王道というか、堂々たる巨編ぞろい。小細工なく、一本調子の作品群です。

今回はライフルを使った連続殺人事件に我らがボブ・スワガーが巻き込まれ、冤罪を負わされたスナイパーの名誉回復を図ろうとする、というストーリーラインです。
事件の真犯人について早々にボブが見当をつけるという展開になっていまして、ミステリとしてみた場合は決め手不足(どころか手がかりがまったくない)であまりにも直感的、独断的なので減点要素となりかねないところですが、この作品の場合はむしろ長所で、強大な敵にいかに立ち向かっていくか、という目標を早々に定めることで安定した物語づくりに役立っています。

ストーリーとしては、もっぱら標的となるのはボブではなく、ボブの友人(と言ってよいと思います)である FBI のニックで、政治の街ワシントンで狙いすまされた攻撃に手を焼きます。
ボブは、ニックの依頼を受けて事件に巻き込まれるのですが、途中彼自らの人的魅力で人々をひきつけながら、真相に迫っていきます。
そして、いよいよスナイパー対決。
方や最新機能を搭載した〈iSniper〉を付けたライフル、方や旧式の(と言ってはいけないのかもしれませんが)従来型のスコープを付けたライフル。
不利な状況をどうやって切り抜けるのか、ボブのことだから切り抜けるに決まっているのですが、ドキドキします。
ボブは相手に
「おまえは裸になる。すっぽんぽんの丸裸に。ナイフや四五口径をどこにも隠し持てないようにだ」(下巻260ページ)
「単独で、丸腰で、丸裸で来い」(下巻261ページ)
と指示する状況に持ち込めますが、敵の仲間が待ち伏せしているに違いない。
まさに神業と呼びたくなるような手を打つのですが、それが後に下巻367ページあたりでさらっと明かされるのにちょっと感動してしまいました。

さらっと明かされるといえば、ニックの方が窮地を脱するエピソードもそうで、こちらはうまく作られているものの、どうしてそうなったのかがわからないまま物語が進むのですが、この点は下巻397ページから説明が試みられます。これがまたいいんですよね。

もう一つ感銘を受けたのは、ボブの奥様。
途中で負けを認め家に帰ろうとし電話したボブに対してかける言葉が素晴らしい。
「あなたをとても愛しているし、ずっといっしょにいてほしいけど、あなたは嘘をついている。自分自身に嘘をついているわ。声の響きにそれが聞き取れるし、あなたの納得がいくような解決をしなかったら、このあと、どんなに平和な暮らしを願ったとしても、そのよろこびは得られないでしょう。」(下巻62ページ)
「あなたはわたしたちを愛してくれている。それはたしかなことだけど、戦争こそがあなたの人生、それがあなたの運命、あなたのアイデンティティなの。だから、わたしのアドヴァイスは、こうよ。戦争に勝って。それから、帰ってきて。もしかすると、あなたは殺されてしまうかもしれない。それはつらいことだし、悲嘆して、娘たちといっしょに何年も泣き暮らすことになるでしょう。でも、それが戦士の道だし、わたしたちは戦士の最後の生き残りを愛した呪いを受けるしかないの」(同)
まあ、ボブに都合のいいセリフといえばそうですが、軍人の妻の矜持が感じられます。

原題の I, Sniper は、私はスナイパー、ということであり、キーとなる機器〈iSniper〉をかけたものですが、どうしても、アシモフの「われはロボット」(I, Robot)を思い出しますね。
特段意識されているものとは思えませんが、ロボットとはなにか、ロボットであるとはどういうことかを掘り進んでいった「われはロボット」同様、この「蘇えるスナイパー」もスナイパーとはなにか、スナイパーであるとはどういうことかを掘り進んでいるようにも思え、興味深く感じました。


<蛇足1>
「まったくもって美しい、きわめつけに美しい、文句なく美しい」(上巻9ページ)
きわめつけ、という語が使われています。本来は「きわめつき」が正しいと聞いたことがあります。

<蛇足2>
「とはいっても、おれにとってもお楽しみといえば、サッカーでヘディングを決めたり、ときどきデカパイ女を追っかけたり、寝転がってアガサ・クリスティの本を読んだりすることだ。」(上巻207ページ)
ライフル射撃の教官のセリフです。こんなところにまでアガサ・クリスティが出てくるのがうれしいですね。

