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スネークスキン三味線 庭師マス・アライ事件簿 [海外の作家 は行]


スネークスキン三味線―庭師マス・アライ事件簿 (小学館文庫)

スネークスキン三味線―庭師マス・アライ事件簿 (小学館文庫)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/04/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ラスヴェガスのカジノで五〇万ドルの大金を手にした日系人男性が殺された! 傍らには、壊された三味線が――。
殺人容疑をかけられた親友G・Iの無実を晴らすべく、日系人庭師マス・アライがG・Iのガールフレンドで私立探偵のジャニタとコンビを組んで奔走する。
オキナワの歴史と戦時中の日系人収容所での出来事が複雑に絡み合う、事件の裏に隠された根深い真相とは?
前作『ガサガサ・ガール』に続き、ユーモラスで強烈な個性を放つ「庭師マス・アライ事件簿」シリーズ第二弾。日系人初のアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。


2022年4月に読んだ7作目(8冊目)の本です。
前作「ガサガサ・ガール―庭師マス・アライ事件簿」 (小学館文庫)(感想ページはこちら)が個人的にはまったくダメだったので、MWA最優秀ペイパーバック賞を受賞しているとはいえこの「スネークスキン三味線―庭師マス・アライ事件簿」 (小学館文庫)は読まずにおこうかと思っていました。
ところが今年、シリーズ最終作の「ヒロシマ・ボーイ」 (小学館文庫)が翻訳され(作者名が平原直美と漢字表記になっています)、評判がよいということではありませんか。
最優秀ペイパーバック賞もとっていることだし、怖いもの見たさ半分、読んでみようかと。

結論から申し上げますと、やはり、ダメでした。

原書が2006年というのを疑いたくなるほどの歪んだジャポニズム満載。ほぼ日本のことを理解していない作者ですね。
また、カタカナの日本語が目障りで読みにくい。これは原書でもおそらくイタリック体を使ったりしているでしょうから、翻訳のせいではなく、そもそもこの本が抱えている欠点だと思います。
しかも作者が日系人だというのにもうんざりできます。

ただ、最優秀ペイパーバック賞をとるだけあって、と言うべきなのかどうか、事件の構図は悪くないです。
「ガサガサ・ガール」感想で、「このレベルのままだとあまりにも悲しすぎるので、MWA賞を獲っている分、ミステリ部分が向上していることを期待して読むことにします」と書いた部分は、ある程度期待に応えてくれています。

でも、日本人としては(と主語を大きくしてしまいますが)、読み進むのがつらい作品と言わざるを得ないと思ってしまいます。


<蛇足>
「この男は兄を失って嘆いているようにはとても見えない。シャツはアイロンをかけたばかり、ジーンズも同じだった。」(129ページ)
ジーンズにもアイロンをかけるのですね。


原題:Snakeskin Shamisen
作者:Naomi Hirahara
刊行:2006年
訳者:富永和子






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赤い収穫 [海外の作家 は行]


赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)

赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1989/09/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
私、コンチネンタル・オプがこの鉱山町に来たのは、町の改革を目指す新聞社の社長の依頼によるものだった。だが、その依頼人は路上で何者かに射殺されてしまった。その犯人探しの途中、私は町の最高実力者である彼の父親から新たに依頼を受けた。ドブネズミどもを残らず追い出してくれという。私は町の実力者たちを対立させ、血の抗争の末の共倒れを画策する。荒々しい暴力と犯罪の世界を描く記念碑的名作。新訳決定版


言わずと知れたハードボイルドの古典。
丸善150周年記念復刊ということで購入しましたが、しばらく積読にしていました。
その後今では創元推理文庫からも田口俊樹さんの新訳「血の収穫」【新訳版】 (創元推理文庫)が出ていますが、その前の旧訳版で読んだことがあります。

ハードボイルドもついつい普通の謎解きミステリと同じ読み方をしてしまうので、ハードボイルド読みとしては甚だ未熟である点はご承知おき願いたいのですが、以前読んだ時はちっとも楽しめなかったような記憶です。
しかしこの新訳は違いました。
いろいろと読んできてハードボイルド読者として少しは成長した結果ならうれしいのですが。

