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ミドル・テンプルの殺人 [海外の作家 は行]

ミドル・テンプルの殺人 (論創海外ミステリ)

ミドル・テンプルの殺人 (論創海外ミステリ)

  • 作者: J.S. フレッチャー
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2017/02/01
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
遠い過去の犯罪が呼び起こす新たな犯罪。深夜の殺人に端を発する難事件に挑む快男児スパルゴの活躍!  謎とスリルとサスペンスが絡み合うミステリ協奏曲。第28代アメリカ合衆国大統領トーマス・ウッドロウ・ウィルソンに絶讃された歴史的名作が新訳で登場!


先日の「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)がおもしろかったので、クラシック・ミステリもいいもんだな、と改めて思い、この「ミドル・テンプルの殺人」 (論創海外ミステリ)を手に取ったのですが、これが大当たり! 
無茶苦茶面白いではないですか。

正統派の謎解きミステリとは言えませんが、様々な事実が次々と明かされ、それにつれて謎が次々と生み出され、スピーディーに物語が展開していく面白さにあふれています。
36章と章の数が多いですが、それぞれにおっと思う新事実や展開が用意されています。連載小説だったのでしょうか?
また行きずりの殺人っぽく見える導入部から、物語が(予想外に)拡がりを見せるところもポイントですね。
そして、探偵役をつとめる新聞記者スパルゴ(若いけれども副編集長です)と法廷弁護士のブレトンが感じよいのもいいですね。

J.S.フレッチャー、初めて読みますが、気に入りました!
「亡者の金」 (論創海外ミステリ)もぜひ読んでみようと思います。


最後に横井司による解説で、小森健太朗の評言として
「英語で読めばけっこう巧妙なミスディレクションが犯人に関して仕掛けられているんですよ。それが日本語の訳では表現できないんですよ」
というのが紹介されていますが、「すでに読了された読者には予想がつくだろうが」とだけ書かれて説明されていません。
うーん、わかりません。
下の蛇足に書いたのですが、原書を買ったので、英語でもいずれ読んでみようかな?


<蛇足1>
「見るからに田舎者の、背の高い小太りの中年男性で、黄色い髪に青い目を市、一張羅のパールグレーのズボンに~」(51ページ)
黄色い髪ってどんなだろう、そんな人いるかな? と思ったのですが、今のイギリス首相・ボリス・ジョンソンをTVで見ると髪の毛、金髪というのとは違う印象で黄色いですね......こんな感じなのでしょうか?

<蛇足2>
「この仕事に関して、あなたと私は共同戦線を張ると考えていいんですよね」(65ページ)
と、スパルゴ(新聞記者)がラスベリー(刑事)に言うシーンがあり、ラスベリーは同意を示すのですが、この当時は警察と民間、しかも新聞社の共同戦線は問題なかったんですね......
まあ、名探偵と警察だって似たような関係ですけど。

<蛇足3>
裁判のシーンで、「大蔵省の顧問を務めるある著名な弁護士」「大蔵省の顧問弁護士」が登場します。
検察官のような役割を果たします。
裁判に大蔵省? と思いましたが、たとえばアメリカのシークレット・サービスが財務省管轄であったりするように、イギリスの歴史的な経緯で大蔵省なのかな、と思いましたが、ネットで調べてもわかりませんでした。
イギリスの昔の裁判制度でいう「王座裁判所」(Court of King's Bench)を所管していたのはどうやら財務省(Exchequer)のようですから、その関係かな、とぼんやり。
あまりに気になったので原書を買ってチェックしてみましたが、「a certain eminent counsel who represented the Treasury」「The Treasury representative」となっています(Treasury を大蔵省と訳すのはかなり違和感がありますが、まあ趣味の問題ですね)。
訳注をつけておいてほしいところです。
ちなみに、この原書amazon で Paperback であることを確認して注文したのですが、届いたのがなんとA4判の大きさ。びっくり。慌ててキャンセル手続きをしてみたら、すぐにキャンセルOKになり、しかも物を返送する必要もなし。結果的に、無料で手に入ってしまいました。どういう仕組みなんだろ!?
ありがたいことではありましたが。

<蛇足4>
「ロンドン一おいしい中国茶の飲める、ちょっと変わった古風な店があるんです」(116ページ)
といってスパルゴがジェシーという女性を誘っていくシーンがあるのですが、そのあと
「話にあった茶房の隅の席に二人は腰を落ち着け」
というのは日本語として困りものですね。「話にあった」という第三者的な用語を使うのはふさわしくないと思われます。「さきほど話した」とか「話に出した」という感じ?

<蛇足5>
「地形学者が言うところの寂れた町さ」(130ページ)
地形学者が、寂れたとか(学術的に)言ったりしないと思います。寂れた、というのは地形ではありませんから。
せっかく原書があるので見てみると、topographers。「地形学者,地誌学者」と辞書では書かれていますね。であれば、ここは地誌学者であるべき、ではないでしょうか?

<蛇足6>
「喜んで伺わせていただきます」(145ページ)
「喜んでお伺いします」でよいのではないでしょうか?
なんでもかんでも「~させていただきます」というのはよくない傾向だと思います。

<蛇足7>
「被告に不当に圧力をかけるつもりはないが、被告が起訴状の訴因に関してわざと素直に罪を認めるという非常に巧妙な手段を取ったとも考えられるので、正義のために、被告の嘆かわしい不誠実によって引き起こされた背任横領の詳細に関して本法廷で説明する必要性を感じると述べた。」(151ページ)
ここを読んで、すっきりしないなぁ、と思いました。
without any desire to unduly press upon the prisoner, who, he ventured to think, had taken a very wise course in pleading guilty to that particular count in the indictment with which he stood charged, he felt bound, in the interests of justice, to set forth to the Court some particulars of defalcations which had arisen through the prisoner's much lamented dishonesty.
原文から考えると「被告が起訴状の訴因に関してわざと素直に罪を認めるという非常に巧妙な手段を取ったとも考えられる」というのはちょっと違うのではと思います。被告の行状とあまりにもそぐわない訳です。
逆で、「被告が起訴状の訴因に関して賢明にも罪を認めていますことから」でよいのではないでしょうか? 

<蛇足8>
「召還して釈明させるはずだった男が死亡したため」(154ページ)
召喚、ですね?

<蛇足9>
「まったく知らない人です。僕の知るかぎり、これまで一度だって会ったことはない」(21ページ)
会ったことがない、という際に「知るかぎり」とつけるのはおかしいですね。原文は
Don't know him -- don't know him from Adam. Never set eyes on him in my life, that I know of.
これ、「これまで一度だって会ったことはない、それは確かです」という意味なのではないでしょうか?



原:The Middle Temple Murder
作者:J. S. Fletcher
刊行:1919年
訳者:友田葉子



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