<蛇足3>
「だが、リーンクインジーンのダイエット食を電子レンジで温めて、かきまわすだけの食事にはいいかげんうんざりだった。マカロニもチーズも、もう食べたくない!」(下巻111ページ)
「マカロニもチーズも」と書かれていますが、原文はおそらく macaroni and cheese (あるいはmacaroni & cheese)で、「マッカンチーズ(あるいはマッケンチーズ)」と呼んで親しまれている料理名なのではないかと思います。



原題:I, Sniper
作者:Stephen Hunter
刊行:2009年
訳者:公手成幸



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巡査さん、事件ですよ [海外の作家 は行]


巡査さん、事件ですよ (コージーブックス)

巡査さん、事件ですよ (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2018/09/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
雄大な自然の広がるイギリス、ウェールズ地方。険しいスノードン山の麓の村では、あちこちをひつじが歩き回るのどかな風景がひろがっていた。そんな村へ巡査として赴任してきたエヴァン。都会で起こる事件に疲れ、幼い頃に家族で暮らした村へ戻ってきたのだ。ここでの巡査の仕事は畑荒らしや迷い猫の捜索に、住民どうしの喧嘩の仲裁。悩み事といえば、大家さんの作る食事がおいしすぎでズボンがきつくなり始めたことと、パブのウェイトレスが猛アタックしてくることだった。そんなある日、スノードン山で死体が発見された。本署からやってきた警察官は不幸な事故と決めてかかるが、山をよく知るエヴァンにはどうしてもそうは思えず……!?


2022年9 月に読んだ9冊目の本です。
「貧乏お嬢さま、メイドになる」 (コージーブックス)(感想ページはこちら)ではじまる《英国王妃の事件ファイル》の作家リース・ポウエンの別のシリーズです。
ミステリーにはこちらのシリーズがデビューだったようです。

原書房のコージー・ブックスというコージー・ミステリのレーベルから翻訳されていますが、主人公は男でかつ警官。エヴァン・エヴァンズ。
コージー・ミステリの定型からは大きく外れていますが、舞台となるウェールズのスランフェア村のありようはコージー・ミステリ感を味わわせてくれます。

「よく聞くんだ、エヴァンズ。きみは村の巡査にすぎない。主任警部モースじゃないんだ。今度余計なことに首を突っこんだり、きみの浅はかな考えで勝手なことをしたりしたら、上司に報告する。」(141ページ)
なんて叱られたりする探偵役、いいですよね。
(「巡査さん」という語が使われていますが、お巡りさんという感じなんでしょうね。お巡りさんは事件捜査はしないんですね。)

《英国王妃の事件ファイル》と比較するとミステリ味は濃いめ。
本署は事故と決めつけるけど、不審に思うエヴァンという構図で、したがって当然殺人なわけです。
真相は平凡と言っては失礼かもしれないけれど、それはむしろ本書の場合は長所で、大方の読者の想定どおりに進む物語のテンポが非常に心地いい。
エヴァンをめぐる恋の鞘当ても、(読んでいる側としては)のどかで楽しめそうですし、シリーズを追いかけてみることにしましょう。


<蛇足>
「エヴァンは警察署として使われている建物のこぢんまりした部屋に入った。地元も消防署であり、RAC(イギリス王立自動車クラブ)の施設であり、軽食も売っているガソリンスタンド兼修理工場の〈ロバーツ・ザ・ポンプ〉の隣に建つ小屋だ。」(75ページ)
RACにイギリス王立自動車クラブと説明が付されているのですが、おそらくRAC違いかと思います。
確かにRoyal Automobile Club (イギリス王立自動車クラブ)というのはありますが、これ、いわゆる紳士クラブ。ロンドンの Pall Mall にある社交クラブで、入会するのは簡単ではないと思われますし、その施設が北ウェールズの寒村にあるとは思えません。(Pall Mall についてはアンソニー・ホロヴィッツの「シャーロック・ホームズ 絹の家」 (角川文庫)感想で触れたことがあります)
広くイギリスでRACというと、車に関するサービスを広く提供する企業(?)で、日本でいうとJAFが提供しているロード・サービスや自動車保険などを提供しています。同種の企業にAAというのがあり、AAとRACがメジャーです。
ここのRACは間違いなくこちらかと思います。
──2023.8.28追記
ロード・サービスのRACですが、もともとはイギリス王立自動車クラブのものだったそうです。現在は売却されてRACのものではなくなっているようですが。
なので、この作品の訳し方で正しいのですね。失礼しました。