「パースンヴィル」俗称 “ポイズンヴィル” にやってきたオプが町の悪を一掃するという物語なのですが、
「さてこれからは、こっちのお楽しみの時間です。お遊びのカネも、あなたがくれた一万ドルがあります。ポイズンヴィルの町を、のど首から足首まですっぽり切り裂くために使うつもりです。」(97ページ)
とオプがかなり早い段階で自らの意向を町の”帝王” (と読者)に明らかにしている点に驚きます。
同じようなことを他でも言ってしますし、
「ポイズンヴィルは穫り入れの時期を待って熟れきっている。わたし好みの仕事だし、よろこんでやるつもりさ」(102ページ)
というあたりは、タイトルの由来でもありますね。
終盤近く、16人死んだところで、
「これまでにも、必要とあれば都合のいいときに、人殺しのひとつやふたつはおぜん立てしてきた。だが、熱病にとりつかれたのはこれが初めてだ。みんな、この町のせいだ。」(227ページ)
と言ったりもしています。
続けて
「殺し合いに馴れっこになると、落ちつくさきは二つに一つだ。胸くそが悪くなるか、好きになってしまうか」(227ページ)
そしてさらには
「しかし、連中を抹殺してしまうほうが、手としてはずっとたやすい。たやすいし、確実だ。そのほうが納得がゆくと、いまは自分でもそう感じている。」「このいまいましい町のせいだ。毒の町(ポイズンヴィル)とはよくいったもんだ。おれはその毒を盛られちまった」(230ページ)
と流れていきます。

そして忘れてはならないのが女の存在。
「あんたは、ボーイフレンドたちを殺人に駆りたてる天与の資質をもってるようだ。」(234ページ)
とオプが評するダイナこそ、もう一人の中心人物ですね。

この毒と女にやられたオプの物語を、オプの一人称で綴っていきます。
冒頭に申し上げた通り、ハードボイルドも普通の謎解きミステリと同じ読み方をしてしまうからかもしれませんが、この皆殺しに近い物語でも、きちんと謎があり、最後に解き明かされます。素晴らしい。

以前旧訳で読んだ際は、相次ぐ殺人(というか殺戮?)に気をとられ、盛大に読み飛ばしてしまったのでしょう。
この記念碑的名作を、新訳できっちり楽しめて本当に良かったです。


<蛇足1>
「とっととフリスコへ帰りな」(103ページ)
オプが言われるセリフです。
文脈から簡単にわかることではありますが、”フリスコ” がサンフランシスコの俗称だというのはどの程度日本で広まっているのでしょう?

<蛇足2>
「こんろでワッフルとハムとコーヒーをこしらえるのに、三十分ほど費やした。」(136ページ)
オプがワッフルを食べている! 
時代的には、オプが作っている!ということに感嘆すべきなのかもしれませんが。

<蛇足3>
「彼女はうまい料理人ではなかったが、おたがいにそんなふりをして食べた。」(197ページ)
ぼくが学んだ高校の英語教師だと和訳でバツをつけるところですね(苦笑)。
"cook" という語が職業がコック(料理人)ではない人を評する場合には、日本語としては、"料理人"ではなく単に"料理をする人"と解すべきで、「料理はうまくなかった」と訳さないといけないというのがその先生の主張でした。

<蛇足4>
「私は相手の顎に一発お見舞いした。百九十ポンドの重みをかけた。」(257ページ)
190ポンドというと86キロくらいです。
オプはもっと大きいと思っていました。



原題:Red Harvest
作者:Dashiell Hammett
刊行:1929年
訳者:小鷹信光


赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)



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貧乏お嬢さま、古書店へ行く [海外の作家 は行]


貧乏お嬢さま、古書店へ行く (コージーブックス)

貧乏お嬢さま、古書店へ行く (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
「ドイツの王女のお世話をせよ」と、英国王妃からまたもや無理難題を言い渡された公爵令嬢ジョージー。密かにメイド仕事で生計を立てている彼女には、王女の世話をするお金もなければ、使用人すらいないというのに! 苦肉の策で祖父を執事に仕立てあげ、なんとか自宅にお迎えすると、王女はその美しさからは想像できないような、むちゃくちゃな英語を話す風変わりで世間知らずの娘だった。おかげで貧乏暮らしは取り繕えたものの、一難去ってまた一難。王女に同行する先々で事件に遭遇してしまう。泥酔した若者の転落死、古書店で男性の刺殺体――。「あの王女には気をつけたほうがいい」と元警官の祖父から警告されるものの、王妃さまの命に従い、ジョージーはしぶしぶ難事件の捜査に乗り出すことになり……!?


