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雪と毒杯 [海外の作家 は行]


雪と毒杯 (創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫の最期を看取った人々。帰途にチャーター機が悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。彼ら八人がたどり着いたのは、雪で外部と隔絶された小さな村のホテル。歌姫の遺産をめぐり緊張が増すなか、弁護士によって衝撃的な遺言書が読みあげられる。そしてついに事件が――。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格。


「2018本格ミステリ・ベスト10」第2位です。
エリス・ピーターズの作品の感想をブログで書くのは初めてですね。
「聖女の遺骨求む」 (光文社文庫) から始まる修道士カドフェルシリーズは、ブログを始める前に全作読んでいます。

この「雪と毒杯」 (創元推理文庫)あらすじからはいわゆる「嵐の山荘」もののように思えますが、微妙に枠を外れているように思えます。
とはいえ、ほとんど限定された登場人物のみで成立していますので、「嵐の山荘」ものと見做してよいのかもしれません。
三橋曉の解説でも ”クローズドサークル” として扱われています。

途中まで普通の、よくある、パターン通りの本格ミステリだなぁ、と思いつつ読んでいました。
死んだ歌姫ミランダと彼女の親族、親しかった人物、ほぼそれだけで物語が進んでいくからです。
そして不時着の末たどり着いたホテルで、ミランダの遺言書が明かされ、それをめぐって殺人が発生。遺贈人が殺されてしまいます。
名探偵、という感じの人が登場せず、はっきりした探偵役が誰かわからないまま進むのですが、それでも、ミランダの姪の息子ローレンスと、ミランダの秘書スーザンがなんとなくいい感じっぽく描かれていて、ああ、この二人がメインキャラクターなんだな、と思っていたら、第六章(101ページ~)でびっくり。
被害者のグラスに指紋がみつかったローレンスが責め立てられていると、ローレンスの無実を証言してくれるはずのスーザンがあっさり裏切るような発言をするのです!
えーっ!? そういう展開?
ローレンスは激しく責め立てられ、幽閉されてしまいます。

面白い!
この段階ですっかり作者の術中にはまってしまったのでしょうね。
とても楽しく読めました。

スーザンがなぜローレンスを陥れるような証言をしたのか、は本人の口から明かされるのですが(162ページ)、正直、あまり説得力ない(笑)。
そんな理由で嵌められて、ローレンスがあまりにもかわいそう。
でもいいです。おもしろかったから。

そのあとスーザンが活躍し、ローレンスの疑いも無事晴れるのですが、しかしなぁ、ある意味スーザンの自作自演だからなあ(笑)。
それでもローレンスはすっかりスーザンに感謝するし、甘ちゃんだなぁ(238ページ)。
と、第三者からみたら、ある意味バカバカしいロマンスも盛り込まれていまして、満足です。

タイトルと各章のエピグラフはコメディタッチのオペラ「薔薇の騎士」からとられているとのことですが、ラブコメってことですね。

数の限られた、しかしかなり癖のある登場人物たち、変な遺言書と典型的な本格ミステリの枠組みにのった物語なので、それをどう展開してみせるか、あるいは、ひねってみせるか、というのが作者の腕の見せどころとなってくるわけですが、エリス・ピーターズ、堂々としていますね。
翌年「死と陽気な女」 (Hayakawa pocket mystery books)でエドガー賞を受賞したくらい好調だったということですね。

面白かったです。
またエリス・ピーターズの作品、読んでみたいですね。


<蛇足1>
「やがて、一本の長い腕がガラス戸を押し開くのが見えたかと思うと、星空の下に踏み出したマクヒューがごく静かに、そろそろと背後の窓を閉めた。掛け金が音もなく金具の中にすべり込む。」(187ページ)
閉めるだけで掛け金がかかってしまうのでしょうか? 情景がわかりませんでした。

<蛇足2>
「彼女が目覚めたらすぐに合わせると約束するが、」(239ページ)
合わせるではなく、会わせるですね。
よくやってしまいがちな変換ミスですが、こういう出版物でもやっちゃうんですね。



原題:The Will and The Deed
著者:Ellis Peters
刊行:1960年
訳者:猪俣美江子






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