原題:Evans Above
作者:Rhys Bowen
刊行:1997年
訳者:田辺千幸





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殺しのリスト [海外の作家 は行]


殺しのリスト (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

殺しのリスト (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2002/05/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
〔殺し屋ケラー・シリーズ〕殺しの依頼を受けたケラーは空港に降り立った。迎えの男が用意していたのは車とピストル、そして標的の家族写真だった──。いつものように街のモーテルに部屋をとり相手の動向を探る。しかし、なにか気に入らない。いやな予感をおぼえながらも“仕事”を終えた翌朝、ケラーは奇妙な殺人事件に遭遇する……。巨匠ブロックの自由闊達な筆がますます冴えわたる傑作長篇ミステリ。


2022年8月に読んだ11作目(冊数でいうと12冊目)の本です。
ローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズ2冊目で、長編です。
このシリーズは
「殺し屋」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのパレード」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋ケラーの帰郷」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
と5冊刊行されています。

ずいぶん久しぶりのシリーズ読書になるのですが、前作である第1作の「殺し屋」のことはまったくと言っていいくらい覚えていません。まあ、これは記憶力のなさからくるもので、いつものことですが。
いったいいつ読んだんだろうと思って手元の記録を見返してみたところ、2001年の1月でした。なんと20年以上前。

殺し屋が主人公といっても、派手にドンパチするのではありません。
非常に淡々。プロフェッショナルというのはこういうものなのかもしれませんが。
そうですね、物騒な職業ではありますが、「殺し屋ケラーの穏やかな日常」とでも言いたくなるような佇まいの作品です。
ケラーは、占い師から
「でも、あなたの人生には実に多くの暴力が存在している」
「それでいて、あなたは思慮深く、神経が細やかで、おだやかな人なんだから。」(184ページ)
と言われることからも、想像できるかもしれません。
こういったケラーの性格が大きな読みどころにつながっています。

この「殺しのリスト」は長編とされていますが、訳者あとがきに
「実は、本書は上梓されるまえにその一部が短篇として“切り売り”されている」
と書かれていまして、中のエピソードは取り出して短篇ともいえる作りになっています。

それぞれのエピソードの背後に、長編として全体を支えるストーリーが展開されています。
それが、ケラーが何者かに狙われているのではないか、というお話。

個々のエピソードもおもしろいですし、全体に流れるストーリーもおもしろい。
さすがはローレンス・ブロック。職人芸がさえていますね。

個々のエピソードにおいては、ケラーが自らに課していると思われるルールに反し、関係者と深入りしてしまったりしているのが見どころでしょうし、ケラーがなんと陪審員に選ばれるというのも楽しい。

カバー袖の登場人物紹介に「殺しの元締め」と書かれているトッドと、ケラーのやりとりが頻繁に挿入され、個々のエピソードや全体のストーリーに関して考察していく部分もとてもおもしろいです。
トッドの言動も本書においては大きなポイントとなっています。

なんといっても殺し屋が主役ですから、物騒な話なんですが、ケラーも、作者のブロックも、肩の力がぬけているような感じが心地よい。
上述のとおり、ずいぶん長い間積読にしてきましたが、読むピッチを上げて読んでいこうかな、と思いました。



<蛇足1>
「一ブロック離れたところにポーランド料理店があり、そこでボルシチとピロシキを食べ、頼まないのに持ってきたグレープのクールエイドを飲んだ。」(110ページ)
東欧、ロシアの料理は共通点も多いと思われるので、ボルシチとピロシキがポーランド料理店で出てきても驚くことではないのでしょうね。


<蛇足2>
「でも、公判になっても週末は休みなんでしょう?」
「金曜日の午後から月曜日の朝までは」
「隔離されなければ」
「陪審員を毎晩缶詰めにするような類の裁判だと」「陪審員の選出に一週間はかける。」(352ページ)
上の本文にも書きましたが、作中ケラーが裁判の陪審員に選ばれるという驚きの展開になります。
陪審制度自体、ミステリで読むだけで具体的には知らないのですが、週末休みとかあるんですね。まあ、そうですよね、市民の義務とはいえ拘束というのは限定的でないと困りますよね。

<蛇足3>
「翌朝九時、ケラーは幸運な十三名とともに陪審席に坐っていた。」(357ページ)
あれ? 陪審員は十二名なのに、と一瞬思ったのですが、自らの勘違いに気づいて苦笑しました。
「陪審員十二人と補欠ふたり」(347ページ)とわずか10ページ前に書いてあったというのに。

<蛇足4>
「あるホテル・チェーンがほかのチェーンから一軒だけ引き抜いて、自分のチェーンに加えるというのは、どういうことなのか。ホテル業界というのはずいぶんと勝手気ままなことをしているように思われた。」(394ページ)
それほど勝手気ままなことだとも、奇妙なことだとも思わなかったのですが....