2021年8月に読んだ8冊目の本です。
「貧乏お嬢さま、メイドになる」 (コージーブックス)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾。

今回ジョージ―が王妃からいいつかる難題は、バイエルンのハニ王女のお世話。
苦労して準備を整えて迎えたハニ王女は、そこそこやっていけそうな感じなのに、監視役のロッテンマイスター男爵夫人が難物という、いかにもな展開に笑えます(ジョージ―には笑いごとではないですが)。

ハニとジョージ―は、ハイド・パークのスピーカーズ・コーナーあたりで共産主義者の美青年シドニー・ロバーツと出会います。
ジョージ―が招待されたパーティにハニを連れて行くと、そこにはシドニーが。
そのパーティでバルコニーの手すりが壊れて転落死が発生。
ジョージ―が連れて行った大英博物館で、ハニはシドニーと再び出会ったと。
翌日シドニーが働いている古書店を訪れると、二階でシドニーが刺殺されているのを発見する。

厄介ごとを持ち込んできたハニを軸に、矢継ぎ早に事件発生。
このあたりのてんやわんやぶりが見どころですね。

ミステリとしてもかなり大胆な真相が用意されているのですが、さすがに無理筋だと思ってしまいましたし、この真相であればもっと手がかりを大胆にちりばめておいてほしかったな、と。
でも、こういうの好きですね。
このシリーズ、これからも続けて読んでみようと思います。

最後に、邦題「貧乏お嬢さま、古書店へ行く」 (コージーブックス)は、いただけませんね。
古書店は死体発見現場ですし、出てくることは出てくるのですが、タイトルに出すほどのことはないと思われます。
また、冒頭に掲げた書影でわかるかと思いますが、カバー絵も、だめですね。
古書店と思われる場所で、ジョージ―がエプロン?をしている(メイド服??)のですが、本書ではジョージ―は古書店で働くわけではなく、訪問する際もこういう姿ではないはずだからです。
もっとも、海の向こうでも似たような感じの絵を表紙に使っているようですが......

A Royal Pain (The Royal Spyness Series Book 2) (English Edition)








<蛇足1>
「レーガン、ジェンセン、ダニカ、ウォリス――まったく、アメリカ人って、ジェーンとかメアリーとかそういう平凡な名前はつけないの?」(281ページ)
思わず笑ってしまいました。
確かにイギリス人の名前は ”平凡” なものが多いようです。

<蛇足2>
「いくつもの煙突頭部に付けた通風管が並んでいる場所をなんとか通り越してさらに進んでいくと」(415ページ)
「煙突頭部に付けた通風管」の部分に、チムニーポットとルビが振ってあります。
イギリスの建物の屋根のところにあるやつですね。
勝手リンクで恐縮ながら、こちらのブログがわかりやすくていいですね。


原題:A Royal Pain
作者:Rhys Bowen
刊行:2008年
訳者:古川奈々子



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死の扉 [海外の作家 は行]

死の扉 (創元推理文庫)

死の扉 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/27
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
英国のとある小間物屋で深夜、二重殺人が発生。店主のエミリーと、巡回中のスラッパー巡査が犠牲となった。町にあるパブリック・スクールで歴史教師をするキャロラスは、生意気な教え子プリグリーに焚きつけられて、事件を調べることに。嫌われ者だったエミリーのせいで容疑者には事欠かないが……素人探偵の推理やいかに? イギリス屈指の名探偵、キャロラス・ディーン初登場作。


今年7月に読んだ本の感想に戻ります。
平石貴樹「松谷警部と三鷹の石」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続いて読んだのは、レオ・ブルース「死の扉」 (創元推理文庫)
素人探偵キャロラス・ディーン初登場作です。

典型的な本格ミステリの流れ(事件→尋問→尋問→尋問......)に則っていますので退屈するかたもいるかもしれませんが、歴史教師キャロラス・ディーンとその助手を勝手につとめる生徒のルーパートとのやりとりが面白かったり、登場人物が変わっていたりして、飽きることなく読み進むことができました。
探偵小説ファン・農場主のリンブリック氏が出てくるところではニヤリ。
アガサ・クリスティ、グラディス・ミッチェル、ロラック、ジョン・ロードの名前が出てきます。
「一流のアメリカ探偵作家も何人かはいます。アクションが不可欠だと思い込んでいるふしがありますな、確かに。」(177ページ)
なんてぼかさずに、はっきり名前を挙げてくれればいいのに。
ひとり、パンションという作家は訳注も付されていますが、未訳のようで気になりました。
後半252ページでは、いくつかのネタばらしがあるので要注意。
ばらされているのはコナン・ドイルとチェスタトンです。あっ、どさくさで(?)ドロシー・セイヤーズのあの作品もネタばらしされています。
チェスタトンの評はおもしろいですね。
「わしにもとうてい信じられないようなことを書く作家はただ一人、それも巨匠の一人--チェスタトンですよ」
「チェスタトンはやりすぎです。山をも動かせるという自分の信念を読者にも要求するんです」(252ページ)

強欲ババアと巻き添えを食ったと思しき巡査という二重殺人の謎が鮮やかに解かれます。
今となっては見慣れた構図ですが、ひょっとしたらこの作品が最初だったのかもしれませんね。
非常に印象的な解決です。

タイトル「死の扉」は
「ニューミンスター病院ではキャロラスがいわゆる”死の扉”の入り口で(瀕死の状態でという意味)過ごした最初の二十四時間が過ぎようとしていた。」(273ページ)
というところから来ているのだと思いますが、今一つ意味合いがピンと来ません。
なにかありそうな感じは、ミステリにはふさわしいですけれど。

レオ・ブルースの作品でいうと、ビーフ巡査部長シリーズに比べて、キャロラス・ディーンものは翻訳があまりすすんでいないようです。
とてもおもしろいので今後に期待します!


