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君の隣に [日本の作家 本多孝好]


君の隣に (講談社文庫)

君の隣に (講談社文庫)

  • 作者: 本多 孝好
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
孤独な少女・翼と、風俗店「ピーチドロップス」のオーナーで大学生の早瀬。二人をつなぐ“大切な人”が姿を消して以来、同業の女の子が行方不明になる事件が界隈で相次ぐ。常連客、担任教師、元警察官――寂しさを抱えた人々が交錯する場所にかけられた、残酷な魔法とは。切ない余韻が迫る、傑作ミステリー。


2021年9月に読んだ4冊目の本です。

この文庫本の表紙の絵がとてもいいですね。
丹地陽子という方が描かれたようですが、僕が本多孝好の本を読んで抱くイメージに非常に近いです。
Amazon から引っ張ってきている上の書影ではあまりよくわからないかもしれませんが、おそらく車の中から外を見て切り取った、という感じの絵になっていまして、おそらく車の窓に反射した明かりが映っています。
このワン・クッションを置いた感じは、常に本多孝好の作品から受ける印象です。
そしてこの手触りが非常にいい。色合いもまた似つかわしい。
他の作品の絵もこの方に書いてみてもらいたいです。

あと一つ、この絵で惹かれたのは、小さく薄く書かれているのでわかりにくいのですが、
Takayoshi Honda
The place I belong
と書かれていること。
タイトル「君の隣に」を英訳すると、The place I belong (ぼくの居場所、直訳すると私の属する場所)になるんですね。ちょっと意訳が入っていて素敵です。

このタイトルは、物語の最後も最後、389ページ以降に出てくるやりとりから来ていますね。
「これからどうするんです?」
「これから、どうするか、か」「僕はしかるべき場所に帰るよ」
「しかるべき場所?」
「うん。最後にはその場所に帰っている。不思議なくらいに。そういう場所が誰にでもあるんだと思う」(389ページ)

残念なのは、レーベルである講談社文庫が本多孝好に与えたカラーが赤ということ......
このカバー絵のように寒色系が似合うと思うのですが。

さて、物語は、風俗店(デリヘル)を舞台に進んでいきます。
章ごとに視点人物が変わっていく、という構成をとっていまして、話のつながりがわからないので最初の数話は手探りです。
そのうちおぼろげにつながりが予想できるようになり、次第次第に作者の用意した絵が見えてくる......

舞台が舞台ですし、扱われているのがシリアル・キラーですから、非常に酷いことが起こります。
残酷といってもよい。

「夏の夜、喉の渇きを覚えてベッドから起き上がり、キッチンへ向かう。明かりをつけたとき、不意に壁に張りついていたゴキブリと目が合う。それと同じだ。殺したくなんてない。出会わずに済むなら、それが一番良かった。が、出会ってしまった。だとすれば、殺すしかない。一度殺せば、あんただって探すだろう? 二匹目、三匹目がそこにいないか。戸棚の陰、冷蔵庫の裏、机の下。探すだろう? 探して見つけたら、やっぱり殺すだろう?」(278ページ)
こんな恐ろしい独白がさらっと出てきたりもします。
でも、そこは本多孝好の魔術というか、そういう残酷な境遇の人に寄り添う柔らかな視線に乗せられて、絵を見つめることになります。

本多孝好の最良作と比べると、ちょっと人と人とのつながり具合が、ぎくしゃくしているところもあるのですが、この絵を観ることができてよかったな、と思えました。



タグ:本多孝好
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