<蛇足5>
「ホッケーなんて嫌いだった。でも、ハットトリックが何かってことは知ってる。一試合で三つのゴールを決めることでしょ? 同じ選手が」(533ページ)
ハットトリックという語はサッカーで覚えた語ですが、サッカー以外の競技でも言うのですね。




原題:Hit List
作者:Lawrence Block
刊行:2000年
翻訳:田口俊樹





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ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 [海外の作家 は行]


ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2007/09/01
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
巨匠J・D・カーに憧れ、自ら密室殺人を企てる青年。
クイーン顔負けの論理で謎を解く老人。
身に覚えのない手紙を受け取ったアメリカ在住のワトスン。
ユーモラスな結末の表題作をはじめ、「エラリー・クイーンを読んだ男」、「コナン・ドイルを読んだ男」等、ミステリへの深い愛情とあざやかな謎解き、溢れるユーモアで贈る〈~を読んだ~〉シリーズ全十一編。
付録として,チャールズ・ディケンズの愛読者が探偵として事件に挑む「うそつき」等三編を収録。EQMMの常連作家ブリテンによる、珠玉のパロディ群をご堪能あれ。


2022年7月に読んだ6冊目の本です。
論創海外ミステリ68

「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」
「エラリー・クイーンを読んだ男」
「レックス・スタウトを読んだ女」
「アガサ・クリスティを読んだ少年」
「コナン・ドイルを読んだ男」
「G・K・チェスタトンを読んだ男」
「ダシール・ハメットを読んだ男」
「ジョルジュ・シムノンを読んだ男」
「ジョン・クリーシーを読んだ少女」
「アイザック・アシモフを読んだ男たち」
「読まなかった男」
「ザレツキーの鎖」
「うそつき」
「プラット街イレギュラーズ」
14編収録で、本国でも短篇集にまとめられたことのない〈~を読んだ~〉シリーズをまとめた貴重な短編集です。

表題作ともなっている「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」は非常に有名な作品で、数々のアンソロジーにも採られています。
ぼく自身おかげで何度も読んだことがあります。
カーを読みとり憑かれてしまい、完璧な密室トリックを使って叔父を亡き者にしようとした男の顛末を描く物語ですが、非常に面白いですね。
ネタが分っていても、やはりニヤニヤしてしまいます。良質のユーモア作品が持つ特徴をそなえているということでしょう。
ただミステリかと問われると言葉に詰まってしまうのですが、とびきり面白い作品であることは間違いありません。

なので、他の〈~を読んだ~〉シリーズの作品も同傾向のものなのかな、と思って読んだのですが、予想は嬉しく裏切られました。
その他の作品は、普通に(というのも変な表現ですが)ミステリしているのです。
短い作品ばかりなので、あっさりしているのですが、ポイントを絞って展開する小味ながらピリッといった趣で、そうですね、小粋とでもいうのでしょうか。

「アガサ・クリスティを読んだ少年」に出てくる切手は見てみたいと思います。

巻末に、好事家のためのノートと題して、言及されているミステリ作家たちについての、森英俊による解説があるのも親切です。
ジョルジュ・シムノンやジョン・クリーシーは今や入手困難ですし、こういう解説はありがたいですね。


<蛇足>
「彼は勝手口を開けると、キッチンに入っていった。ぬくもりが感じられ、鶏肉の唐揚げの匂いがする。」(134ページ)
ニューヨークの警察官の家なのですが、中国系でもなさそうなのに、唐揚げを作っているのですね。





原題:The Man who Read John Dickson Carr and other stories
作者:William Britain
刊行:1965年
訳者:森英俊




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ロスト・シンボル [海外の作家 は行]

ロスト・シンボル (上) (角川文庫)

ロスト・シンボル (上) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/08/25
  • メディア: 文庫

ロスト・シンボル (中) (角川文庫)

ロスト・シンボル (中) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/08/25
  • メディア: 文庫

ロスト・シンボル (下) (角川文庫)