<蛇足1>
「いつの日が、ほんのお飾りの容疑者が真犯人だったと判明して、探偵小説のお約束をひっくり返すかもしれない。」(66ページ)
なかなか愉快なセリフですね。
メタ趣向を意図したものではないとは思いますが。

<蛇足2>
「マーシャは女性の通例として、ナンセンスな冗談は通じず、きょとんとして二人を交互に見た。」(67ページ)
現在だと、性差別的だと言われてしまうのでしょうか?



原題:At Death's Door
作者:Leo Bruce
刊行:1955年
訳者:小林晋



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夏への扉 [海外の作家 は行]

夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/03
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか──新版でおくる、永遠の名作。


ここから、今年7月に読んだ本の感想となります。
言わずと知れたSFの名作。引用したあらすじに「永遠の名作」とあるのも納得の傑作。
個人的にも、SFはそんなに読んでいませんが、ベストを選ぶ際には絶対に漏らすことのできない作品です。

今年、山崎賢人主演で映画化されたので、それにあわせて昨年末に新版がでたので購入しました。(旧版は実家にあるはずですが、もうどこにあるのか発掘を断念)
文庫本につけられた帯によると、もともとは2月19日公開予定だったようですが、このご時世のこと、6月25日公開へと変更されたようです。
映画館で映画を観る前に読もうと、7月読書の最初の1冊として取り上げました。
(映画観たのですが、例によって、感想を書けていません)

最初に読んだ時の印象があまりに鮮やかで、かえって再読せずにここまで来ました。
ン十年ぶりの再読です。

旧版のカバーイラストも印象深いのですが、今度のもかわいらしいですね。
旧版のイラスト、引用しておきましょう。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)








いやあ、懐かしい。
細かいところはすっかり忘れていましたけれど、読み進むうちに、物語の手触りがよみがえってきて、世界の虜に。
1970年と2000年、2001年を舞台とした1957年に書かれた作品で、その時期はとっくに過ぎた2021年に読んでいるので、現実との違いは明らかになってしまっていますが、そんなのは小さいことです。
テクノロジーの発達に違いはあっても、ここにはまぎれもない未来感があふれています。

主人公をエンジニアに設定しているのも効いていますね。
「大部分規格部品を用い、しかも新しい原理をまったく用いないものでなければならない」などという制約下で、画期的な家事ロボット(と呼んでいいと思います)を作り上げてしまう、もともとかなり優秀なエンジニアです。
それが、騙されてすべてを奪われ、未来へと。

この作品のストーリーの勘所は、訳者あとがきで要領よくまとめられていて、そっくり書き写したくなりますが、さすがに自粛。
ハインライン一流の稠密な小説構成と書かれていますが、伏線が回収されて物語がどんどん引き締まっていく後半にどっぷり浸ることに幸せがあります。

今回気になったのは、リッキーの年齢設定。
ですが、まあ、それは小さなこと。
昔、感銘を受けた作品を数十年後に改めて読んで、再び感銘を受けることができました。
幸せです。


<蛇足1>
「ミュチュアル生命保険会社の受付嬢は、機能美の好見本ともいえる姿をしていた。マッハ四の超高速流線形はしていないが、そのかわり、前突型のレーダー・ハウジングをはじめとする女性の基本的任務に必要ないっさいを具備している。」(25ページ)
この描写? いいんでしょうかね? 前突型のレーダー・ハウジング......
かと思えば
「女性のハンドバッグの中のような、想像を絶する混沌さを加えていたのだった。」(196ページ)
なんて表現もあります。
女性を家事から解放するという高邁な思想を持ったぼくがこれで、いいのかな? 

