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赤い収穫 [海外の作家 は行]


赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)

赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1989/09/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
私、コンチネンタル・オプがこの鉱山町に来たのは、町の改革を目指す新聞社の社長の依頼によるものだった。だが、その依頼人は路上で何者かに射殺されてしまった。その犯人探しの途中、私は町の最高実力者である彼の父親から新たに依頼を受けた。ドブネズミどもを残らず追い出してくれという。私は町の実力者たちを対立させ、血の抗争の末の共倒れを画策する。荒々しい暴力と犯罪の世界を描く記念碑的名作。新訳決定版


言わずと知れたハードボイルドの古典。
丸善150周年記念復刊ということで購入しましたが、しばらく積読にしていました。
その後今では創元推理文庫からも田口俊樹さんの新訳「血の収穫」【新訳版】 (創元推理文庫)が出ていますが、その前の旧訳版で読んだことがあります。

ハードボイルドもついつい普通の謎解きミステリと同じ読み方をしてしまうので、ハードボイルド読みとしては甚だ未熟である点はご承知おき願いたいのですが、以前読んだ時はちっとも楽しめなかったような記憶です。
しかしこの新訳は違いました。
いろいろと読んできてハードボイルド読者として少しは成長した結果ならうれしいのですが。

「パースンヴィル」俗称 “ポイズンヴィル” にやってきたオプが町の悪を一掃するという物語なのですが、
「さてこれからは、こっちのお楽しみの時間です。お遊びのカネも、あなたがくれた一万ドルがあります。ポイズンヴィルの町を、のど首から足首まですっぽり切り裂くために使うつもりです。」(97ページ)
とオプがかなり早い段階で自らの意向を町の”帝王” (と読者)に明らかにしている点に驚きます。
同じようなことを他でも言ってしますし、
「ポイズンヴィルは穫り入れの時期を待って熟れきっている。わたし好みの仕事だし、よろこんでやるつもりさ」(102ページ)
というあたりは、タイトルの由来でもありますね。
終盤近く、16人死んだところで、
「これまでにも、必要とあれば都合のいいときに、人殺しのひとつやふたつはおぜん立てしてきた。だが、熱病にとりつかれたのはこれが初めてだ。みんな、この町のせいだ。」(227ページ)
と言ったりもしています。
続けて
「殺し合いに馴れっこになると、落ちつくさきは二つに一つだ。胸くそが悪くなるか、好きになってしまうか」(227ページ)
そしてさらには
「しかし、連中を抹殺してしまうほうが、手としてはずっとたやすい。たやすいし、確実だ。そのほうが納得がゆくと、いまは自分でもそう感じている。」「このいまいましい町のせいだ。毒の町(ポイズンヴィル)とはよくいったもんだ。おれはその毒を盛られちまった」(230ページ)
と流れていきます。

そして忘れてはならないのが女の存在。
「あんたは、ボーイフレンドたちを殺人に駆りたてる天与の資質をもってるようだ。」(234ページ)
とオプが評するダイナこそ、もう一人の中心人物ですね。

この毒と女にやられたオプの物語を、オプの一人称で綴っていきます。
冒頭に申し上げた通り、ハードボイルドも普通の謎解きミステリと同じ読み方をしてしまうからかもしれませんが、この皆殺しに近い物語でも、きちんと謎があり、最後に解き明かされます。素晴らしい。

以前旧訳で読んだ際は、相次ぐ殺人(というか殺戮?)に気をとられ、盛大に読み飛ばしてしまったのでしょう。
この記念碑的名作を、新訳できっちり楽しめて本当に良かったです。


<蛇足1>
「とっととフリスコへ帰りな」(103ページ)
オプが言われるセリフです。
文脈から簡単にわかることではありますが、”フリスコ” がサンフランシスコの俗称だというのはどの程度日本で広まっているのでしょう?

<蛇足2>
「こんろでワッフルとハムとコーヒーをこしらえるのに、三十分ほど費やした。」(136ページ)
オプがワッフルを食べている! 
時代的には、オプが作っている!ということに感嘆すべきなのかもしれませんが。

<蛇足3>
「彼女はうまい料理人ではなかったが、おたがいにそんなふりをして食べた。」(197ページ)
ぼくが学んだ高校の英語教師だと和訳でバツをつけるところですね(苦笑)。
"cook" という語が職業がコック(料理人)ではない人を評する場合には、日本語としては、"料理人"ではなく単に"料理をする人"と解すべきで、「料理はうまくなかった」と訳さないといけないというのがその先生の主張でした。

<蛇足4>
「私は相手の顎に一発お見舞いした。百九十ポンドの重みをかけた。」(257ページ)
190ポンドというと86キロくらいです。
オプはもっと大きいと思っていました。



原題:Red Harvest
作者:Dashiell Hammett
刊行:1929年
訳者:小鷹信光


赤い収穫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 6-2)



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