ロスト・シンボル (下) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/08/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界最大の秘密結社、フリーメーソン。その最高位である歴史学者のピーター・ソロモンに代理で基調講演を頼まれたラングドンは、ワシントンDCへと向かう。しかし会場であるはずの連邦議会議事堂の〈ロタンダ〉でラングドンを待ち受けていたのは、ピーターの切断された右手首だった! そこには第一の暗号が。ピーターからあるものを託されたラングドンは、CIA保安局局長から、国家の安全保障に関わる暗号解読を依頼されるが。<上巻>
フリーメイソンの最高位、ピーター・ソロモンを人質に取ったマラークと名乗る謎の男は、“古の神秘”に至る門を解き放てとラングドンに命じた。いっぽうピーターの妹・キャサリンは、研究所に侵入した暴漢に襲われる。ソロモン家の血塗られた過去、代々受け継がれた石のお守りの秘密。ピーターを救うには暗号を解読するしかない! アメリカ建国の祖が首都・ワシントンDCにちりばめた象徴に、ラングドンが立ち向かう。<中巻>
国家の安全保障のため拉致犯の要求に従うよう、CIA保安局局長サトウに迫られたラングドンは、暗号に導かれ、連邦議会議事堂の地下室へと赴く。伝説のピラミッドの存在を目の当たりにし、刻限ぎりぎりに隠された暗号を見抜いたキャサリンとラングドンだが、その身には拉致犯・マラークの魔の手が迫っていた!絶体絶命の危機の中、建国以来護られてきた「人類最大の至宝」がいま明らかになる──。人間、宗教、科学を巡る衝撃作。<下巻>


2022年7月に読んだ8作目で、最後の本です。
上中下の3冊なので、7月はなんとか10冊読めた、ということになります。

「天使と悪魔」 (上) (中) (下) (角川文庫)
「ダ・ヴィンチ・コード」(上) (中) (下) (角川文庫)
に続く、ラングドン・シリーズ第3作です。
このシリーズは、トム・ハンクス主演の映画で世界的にとても有名ですが、この「ロスト・シンボル」は劇場映画化されていないようですね。映像化されてはいるようですが、主演はトム・ハンクスではないようです。

今回のテーマは、フリーメイソン(だけではないですけれども)。
いやあ、わくわくしますね。
フリーメイソンといえば、ミステリとは縁が深いというか、ミステリに限らず、”謎”を志向する物語にはしばしば登場する、実在の秘密結社ですね。

ダン・ブラウンは、いろいろな史実であったり、事実であったり、様々な要素を組み合わせて、新しい見方、構図を示すところに大きな見どころがあり、人気を博しているのですが、今回は新たな要素を持ち込んでいます。
SFの領域になるのでしょうか? 
純粋知性科学者となっていますが、主要登場人物の一人である、キャサリン・ソロモンが研究しているのが、人間の精神。
「精神は物質を変容しうるエネルギーを生み出せる」(下巻326ページ)
というのですから、これは(現在の常識的な──と書いておきます──)科学の領域を超えていると思われます。
もっとも、この部分は「いまはまだ黙殺されている」(下巻326ページ)ことになっており、物語の展開そのものの理解を(読者にとって)阻害するものではありませんので、ご安心を。

ただ、この要素のおかげで、想像の翼の拡げ具合は広がったと思うのですが、一方で、読者の許容範囲、と言って悪ければ、想定範囲を逸脱してしまう危険性もはらんでいます。
いろいろなものごとが想定外につながっていく面白さがダン・ブラウンの作品の醍醐味ではあるのですが、正直ここまで拡げてしまうと、なんでもありだよね、そりゃ繋げられるよね、という感想になってしまいました。

といいつつ、とても楽しんで上中下巻1000ページほどを読んだのですから、ないものねだりというか、単なるいちゃもんですよね、これは。
また拡げ切った想像力で楽しませてほしいです。

それにしても、本書を読んでフリーメイソンが怪しくなくなってしまったのですが、これでよいのでしょうか?(笑)


<蛇足1>
「それはアメリカの子供たちの興味を掻き立てて、このすばらしい歴史的建造物を見にくるよう仕向けたいと願って書いたもので、この記事──『モーセ、月の石、スター・ウォーズ』──は、何年も旅行ガイドブックに転載されていた。
 ワシントン国立大聖堂。ラングドンは久しぶりにここへ帰ってきて、意外なほど胸の高鳴りを覚えた。」(中巻244ページ)
ワシントン国立大聖堂、行ってみたいですね。
特にダース・ベイダーの怪物像を見てみたいです(笑)。