<蛇足2>
「ただいま、顧客担当の重役がお目にかかれますかどうか、きいてみます。」(25ページ)
アメリカの会社、特に金融関係は、だいたい顧客担当者の肩書はインフレ傾向にありますので、「重役」といっても、本当の重役ではなく、担当者だったのでしょうね。
たとえば、米系の投資銀行など、Vice President は副社長ではなく、末端担当者だったりします。

<蛇足3>
「それでおまえは本官になにをしてほしいというのだ?」(200ページ)
判事がぼくに問うシーンですが、判事の一人称が「本官」なんですね。



原題:The Door into Summer
作者:Robert A. Heinlein
刊行:1957年
訳者:福島正実





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家政婦は名探偵 [海外の作家 は行]


家政婦は名探偵 (創元推理文庫)

家政婦は名探偵 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/05/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
とびきり善人だが、刑事としての才能はほぼ皆無なウィザースプーン警部補。事件のたび困りはてる主人を放っておけない“名探偵”の家政婦ジェフリーズ夫人をはじめ、彼を慕う屋敷の使用人一同は、秘かに探偵団を結成する。今回警部補が担当するのは、毒キノコによるらしき殺人事件。探偵団は先回りして解決し、主人の手柄にできるのか? 痛快ヴィクトリア朝ミステリ新シリーズ。


落穂拾いを続けます。

第2作 「消えたメイドと空家の死体」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
第3作 「幽霊はお見通し」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
第4作 「節約は災いのもと」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
と感想を書いてきたシリーズの第1作です。

ぼんくら刑事である主人ウィザースプーン警部補を、ジェフリー夫人たち使用人探偵団がヘルプする、という建付けのシリーズですが、ウィザースプーン警部補が「刑事としての才能はほぼ皆無」とあらすじに書かれているのには笑ってしまいました。皆無......

まあ、実際皆無と言われても仕方のない活躍ぶりではありますが、それでも
「捜査中のウィザースプーンは途方に暮れているように見えることがしばしばあるが、ここぞというときにはとても有能だ。」(259~260ページ)
と言われるくらいには、頭を使えるんですよ。

殺人事件の捜査ですが、なんともほのぼのした雰囲気で話が進むのがいいですね。
また、ミステリ的にはさほど取り立てて言うほどのこともないのかもしれませんが、犯人とその犯行手段、そしてその犯行手段に至る道筋がナチュラルに組み立てられているのがよかったです。


邦訳はこのあと途絶えているようですね......
原作のほうは、こちらのサイトを見ると40作(!)まで出ているようなので、なんとか翻訳も続けてほしいですね。



<蛇足1>
「厳しい雇い主を使用人がしょっちゅう殺していたら、貴族の半分はいなくなっている。」(50ページ)
当時の、雇用者・被雇用者の関係性がうかがえますね。身分という重しがうっすらとではありますが、伝わってきます。

<蛇足2>
「朝食はポリッジ粥と紅茶だったそうです。」(50ページ)
一瞬、ん?と思いました。
ポリッジが粥だからです。
おそらく日本語に移す際、ポリッジでは通じにくく、かといって粥と言ってしまうと東洋風のお粥をイメージしてしまうでしょうから、あえてポリッジ粥とされたのでしょうね。
おもしろいです。

<蛇足3>
「あいつはまったく味がわからないんだから。雄ヤギ程度の味覚しかないんだもの。」(168ページ)
雄ヤギって、味オンチの代名詞になっているのでしょうか?
こういう表現おもしろいですね。

<蛇足4>
「旦那さまは本当に頭がいいんですね」
「それほどでもない」ウィザースプーンは謙遜して笑った。(259ページ)
普通の人たちの会話であれば「謙遜」でいいのでしょうが、ウィザースプーンの場合は、謙遜ではないような...(笑)




原題:The Inspector and Mrs. Jeffries
作者:Emily Brightwell
刊行:1993年
訳者:田辺千幸


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貧乏お嬢さま、メイドになる [海外の作家 は行]


貧乏お嬢さま、メイドになる (コージーブックス)

貧乏お嬢さま、メイドになる (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2013/05/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
20世紀初頭のスコットランド。英国王族でありながら、公爵令嬢ジョージーの暮らしは貴族とは名ばかりの貧乏生活。凍えそうな古城でこのまま一生を終えるのかしら? ところがある日、最悪の縁談を耳にしてしまったジョージーは、思わずロンドンへ逃げ出すことに。そこで生活のためにはじめた仕事は、なんとメイド! 王族にあるまじき行動が王妃さまの耳に入らないことを祈りつつ、慣れない掃除に悪戦苦闘する毎日。でも、メイドから見た貴族の生活は意外に面白いかも!? そう思いはじめた矢先、仕事帰りの彼女を待ち受けていたのは、浴槽に浮かぶ死体! 初めての仕事に殺人事件まで……ジョージーのロンドン生活は一筋縄ではいかず!?――。


読了本落穂拾いを続けます。
手元の記録によると2018年4月に読んでいます。とすると、ロンドンに赴任する直前ですね......
著者のリース・ボウエンは、以前アガサ賞最優秀長編賞を受賞した「口は災い」 (講談社文庫)を読んでいるはずです。
「はず」というのも、例によってではありますが、まったく覚えていない。面白かったかどうかすら、記憶にない......

