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貧乏お嬢さま、メイドになる [海外の作家 は行]


貧乏お嬢さま、メイドになる (コージーブックス)

貧乏お嬢さま、メイドになる (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2013/05/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
20世紀初頭のスコットランド。英国王族でありながら、公爵令嬢ジョージーの暮らしは貴族とは名ばかりの貧乏生活。凍えそうな古城でこのまま一生を終えるのかしら? ところがある日、最悪の縁談を耳にしてしまったジョージーは、思わずロンドンへ逃げ出すことに。そこで生活のためにはじめた仕事は、なんとメイド! 王族にあるまじき行動が王妃さまの耳に入らないことを祈りつつ、慣れない掃除に悪戦苦闘する毎日。でも、メイドから見た貴族の生活は意外に面白いかも!? そう思いはじめた矢先、仕事帰りの彼女を待ち受けていたのは、浴槽に浮かぶ死体! 初めての仕事に殺人事件まで……ジョージーのロンドン生活は一筋縄ではいかず!?――。


読了本落穂拾いを続けます。
手元の記録によると2018年4月に読んでいます。とすると、ロンドンに赴任する直前ですね......
著者のリース・ボウエンは、以前アガサ賞最優秀長編賞を受賞した「口は災い」 (講談社文庫)を読んでいるはずです。
「はず」というのも、例によってではありますが、まったく覚えていない。面白かったかどうかすら、記憶にない......

ま、ともかく、そのリース・ボウエンの新シリーズです。
このシリーズ、第5作「貧乏お嬢さまと王妃の首飾り」 (コージーブックス)でアガサ賞を受賞しているようです。

舞台は1932年のイギリス。
主人公はスコットランドの貴族ラノク公爵家の娘ヴィクトリア・ジョージアナ・シャーロット・ユージーニー。愛称ジョージー。
祖母が、ヴィクトリア女王の娘ということで、王位継承順位34位。「英国王室ウィンザー家のはしくれ」(7ページ)というわけです。
34位なんていうと、王室からかなり縁遠いように思えてしまいますが、ヴィクトリア女王のひ孫ですから、立派なものです。

いやな縁談話(お相手はルーマニアのジークフリート王子)を聞きつけて、スコットランドの住み慣れた?ラノク城を飛び出しロンドンへ。
「愛のために結婚する人もいるのよ」
「確かに。だが、われわれの階級では、そういうことはしない」ピンキーはさらりと言った。「わたしたちには果たすべき義務がある。適切な相手と結婚するという義務が。」(24ページ)
まさに、さらりと言ってありますが、時代を感じさせるやり取りですね。

このジョージ、この点だけではなく、かなり自由な人物のように設定されています。
また家柄、血筋を別にしても、ハイスペックなようで(お金はないけど)、兄ラノク公爵(作中ではピンキーと呼ばれています)のセリフですが
「ジョージ―は素晴らしく見た目がいい。ふつうの身長の男性と並ぶにはちょっと背が高すぎるし、優雅さに欠けるところもあるが、健康で、育ちが良く、馬鹿じゃない。いまいましいことに、このわたしよりも賢い。」(18ページ)
と紹介されています。

ロンドンに飛び出したのはいいが、お金を稼がねば、ということで働き始めます。
最初にトライしたのがハロッズの化粧品売り場。
しかし、離婚した母親の妨害にあい、あえなく失敗。
ロンドンのラノク・ハウスの掃除がさほど悪い経験ではなかったことから、「コロネット・ドメスティックス・エージェンシー」と称して、田舎で暮らしている貴族がロンドンへ出てくる前に、ロンドンの屋敷に風を入れ、簡単な掃除をし、主人一行を迎える準備をするサービスを始めることに。
まあ、これ、小説だから可能な話であって、現実には無理でしょうけど、面白いですね。
このお仕事、メイド、ではないので、邦題には「偽りあり」ですが。掃除のときにはメイド服を着るでしょうから、いいのかな?

一方で、ジョージ―は、メアリ王妃から密命を受けます。これが原題(Her Royal Spyness)の由来ですね。
それは皇太子であるデイヴィッド王子と、夫のいるアメリカ人女性との間を探ること。
この王子、後のエドワード8世。「王冠を賭けた恋」離婚歴のある平民のアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚するために王位を捨てた国王です。

これだけでも盛り沢山なのですが、ちゃんと(?)殺人事件も起きます。
それは、ジョージ―の父の莫大な借用証書を持つというフランスのギャンブラーガストン・ド・モビルが、ラノクハウスの浴室で殺されていた、というもの。
容疑者は、なんと、ピンキー。

この謎解きの進行が、ジョージ―の恋模様(?) と相まって進行していくのがポイントだと思いました。
ジョージ―の友人・ベリンダや、ちょっと怪しいところもあるアイルランド貴族のダーシー・オマーラたち周りの登場人物も素敵です。
自由な気風のジョージ―が現代と当時を結ぶ役割をするにうってつけで、物語にすんなり入っていけます。

楽しいシリーズだな、と思いました。
ゆっくりになってしまいますが、シリーズを追いかけてみようかな、と思います。

余談ですが、コージーブックスによりつけられたシリーズ名が「英国王妃の事件ファイル」。
ジョージ―じゃなくて、メアリ王妃の事件ファイルなんですね(笑)。



<蛇足>
「とんでもないことでございます、奥様」(156ページ)
さすがは貴族、というところでしょうか。
とんでもございません、などというバカげた表現を使ったりしていませんね。
訳者の功績かと思いますが、安心できます。


原題:Her Royal Spyness
作者:Rhys Bowen
刊行:2008年
訳者:古川奈々子





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