<蛇足2>
初期のキリスト教徒でさえ、マタイ伝十九章十二節でイエス自身がその美徳を褒めたたえるのを聞いている。“天国のためにみずからなりたる閹人(えんじん)あり、これを受け入れうる者は受け入るべし”と。」(中巻298ページ)
閹人がわからなかったのですが、「去勢されて宮廷の後宮に仕える男子。 閹者(えんしゃ)。 宦官(かんがん)。」ということなのですね。宦官は知っていましたが、西洋にもあったのですね。
「みずから去勢したギリシャ神話のアッティスの例に見られるとおり、永遠の生命を得るためには男女の肉体世界と決別する必要がある。」(中巻298ページ)
というところの後に続くので、どういう場面で出てくるのか、お分かりいただけると思います。




原題:The Lost Symbol
作者:Dan Brown
刊行:2009年
翻訳:越前敏弥







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四十面相クリークの事件簿 [海外の作家 は行]


四十面相クリークの事件簿 (論創海外ミステリ)

四十面相クリークの事件簿 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2011/05/01
  • メディア: 単行本

<カバー袖>
元怪盗、現在は名探偵。顔を自由に変えることができる怪人にして、謎の経歴を持つ紳士、四十面相ハミルトン・クリーク。J・D・カーが愛読し、江戸川乱歩が「怪人二十面相」のモデルにしたと言われるクリーク譚の第一作品集を初完訳。〈ホームズのライヴァルたち〉第五弾。


2022年6月に読んだ6作目(8冊目)の本です。
単行本で、論創海外ミステリ95
この作品はもともと短篇集として出されていたものから、9編を抜き出して長編に仕立て直したものだそうです。
トマス・W・ハンシューによる四十面相クリークの作品は、子供向けの翻訳を大昔に読んだことがあります。この作品だと第15章~第18章にあたるサーカスのエピソードは強烈に印象に残っています。

もともと四十面相クリークは悪党だったのですね。
エイルサとの運命的な出会いを経て悔い改め、正義サイドにつくことに。
「あなたは地獄へと足を運び、ぼくを救いだしてくれたのですね。神に代わって、天へと導いてくださるのですね!」
なかなか純な悪党です。

カバーや帯には、<ホームズのライヴァルたち>という文字も踊っていますが、典型的なクラシカルな短編ミステリ(長編仕立てにはなっていますが、基本の構造は短編集です)です。

多彩な事件を扱っていて楽しいのですが、それだけではなく、ハンシューはかなりのアイデアマンだったようです。
もう90年前の作品ですから、今となっては、という部分もありますが、非常にトリッキーです。
あのトリック、手がかりはハンシューのものだったのか、という驚きも味わえます。
備忘のため、ぼかして書いておきますが、子供向けで読んだライオンのトリックや、しぐさの推理とか注射のトリックとか、有名ですがいいですよね。
なかには、おいおい、というトリックもあったりしますが、それも時代を感じさせて楽しく味わってしまいました。

クリークの作品はもっとあるようです。
訳してほしいですね。


<蛇足1>
四十面相クリークにとってもマドンナ役ともいうべきエイルサ・ローンですが、エイルサのスペルは Ailsa かと思われます。
発音は、エイルサよりもエルサの方が近いと思われるのですが、どうしてエイルサにされたのでしょうね? エイルサ、すごく言いにくいと思います。

<蛇足2>
「言われたとおり、全部東屋に用意してあります」(88ページ)
東屋で立ち止まってしまいました。「あずまや」という語は四阿という表記に慣れていたからです。
東屋とも書くのですね、というか、むしろこちらが自然な表記ですね。
ネットで見ると語源は
東屋の「東」は、都から見て東方に位置する地域のことで、「東人(あずまびと)」といえば軽蔑の意味を含めて「東国の人」「田舎者」を表す。 東屋(あずまや)は、「東国風のひなびた家」や「田舎風の粗末な家」の意味から生じた言葉である。
ということで、納得しました。四阿の方は
「阿」には「棟」の意味があり、四阿は屋根を四方に葺きおろした小屋をあらわしている。
ということらしいです。

<蛇足3>
「きれいに刈り込まれた目の覚めるようなエメラルド色の芝生を背景に、」(148ページ)
その昔「目の覚めるような青」という表現をしたら、周りから青に「目の覚めるような」という表現を使うのはおかしい、と嘲笑われたことがありました。基本的に赤系の色にしか使わないのだと。
その後、青に使っているところを見かけるようになり、緑にも使うのですね。