ま、ともかく、そのリース・ボウエンの新シリーズです。
このシリーズ、第5作「貧乏お嬢さまと王妃の首飾り」 (コージーブックス)でアガサ賞を受賞しているようです。

舞台は1932年のイギリス。
主人公はスコットランドの貴族ラノク公爵家の娘ヴィクトリア・ジョージアナ・シャーロット・ユージーニー。愛称ジョージー。
祖母が、ヴィクトリア女王の娘ということで、王位継承順位34位。「英国王室ウィンザー家のはしくれ」(7ページ)というわけです。
34位なんていうと、王室からかなり縁遠いように思えてしまいますが、ヴィクトリア女王のひ孫ですから、立派なものです。

いやな縁談話(お相手はルーマニアのジークフリート王子)を聞きつけて、スコットランドの住み慣れた?ラノク城を飛び出しロンドンへ。
「愛のために結婚する人もいるのよ」
「確かに。だが、われわれの階級では、そういうことはしない」ピンキーはさらりと言った。「わたしたちには果たすべき義務がある。適切な相手と結婚するという義務が。」(24ページ)
まさに、さらりと言ってありますが、時代を感じさせるやり取りですね。

このジョージ、この点だけではなく、かなり自由な人物のように設定されています。
また家柄、血筋を別にしても、ハイスペックなようで(お金はないけど)、兄ラノク公爵(作中ではピンキーと呼ばれています)のセリフですが
「ジョージ―は素晴らしく見た目がいい。ふつうの身長の男性と並ぶにはちょっと背が高すぎるし、優雅さに欠けるところもあるが、健康で、育ちが良く、馬鹿じゃない。いまいましいことに、このわたしよりも賢い。」(18ページ)
と紹介されています。

ロンドンに飛び出したのはいいが、お金を稼がねば、ということで働き始めます。
最初にトライしたのがハロッズの化粧品売り場。
しかし、離婚した母親の妨害にあい、あえなく失敗。
ロンドンのラノク・ハウスの掃除がさほど悪い経験ではなかったことから、「コロネット・ドメスティックス・エージェンシー」と称して、田舎で暮らしている貴族がロンドンへ出てくる前に、ロンドンの屋敷に風を入れ、簡単な掃除をし、主人一行を迎える準備をするサービスを始めることに。
まあ、これ、小説だから可能な話であって、現実には無理でしょうけど、面白いですね。
このお仕事、メイド、ではないので、邦題には「偽りあり」ですが。掃除のときにはメイド服を着るでしょうから、いいのかな?

一方で、ジョージ―は、メアリ王妃から密命を受けます。これが原題(Her Royal Spyness)の由来ですね。
それは皇太子であるデイヴィッド王子と、夫のいるアメリカ人女性との間を探ること。
この王子、後のエドワード8世。「王冠を賭けた恋」離婚歴のある平民のアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚するために王位を捨てた国王です。

これだけでも盛り沢山なのですが、ちゃんと(?)殺人事件も起きます。
それは、ジョージ―の父の莫大な借用証書を持つというフランスのギャンブラーガストン・ド・モビルが、ラノクハウスの浴室で殺されていた、というもの。
容疑者は、なんと、ピンキー。

この謎解きの進行が、ジョージ―の恋模様(?) と相まって進行していくのがポイントだと思いました。
ジョージ―の友人・ベリンダや、ちょっと怪しいところもあるアイルランド貴族のダーシー・オマーラたち周りの登場人物も素敵です。
自由な気風のジョージ―が現代と当時を結ぶ役割をするにうってつけで、物語にすんなり入っていけます。

楽しいシリーズだな、と思いました。
ゆっくりになってしまいますが、シリーズを追いかけてみようかな、と思います。

余談ですが、コージーブックスによりつけられたシリーズ名が「英国王妃の事件ファイル」。
ジョージ―じゃなくて、メアリ王妃の事件ファイルなんですね(笑)。



<蛇足>
「とんでもないことでございます、奥様」(156ページ)
さすがは貴族、というところでしょうか。
とんでもございません、などというバカげた表現を使ったりしていませんね。
訳者の功績かと思いますが、安心できます。


原題:Her Royal Spyness
作者:Rhys Bowen
刊行:2008年
訳者:古川奈々子





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黒い駱駝 [海外の作家 は行]


黒い駱駝 (論創海外ミステリ)

黒い駱駝 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2021/02/01
  • メディア: 単行本




単行本です。論創海外ミステリ106。
この前E・D・ビガーズを読んだのは、「鍵のない家」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)以来で、5年以上前ですね。

横溝正史絶賛と帯にあり、注目していました。

また、「黒い駱駝」というタイトルも、いわくありげでいいな、と思っていました。
ところがこのタイトル、
「『死は、すべての家の門前にうずくまる、招かれざる黒い駱駝だ』っていう古い東洋の格言を聞いたことがあるでしょう」(65ページ)
と書いてあって、別にこの作品固有のものじゃないことが早々にわかってちょっとがっかり(笑)。
当時は、中国人探偵という設定に加えて、このタイトルもエキゾチックだと感じられたのでしょうね。

「未開人種ね」チャーリーは重い口調で繰り返した。「未開人種たちは、グレート・ブリテン島の紳士の方々が釘を植えたこん棒で互いの頭を殴り合っているときに、印刷術の発明に大わらわだった。歴史を持ち出してすまなかった。」(96ページ)
中国人コックのことを述べる証人が中国人を未開人種と嘲ったのを受けてチャーリーが言うセリフです。言ってやった感があっておもしろいですが、こういう異文化をめぐるやり取りが底流に流れているのがよかったのでしょう。

事件は、南太平洋の環礁での撮影を終えて、カリフォルニアに行く途中にハワイに立ち寄った女優たちの一団で起こる殺人事件です。
被害者は、元大スター、今は落ち目になってきているものの、未だ現役で活躍している大女優シェラー。
シェラーは、三年くらい前にロサンゼルスで起きたダニー・マヨ殺人事件の現場に居合わせていたが、関連はあるのか?

推理方法は、廣澤吉泰の解説にもある通りで、容疑者Aを調べて可能性をつぶし、容疑者Bを調べてまたつぶし、次はC、と順々に可能性をつぶしていく感じなので、堅実といえば堅実、まだるっこしといえばまだるっこしいというやり方です。
でも、意外と退屈とは感じませんでした。
シェラーに結婚を申し込んでいたイギリス人のダイヤモンド鉱山主とか、怪しげな占い師とか、ハワイのビーチで暮らしている乞食とか、いろいろな人物が物語に彩を添えているのも一因でしょう。
チャーリー・チャンの人柄とか、異国情緒とか、異文化衝突とか、ふんだんに盛り込まれた枝葉の部分が支えている作品だなと感じます。

その中では、これまた解説にあることですが、横溝正史が「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」絶賛したと思しき場面=事件当時の座席位置再現のくだりは、確かに気が利いているなと思いましたし、そのあと、急転直下真相が突き止められるのも、心地よい展開。
クラシック・ミステリらしい作品で楽しめました。


<蛇足>
「〈威厳ければ地位もなし〉とはよく言ったものだ」(95ページ)
「威厳なければ」でしょうね。手書きだった昔と違い、PC等の日本語入力が一般的になった現在では珍しいミスである気がします。




原題:The Black Camel
作者:E.D. Biggers
刊行:1929年
翻訳:林たみお




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亡者の金 [海外の作家 は行]


亡者の金 (論創海外ミステリ)

亡者の金 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/12/22
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
かつて英国読書界を風靡し、アメリカ大統領にも絶賛された往年の人気作家、約半世紀ぶりの邦訳書。
大金を遺して死んだ怪しげな下宿人。
狡猾な策士に翻弄される青年が命を賭けた謎解きに挑む! 


論創ミステリ、単行本です。
J・S・フレッチャーの本を読むのは「ミドル・テンプルの殺人」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)に次いで2冊目ですが、翻訳されたのはこの「亡者の金」 (論創海外ミステリ)の方が先でした。

結論を先に言ってしまうと、面白かったです。
本格ミステリとしてどうか、と言われると弱い作品ですが、サスペンスにあふれていますし、主人公が冒険に乗り出すところも楽しく読めます。
いわゆる”通俗的”な作品としてとても楽しかったです。

すごくあっさりと犯人の見当がつき、そのまま進んでいくのが難点、ということだと思いますが、一方で、そのおかげでサスペンスが高まってきますので、一概にダメといえないのでは、と考えています。
主人公の頭が悪いことも(悪いと言ってしまってはいけないかもしれませんね。訳者あとがきで書かれているように、お人好し程度の表現がいいのかな?)気になるといえば気になるのですが、サスペンスものとして特に際立って頭が悪いわけでもないですし、主人公が隠し事をするのも常套的ながら手堅い感じがします。
主人公のする選択・行動に「おいおい、それはないだろ」と何度もツッコミを入れたくなりますが、この種のサスペンスの正攻法と言えば正攻法ですし。
繰り返しになりますが、”通俗的”な作品として、いいなと思えます。