<蛇足4>
「クリークだ」
「はん! 一番アイアン(クリーク)ときたか。」(160ページ)
ゴルフはやらないので調べましたが、クリークは5番ウッドと書いてありますね。???
一番アイアンはドライビングアイアン.と呼ぶようなのですが。

<蛇足5>
「あげく、私の自宅の隣──非常に寂しい、ウィンブルドンの公有地の境あたり──の家を買い、夫婦で引っ越してきたんだが、」(308ページ)
このウィンブルドンの公有地、おそらく、Wimbledon Common の訳だと思うのですが、公有地と訳してあるのは初めて見た気がします。
訳すとすると、公園や緑地が近いのではないかと思うのですが。


原題:Cleek, The Man of the Forty Faces
作者:Thomas W. Hanshew
刊行:1913年
訳者:鬼頭玲子



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アガサ・レーズンの困った料理 [海外の作家 は行]


アガサ・レーズンの困った料理―英国ちいさな村の謎〈1〉 (コージーブックス)

アガサ・レーズンの困った料理―英国ちいさな村の謎〈1〉 (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「新しい人生のスタートよ!」PR業界を引退し、英国一美しいコッツウォルズの村で、憧れの隠居生活をはじめたアガサ・レーズン。でも、ちいさな村ではよそ者扱いされ、なかなかなじめない。そこで目をつけたのが、地元開催のキッシュ・コンテスト。優勝したら村の人気者になれるかしら? けれど問題がひとつ。「電子レンジの女王」の異名を持つほどアガサは料理が下手だった……。しかたなく“ちょっとだけ”ずるをして、大人気店のキッシュを買って応募することに。ところが優勝を逃したうえ、審査員が彼女のキッシュを食べて死んでしまった!? 警察からキッシュ作りを再現するよう求められたアガサに、人生最大のピンチが訪れる!


2022年8月に読んだ8作目(冊数でいうと10冊目)の本です。
アガサ・レーズンシリーズ、気になっていたのです。
というのも、ロンドンにいた時に本屋さんに行くと必ず見かけたからで、ペーパーバックがすごい冊数並んでいるのです。コージー・ミステリでは一番人気なのかも、と思えるくらい。
日本でもかなりシリーズの翻訳が進んでいますね。
気になっていたので手に取ってみることに。

読みだして、強引なPR業界を引退しロンドンからコッツウォルズのカースリー(Carsely)村へ越した主人公アガサ・レーズンのキャラクターがどうしても好きになれず、読むのをやめようかと思いましたが、途中でなんとか気にならなくなり、以降はコージーらしく、気楽にすいすい読めました。
すいすい読める一方、ミステリとしての謎は薄味で取り立てて言うほどのことはなし。

コージーにしては嫌な性格の主人公を設定したところがミソでしょうか。
訳者あとがきでは「なぜか憎めない」と書かれていますし、ネット上でも評判は悪くないし、本国イギリスでも人気があるようだし、ではあるのですが、アガサ、どうみても嫌な奴です。
押しが強い、強引な駆け引き、目的のためには手段を選ばない、ズルをしても良心は咎めない。
訳者は「本当は不器用で素直で、とてもいい人なのだ」とかばっていますが、その様子はこのシリーズ第1作目では少ししかうかがわれません。
シリーズにおける深化に期待というところでしょうか。
謎解きにもう少し歯ごたえがあるとよいのですが。


<蛇足1>
「その一週間に、アガサはこれまでのあわただしい生活スタイルが抜けず、せっせと観光名所に出かけた。ウォリック城、シェイクスピアの生誕地、ブレニム宮殿に行き」(17ページ)
アガサ・レーズンの移り住んだコッツウォルズは、それ自体が観光地ですが、まわりにも観光名所がいくつかありますね。
ブレニム宮殿というのは、Blenheim Palace で、通常ブレナム宮殿と日本では表記されることが多いです。発音もブレナムの方が近いと思います。世界遺産で、ウィンストン・チャーチルの生家としても知られていますね。

<蛇足2>
「三冊のミステリを買った。一冊はルース・レンデル、もう一冊はコリン・デクスター、もう一冊はコリン・ワトスン。」(116ページ)
アガサ・レーズン、なかなかの選択眼の持ち主ですね。