田舎を舞台にした、のどかな田園ミステリ(って言い方があるのかどうか知りませんが....)といった趣きの出だしから、想定外に物語が拡がっていくところも高ポイントだと思いました。
ちょっと冒険小説っぽい部分(あくまで「っぽい」ってだけですが)があるのも、意外と好印象です。

J・S・フレッチャー、いいですね。
もっともっと訳してもらえるととてもうれしいです。



原題:Dead Men's Money
作者:J. S. Fletcher
刊行:1920年
訳者:水野恵




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雪と毒杯 [海外の作家 は行]


雪と毒杯 (創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫の最期を看取った人々。帰途にチャーター機が悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。彼ら八人がたどり着いたのは、雪で外部と隔絶された小さな村のホテル。歌姫の遺産をめぐり緊張が増すなか、弁護士によって衝撃的な遺言書が読みあげられる。そしてついに事件が――。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格。


「2018本格ミステリ・ベスト10」第2位です。
エリス・ピーターズの作品の感想をブログで書くのは初めてですね。
「聖女の遺骨求む」 (光文社文庫) から始まる修道士カドフェルシリーズは、ブログを始める前に全作読んでいます。

この「雪と毒杯」 (創元推理文庫)あらすじからはいわゆる「嵐の山荘」もののように思えますが、微妙に枠を外れているように思えます。
とはいえ、ほとんど限定された登場人物のみで成立していますので、「嵐の山荘」ものと見做してよいのかもしれません。
三橋曉の解説でも ”クローズドサークル” として扱われています。

途中まで普通の、よくある、パターン通りの本格ミステリだなぁ、と思いつつ読んでいました。
死んだ歌姫ミランダと彼女の親族、親しかった人物、ほぼそれだけで物語が進んでいくからです。
そして不時着の末たどり着いたホテルで、ミランダの遺言書が明かされ、それをめぐって殺人が発生。遺贈人が殺されてしまいます。
名探偵、という感じの人が登場せず、はっきりした探偵役が誰かわからないまま進むのですが、それでも、ミランダの姪の息子ローレンスと、ミランダの秘書スーザンがなんとなくいい感じっぽく描かれていて、ああ、この二人がメインキャラクターなんだな、と思っていたら、第六章(101ページ~)でびっくり。
被害者のグラスに指紋がみつかったローレンスが責め立てられていると、ローレンスの無実を証言してくれるはずのスーザンがあっさり裏切るような発言をするのです!
えーっ!? そういう展開?
ローレンスは激しく責め立てられ、幽閉されてしまいます。

面白い!
この段階ですっかり作者の術中にはまってしまったのでしょうね。
とても楽しく読めました。

スーザンがなぜローレンスを陥れるような証言をしたのか、は本人の口から明かされるのですが(162ページ)、正直、あまり説得力ない(笑)。
そんな理由で嵌められて、ローレンスがあまりにもかわいそう。
でもいいです。おもしろかったから。

そのあとスーザンが活躍し、ローレンスの疑いも無事晴れるのですが、しかしなぁ、ある意味スーザンの自作自演だからなあ(笑)。
それでもローレンスはすっかりスーザンに感謝するし、甘ちゃんだなぁ(238ページ)。
と、第三者からみたら、ある意味バカバカしいロマンスも盛り込まれていまして、満足です。

タイトルと各章のエピグラフはコメディタッチのオペラ「薔薇の騎士」からとられているとのことですが、ラブコメってことですね。

数の限られた、しかしかなり癖のある登場人物たち、変な遺言書と典型的な本格ミステリの枠組みにのった物語なので、それをどう展開してみせるか、あるいは、ひねってみせるか、というのが作者の腕の見せどころとなってくるわけですが、エリス・ピーターズ、堂々としていますね。
翌年「死と陽気な女」 (Hayakawa pocket mystery books)でエドガー賞を受賞したくらい好調だったということですね。

面白かったです。
またエリス・ピーターズの作品、読んでみたいですね。


<蛇足1>
「やがて、一本の長い腕がガラス戸を押し開くのが見えたかと思うと、星空の下に踏み出したマクヒューがごく静かに、そろそろと背後の窓を閉めた。掛け金が音もなく金具の中にすべり込む。」(187ページ)
閉めるだけで掛け金がかかってしまうのでしょうか? 情景がわかりませんでした。

<蛇足2>
「彼女が目覚めたらすぐに合わせると約束するが、」(239ページ)
合わせるではなく、会わせるですね。
よくやってしまいがちな変換ミスですが、こういう出版物でもやっちゃうんですね。



原題:The Will and The Deed
著者:Ellis Peters
刊行:1960年
訳者:猪俣美江子






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