<蛇足3>
「<イブニング・スタンダード>を買い、レセスター・スクエアの先の映画館でディズニーの《ジャングル・ブック》を再上映していることを発見した。」(238ページ)
レセスター・スクエアですか......
ロンドンの中心部にある広場で、スペルは Leicester Square。このスペルを見れば、レスターと書きたくなる気持ちはわかりますが、発音はレスター。極めて有名な場所なので、日本語のガイドブックにもレスター・スクエアとして出てくるはずですが。
Worcester(ウスター)や Gloucester Road(グロスター・ロード)など同じような発音になる地名は多いです。
ちなみにこの作品が出版された頃は有料でしたが、今では<イブニング・スタンダード>紙は無料で、地下鉄の駅などに積んであります。


原題:Agatha Raisin and the Quiche of Death
作者:M. C. Beaton
刊行:1992年
訳者:羽田詩津子





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停まった足音 [海外の作家 は行]


停まった足音 (論創海外ミステリ)

停まった足音 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2006/07/01
  • メディア: 単行本

<袖あらすじ>
屋敷の一室で女主人の遺体が発見された。心臓を貫いた弾丸、傍らには被害者の指紋がついたリボルバー。争った形跡はなし。事故か自殺か、あるいは殺人か。死亡直前に被害者の背後で足を止めたのは誰なのか。ロンドン警視庁のポインターが地道で緻密な捜査を続けた結果、浮かび上がる意外な真相……。ヴァン・ダインが称賛したことで知られ、戦前より幾度となく邦訳刊行が予告されてきた『停まった足音』が、ついに日の目をみる!


単行本です。
論創海外ミステリ52
A・フィールディングの「停まった足音」 (論創海外ミステリ)
幻の名作がついに邦訳された、というので、なかなかロマンを感じますね。
なかなか訳されないというのは、作品の質にそれなりの理由があるのでは、という疑念を持つところですが、読んでみると、そんな心配は無用、しっかりとした本格ミステリでした。

冒頭、ロンドン警視庁のポインター警部と所轄署長との会話に新聞記者が混じっていてびっくりしますが、時代を感じさせて微笑ましい感じがしました。

事件は自殺か、事故か、はてまた殺人かという流れなのですが、単純そうに見えて、いやむしろ単純であるだけに、事件の様相が少しずつ変わっていくのがとても面白かったですね。

際立ったトリックがあるわけではないのですが、人間関係を軸にプロットが組まれていて、ベールをはぐように少しずつ明らかになっていく事実により、人間関係が違って見えてくるという、ある意味現代的なミステリに仕上がっているように思えました。
読後、被害者の来し方、人生が気になって仕方ありませんでした。


<蛇足1>
管轄警察署であるトウィッケナム警察署。
Twichenham のことだと思いますが、日本語の表記が難しい場所ですね。
トウィッケナムのほかに、トゥイッケナム という書き方をしているものもあるようです。

<蛇足2>
「そしてライチョウの冷製とモーゼルワインを?」(18ページ)
ライチョウを食べるのですね。
調べてみると、いわゆるジビエシーズンにはよく出回るようです。
ロンドンにいた間、お目にかかったことはなかったような。
もっとも、ライチョウは英語で Grouse ということを認識していなかったので気づかなかっただけかもしれません。

<蛇足3>
「奥には川の方に向かって増築された小さな張り出しがあり、小ぢんまりと居心地のよさそうな凹部屋になっていた。」(26ページ)
なんとなくわかったような気になって読み進みましたが「凹部屋」がわかりませんでした。

<蛇足4>
「全額を引き取ったというのです。支払いは銀行券でした。その銀行券の半分がなくなっているのです」(83ページ)
決して間違いではないのですが、日常会話では銀行券と言わず、紙幣と言うけどなぁ、と思いつつ読んでいると、
「疑問をもたれることなく、番号を照会されることもなしに銀行券を売却できたのは彼だけだ。」(110ページ)
となって、考えてしまいました。銀行券を売却? 最後までわかりませんでした。

<蛇足5>
「そこですよ」つま先がこれ以上語りかけてこないことに、ポインターはようやく納得したようだった。(188ページ)
つま先が語りかけてくる?? どういうことでしょう??

<蛇足6>
「あなたが私たちに事実を話さなかった理由も、やはり知りませんか?」(243ページ)
自分のことなのだから日本語で「知る」という動詞を使うのは不適切でしょう。



原題:The Footsteps That Stopped
作者:A Fielding
刊行:1926年
訳者:岩佐薫子




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